Target:Rina,Elisa and Madeline./episode57
11月27日木曜日。今日は昨日とはうって変わって、土砂降りの雨だった。当然、雨ということは気温も下がっているということであり、手元の温度計では10度を記録している。
「お前、徹夜したの?」
昨日、僕とエリザが戻ってきた時にも愁はゲームをしていた。なのに、愁はまだ僕の部屋でゲームをしていやがる。……こいつ、電気代とか考えてるのだろうか。それこそ、『テザリングしてるから』とか変な理由こじつけたところで、ネトゲなんざ大量のデータを使用するし、直ぐに使い果たして制限喰らうだろう。愁は絶対に怒るはずだ。ネット回線の不調には本当に苛立ちを覚える。
「徹夜したっぽいね」
会長がドアを開けて入ってきた。……そうだった。昨日は会長が僕の家に泊まりに来たんだった。エリザに関して色々有ったから、会長のことは考える暇もなかった。
ふとエリザの名前を浮かばせると、僕はエリザを探した。……僕の目線の下に居た。丁度寝返りを打っていた。こうしてみると本当に可愛い。金髪、というわけではないけれど、茶髪でクルクルしてて、日本人じゃない髪質で。すっぴんでも全然可愛いのにも高評価だ。
「凛君、そんなにエリザの事を見て……ま、まさか!」
「いや、何か『可愛い』と思ってですね……」
まるで愛くるしい猫を撫でまわすかのようにエリザの髪を撫でながら、僕は会長の質問にそう答えた。会長の顔にもしばし笑みが浮かぶ。
「正直、エリザは『猫』だよね」
「……会長、僕の心読んでます?」
「そんな超能力を使うことは出来ん。それに、デビルマシンだって起動しているわけじゃないし、凛君を四六時中監視できるわけじゃないよ」
「監視とは違うと思いますけど……」
「そうか。……まあ、それは編集でどうにかしてくれ」
「姉ちゃん風に言うんじゃない!」
「いや、編集が仕事しないと、いい作品は……」
「個人で作っている作品はどうなるんだ!」
「それは……」
「ふっ。答えられないなら、エリザを強制的に起こすぞ」
「なんですかそれ」
「お前、今何時か分かってる?」
「え?」
首を傾げた僕を見ていたかのように、テレビが光と共に起動した。
「7時……?」
「君は本当に幼馴染なしじゃ起きれない変態なんだな」
カーテンも閉まっていたし、愁がPCを使用しているとはいえ、その光は愁で塞がれ、肝心の時計を見るための明かりにはなっていなかった。
「……じゃあ、エリザを起こそう!」
「なんでハイテンションなんですか?」
「いや、私はもう朝食摂ったし、愁だってさっき食べた。まだ食べていないのは凛君とエリザだけだけど、葉紅さん大学にもう行ったから……」
「待て待て。姉ちゃんの大学は10時からじゃ……」
「合コンだってよ」
「何してんだあの姉は……」
姉ちゃん、貴方って人は……。高校生時代に彼氏を作ったはいいけど、二人共振ったバカのくせに、何故今更合コンなんてやってんだ。……ま、人間関係は複雑だ。それは女なら、更に複雑になるのは僕も知っている。
「んで、『時間の都合上誰か一人はコンビニで調達しろ』との命令です」
「いや、まとめて作れば……」
「私が居るのを忘れていたらしく、一人分足りなかったんだってよ」
「それで……って、姉ちゃんはもう認知症にでもなったのか?」
「ねえよ」
「だよな」
「じゃあ、凛君の分の朝飯は無いから、エリザちゃんを起こそう」
つまりだ。今まで会長がハイテンションだった理由は、僕を虐められるという、その快感から来ていたのだろう。……と考えると、会長はサディスト? ……いやいや、そんなことより僕の朝飯は?
