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Future  作者: 浅咲夏茶
5th Chapter;Unpleasant memories of heroines.
52/127

Target:Nyx,DDA and Rina./episode51

「ニュク……」

「ご主人……さ……」

 ニュクスがその場に倒れた。紅の色とともにその液体はニュクスの身体を覆いつくしていく。一本の赤い髪にも赤い色の液体がついているのがわかった。その正体は『血』であろう。ニュクスの心臓には剣が突き刺さっている。

「――治療を開始しなきゃ」

 会長の声が聞こえた。治療、つまりこのダメージを回復させる必要がある。とはいえ、ウンディーネは今召喚して戻したばかりだし、やはりシルフか……。

「何しているんだ! 早く回復させないと死ぬぞ?」

「『気絶』の間違いじゃないんですか?」

「いや、違う。気絶なんかじゃない」

「え?」

「今のニュクスからはMPが検出されないし、AP、BP、HPも検出されない」

「一体どういう……」

「今のニュクスは『悪魔』でも『魔族』でも『魔法少女』でもない。『女神』でもない。――普通の人間と同等の存在になっている」

「ということは……」

「通常なら気絶ですむ筈のことさえ、死んでしまう事が有るという事になる」

「病院に、連れて行けばいいんですか?」

「――それは違う。通常の病院は悪魔に対しての治療などしてくれない」

「じゃあ、どうすれば……」

「私の家に向かいなさい。――『生徒会役員』って事、何故来たのかという事をしっかりと伝えればいい。そうすれば、誰一人として凛君を疑う者はいなくなるだろう」

「でも、場所は……」

「じゃあメールで住所を送るから。――取り敢えず、山の方へ向かって」

「わ、わかりました……」

 不安も募る。今のこのニュクスは神じゃないし魔族じゃないし悪魔じゃない。人間同等の存在。心臓まで到達しているわけではなさそうだが、死の宣告は刻一刻と迫ってきているはずだ。早く会長に住所の書かれたメールを貰わねば。

「い、今すぐは無理なんですか?」

「――見ての通り、目の前にいるあの女は人造人間なんだ。下手な手出しをしたら、こちらが死んでしまう。それこそ、今の一件でわかっただろ?」

 悪魔、いや女神ですら人間同等の存在へと変えさせる能力を持つ。そんな敵なんだ。暴走して、僕が止めたら返り血を僕が浴びて。気づいたら後ろには、血飛沫をあげるニュクスが居て。……でも、死んだ訳じゃない。生きてる。

「――じゃあ、いつ渡すんですか?」

「相手側が隙を見せたら……っ!?」

「会長……」

「くはっ……」

 会長の目は瞬きをやめる。腹部を差す黒色の剣。恐らく、その剣は闇属性が用いるものであろう。そんな剣を会長がくらえば、光属性である会長は一体どうなるものか。酷く悲しい結末へと向かうのではないだろうか。

 そんなことあってはならない。助けなくちゃ……。

「か、会長……大丈夫ですか?」

「大丈夫……。そんなことよりニュクスを……。そのうち君も被害者になる」

「か、会長こそ被害者になるじゃないですか! ……魔法、使えますか?」

「まだ、闘えるが、やはり……HPが相当削られた。毒入りの剣のようだ」

「毒入り……?」

「ここは、エリザと恋を先に家に戻してやってくれ……この場はボクが……」

「会長はとんだ自己犠牲野郎みたいですけど、こんな魔力結界の中で、そんなこといわないでください。希望を捨てたみたいな、そういう言い方」

「でも、希望なんて無いじゃないか! 人造人間だぞ? 悪魔じゃない」

「――悪魔じゃないから、何なんですか?」

「……え」

「魔法が使えるようなら良かったです。ここは僕に任せてください」

「き、君こそ自己犠牲野郎なんじゃ……」

「僕は、大切な人、大切な悪魔を傷つけられたから怒ってるんです……」

「で、でも君はまさかデートやらで攻略なんて言わないんだろうな?」

「人造人間とデートなんてしていられません。……こっちは喧嘩売られてるんです。見下されてるんです。――反抗せずに、いられるんですか?」

「でも君は、元々『デートで攻略するのが基本』のような事を……」

「僕は『全てにおいてそうする』とは言っていません。あくまで『基本は攻略』であり、会話で解決しなかった場合には、武力行使も考えるというわけです。なので、今回は『会話』で解決しませんからね。紅月クレイアという厨二少女は見えていますけど、肝心の主人が見えませんから」

 相手は『人造人間』。ヒトによって創りだされたロボットのようなものでる。どのようにしてそんなのを作り上げたのかは定かではないが、恐らく『闇』の部分や機関が関わっているんだろう。

