Target:Elisa,Ren and Rina Ⅱ./episode62
目の前に美少女がいたら、皆ならどうするだろうか? それも、胸がでかくて、僕に懐っこくて、幼馴染で、怖がりで、家事が出来ないそんな美少女が。
――恐らく、理性より性欲が勝った瞬間に、襲うだろう。
察したかもしれない。目の前にはエリザが寝ている。「すーすー」と心地よさそうに寝ているエリザを、何故か僕は抱いていた。
「なっ……」
昨日何が有ったのか忘れたわけではない。僕だって、会長の家で色々とあったことの反省を活かして、出来る限り性欲とかは抑えようとしているつもりだ。……ただ、会長のようにあれほどのお誘いを受けると、きっとまた過ちを犯してしまうんだと思うけれど。
「なんでこんな密着した形で……」
エリザは僕に背中を向けているわけではなく、こちらを向いて心地よさそうに寝ている。正直、めちゃくちゃ恥ずかしいし、早く布団から抜け出したいのだが、エリザも僕に抱きついているため、僕は安易に抜け出すことが不可能な状況下にある。……なんでエリザが恋に匹敵する程度の強さを手に入れてるんだ。
「エリザ?」
「すぴー」
「おい」
「すぴー。すぴー。すぴー……」
「お前起きてるだろ」
「すぴー」
「こちょこちょするぞ?」
「すぴー……すぴー……」
「本当にこちょこちょするからな? ……いいんだな?」
「ダーリンの……好きにしたら……いいじゃ……にゃっ!」
エリザの左手を高く上に上げ、脇をくすぐる。咄嗟にエリザが「にゃっ」と言った時、「こ、こいつ可愛いな……」と思ってしまった。おそらく、「好きにしたらいいんじゃない?」と硫黄としたんだろうけど、猫みたいな「にゃ」という言葉が、本当に僕の脳内に張り付いてしまって消去出来そうにない。
「――今の『にゃ』が可愛かったから、今日一日『猫』ってキャラ設定な」
「……え?」
「ほらそこ。……『にゃ』を語尾につけろ」
「……な、何を言ってるか分からない……にゃ……」
にゃ、という言葉と同時にエリザの顔が紅潮する。……いや、お前はそれ以上のことを言っていたんだぞ、神戸の人通りの多い場所で。ラ●ホに連れて行こうとしていた女が、実はこんな女だったとは、結構ギャップがでかいものだ。……でかい、といえばエリザの胸も凄いでかいけど。
「だ、ダーリン……に、一つ聞きたいことがある……にゃ」
「ん?」
「だ、ダーリンは『ご主人様』って言われたい……のかにゃ?」
今、僕の心のなかの煩悩が、欲望が、ヲタクとしての二次元への愛が、動いた。動いたそれは、決して大きいものでもなく、小さいものでもない。忘れかけていた、それが今動いたのだ。
「……じゃあ、一回言ってみてくれ。『ご主人様のお願いはなんでも聞くにゃ』って」
「い、言えばいいのか……にゃ?」
「ああ」
「――ご、ご主人様の御願いはなんでも……き、聞くにゃ……」
「そうか。それじゃあ、ご奉仕だな」
「……え?」
「ご奉仕だ。……そんな顔しても無駄だぞ。なあ、分かるんだろ?」
「わ、分かるにゃ。……け、けど、そ、そういうのはその……えと……」
「人をホテルに連れて行こうとしたくせに」
「そ、それは忘れてにゃっ!」
「……忘れねえよ」
「で、でも私はご主人様にご奉仕なんて、そんなの恥ずかしすぎる……にゃ」
「――まあ冗談だ。お前が好きなら『にゃ』の口調を続けても構わない。ああ、ご奉仕の件は『無し』でいいぞ」
