Target:Ren_part02/episode 05
夕方6時過ぎ。エリザが帰ってきた。僕も恋も、手を鎖で繋がれたまま、僕はPC、恋はPSPを見てゲームをプレイしていた。僕は18禁版をプレイしていたことも有り、これ以上エリザにバレると、僕の立ち位置が危うくなりそうな気がした。
PCを一度スリープ状態にすると、僕はヘッドホンを外し「おかえり」と言った。しかし動揺していたので、すぐに疑われる始末となった。
「何していたの?」
「い、いや……ゲーム、だよ! 普通のゲーム……」
「ゲーム? ならいいんだけど……。なんで服が濡れているの?」
「あ……」
「しかも、恋も濡れているし。……それPSPじゃん! なんで恋持ってんの? しかも何か本体のデザインがアニメのキャラクターで一杯だし……」
「あああああああああああっ!」
僕は頭を抱えて、その場でしゃがみこんだ。
「ちょ、ダーリンどうした?」
「PSPも僕のだ。そのPSPは僕のだ……。そして、僕は今までエロゲをプレイしていた。ハハハ。バカみたいだろ? バカにしていいぞ?」
「え……エロゲって……」
終わったな、と感じた。「ああもう、死んでしまいたい」そう思い始めていた。もう苦しい。僕の家系は何故かそういったエロに関する、羞恥に関するようなものにはオープンな家系なのだ。だから、今の僕はその『遺伝子的なもの』と、『自分の中の羞恥心』が対決していた。
顔を両膝の中に埋めていると、僕の背中をトントン、と恋が叩いた。そして、「なんでそれを言ったんだ」と、小さく僕の耳元で言った。
そして、そうした後に恋は、一度深呼吸をして言った。
「もう、この話題変えよう?」
恋の一言で、場の状況は変わった。しんみりしていたこの空間は、一気にそのしんみりさを失った。とはいえ、主にしゃべっていたのは恋で、僕やエリザはそれといって喋ったわけではなかった。
僕は、両膝に埋めていた顔を上げて恋やエリザの方を見ると、恋はエリザに鎖を外してほしいと、言っていた。
「さ、さて! そろそろ、鎖を外していただきたいのですが……」
「恋。それは駄目だよ。明日の深夜0時まで。それが、条件でしょ?」
「大変なんだよこれ……。移動するにも、鎖の伸びる範囲ってもんがあるし、何よりこのままじゃ危ないでしょ?」
「なんで危ないのさ。二人、近づいて今日の深夜0時まで居ればいいじゃないか。それで問題解決でしょう?」
「ふ、風呂とかあるじゃんか!」
「風呂くらい、日付が変わった後に入っても大丈夫でしょう。それとも、親御さんが居ないから入れない、とかそういうことでしょうか?」
「いや、そういうわけじゃない。でも、そんな発想があったなんて!」
「いえいえ。褒めていただき、光栄ですよ」
「つうか、その敬語口調やめてほしいんだけど……」
「そ、そんなっ! だって、今は日本語でいう『修羅場』でしょ?」
「おいおい。修羅場ってそう簡単なもんじゃないだろ……。つか、もう夕方回ったし夕飯一緒に作らないか? 材料類は有る」
僕はここで会話に口を出して、自分が料理をつくる必要があるか聞いた。
「僕も作る?」
「作る必要はあるね。大いにあるね。その方が楽だし。つか、考えてみたら両手に花じゃん。死ね。なにこのハーレム王的なゲームオタク」
「いきなり暴言吐くんじゃねーよ。またタブー発言やってやろうか」
「……あれ本気で私心痛めるから止めて欲しいんだけど」
と、その話題について一切知らない、純粋な女の子、エリザはそれが一体なんなのか知りたそうにこちらをみて、聞いてきた。
「その『タブー』とは一体なんでしょう?」
「タブー……か。今僕が恋との会話の中で使用している『タブー』という言葉の意味を簡単に言うとすれば、『恋は彼氏が今まで出来た試しがない』ということだね。あいつは高校三年生のくせに、彼氏が居ないんだぞ」