「そんなことより朝ごはん食べたい」
「うどんはないぞ」
「朝ごはん」
「だから、お前に食わせる飯はねえよ」
「会長酷い……」
「ボク……いや、私はサディストだからな」
「今、一人称を……」
「う、うるさいなっ、バカ!」
「……まあいいや。別に朝飯無くても死ぬ訳じゃないし。昼を……」
「朝飯の影響で昼飯も作ってないそうだ」
「なっ……」
「隣の家の世話やき巨乳幼馴染に頼んだら?」
少々笑みを浮かべている会長。本当、会長のテンションはいっつもこんな感じだ。人を虐めて楽しんだり、虐められてボケたり。エロい話についてこれないわけではないけど、過激なお話はあんまり好きじゃない。それが会長であり、西條里奈という女の本性、性格なのだ。
「巨乳幼馴染って会長こそ胸は……」
「私はロリ体型じゃない。それなりにあるよ。持ってない状態でCだ」
「いや、言ってよかったんですか!?」
「まあな。一夜を交わした仲だし、これくらいは当然だろう」
「それ、男側が言う台詞じゃ……」
「女側が別れを申し込むときにも台詞だと思うけどな」
「もしかして、やっぱり嫌ですか? あの事」
「……忘れようにも忘れられないしなあ。ああ、別にそんなこと合ってもなくても、私は親以外の人を嫌いになれないから。……そういう、人間だから」
「人を嫌いになれない、か……」
「ああ。……まあ、こんな話忘れてくれていい。さあ、エリザを起こすぞ!」
「ちょっと待……」
なんでこんな些細な事でこんなに時間をくっているのか……。そう思うと、ついつい出てしまった右手をしまう他なかった。
寒い朝。バサッと布団が捲られると、裸のエリザが居た。
「……凛君。めくったら裸体の女の子が居たんだけど」
「……僕も見てしまったからには謝罪するしか無い。エリザ、すまん」
「私が言いたいのはそういうことじゃない。確かに、恥ずかしいかもしれないけど、なんでこの子起きないのさ?」
「カーテン閉まってるからじゃないかな?」
「そっか。じゃあ、太陽の光……って、今日は雨じゃん」
「そうだった。……じゃあ、スマホのライト」
「それ結構明かり強すぎるから向いてない」
「……顔面ピンタとか、耳に息吹きかけるとかはどうですか?」
「悪くはないな。けど、それを私がすると『百合』という事に……」
「なら、僕にしろっていうんですか?」
「だってさ、『ダーリン』とか君に甘えているんだからさ。……ね?」
「わかりました。じゃあ……」
強すぎず、弱すぎず。そのくらいの力でエリザの右頬を二回叩いた。当然、僕もそれなりの力を込めてやったため、エリザの右頬は赤くなっていく。
「……」
反応がない。仕方ない、耳に息をするという手段を使おう。
「ふー」
「……ひゃっ!」
「起きた?」
「……ダーリンのバカ! 人の顔叩いて! バーカ! ばあああああか!」
僕のピンタにエリザは布団の中に隠れてしまった。
「エリザ。お前、いつから起きてた?」
答えようとしない。ならば、と布団を持ち上げようとするのだが、エリザも自分が裸だということを分かっているため、布団の中から出ようとはしない。
「……もう7時だぞ?」
「時間なんか関係ないよ! ……ダーリンがこんななんて思わなかった」
「いや、僕はただ起こそうとしただけで……」
「謝らないと許してあげない」
「……くっ」
僕はその場で土下座してエリザに謝った。
「――ごめんなさい。許してください、何でもしますから」
「じゃあ、昨日に引き続き、今日も夜にデートだ!」
「10時までな」
「やったー!」
エリザが僕の返答を聞いた瞬間に、めちゃくちゃ大声で喜んだ。カーテンが閉まっているから、裸体が近くの家のツンデレに見えていないからマシだが、もし見えていたりでもしたら大変なこと、最悪の結果は免れないだろう。
「……ねね、お外走ってきていい?」
「裸体で走るとか、お前は変態か」
「なっ……」
――今度は僕がピンタされました。まあ、これで五分五分、なのかな。僕は二回叩いたし、エリザは一回だけど僕が土下座したから、それを一回として考えれば五分五分ってことだ。