「そ、そうか……にゃ」
「ああ。……で、結局『にゃ』を貫くんだ?」
「や、やっぱりやめる!」
「よろしい」
何処か心残りだけれど、エリザのことも考えてやらないとな。恥ずかしいことばっかりさせているのもなんだ。それこそ、どうせもう朝なんだし、ご飯を食って土曜をスタートさせたいものだ。
「8時……は、8時!?」
昨日は夜11時前に寝たはずなのに、そんなに寝る僕とエリザって一体何なんだ!? ……最近疲れていたのかもしれないけど、一気にそんなに来るもんなんだな。でもまあ授業中に眠いとか、そういうことからは開放されるだろう。
「――さてと。朝ご飯食うか」
「だね。……それと、くっついていいかな?」
「勝手にしろ」
「じゃあ、裸になってくっつくね!」
「……は?」
「ダーリンは、私の裸見たく……ない?」
やめてくれ。上目遣いで聞いてくるな。それされると『OK』以外言えなくなるだろうが……。しかもめちゃくちゃ顔近いし、この状況はまずい。
「み、見たい……」
「へ、変態」
「うるせえ!」
「……じゃあ、いいよ。……パジャマ、脱がしていいよ」
ゴクリ、と唾を呑む。正直、エリザのパジャマを脱がすとか、僕はなんだ? 世話係か? ……でも、そんな設定もありだろ。家事とか苦手なんだし、一応バイリンガルって言うわけだから、支度とかそういうのも全部含めて、世話係をするっていうのも一案だな。……だがしかし、エリザは身の回りのことが出来ないわけじゃない。料理は糞不味いが、それを作ることは出来る。それに、着ていた衣服類も、捨てたり散らかしておいたりすることは無い。だから、世話なんてする必要ないってのが僕の最終結論である。
だがしかし、目の前に居るこの美少女は一体何を考えているのか。煩悩により、僕のありとあらゆるエロティックなことに脳内が汚染され、このままでは会長の件と同じ過ちを犯してしまいそうで本当に怖い。
おそらく、僕は『誘惑に弱い』タイプなんだと思う。
「……ダーリン。でよっか?」
「あ、ああ……」
僕はコクリと頷いて、ベッドから出た。正確には、被っていた毛布をたたんで一箇所にまとめ、開いたスペースで互いに座った、という感じだ。
「――ダーリンって、何か萌え属性ある?」
「萌え属性って、つまりあれだろ? 『金髪ツインテ』とか、『ツンデレ』とかだろ?」
「そうだよ。……あ、貧乳とかヤンデレとか、そういうのは無理だよ?」
そりゃそうだろうな。貧乳なんて、巨乳……いや爆乳から一体だろうしろという話になるしな。茶髪のヤンデレ、っていうのも以外だ。ヤンデレは普通黒髪に限るだろ、常識的に考えて。というか、僕はあんまりヤンデレ好きじゃないし。
「……じゃあ、エリザ」
「うん?」
「ツンデレ口調で、喋ってみてくれないか?」
「何て言って欲しい?」
「罵ってみろ」
「……だ、ダーリンってま、マゾヒストだったの!?」
「違うわ! ……てか、お前は朝からなんてこと言ってくれるんだ!」
「――ごめんごめん。じゃあ、罵ってみるね」
「あ、ああ」
僕はオドオドしながらも返答をした。
エリザの動向を伺うと、丁度エリザが深呼吸をしていた。
「――バカ! アホ! エロゲー脳! 二次元ヲタク! ボクっ娘好きの巨乳好きの、超絶変態厨二病やろおおおおっ!」
いくつか否定できるところが有るが、否定出来ない部分が殆どを占めるな。……でもそれって、イコールでそれだけ僕が狂っているって意味だろ?