「なるほど……。ということは、『可哀想な人と思われるからやめて欲しい』ということになるんですかね?」
「さあ? で、結局のところ、なんでそれで傷つくんだ?」
僕が聞くと、何故かエリザが僕の後ろで微笑んだ。僕のことを『ダーリン』とでも呼んでいることから、もう『正妻の余裕』みたいなものを感じているのだろうか。
前を向き、恋の方を見ると、右手の人差指をこちらに向け、怒りを顕にしていた。
「可哀想な人で悪かったな! そうだよ、それで正解だよ!」
「そうかそうか! やはり幼馴染は負ける結末に有るんだな! ね、ダーリン♪」
僕は、答えるのをためらった。ここで答えたら、何かが起こりそうな予感がした。僕は冒頭にも言ったはずだが、『ハーレム』なんて目指すことはしない。それは二次元の世界だけでいい。現実、何人もの女と関係を交わし、後に『責任』をとれと言われたら、話にならない。
だから僕は、本当にこころの許せる人でない限り、彼女や妻、そういうものは作らない。
「シカトすんな!」
「悪かったな。お前もさっき『修羅場』とか言いやがったくせに、何でさらに『修羅場』的要素付け足してんだよ。アホかお前は」
「どゆこと? わけがわからないよ」
僕は、『幼馴染は負けフラグ』だとか『わけがわからないよ』というように、何故かパロディ、コピペネタを使用している気がしたので、何故日本人でないエリザがそれを知っているのか、それを聞くことにした。
「……なあ、今思ったんだけどさ。お前は『日本人』なの?」
「うーん……。ドイツ人だよ。でも、ドイツ人、とはいえ中学からは日本に来ていたよ。てか、ダーリンは幼少期にドイツに居たでしょ」
「え?」
「うわああああああああ! 記憶忘れてやがるこいつ!」
「いや、幼少期の記憶なんざ、本当に僕分からなくて……。もしかして、僕は小さい頃にドイツに居たのか?」
「何故それさえも忘れたんだっ! そうだよ、ダーリンはドイツに居たよ! 私とダーリンが知り合ったのはベルリンでしょ? なんで忘れたのさ!」
「……すまない」
謝る僕、少し起こり気味のエリザを見て、今度は恋が微笑んだ。いや、微笑みではなくなった。もはや、病んだ時の笑いのようだ。
「ふっ! ざまあ! 記憶の残っていない女のことなんか、嫁として認識するわけねーだろ!」
「んなっ! 記憶とかそういうのは重要だけど、本当に必要なのは、どれだけ一緒にいて楽しいと思わせるかでしょ! だから私は、たとえどんなことでも、ダーリンが言うなら、なんでも聞くんです!」
「そんな風に扱いにくいテンションだから、嫌われるんでしょ」
「なんですって? 彼氏居ない歴イコール年齢の、恋って名前に入っているくせに、彼氏居ない歴イコール年齢の女に、言われる筋合いはないっ!」
「それはやめてええええええええっ! それ以上言わないでっ!」
「ふっ。大勝利だね。ざまあ。セカンドは黙って、どうぞ」
「セカンドってまさか、『セカンド幼馴染』ってことか?」
「そういうことですね。まあ、これから貴方は泥棒猫になるそうですが」
「ど、泥棒猫いうな! 何言ってるんだ!」
「……まあいいです。飯でも作って、どちらが旨いか勝負しましょうよ」
「なら、鎖外してくれる?」
「仕方ないですね。外しますよ」
そういうと、鎖は外され、ようやく僕と恋は自由の身になった。子供時代みたいに、水で遊んでいたので、汗はあまりついていなかった。が、汗ではなく、鎖が付けられていた、という痕が残っていた。
***
昼に勃発した『大霧吹戦争』から数時間。再び決戦の地となった台所に恋とエリザが登場した。僕はリビングで夕方のテレビのニュースを視聴し、今日の異常な暑さの原因を調べた。
「さあ。料理対決を始めますか」
「そうだねえ。始めようかねえ。で、どういう対決にする気なの?」