***
結局、僕の朝飯はコンビニで買ったサンドイッチだった。会長からは笑顔で『変態』と呼ばれ、朝のことをエリザが恋にばらしたせいで、昼には飯も食えずに恋から色々と言われた。
そして6限に学活の時間が取られ、文化祭について話し合われたのだが、この時僕が『男子代表』としてメイド服を着る羽目になった。ちなみに、女子代表で執事服を着たのは会長で、『メシウマ』となるはずだったのに、それは逆の結果となり、めちゃくちゃ格好良い人が生まれてしまった。
そして、今日も生徒会室にまた英洙と零奈は来なかった。
「……あの、いつまでその格好で居る気なんですか?」
「似合ってる?」
「似合ってるって6限に何回言わせましたか、貴方は?」
「恐らく100回以上は言ったね」
「脅迫ですか……」
「ち、違うぞ! ボクは決して凛君を脅迫しようと思ったわけじゃなくて」
「それならそれでいいですけど。……今日も、来てないんですね」
「そうみたいだな。……つか、書類とかもう終わったし、あとは準備期間だから、ボクらが生徒会の仕事ですることはもう殆ど片付いたぞ?」
「それなら何します?」
「スマホでエロゲとか」
「PCを遠隔操作してするのも別にいいですけど、それをするくらいなら、普通にラノベとか読むのはどうですかね」
「ここは読書部か」
「いや、読書部なんて部活は無いでしょ」
「……そうだな。難しい英語の本を読むわけでもなく、幼馴染に自らの名を厨二病っぽい名前にして告白したり、今までブラックコーヒー何か飲んだことなかったのにブラックコーヒー飲んで胃を壊し、姉や幼馴染にエロゲを所持していることをバレたりね。……ああ、ごめん。つい話が」
「もしかして、会長って厨二……」
「違う違う。ボクの好きなラノベの冒頭にあるんだよ。そういう感じの文章が。今考えてみると面白いけど、厨二病って結構恥ずかしいよね」
「会長って厨二病になったことあるんですか」
「ないよ。けど、お父様が」
「なるほどね」
「さてと。じゃあ、ラノベを図書室から取ってくることに……」
その時だった。生徒会室のドアを叩く音がした。
「こんな時間になんだろうな?」
「どうせ先生でしょ」
「でも、それならドアを叩くことは無いと思うけど」
「じゃあ、他校の生徒?」
「かもな。けど、文化祭はまだだし……ま、入れ」
会長の言葉を聞くとドアが開いて、そこからサングラスを付けた男2人と共に、昨日あのコンビニであった女が入ってきた。……確か、東條とでも言っていたっけ。
「やあ、西條家の令嬢」
「ま、マドレーヌ。……貴様、何故ここへ?」
「私は西條家に会いに来た。ただそれだけの理由しかない」
「……で、要件は一体なんだ?」
「期限を12月7日とする。さあ、この契約書にサインをしたまえ」
ドン、とテーブルの上に紙が置かれた。そこには『契約書』と大きく書かれており、『西條家は東條家に統合され、新たに巨大なる財閥となることを』と二段目、『承諾する』、『承諾しない』が三段目に書いてあった。
「まさか……」
「なあ、西條家の令嬢。……統合しようよ?」
「それは私ではなく、お父様に言わなければ……」
「言ったわ。……けれど、『娘が昨日は帰ってきていないから』と言われて、今日貴方に会いに来たの。……早く承諾しなさい」
「嫌だ、と言っている」
「何故? ……ああ、そうよね。東條家は日本一の財閥だもの。何? それが西條家のプライドなの? ……馬鹿みたい。本当、西條家は負け犬よ」
会長は泣きそうになった。ここは僕が行くべきなのか? ……いや、別に僕は会長について、西條家について、詳しく知っているわけじゃない。ここで変に出て行く、僕はそんな主人公になるのか? ……でも、ヘタレて見ているだけの主人公よりは絶対に、前へ、前へ出て行く方が主人公らしい。
「東條、マドレーヌと言ったよな?」
「ええ。私はマドレーヌよ。……よく見れば昨日の男」