「まあ、いくつか否定できる所はあるけど、意外とお前似合うな」
「ツンデレ口調が?」
「ああ」
「……ないわ」
「そうかなあ? ……じゃあ、次だ。ボクっ娘×ツンデレ×語尾に『にゃ』をやってみろ」
さあ、最強コンボの組み合わせである。個人的に、絶対に萌え死ぬであろう属性を混ぜあわせてみた。……ああそうだ。僕は巨乳が好きだし、ツンデレが好きだし、ボクっ娘が好きだし、ついさっき語尾に『にゃ』って付けさせて話をさせることにも目覚めた。だから、それをまとめてやったんだ。
「――うーん、ツンデレっていうのは難しいけど、『ボクっ娘』と『にゃ』はいけると思うなあ。……んじゃ、するね」
「どうぞ」
今度は僕もエリザから目をそらさず、始まるまで待った。
「――ボ、ボクはダーリンの……ぺ、ペットにゃ。迷い猫にゃ……」
「こ、これは……」
僕が要望していないにもかかわらず、心意気なのか、エリザは上目遣いも繰り出してきた。しかも『ペット』とか『迷い猫』とか言いやがって。めちゃくちゃ可愛いじゃねえか。……これをもし『ラ●ホ』でやられたら、恐らく僕の理性は一気に崩壊したに違いない。本当、エリザはある意味で『天使』であり、『悪魔』である。『マイラブリーエンジェルエリザタン』とか『マイラブリーデビルエリザタン』とか、そういう風に呼んでもいいだろう。
まあ、例えとかも、僕の考えていることとかも全て含めて脱線の一途を辿っているというのは、僕の思考回路が正常でない印だろう。
僕がエリザに要望を言い、エリザに演じてもらった時、丁度僕の部屋のドアが開いた。……そして、そこから恋が入ってきた。
「しゅ、修羅場じゃねえか……!」
「――ねえ、凛?」
「な、なんだ……よ。お、お前ちょっと怖いん……ひいいっ!」
用意していたかのように、恋はポケットからハサミを取り出すと、それを僕の直ぐ目の前まで近づけてきた。もし僕が一度死んで、転生して犬になっていたのなら、恋は恐らく貧乳だろう……って、一体何を考えている。こんな時でもアニメからネタ成分を補給しなければいけないなんて困ったものだ。
「――朝からイチャイチャしてよぉ?」
「……や、やめっ!」
「ああ、安心しろ。記憶は留めておける程度にしておくよ」
「……な、何をする気だ?」
「私にはな、小さい頃から『消去法』ってのが教えられてるんだよ……」
「ま、まさかそれは僕を殴るとか蹴るとか、そういう訳じゃないんだろ?」
「……残念」
「……え?」
「――消去法その一、『脅し』は終わった。さあ、2段階目へ進もうか……」
「な、殴る気か?」
「いや、そんなことはしないよ。……金的だ」
「もっと酷いだろ! お前女だからわからんかもしれんが、男にとっては相当……」
「――問答無用、リア充には罰を与えるんだああああああっ!」
「ぎゃああああああああああああっ!」
午前8時すぎ。ベッドの上にて、僕の脳内は真っ白になった。「あは、あはは……」と恋に殴られて直ぐに笑っていたことは記憶にあったが、そこから僕は寝てしまったらしく……いや気絶してしまったらしく、恋の金的の凄まじさが分かるだろう。
――こんな土曜日は好きじゃない。嫌いだ。
***
午後1時前。昼飯を食べたあと、僕はまだ股間の痛みに困っていた。
「股間が痛い……」
「だ、ダーリン大丈夫? ……ご、ご奉仕してあげようか?」
「爆弾撒き散らすな! てか、エリザのせいで恋が怒ったんだろーが!」
「イチャイチャしたから?」
「お前が『ご奉仕』とか、僕を罵ったから……」
「それはダーリンが指図したことで……」
「指図なんてしていないから! ……ああもう、いいよ」
「え?」
「どうせ恋が嫉妬したんだろ、僕とエリザに」
「なんで?」
「恐らく、僕とエリザが付き合っているように見えたからじゃないかな?」
「……1ランク上の幼馴染なのにね」
「正確にはそういう事だけど、一応お前、危険な爆弾落としまくっていたよな? な?」
エリザが口笛を吹く。何か隠そうとしているんだろうけど、全然隠せていない。それとも話題を逸らしたいのかな? ……でも、僕は逸らす気など無い。なにせ、今日のあの被害はこいつも元凶であるのだから。
「――認めろ」
「は、はいっ!」
低めのトーンでエリザに言うと、エリザは怯えたのか直ぐに謝った。
「別に謝る必要はないよ。……ただ、怖かったのか直ぐに謝ったな、お前」
「わ、悪いか!」
「悪くなんてねえよ。……じゃあ土曜の昼だし、寛ぎますかねえ」
「だね」
やっぱり日の流れは早いものだ。文化祭まであと約一週間だ。こっから色々と支度して準備して、大変になっていくわけである。
