Target:Elisa -a date with Rin./episode58
会長と別れ、帰路に着く。いつもなら、まだ学校で生徒会の仕事をしていた。それこそ、こんな4時半ぐらいに帰路についていることなんて殆ど無かった。
「ダーリン!」
「エリザ? お前も帰りか」
「正解!」
エリザはそう言うと僕にくっついてきた。
「なんだよくっついて」
「寒いからさー。……胸はどう?」
「お前は襲われたいのか」
「私はダーリン以外の子供は産まないもん!」
「その考え、早く捨てたほうがいいぞ。……嫌いって訳ではないけどさ、僕だってお前以外の好きな人が一人や二人くらいは出来るかも……」
「どうせ会長さんと恋でしょ? ……二人共家事できるし、胸もあるし」
「いや、胸の大きさはお前が一番だろ」
「けど、私ドジっ子だよ?」
「……巨乳茶髪のドジっ子とか、最高じゃん」
「――お世辞はいらないよ?」
「いや、お世辞じゃなくて。普通に可愛い」
「そっか。……あ、思い出したんだけどさ」
「ん?」
「デート、しない?」
「今日なんか予定有ったっけな?」
「無いでしょ、きっと」
「……だな。んじゃあ、どっか行くか」
「おいおい。エスコートはしっかり、だよ? ……でも、私はダーリンに逆らうことはないけど。……制服でデートってのは初めてだな」
「そうか」
「もしかして、ダーリンはデートの経験があるの!?」
「ない、と言ったら嘘になる」
「誰とデートしたの!?」
「会長と。……なんつうか遊び半分って感じだったよ、お互い」
「ということは、本気のデートは私が初めてということになるんだね!」
「本気の……デート?」
「そうと決まったらホテルへレッツゴー!」
エリザがスキップし始めようとしたので、ある程度走ったがエリザを止めた。
「待て」
「どうした?」
「どうしたもなにも、何がホテルだこら。……つか、濡れるじゃねえか。スキップなんかすんな」
「濡れた制服とか、ちょっとエロいよね。ダーリンのエロ本……」
「ひ、人の秘蔵本を見たなっ!?」
「――ダーリン、本当おっぱい大きな女の子好きだよね」
ああ。否定出来ない僕が憎い。……クソ。まさかもう、こいつにまで僕の性癖が知られていたとは。しかも、笑顔で言っているこいつにイライラする。
「じゃあさ、こういうのは……ダメかな?」
手を繋いできた。……本格的にこれデートじゃねえか。この前の会長とのやつはデートとはいえ凄いソフトだった。……けど、今回の場合は全然ソフトじゃない。もしかしてエリザの『好き』っていう感情は、『ライク』のお方じゃなくて『ラブ』の方なのか? ……それはちょっとやばいんじゃ。
「な、なあ。こんなことでなんだがデートはまた今度に……」
「絶対に嫌だ」
「なっ……」
「ほらほら、行くぞ。ほら、エスコートしろ」
あえてエリザは傘を閉じた。この雨の中、傘を閉じられて歩かれても風邪をひかれるだけなので、また恋を看病した時みたいに、今度はエリザを看病するのも、出席日数的に、僕の体力的にも大変だと思ったので、それは避けたかった。だから傘を閉じられた以上、僕に密着してこられるわけだ。雨に濡れないために。
「――ダーリン、肩出てるよ?」
「仕方ないだろう。お前が入ってきたんだ。……つか、この程度の雨なら別に濡れても問題ねえよ。僕は冷えには強いからね。心配はいらない」
「いいこと言うなあ」
「そうか?」
「うん! ……で、どこいくの?」
「無計画だからな。お前が今唐突に言ったせいで」
「酷いよ……」
「仕方ないだろう。デートっつっても、僕だって経験は一回しか無いし」
「うう……」
「涙ぐんでもダメです。……ま、ここは無難に水族館とか行くか」
「いいね!」
「……あ」
「どうした?」
「開園時間……」
「えっ……」
「確か、あそこは夕方5時までだった気がする。それに、4時までしか入れない」
「ってことは……」
「そのデートプランは破棄だ」
「じゃあどうするのさ?」
「中華街、とかはどうだろう? 一応、雨降ってるけど店は開いてるだろう」
「肉まん食べたい!」
「はいはい。……じゃあ、南京町行くか」
「はーい」