「そう。僕は凛だ。……僕は西條家についても、東條家についても、大きな財閥だということ以外は全く知らない。……けどな、人を泣かせるのは良くないと思うんだ。これは裁判じゃない。ここは人を泣かせる場じゃない」
「酷いことを言うわ。……これだから男は大っ嫌いなの」
「勝手に嫌えばいい」
「……そう。じゃあ、嫌うわ。……昨日、あんなに言ってあげたのに」
「え?」
「貴方、そんな主人公ヅラしてるけど、傷つくのは貴方なの。それに、一般庶民である貴方のような人間が、財閥の話に口をツッコまないで」
「僕は……会長の友人だ」
「友人ごときが何を? ……せいぜい彼氏とでも言わなきゃ」
「……そして、彼氏だ」
「……え? ……じゃあ、昨日のあの爆乳女は?」
「あれは僕の幼馴染だ」
「そ、そうなの……」
「偉そうにしていたくせに、もう反論しないのか。所詮、自分の身分がなければ人との話な到底出来ないような、そういうコミュ障なんだろう?」
「……」
「それを偉そうに。よくも彼女を傷つけやがって」
「黙っていなさいよ。私は、別に貴方に論破された訳ではないわ」
「少なくとも、貴方が思っているような軽い関係じゃないですから」
「……ど、どういうことよ?」
「ああ。お嬢様は察することも出来ないんですね。やっぱり、僕の彼女のほうが優秀だ。……僕と会長は、一夜を交わした関係なんですよ。そりゃあ、もう濃厚な関係ですね。……なので、ある意味一心同体、貴方には口を出しても問題は無いはずでしょう? それこそ、日本は民主主義国家です」
「……な」
「他人の言論を無視し、自らの意見のみを押し付けるのは、いいようには思えませんけどねえ。……何か、反論しないんですか?」
「え、偉そうに! こ、こっちには1000億円を超える多額の金が……」
「そうですか。ま、こっちには金では買えない絆があるので要りませんが」
「……」
「何か、言い返さないんですか? 負け犬は、貴方になりますけど?」
「……また、来る。その時には……論破してやる。きょ、今日の所は一先ず」
「一先ず? ……本当、一流財閥の令嬢は里奈を除いて、皆クズとかプライドの高い奴らばかりなんですね。見損ないましたよ本当」
僕がそう言うと、マドレーヌは生徒会室のドアを力強く閉め、大きな音を上げた上で帰っていった。あの紙はテーブルの上に置いたままだが、一応はマドレーヌに勝ったわけだ。……一応、勝利したんだ。論破してやったんだ。
「……おい」
「何ですか、会長?」
「……お前、変態のくせにやるときはやるんだな」
「そりゃあ、僕の『仮想彼女』ですからね。人を守れない人間が、人を支配することは出来ない、つまり生徒を守れない人間は、生徒を指導したり、支配したりすることは不可能なんです」
「厨二的だな」
「いや、違いますよ。ただ、僕はその基本概念に則って、会長を守ったまでです。これくらいしておかないと、主人公としての誇りを持てないし」
「……そっか。でも、格好良かったよ」
「会長、もしかして僕に恋しました?」
「真面目に言っていい?」
「え?」
「キモい」
「その反対って受け取るのは……」
「ライクの意味で受け取れ。けど、今のその言い分は……キモい」
「か、会長、酷いですよ……」
「守ってくれたのは有難いけど、話の中で何が『一夜を交わした関係なんですよ』だ。馬鹿かお前は。変なこと言ってどうする?」
「それが、僕です」
「開き直るな。……ああもう、ジュース奢るから」
「いやあ、助けた甲斐があるなあ」
「何がほしい?」
「コーラでお願いします」
「コーラか。……分かった」
会長がコーラを買いに行った。
戻ってきた後、特にすることも無くなったので、僕と会長は生徒会室を出た。会長は、コーラではなくてコーヒーを飲んでいた。缶があったくて、冷たいコーラとはまた変わった感じだ。……ま、コーラこそ至高だがな。
昨日は文化祭で、帰ってきて疲れちゃって寝落ちして、マジすいません。




