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Future  作者: 浅咲夏茶
5th Chapter;Unpleasant memories of heroines.
65/127

Target:Rina + butler./episode64

「うっしゃあっ!」

「なっ……。ぼ、僕が……負けた?」

 ディスプレイに表示される『GAME OVER』の文字。会長は物凄い笑顔でこちらを見てくる。……やめろ。イライラが止まらなくなる。大変なことになるぞ。

 ええい、と思って会長のコントローラーを奪い、そのコントローラーで穴を見つけ、そこから自爆させる僕。せっかくコンティニューしたというのにもかかわらず、そのコンティニュー分が無駄になったんだからな。もしもスマホゲーだったら……と思うと、会長の悲しむ顔が目に浮かぶ。会長、これが僕の恨みだ……!

「バカ」

 ギロっとこちらを会長は睨んだが、黒いドレス、しかも胸元が相当開いている物を着ている会長を見ると、その睨みすらも『萌え属性』の一部として考えてしまう。

「な、なにじっと見てんだ。……ボクのこと、意識しちゃったのか?」

 照れている素振りなど、会長は見せることはない。むしろ、いつもどおりの『何を考えているのか分からず、テンションの上がり下がりが激しい』、そんな会長だった。

「――あの、一ついいでしょうか?」

「ん?」

「じっと見てたら、気になったので直球に聞きます」

「……おう?」

「会長、ブラとか下着とか……そういうの付けてますか?」

「――それ、ボク以外の女の子に言ったら絶対に殺されるぞ」

「会長は殺さないんですね」

「当たり前だろう。そりゃあ、ボクは他人に嫉妬する人間じゃないし」

 嫉妬しない……か。そりゃそうか。嫉妬していたなら、今頃マドレーヌとかに嫉妬し、最悪死に至らせていたかもしれない。……人は誰でも人を殺せるんだからな。事故でも、事故じゃなくてもね。

「……り、凛はボクに答えて欲しいのか?」

「……会長って恋愛話が好きみたいなんで、それいがいの事を聞いてみたいんですよ。……その一例として、『エロトーク』っていうことでですね……」

「つけてない……」

「え?」

「つ、つけてないし、は、穿いてない」

「……え?」

「な、何度も言わせるなバカっ! どうせ、どうせ聞いていたくせに!」

「す、すいません。二回目は聞いていました」

「ふんっ!」

 会長がそっぽをむいた。難聴ぶる作戦は失敗、か。……なんか、会長がこういうこと話してくれるけど、エロトーク行けるのかな?

「会長」

「ん?」

「……え、えっちな事を、もっと話しませんか?」

「凛君がそういう趣味であることは前から知っていたが、ここまでとは」

「ちっ、違うんですよ!?」

「……まあ凛君。過ちというのは誰だって一度は犯すものだ。けれど、そこで立ち直って更生の道を歩むか、再度悪に染まる道を選ぶかは自分自身が決めることで、今凛君が行おうとしているのは後者に当てはまる」

 置かれていたコントローラーを片付けだしながら、会長はそういった。

「あ、あの会長……」

「なんだ?」

「執事さんが……」

 丁度会長がコントローラーを片付けている時、ドアをノックして執事さんが入ってきた。さっき、察して廊下に消えていったあの執事さんだ。

「――お嬢様。本日11月29日は玲紀様のお誕生日にございます。ですので、ゲームは勿論楽しんでいただいてもいいのですが、一緒に買物に行きませんでしょうか? ……わたくしは、お嬢様を送り迎えするだけですので、凛様とお二人仲良く、お買い物をしていただきたいと思っております。

 ……では、参りましょうか」

 ちょちょちょ、と待て待て、って感じで前に出ようとしたのだが、一応今の僕自身の肩書は『庶民』ではなく、『西條家の執事』である。西條家の元々のメイドさんや執事さんは、僕のことを一体どう思っているのか考えるだけでも自分自身に自身が持てなくなりそうだったが、みんな温かい心を持っていて、僕をいじめてくることもないので、安心して僕は会長の執事を務められるんじゃないか、と思った。

「……ま、待って!」

「どうしました、お嬢様?」

「ど、ドレスで街中を歩くの嫌だから、き、着替えていい?」

「作用でございますか。でしたら、5分程度時間をとればよろしいですか?」

「う、うん」

「わかりました。では、5分後にまたお邪魔いたします」

 執事さんは、そう言うと速やかに部屋を出て行った。


「……見るなよ?」

 見てしまうかもしれない、いや絶対に見るんじゃないのかな、男なら。チラ見という意味も込めて、絶対に見るだろ。……ある意味で密室空間なんだから、『何しても問題ない』っていう意識があれば、どんなことでもできる。