「おかずを作って、どちらが美味しいかダーリンが判断して、美味しかった方と今夜一緒に寝れる。それでどうよ?」
「ね、寝れるとかよく簡単に言えるわね……」
「え? 普通に寝るだけですよ? 何を考えたんですか?」
「……」
エリザの質問に、恋は黙りこんでしまった。なんとなく、恋が何を考えていたのか予想はついた。「寝れる」という事は、「初夜」だとか、そういった意味で捉えられることもある。それこそ、「枕を交わす」だとか言い始めたら大問題である。
顔を真赤に染めあげた恋。そして、それを見てエリザも察したらしく、それについてはエリザもこれ以上聞かなかった。
エリザは全く動揺を見せない堂々とした振る舞いで、戦いの開始を宣言した。
「まあ、寝れる権利は貰えるわけですが、明日の凛は、ダーリンは、私の所有物なので、勝っても明日の朝までしか渡しませんから……」
「の、の、望む所だ! み、み、見せてみろ。お前の料理の腕前を!」
「ふっ。いいでしょう。それではバトル……スタート」
ゴングの音はならなかったが、バトルはスタートした。僕は二人の会話に入ることはなかったが、外のほうから二人の戦いの行く末を伺っていた。
そんな中で、お目当てのニュースの放送がスタートした。
『こんばんは。では、今日はこちらのニュースからです……。
今日は、神戸市で最高気温34℃を記録しました。大阪市、徳島市などでも、同様にこのように真夏のような暑さを記録しています。この件について、気象台や気象庁は、何故そうなったのかわからない、という見解を示しました……』
VTR。まず始め、神戸市の中心街の映像が流れ、大阪、徳島等と続いた。下の方に表示されたテロップに、神戸市では最高気温34℃を記録、と書かれていた。今まで、11月に観測した気温としては最高だという。
神戸市で34℃を観測したが、それだけにはとどまらず、大阪市では33℃。徳島市では32℃を観測したようだ。
しかし、データ放送を付けても、そんな気温を観測したのは関西と四国地方だけらしい。関西四国と言っても神戸、大阪、徳島といった関西の西部から四国の東部にかけて。京都市では、そこまで暑い気温にならなかったらしい。和歌山市でも30℃はいかなかったものの、28℃という最高気温を記録したらしい。でも、白浜あたりまでくると、例年より少し寒いくらいの最高気温になったそうだ。
『そんな中、明日は非常に寒い気温になりそうです。例年とは比べ物にならない寒さがまた関西地方、四国地方などを襲う見込みです……』
僕はそれを見て、聞いて、不安になっていった。これには裏があるんじゃないかと。僕はそう思い始めていた。11月の中旬に34℃を観測するなんて、神戸ではありえない話だったからだ。
しかし、話題はそこまで大きく取り上げられるわけでもなく、トップニュースとして、最初の方の枠を使っただけで終わってしまった。
***
もうすぐ七時近くになろうかという頃。34℃という、訳の分からない気温を観測した日中とは打って変わって、今は結構涼しかった。部屋の気温を見ると、15℃くらいだった。日中、水を掛け合っていたせいか、くしゃみがでそうになった。それをこらえて、「ううう」と、震えながら声を出してしまった。
丁度その頃、夕飯も完成した。でもご飯は残っていたし、味噌汁は基本、姉ちゃんが居ない時は作られないので、(姉ちゃんが居ても作らない日はあるが)今日の夕飯に味噌汁はない。でも、味噌汁がなくても、代用できる品はいくらでもある。例を挙げるとすれば、カップラーメンやインスタントのスープあたりか。
「さて凛。私の野菜炒めと、エリザのハンバーグを比べてみたまえ」
「お、おう……」
料理が出された。しかしご飯は無い。貰おうとして席を立ったのだが、恋の強い力で阻止され、ご飯は貰えなかった。ただ、お茶は貰えた。