結局、南京町に行くことになった。まあ、今はこのペットのような爆乳の可愛い子とデートしているわけで。他人から見られれば、僕とエリザは彼氏彼女とみられるわけで……。それこそ、昨日はエリザもレイプされるってことになったが、今日は僕がいる。僕が抵抗している間に逃げてもらえば良い話だろう。
***
夕方5時過ぎ。暗くなり始めた空。太陽は今日は一回も出なかった。けれど、雨も上がって、道端に水たまりは有ったものの、もう傘をさす手間はなくなった。
「あれ美味そう!」
「ちょっと待てって……」
「こっちも!」
「だから!」
エリザは凄いはしゃいでいた。エリザからすれば初中華街だもんな。それこそ、中華街なんて日本に三箇所しか無いし。南京町、と呼んでいるのは、ここ神戸だけだ。それ以外の2箇所、横浜と長崎は『中華街』と呼んでいる。
「ねーねー。これ50円だってよー!」
「や、安っ!? ……でも小さくないか?」
「じゃあ、こっちは?」
「これくらいでちょうどいいんだ。値段は……120円!? 安すぎだろ」
「これ食べたい!」
「分かった。僕も食うから2つ買うぞ」
「半分こしないの?」
「……お前はしたいのか?」
「デートじゃんか。ちょっとはそういうこともしてみたいかなあ、って」
「はいはい。……すいません、これ1つお願いしまーす」
***
「いやあ、あの店員さんいい人だったな」
「本当にそうだね。まさか肉まんを一つ追加してくれるとはね」
「僕も考えられなかったわ。……さ、行くか」
「うん!」
再び歩き出す。夕方5時20分。この前の会長とのデートではこの時間帯がスタートだったっけか。そう考えてみると、今回のデートは結構早めにスタートしたんだな。……いやいや、会長とのデートは今は考えないほうがいい。
「美味しいなあ」
「ちょ、僕の分は!?」
「……食べたいんだ?」
「そりゃあな。腹減ったよ」
「んじゃあ、あーん」
エリザが肉まんを真ん中でわって、片方を僕の口の方へ近づけてきた。しかも、それと同時に上目遣いで僕の方を見ている。……やばい、萌え死ぬ。
「あ、あーん」
僕はそう言って口を大きく開いて肉まんが口の中へ入ってくるのを伺った。……温かい。そして美味しい。雨上がりの寒い夜、肉まんは強い味方になりそうだ。
「美味しいな」
「でしょ!? ……じゃあ、次どこいく?」
「マジかよ。中華街これで終わっちゃうのかよ」
「もしかして、おすすめのところがあるとか?」
「そういうわけじゃないけど……」
「それなら次のスポットへ行くぞー!」
「はいはい。……しっかし、暗くなったしなあ。何処行こうか?」
「……私はダーリンと一緒に入られるだけで温かいなあ」
「どうした?」
「ふぇっ!? いや、なんでもないよ! ……それより、寒い?」
「そりゃあな」
「じゃあ、ま、マフラーどうぞ」
「サンクス! いやあ、助かる。これってお前の手作り?」
「違う。ドイツから持ってきたものだよ。正確には私じゃなくて、私のお母さんのお手製のやつ。……ちょっと大きめだから、二人で使ってもいい?」
さらに密着するってことだよな、それ。……別に悪くはないだろ。つか、男が女と密着して嫌がることなんて殆ど無いだろ。顔が悪い場合を除けば。所詮、男は女に騙されるものだ。何しろ、本当の性格を隠しているような女もいっぱいいるわけで。そうなれば見抜く力もいるわけだが、これまた養うのが大変で、彼女をあまり持っていない男は養えない。
けど、エリザは性格も悪く無いと思うし、顔も悪く無い。何しろ、スタイルがめちゃくちゃいい。家事はできないけど、こいつには英語、ドイツ語、日本語と3つの言語を巧みに操る能力がある。
「どうしたのさ? そんなに私の顔をジロジロ見て」
「いや、何でもない。……何でも、無いぞ」
「怪しいな……」
「怪しいって何処がさ?」
「男の子が女をジロジロ見るときは、えっちな事を考えている時だけって恋が言ってたけど、どうやらそうみたいだね」
「……え?」
「でも、安心してね。私はダーリンになら何されてもいいから」
「やめろ。公の前でそんなこと言い出すな。変態と思われるぞ」
「な、なんだってっ!?」
「驚きすぎだアホ。……つか、マフラー早くしないのか?」
「急かすな急かすな。ほら、マフラー片方持って」
「はいはい」