 ***


 結局、僕は6回くらいチラ見した。そして、会長が本当に下着を一切付けずにドレスを着ていたことが判明した。……誘っているのか? それとも、ただ単にドジッたのか。……胸に関しては『パッドを入れたため』という、ひとつの理由が浮かぶが、下に関しては……うーん、という状況だ。

 会長は、下着を穿き、Yシャツを着て、スカートを穿き、上にパーカーを羽織って、耳にヘッドホンを当てた。「髪は梳かさないんかい!」と言いたくなったが、言ったら負けだ。何せ、そんなことしたら、僕がチラ見していたことがバレる。いくら『殺しはしない』といっても、会長が機嫌を損ねるのは確かだ。


 執事さんに連れられて、僕と会長は車へと乗り込んだ。高級な車、という訳ではなく、一般の家庭であるような、そんな車の方に乗り込んだ。いつも会長が乗ってきている、黒い高級車とは違うほうだ。

「――さあ、行きましょう」

 車の中に乗って少しした後、執事さんがハンドルを握り、エンジンを掛けた。そして直ぐに車が動き出した。この広大な敷地を、車で通れば何分程度で行くのだろうか。……一分程度で行けるのだろうか?

 そんなことを考えながら居ると、やはり気になるのは隣の会長だ。ヘッドホンを当てていたはずだったのに、今度は耳にイヤホンを付けていた。

「あの会長。なんの曲聞いているんですか?」

「ボカロ曲だ」

「へえ。会長って意外とそういう趣味が……」

「『そういう』趣味は凛君も同じだろ。……まあ、十人十色というし、どんな趣味を持っていても、それは個人個人の自由なんだよ。……なんてね」

「何か教師みたい」

「……教師目指そっかな」

 普通に考えこむ会長。ある意味、冗談交じりの話のはずだったので、僕は鼻で笑ってあげた。けれど、仮に会長が本当に教師になりたいというのなら、僕はその『鼻で笑ったこと』も取り消したいと考えた。

「鼻で笑うな」

「すいません」

「そうだぞ。……さてと。んじゃ、眼帯つけようかな」

「眼帯? ……まさか会長、そのパーカーとヘッドホンとかって……」

「仮想デートの時と同じだぞ」

 薄々予想は付いていたものの、それは会長が『眼帯つけようかな』といったためで、それまでは予想も付いていなかった。しかしまあ、眼帯少女でヘッドホン少女で、ボクっ娘少女で、家庭的な生徒会長で、お嬢様……。なんと属性が多いこと。一人で幾つもの属性を兼ね備えているのは結構凄いな。

「仮想デートか……ありましたね」

「あったな。……あ、そうだそうだ」

「なんですか?」

「――い、一応言っておくね。や、夜会の2時間くらい前になったら、絶対にボクに逆らったらダメだぞ? 執事は、主人の言うことを全部聞かないとダメだ」

「それは、僕にできることなら『なんでもしろ』ってことですよね?」

「おう。なんでもしろ。積極的に仕事をすれば、後でお父様からお給料が出るかもよ? 一応凛君は17歳だから、決して働けないわけじゃないしね」

「じゃあ、日給どれくらいですかね?」

「さあね。恐らくそれは、お父様の判断だと思うから、1000円程度から50000円程度まで、大きな幅ができると思うよ? ボクは」

 1000円から50000円……。なんという幅の広さ。ただ、それだけお父さんの権限、玲紀さんの権限が強いわけである。……真面目にしないとな。

「うーん。じゃあ、取り敢えずは頑張ります」

「おう。頑張れ!」

「……で、プレゼントには一体何を購入するつもりなんですか?」

「そうだなあ。色々と考えている物はあるんだよ。『コスプレ衣装』とか、『フィギュア』とか、『アニメの原作本』とかね。……ただ、それを夜会の場で渡せるかどうか、って考えると、若干抵抗があるじゃんか?」

「抵抗、か……」

 確かにな。深夜アニメのグッズは、少しのテンポでしか扱っていない。俗にいう『アニメショップ』以外では、殆ど扱っていない。稀にコンビニ等で扱っていることが有るが、専門店である『アニメショップ』には劣る。

 それ故に、アニメショップにはヲタクが数多く集まる。夏はその熱気で熱いので、他の店に比べてクーラーの設定気温が低くなっていることもある。逆に冬は、外から来た客が暖房の効いた店内に入ったはいいものの、ヲタクの熱気により、設定気温に上乗せで温度が上昇してしまうこともある。