「さて。ど、どっちから食えばいいかな……」
「どっちでもいいよ。エリザのから食えばいいじゃんか。てか、私料理本当に下手だから、私も食べてみたいんだけど」
「いや、恋は十分上手いだろ。そんなにスタイルよくて料理できるのに恋人ができないのは本当に考えさせられるな。誰か決めている人でも居るのか?」
「だからもう私の前で恋愛系の話するんじゃない! 私の過去をいちいち引っ張るな! はよ食え。冷めるぞ」
「おうよ。じゃあ、エリザのハンバーグから頂きます」
エリザは、「どう……かな?」と不安げに聞いてきた。僕は、出されたハンバーグをナイフとフォークで食べ進めていった。
最初の方は良かったのだが、ソースをいっぱい付けて食べた時に、僕は異変に気づいた。
(……ん? なんかめっちゃ塩辛いような……。もしかしてこれは……)
僕は気になってエリザに聞いた。
「なあ。お前、もしかして間違えて塩、入れたか?」
「わ、分かっちゃった? 砂糖を入れようと思って、入れたんだけど、それが塩で、砂糖でプラマイゼロにしようとしたんだけど……駄目か」
「間違えたんか。まあ、そういうことはあるわな。僕も昔は卵焼きに塩を入れすぎて泣いたもんよ。甘いのが好きだったから、卵焼きに砂糖結構多めに入れたんだよね。それが塩だって気づいた時にはもう遅かったなあ……」
そうやって、昔あったことを暴露し、恋とエリザの笑いを呼んだ。
「でもまあ、美味しいよ。間違えて無ければ普通に問題なく食えるレベル」
「あ、ありがとうっ! ダーリンサンキュー♪」
一気にエリザは笑顔になって、ぎゅうう、と僕に抱きついてきた。それをみて、恋は少々怒っていたように思えた。流石はツンデレ……何回言っただろうか、このネタを。
「ほ、ほら。じゃあ私の野菜炒めも……」
「はいはい」
ハンバーグに変わって野菜炒めが僕の前に出された。フォークとナイフは、ハンバーグののっていた皿と一緒に、エリザのもとへ運ばれた。
箸とともに回ってきた野菜炒めを見た後に箸を持って言った。
「じゃあ、頂きます」
「どう?」
「普通に旨いね。ただそれだけ。不味くない。普通の野菜炒め」
「それ、なんか褒められている気が起きないんだけど……」
「いや、普通に褒めてるからな? 野菜炒め普通に旨いし。ただ、最初にエリザがあえて手順踏み間違えたハンバーグ出したからさ、なんか反応に困ったというかですね……。でも、今はお前の野菜炒めのほうが、間違っていないし、旨いし。だから、褒めてるんだよ?」
「……ありがとう。ま、私は抱きついたりしないし。……てか離れろ」
僕にエリザは抱きついて、僕を抱きまくらみたいに離さなかった。恋は、僕の方に右手の人差指を向けて指していた。それをみて、「ヤキモチやいたか?」と僕が笑いながらバカにしていうと、恋は怒りを顕にして、僕の頭に一発パチーンと、手のひらで叩いてきた。
「痛いわ。嫉妬すんな」
「し、し、嫉妬なわけあるかあああああああっ!」
「流石はツンデレ」
「ツンデレじゃない! 私はツンデレなんかじゃない!」
ちょっぴりばかし涙が出ている。左手でガッツポーズ、右手の人差し指で僕の方を指す。そして、お得意のツンツンした口調。僕は、少しからかおうとして、恋の頭を撫でた。撫でると、撫でた風で匂いが僕の鼻の中を満たした。「偉いね」と二回続けて言って撫でると、恋はさっきまでのツンツンした面影はなくなり、顔を下にむけて頬を真っ赤に染めていた。
「私もナデナデっ!」
「はいはい……」
エリザも撫でて欲しいらしく、僕はその甘えに応じてエリザの頭をなでた。二人共、頭を撫でる時に髪からいい匂いがした。……これ以上こんな生活していたら、本当に狂ってしまいそうで怖いものだ。