「――会長は、全モンスターを戻してください。悪魔を、失いたくは無いでしょう?」

「そ、そうだが……」

「会長。デートの時みたいにもう少し人に甘えてきてもいいと思いますけど」

「あ、あれはだな……」

「まあ、会長はまず全魔族を戻してください。そしたら、僕が彼奴を倒します。その間、会長は下がっててください」

「凛君だけに任せることなんて……無理だよ」

「そうかも知れませんが、まずは魔族を皆戻してください」

「……やらなきゃ、ダメ?」

「刻一刻と時間が迫ってるんです。早く」

「じゃ、じゃあ……みんな、戻れ!」

 会長はぎこちない表情を見せながら魔族たちを戻した。ニュクスのような事になってはならない。それこそ、早く魔力結界を解除したいものだ。

「一旦、魔力結界を抜けましょう」

「――二酸化炭素が相当な量になっているしね。それこそ敵も……」

 その時だった。会長のすぐ横に、先程僕の後ろでニュクスを倒そうとした極悪犯の声と同じ声をした女が現れた。風の無い魔力結界の中で、何故かその女は髪を靡かせていた。そして、女は会長の横から僕の眼の前に現れて言った。

「――さっきのクレイアは『人造人間』だ。そして、私達は『データディスクアローズ』。英名『DataDiscArrows』、通称『DDA』だ。覚えておけ」

 データディスクアローズ。僕はその名前を昔から知っていた。元々はエロゲの制作会社だった会社だが、2010年にスマホ業界に進出後、様々なゲームを送り出し、2012年にはPC、スマホ、ガラケー、ゲーム機の4機種で同時タイトルを発表した。『ドラゴン・インフィニティ』、アプリの総DL数はIOS、Androidだけで2500万ダウンロードを達成し、ゲーム機での累計ソフト売上は100万を超えた。僕もギャルゲー&エロゲーマーでありながら、その『ドラゴン・インフィニティ』を持っている。

 正直、機能面も充実している。フレンド申請は無限に出来るし(上限を設けることも出来る。ちなみに、上限設置はランク10から)、申請してお互い承認したフレンド同士なら、IP通話を利用した通話、チャットも出来る。

 しかも、ギャルゲ的要素も含んでいる。……というか、キャラが皆可愛い。モンスターもカッコイイやつから可愛いやつまで。初期段階ではカスなのに、最終進化形態にするとめちゃくちゃ強くなったり……。

 キモヲタからギャルまで。ちびっこからお年寄りまで楽しんでいる。基本、出題される問題を解いてコインや破壊石を集めていく。今のところ、ノーマル階層では99階まで、スペシャル階層では50階まで、無限回廊では297階までが確認されている。1階につき、5~15のステージがある。1階突破するごとに、オールジュエルのようなものが貰える。ドラゴン・インフィニティでは、それを『破壊石』と呼ぶ。その破壊石は、ステージ突破かキャンペーン中にしかてにはいらないもので、後は課金する必要が有る。ちなみに、コイン10000枚で破壊石を一個購入できる。だから、下手に課金することもないわけだ。

 ちなみに、バージョン6で新機能、『投資』が追加された。合成時に、モンスターではなく、コインを合成させることで、相手から交換が申し込まれた際、相手が支払うコインがその合成した分上乗せされる。ある意味、詐欺的面もあるかも知れないが、そこはゲームだ。リアルとゲームは別である。それこそ、コインは課金して買うことは無理だし。ノーマル階層の15階層目まで行かなければ、破壊石1つををコイン10,0000に両替できないし。


 さて、ドラゴン・インフィニティの事はもういいとして。データディスクアローズは、2013年末に国内でロボットを開発していた研究者チームと協力し、『人造人間』、データアンドロイドを作成した。当時はそのこともニュースにならなかったが、ネット上の一部では話題になっていた。

 そして今。そんな人造人間に、僕は一番初めて知り合った悪魔を殺されそうになった。けど、まだ死んだ訳じゃない。声は聞いていないけれど、心臓の音は聞こえている。だから、死んでいない。

「それじゃあ、また会おう。――人造人間に、勝てるかな?」

「待て……」

「待たない。さようなら」

 クレイアとともに女は消えていった。と同時に、魔力結界が解除される。つまり、今までの魔力結界はクレイアの主が作っていたものと推定される。……デートにでも誘っておけばよかったのだろうか。とはいえ、一歩踏み間違えた瞬間、人造人間によって殺されるかもしれない。もしそうなれば、恋やエリザからも引かれるのは間違いないだろう。

「――か、会長、大丈夫ですか?」

「ぼ、ボクは大丈夫、だ……。そんなことより、ニュクスは……」

 ニュクスの方を見る。口の方に耳を当てる。良かった。息をしている。けれど、腹部からは多量の出血。魔力結界がない今、ニュクスは女神ではなく、人として見られている。けれど、ニュクスは絶えず呼吸を続けている。生きているんだ。死にたくない、僕も極限まで酷い状況下に陥ったことがないからわからないけれど、恐らく僕も藻掻くんだろう。例え目の前が絶望しかなくて八方塞がりだとしても、絶望する確率が99%でも、極限下でも残りの1%の方の確率の方へ僕は心を動かしてしまうんだろうな。

「携帯……」

 スマホを探す。……あった。掛けよう。……でも、ニュクスは今は人間だとしても、元々は女神だ。普通の病院で大丈夫なのか? それこそ、病院が9時30分という時間帯に開いているのか? それこそ、サタンが働いている病院は、サタンが21時まで働くことが有るようだから、それなりに長い時間やっているんだろうけれど……一体何時までやっているんだ?