 ……店員でもないのに何を語っているのだろうか。

 ただまあ、要は『慣れ』だ。時には、「どうにでも『なれ』」という男らしい気持ちを持つことも大事だ。そして、アニメショップは基本友人と行くべき場所ではない。一人で行くからこそ、そのアニメショップで時の流れを忘れることが出来るわけで、他人と行ったら、その人のことを考えた上での配慮や考慮が必要となる。

 つまりは『抵抗せず、その場の雰囲気に流され、その空気に慣れる』事が、重要になる。

「あの、会長」

「ん?」

「会長はアニメショップ行くの初めてですか?」

「ううん。初めてじゃないよ。去年のこの頃に初めて行ったよ」

「じゃあ、そこまでドキドキしないですか?」

「そりゃあ、ああいうのは完全に『慣れ』が一番の重要なところだからね。適当なマーカーペンでアンダーラインでも引いておけばいいさ」

「そんなの何処が重要なんですかね……」

「そのうち役立つ日が来るでしょ」

「そうなのかな?」

「役立つよ。きっと」

 会長はそう言うと、またスマホをいじりだした。ちょっと近付いてスマホの画面を見てみると、とてつもない数の音楽ファイルがぶちこまれているのに気がついた。『1146曲』なる文字を見つけた時には、本当に驚愕した。それこそ、スクロールして探すのなんて以ての外だろう。普通に、検索バー出して、そこに調べたい曲名を調べたほうが圧倒的に効率がいい。

 とはいえ、流石は金持ちだ。単純計算で一曲全て250円だとした時、286,500円という、巨額を支払うわけだ。……桁が違う。流石はお嬢様だ。

「あの、会長」

「ん?」

「会長って、アプリ系にどれくらいお金割いてますか?」

「昔はアプリ揃えるのにも一苦労だったんだよ。んでさ、スマホゲーがめちゃくちゃ面白いから、月のお小遣いを全部そこに注いじゃってねえ」

「え」

「課金総額はざっと20万を超えてると思うよ?」

「なっ……」

「驚かないで欲しいんだけど、ボクは月に20000円貰ってるんだ」

「もしかして、そのお金を全額注いだ、なんて言わないでしょうね……?」

「そりゃあそうに決まってるじゃんか! 好きなラノベとか、音楽とかに使ったよ。……でも、お金って直ぐ消えてくからなあ」

「確かにそれはありますよね」

「だろだろ!? ……まあ、ボクの所持金は今50000円ほど御座いますけど」

「……は?」

「ん?」

「5万円? 5千円の間違いじゃ……」

 財布からシュッと会長が5万円分の紙幣を取り出した。

「な、ななな……」

「言ったろ?」

「……じゃあ、これでプレゼント買う気なんですか?」

「そうだよ。……でも、お父様の好きなアニメとか分からないしなあ」

 確かに、人が好きなアニメを聞くのは意外と難しい。それがオタク同士となれば、『あのアニメ嫌い派』と『あのアニメ好き派』との大論争が繰り広げられるはずだ。だから、言い難い。変なこと言って『にわか』と騒がれるのも嫌だしな……。

 僕も会長も諦めムードだった。けれど、執事さんの助言でそれは回避された。

「主人は、『魔法少女アニメ』や『ライトノベル原作作品』をよく好むようで、近年には『同人』等のジャンルにも手を染めていましたね」

 僕と会長は、それぞれ執事が言ったことを自分で再度言った。

「ライトノベル……」

「魔法少女アニメ……」

 要は、会長のお父さんである『西條玲紀』さんは、『萌え豚』というわけである。どちらも『萌え』や『燃え』に走ったものが多いからな。

「じゃあ、どういうライトノベルを持っていたか分かる?」

「……そうですね。基本的に電撃、MF、ファンタジア、スニーカー、ガガガ辺りは揃えていらっしゃったかと。……他にも、ネットで話題になった作品を少々でしょうか。詳しくは分かりません。……ですが、一つ言えることは、主人は『抱き枕』や『キャラクターストラップ』等は一切持っておりません」

「じゃあ、抱き枕……はデカイから、ストラップでも買っていくか」

「ああ、いい忘れましたが、フィギュア系も殆ど持っていなかったように思います。買っていってはどうでしょうか、お嬢様」

「そうだな。買っていこう。5万円もあるしな」

「因みに、その5万円とは一体何処から……」

「小遣い分と、テストの結果良かったから貰った。後は貯めていた分」

 しっかし、あれほど『ボクは課金で金使った』と言っていたのに、実際はそうではないのか。……いや、その言い方はおかしいか。『課金総額』と『音楽に使ったお金』の金額が同じじゃないということは、別に考えているわけだ。つまり、約50万円も支払ったわけだ。