撫で続けて五分くらいした。二人共、満面の笑みで「ありがとう」とお礼を僕にしてきた。特に感謝されるようなことをした覚えはないが、感謝されたのであれば、その気持を素直に受け取っておくのが和の心ってもんだ。
「さて。風呂の時間だ。恋、そしてエリザ。入ってくんなよ?」
「入るわけねえだろ! 誰が幼馴染の裸見て興奮するんだ!」
「こ、興奮なんて……。ダーリンの卑猥な部分をいっぱい堪能するなんてこと、私にはまだ早すぎます……。でも、ダーリンがそういう気持ちなら私は……」
「おまえらやめろ! とにかく、僕は風呂に入ってくる。その間に茶碗とか、皿とか洗っておけ。以上」
「じゃあいってらっしゃい、ダーリン♪」
「何かこのあと大変な事が起こりそうなフラグみてえな言い方するな」
「本当にそんなフラグ入ったら面白そうだけどな」
「やめろっての! 僕本当、これ以上嫌な出来事にあいたくないんだから!」
「そうかそうか。じゃあ、風呂行け」
「あ、やっぱり一緒に入りませんか、ダーリン?」
「無理。そういうエロゲ展開は受け付けません! 却下します!」
「ちぇちぇちぇ」
「その『じぇじぇじぇ』みたいな言い方するな。あーもう、なんで風呂行く前にこんなに話長引いてんだよ」
「知らねえよ」
恋にツッコミを入れられた後、僕は風呂から上がった後に着るパジャマなどを持って、脱衣所へ直行した。そして風呂に入って今日一日を振り返った。
「なんなんだよ今日って日は……」
「そうそう。私、11月にこんな暑い一日なんて体験したことなかったよ」
「だよなあ……って、何で来てんだエリザ!」
「別にいいじゃんダーリン……。もしかして、私の身体じゃ……イヤ?」
「うるせえよ。年頃の男に何聞いてんだよお前は。そんなん男に聞いたら普通、大変な目にあってるぞ。つか、今僕がエリザと入ってる所見られたら、修羅場ルート、果ては『BAD END』ルート確定だよ!」
「そんなんどうでもいいし! 二人で愛を育むんでしょ? 小さい頃に、約束したじゃんか。懐かしいよねえ……」
「なあ。小さいころの僕は、なんて言っていたんだ?」
「え? 『大きくなったら、エリザちゃんと結婚して、100人くらい子供を作って育てたいです』……って。100人とか、どんだけ私とシタいんだか……」
「うわああああああ! そんな! 僕にそんな過去があったなんて……」
「でも、いいよ? 私なら100人、200人でも……ダーリンの子供なら……」
そう言ってエリザは自分のお腹を撫で回した。そして、顔を染め上げ上目遣いでこちらを見てきた。少しして、僕が照れているのを確認し、僕の右腕に自分自身の胸を当ててきた。
「やめい!」
「もう……。欲望のままに生きればいいのに」
「エリザ、お前そんなこと学校で言っていないよな?」
「い、言うわけ無いでしょ! 夫婦仲の関係っていうのは、お互いだけの秘密ってわけだし……ね?」
甘い吐息が耳にあたった。くすぐったくて、びくっと僕の身体は震え上がる。しかし、それをみていたエリザは、どうやらSの心に火が付いたらしく、更に僕を誘惑してきた。
と、その時。
「エリザってやつは……」
「只の幼馴染のくせに私達の中に手を出すな!」
「うっせえ黙って……ッ!?」
「あ……」
その瞬間、自分の下腹部を隠していたタオルが落ちた。そして、顔を真赤に染めた恋が、涙目になりながらエリザを強引に退場させた。
「ダーリン……だあああああありいいいいんっ!」
風呂場のドアが閉められた。音が聞こえた。ドアをロックして、ようやく僕一人の時間がやってきた。いきなりエリザがやってきて、少々びっくりしていたが、なんだかんだいって、誘惑された時悪い気はしなかったというのが事実だ。
「さてと。明日のこともあるし、早く片付けてしまいますかね」
さっさと身体を洗い終えようと、僕はシャンプーハットを被って髪を洗い始めた。その時、恋がエリザを注意していた声が聞こえていた。