マフラーをお互い首にかける。それだけで温かいのだが、今度はエリザが僕の身体に密着し、肩に自分の顔をくっつけてくるので、余計に心が熱くなって、身体もそれに比例して温かくなっていった。
「こうしてると、ダーリンって背高いなって思う」
「エリザは160行ってないんでしょ?」
「うん。159だったっけな」
「僕は177だからね。ま、『175くらい』って覚え方でいいと思うけど。現に、190くらいないとやっぱり誇れないし、恋にも愁にも梨人にも、細かい数字じゃなくて大体の数字でしか伝えていないからさ」
「別に隠す必要もないのに」
「面倒臭いじゃんか」
「それもそうだけど。……さてと。夕飯どうするのさ?」
「そうだな。……コンビニ弁当を公園で食べるってのも一手だけど」
「いや、肝心の公園が無いじゃんかここには」
ここは南京町。ここから出ても、公園を探すためには体力を要する。
「そうなんだよなあ。……あ、そうだ!」
「どうした?」
「寿司、食べたことある?」
「寿司ってアレだよね? 生の刺し身の……」
「そうそう! エリザの舌に合うか分からないけど、食べてみたくはないか?」
「けど、この近くに寿司屋なんて……」
「そこで、Google先生だ」
「ねえ、ダーリン」
「ん?」
「確かにネットを活用することは悪いことじゃないけど、デート中にネットはちょっと……。まあ、わからないんなら仕方ないか。じゃ、案内してよ」
「分かった」
スマホ片手に、僕はエリザを連れて寿司屋へと向かう。エリザは僕から見て左の方に居るので、雨で濡れた左肩が少々蒸れている。
「なあ、エリザ。ちょっと右肩に移動してくれないか?」
「なんでさ?」
「お前の体温で蒸れてさ」
「変なコト考えてないよね?」
「なっ、そんなこと僕が考えるわけ……」
「エロ本とかエロゲとか持ってるくせに」
「あ、あれは趣味だ!」
「はいはい。……じゃあ、ん」
「ちょ……腕の左右に谷間が丁度……」
「興奮する?」
ちょっと笑みを浮かべているエリザ。……ここは何としても早く寿司屋に行きたいところだ。
***
そうこうしていると、寿司屋が見えてきた。看板には『鮨処・南京』と書かれており、ここが南京町の外れだということを実感させられた。
「いらっしゃい」
ドアを開け、暖簾をくぐる。中は暖房が効いていて、暖かかった。
「カップルさんかね?」
「あ、は、はいそうです」
「デートでこんな寿司屋に乗るとは、お前さんも大人びているもんだ」
「こっちの彼女がドイツ出身なもので、あんまり寿司とか詳しくないようなので」
「ということは、こちらの彼女さんは帰国子女なのかね?」
「……高校3年でこっちに来たので、帰国子女、じゃないと思いますけど」
「そうなのか。……まあ、ゆっくりしていきなされ。何を食べるかね?」
「エリザ。何食べる?」
僕はエリザに聞いた。そりゃあ、僕が勝手に選ぶのもね。エリザは僕の奴隷って言う訳じゃないし。……ただ、エリザはある意味で僕の奴隷でもいい、って言ってるよな。『ダーリンの子供を産むのは確実』とか言っているし。
「……サーモンってやつ美味しそう」
「おお、お嬢さん目がいいね。んじゃあ、そっちの彼氏さんは?」
やっぱり僕はエリザの彼氏と認識されているようだ。そりゃあ、デートって言ったし、カップルって言ったのだから当然か。
「僕はマグロを」
「中トロもあるぞ?」
「それじゃあ、中トロもお願いします」
「へいよ」
このおじいさん、結構話が上手いな。ついつい寿司を追加で頼んでしまった。テーブルには箸は置かれておらず、箸は箱にまとめて置いてあった。それで食べるのも一案だが、やはりここは手で食べるのが一番だ。
「へいお待ち」
早い。流石は歳もそれだけとっているお方である。寿司を作るスピードが相当早い。たったの15秒で3つも寿司を作っちゃうなんて。
「美味しいです」
「そうか。それは有難いなあ」
回転寿司じゃないので、こうやって握る人と会話できるのは結構いい。ただまあ、一人で来るのは嫌かもしれない。二人で来て、こうやって人と会話できる方が何気にいい。
「寿司ってこんなに美味しいんだ……!」
「エリザは寿司初めてだっけか?」
「うん。ドイツにも日本食のレストランや寿司屋さんあるけど、私は基本洋食系を中心に食べて育ったからね。いくら日本人の幼馴染がいるって言っても食べていたのは洋食で、寿司なんて物心ついた時から数えてこれが初めてだよ」