 50万円あったら、僕なら素直に旅行して、パソコン買って、後は貯金に回すな。そんな発想ができないお嬢様って所は、ある意味憧れるし、それにしびれるもんでもあろう。


 ***


「結局来ちゃったぞ、この場所に」

 神戸の三宮周辺のアニメショップの集まる一帯。適当なところで車を停め、そこから降りてアニメショップの方へ向かう。……そして、車の中だけじゃ決まらなかった。何買うか。ストラップが一番いい、という結論までは辿り着いたのだが、『何の?』と聞かれると、答えられない。

「――こ、これは」

 東●Projectのストラップが視界に入った。最近、同人やネットから書籍化とかアニメ化、そういうの多い気がする。前者の代表的なものは『ひ●らし』、ネットから書籍化だと『S●O』とか『劣●生』が挙げられる。

「買うか」

「プレゼントとして?」

「自分へのご褒美さ!」

「……自分へのご褒美に何百、いや何千、何万使う気ですか……?」

「1万弱?」

「それ以外ストラップに使うんですか?」

「いや違うよ。フィギュアとストラップ買う」

「――夜会でフィギュア、ですか」

「ああ。自分の親のことは自分が一番分かってないとね」

 親のことを分かってないとダメ……か。僕には親が居たけど死んでしまったから……な。あんまり親の事を触れられると、なんだかな。

「よし。んじゃ、フィギュアを購入してくるっす」

 右手でグッジョブ、と親指を立てた後、会長はそのままフィギュアをゲットしに店内を回っていった。……ああ、と少々翻弄されていることに頭を抱えた僕だったが、これもいつもの会長だ。正直なところ、こうテンションの上げ下がりの幅が大きいほうが、僕は好きだ。


 ***


 会長はフィギュアを購入し、ストラップを購入してきた。その結果、大きい袋を渡された結果、会長が僕に持たせてきたので、僕が大きな袋を持ったまま車に向かう。ある意味、これも執事の本来の仕事ってもんなんだろうな。

「――何を買いました?」

 車に入れた後で、執事さんがそれを聞いてきた。

「フィギュア3体、ストラップ一つ、そして何故か自分へのご褒美に小説を2万円分程度購入されました。……お嬢様は」

 執事らしく、『お嬢様』という単語を使ってみた。まあ、こういう事を平気で言えないと『執事』なんて務まらないし。一日といっても、やるのは事実なんだからな。

「そうでしたか。……ところで、凛様は、今更ですが執事に向いてると思うんですよ、私自身。……それで、今日はお嬢様と一緒に踊られるのでしょうか?」

「ベッドの上で、です……いっ!」

 『ベッドの上でですか?』と聞こうとしたのだが、会長に腹を殴られた。以外だ。この目の前のお嬢様がこんなことをするとはね。……まあ、神戸港の一件のことを考えると、これはまだ可愛い方だと思う。

「凛君はもうちょっと頭を働かせろ、そして察しろ!」

「……はい、お嬢様」

「いいぞ。……なんか、凛君に『お嬢様』って言われると、凛君がマゾに見える」

「か、会長……じゃなくてお嬢さ……」

 背中に手を当てられて、下へと押される。その変わりに、顎を上の方に持ち上げられ、会長の顔が近づいてくる。……めちゃくちゃ内心ドキドキしている僕がいる。……会長こそめちゃくちゃ照れているし、照れているのは僕だけじゃないようだ。

「――本当、執事なのに可愛いよね」

 抑えていた手が僕の髪をすうっと通って行く。一応、僕の髪は天然パーマとか、そういう訳じゃない。普通のサラサラの髪だ。その為、これも相まって色んな人、元凶は姉ちゃんだけれど、『女々しい』とよく言われる。本当、酷い言いようだよな。僕は男だというのに。

「本当、凛君が着てると男装してるみたい。……声が女っぽかったらなあ」

「お、『女っぽかったら』って、それはサタンの能力を使えばいい話なんじゃ……」

「語尾に『お嬢様』って付けないと」

「な……」

「まあ、ボクはそんなの気にしないけどね。ただ、もっと声が女の子だったらボクはノックアウトだったと思うな。……可愛いもん」

「や、やめてください……」

 今まで会長と何日も接してきたけれど、顔を引っ張られたりするのは初めてである。……これはなんだ? 会長の『デレ』か? それとも『攻略』?




 西條家の敷地に入り、会長の部屋に入るまで、僕はそれを考えていた。そしてまた、夕方6時まで僕は会長とまた据置型のゲーム機で遊んだ。


 まあ、僕が尽く何度も負けた訳だけれどな。

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