大変といえば、恋の機嫌を直すこともだけど。……手っ取り早いのは『デート』かな? けど、幼馴染と二人きりでデートなんざ、絶対グダグダする……こともないか。機嫌が悪いんだもんな。良ければグダグダするかも知れないが、悪ければ「そう」としか恋は感想を言わないし。
「よし、デートしよう!」
「だ、ダーリン……私をついに彼女として……」
「え」
「はっ?」
「誤解させたようだな。……エリザとデートしたろ? 今度は恋とデートだ。……ただの買い物でいいんだけどさ、ちょっと機嫌を直してもらいたいっていうか。だから、7時くらいまで時間欲しいなあ、って」
「買い物以外行くだろそれ」
「……な、何故分かった」
「そりゃあ時間を考えれば直ぐ分かるだろ」
「そっかー」
「うん」
エリザとそんな会話をしていると会長から電話が来た。こんな昼間に魔族討伐の時間が来てしまうなんて、と土曜の寛ぎタイムを諦めようとしていた。けど、その電話は『お誘い』とも受け入れられる内容から始まった。
『もしもし?』
「あ、もしもし」
『お。……ええとさ、突然だけどボクの家に来て欲しいんだ』
「何かあったんですか?」
『何もない、というと嘘になる。……えとね、今日あれがあるんだ』
「『あれ』?」
『金持ちの集まりがあるんだ。簡単に言うと、秋の夜会』
「へ、へえ」
『それでさ、今日咲希居るじゃん?』
「居るね」
『2階のベランダから落ちて、背中を打撲してしまったらしくてね。……それで、いつもは咲希さんにボクは社交ダンスとか踊ってもらってるんだ』
「咲希さんが執事服着て、とか?」
『うん。……けどさ、今日はその、ダンス踊ってくれる相手が居ないから』
「僕に踊れと?」
『ち、違うんだ! 別にダンスは強制参加じゃないから、出来なければ参加する必要はないんだけど……きょ、今日一日、正確には明日の朝まで、ボクの執事を御願い出来ないかな……?』
「執事、ってことはつまり『食事』やら『ベッドシーツ』とか、ありとあらゆるところまで気を配り、主人には逆らえないってことですよね?」
『だ、大丈夫だよ! ……ボクは別に凛君を扱き使うとか、そういうことはしないと思うし……。ただその、寝る時一緒に寝ることになると思うんだ』
「え?」
『……夜会が終わるのは、恐らく30日の明け方くらいまでになるかもしれないから、徹夜覚悟で来て欲しいんだけど……。あ、シャワーは貸すよ?』
「――それって行くべきですか?」
『どうしても、っていうなら別に……』
「いや、そんなことはないです。……ただ、恋の機嫌を損ねちゃったみたいで」
『愛する彼女を持っている凛君は、本当に爆発してしまえばいいのに、とつくづく思うよ』
「会長……」
『な、なんだいっ!?』
「何でもないです。あと、恋は僕の彼女じゃありませんし」
『な、なんだってー!?』
「会長って、意外とねらー……」
『そ、そ、それ以上言うなっ! ……釣りスレ立てて恥かいたんだぞ!』
「恥かいたって、会長……意外とバカなんですか?」
『なっ……!』
「ネットの住人に恥かかされるとか……ちょっとあり得ないです」
『そ、そ、そんなことより早く来てくれ! 夜会は夜8時からだけど、準備も手伝って欲しいから、今直ぐ来て欲しい! ……凛君、いいかな?』
「わかりました。恋とのデートは、後日に回せば良い話ですし」
『凛君は、本当優しいよね……』
「それが僕の取り柄なんですよ、きっと」
『そうか。……じゃあ、また後でね!』
「はーい」
電話が切られた。
「ねえ、ダーリン。今のって会長?」
「ああ。……エリザ、家は任せた」
「え?」
「ちょっと、色々と諸事情で、明日の朝まで会長の家に行ってくる」
「え、エッチなことしてくるの?」
「違うわ! 会長の家を『ラ●ホ』みたいに言うな!」
「ご、ごめん。……じゃあ、行って来てね。ああ、こまめにメール、してね?」
「なんだその嫁気取りな言い方。……まあいい。メールはこまめに送るよ。出来たら、な。なんか、結構大変らしいんだよ。だから、出来ないかもしれないけど……お前なら大丈夫だよな!」
「私は恋みたいに嫉妬とかしないし……」
「そ。んじゃ、行ってくる……」
「待って!」
「なにさ?」
「行ってきますのキス……してくれないと……道路で脱ぐ」
「やめいっ! ……なに? キスすればいいの?」
「うん!」
「あ、急いでっから拒否すんの面倒くさいし顔出せ」
「え」
「早くしろ!」
「ご、ごめっ!」
近づいてきた顔を僕の顔に近づけさせ、エリザの唇と僕の唇を付ける。ネトォ……っとした透明の液体が糸を引いていて、ちょっとエロかった。が、今はそんな事を考えるのではなく、会長の家に行くことに専念せねば。
魔力を使って、僕は会長の家まで飛んだ。