「そうか。美味しいなら良かったよ」
「日本人が痩せてるのってこういうのが要因なんだねえ」
「お前十分痩せてるだろ」
「恋のほうが体重軽いし……」
「何kg?」
「お、女の子に体重を聞くなんて、デリカシー無さ過ぎだよ!?」
「すまんな」
「……まあ、ダーリンの前なら打ち明けてもいいや。……51」
「トン?」
「キロだよ! ちなみに、恋は48」
「48……? あいつがコンビニ弁当食べてる所見たこと無いし、それもあるか」
「ダーリン、今私のことバカにしたでしょ?」
「してないから」
「むう」
「甘えてもダメ。……ほら、次の寿司頼め」
「はーい。……じゃあ今度は……」
エリザが熱心に寿司を注文しているところを見ていると、自然に笑みが浮かんできた。何か可愛いんだよな、この目の前のエリザっていう女は。別に変な意味は無いんだ。けど、何処かこう、胸の奥が動く感じがする。会長とデートした時とは違う、その感覚があるのだ。
***
「有り難うございました」
結局、エリザは7皿を平らげた。僕は10皿だった。……差がでないほうがおかしいかもしれないから、差がでて正直僕は安心した。
「凄く美味しかったです」
「また来てください」
「はーい」
挨拶を交わし、僕とエリザは南京町の外れを歩く。しっかし暗いもんだ。早く大通りに出たいもんだな。しかも寒いし。マフラーが無かったら、首元はどれだけ寒かったか。改めて思い知らされるな。
「だ、ダーリン……」
「なんだ?」
エリザが僕に密着してきた。胸が手に当たる。エリザの目線は僕の目へ来ており、上目遣いではなくて、怯えているような目をしていた。
「ま、守ってくれるよね? ……こ、怖いんだ」
そうだよな。僕をデートに誘ったとはいえ、この時間帯だ。もう外は暗くなったし、人気もなく辺りは真っ暗。ただただ街路灯が灯す光だけが頼りだ。それこそ、昨日レイプされたんだから、エリザはトラウマになったはずだ。
「ああ。守ってやんよ。……早く大通りに出ようぜ」
「そう……だね」
途中に間を入れてエリザは返答した。
***
午後6時30分すぎ。元町駅前の長いあのアーケードへ到着した。ここまで来れば、余程のことがない限り変なことにあうことはないし、緊張もすぐに解けるだろう。
「さあ、帰ろうか」
もう目の前には元町駅も見えているし、怖がることはない。けれど、エリザはぎゅっと僕のことを掴んでいる。
「帰り……たくない」
「え」
「ホテル……行く」
「あの、エリザさん?」
「何?」
「ホテルって……つまり……」
「ラブ●テルに決まってんじゃんか」
「もしかして、お前そういう事したいのか?」
「……ダーリンの子供は、私が作るもん!」
駄目だこいつ、早く何とかしないと……!
頭をかく僕。一方で、うるうるした瞳で上目遣いをしてくるエリザ。……正直、エリザがご所望なら襲いかねないわけだが、そこは理性で我慢せねば。
「ダメだ。……一応僕はまだ17歳だ。責任をとれる年齢じゃない」
「むう。……でも、18歳になったらしてくれるの?」
エリザは『結婚=赤ちゃんを作ること』でも思っているのだろうか。……いや。それならそれで、新しいジャンルの開拓が出来そうにも見えるな。「12年会っていなかった性知識の乏しい幼馴染に性知識をあんなことやこんなことして教えこむ」。……悪くはないけど、そんなことはまだ年齢的に辞めた方がいい。……そんなこと言ったら、この前の会長の件は……。
急に寒気がしてきた。
「か、考えておく。けど、お前はめちゃくちゃ胸大きいし、スタイルいいし、バイリンガルだし、ドジっ子だし、めちゃくちゃ株いいから、僕以外の男から告白されたりするかもよ?」
「いいもん。ダーリン以外の告白は全て拒否するから」
「……凄い決意だな、それ。……なあ、エリザ」
唐突に、僕は真面目な話を切り出した。
「なに?」
「一つ聞きたい。お前の『好き』は『ライク』か? それとも『ラブ』か?」
エリザは、僕の顔を自分の方に向かせた上で、笑顔のまま顔を近づけてきた。
「そんなの――
――ラブに決まってんじゃん。バーカ」
唇に温かい感触が起こった。その感触と胸のドキドキは、電車の中でも続いていた。