『23時だよ』

『23時!?』

 驚きを隠せない僕。サタンの声でその台詞が聞こえたのだから驚きである。23時。そんな時間まで病院が開いているのか……。日本もやっぱり夜が長くなってるんだな、と思わされる。24時間開いている病院でないとはいえ、朝も相当早い時間からやっているのだろう。殆どの医院は9時や10時スタートだが……。

『朝は10時スタートだ。元々は11時スタートだったらしいけど、医院の院長先生の息子が医院で医者として働いていてさ。院長先生は10時から13時半と14時半から17時まで、息子先生は17時から23時までって分け方らしいけど』

『なんだそれ……。もう24時間制にしてしまえよ……』

『コンビニじゃあるまいし、24時間にする必要はないんじゃない?』

 けれど、病院に行けない時間帯、要は早朝から9時台までに何かが起こってからでは、病院に行かぬまま頓服薬や市販薬を飲んでばかり居ると、治らないことがあるかも知れない。確かに、市販薬や頓服薬でも効くことは効くが、肝心の薬がない場合、薬局に行くのが最前だ。と言っても、開いていなければ話しにならないわけで、そんな中で朝に病院が開いていれば、自分にあった薬を提供してもらえるわけだし、一石二鳥だ。

『でもねえ。医者の確保がねえ』

 夜間の診察は医者の体力、集中力を奪うということか。それもそうか。ヒトは元々夜型の生き物じゃなくて、昼型の生き物だ。深夜は3時くらいまでゲームばかりして視力を落としているような愁は、ヒトじゃないということか?

『愁は人間だと思うけど』

『そうか。――それよりもなにも、ニュクスは治療を受けられるのか?』

『大丈夫。今のニュクスは人間。ちゃんとした女の子だ。……その証として、髪の色を見てみな。紅の色の髪なんて一つもないだろ?』

 確認してみる。紅の色の髪は黒色の髪になっていた。今思うと、ニュクスは意外と……いや、普通に可愛い。なんだろう。吐息の音がエロく聞こえる。

「神戸病院に運ぶか」

「――そうだね。空を飛んでいきたいものだけど……飛べる?」

「ニュクスは空飛べるはずなのになあ……」

「おお。悪魔の事が好きなのか?」

「その言い方やめてください。会長こそ、大切な悪魔がもし消えてしまったらどうするってんですか。――ニュクスも元は会長の悪魔だったんです。それもあるので、会長が魔法少女をしている間、絶対に死なせはしません」

「そうか。……んじゃあ、君たちは二人で病院に行ってきたまえ。情報によれば、サタンが病院に働いているようじゃないか。で、そこでは23時まで開いているらしい。……無理か。戸籍ないし」

 会長が考えこむ。戸籍がない以上、保険証を提示できない。市販薬でどうこうできるわけでもないし、人間として今生きている以上、シルフやウンディーネの力を用いることも出来ない。医者の手を借りねば……。

「そこでボクを頼ればいいのだ!」

 えっへんと胸を張る会長。無い胸、というわけではないので、それなりに強調される。……『ボク』口調に戻ったな。恋やエリザが居ないからか?

「――何か嫌なことでもあったのか? ボクが聞いてあげようか?」

「大丈夫です。――で、恋やエリザが居ないんですが……」

「そういう時は電話でしょ」

 出していた電話から恋に電話をかける。

「あ、もしもし?」

『なんだよ』

「今何処? そこにエリザ一緒にいるの?」

『エリザも一緒。ちなみに今、何処に居るか分かるか?』

「え」

「じゃじゃーん。凛の後ろでしたー!」

 効果音とともに、笑顔で恋が僕の肩を叩く。何かテンション上がってるなこいつ。ツンデレ的要素が皆無じゃないか。全く。ツンデレがわからないとは何事だ、この恋とかいうDカップの一応ツンデレの幼馴染は。

 一方で、エリザは恋の後ろに隠れていた。夜だからな。魔力結界もないし。流石爆乳茶髪の幼馴染。色んな男からエロい視線で見られてやがる。

「まずそうだな……。なあ、会長。会長の執事やメイドさんに、エリザと恋を家まで送ってもらうってのは可能か?」

「寒いし、夜の街だもんね。二人共胸おっきいから、二人だけで行動したら大変そうだし。――じゃあ、車呼ぶか。凛は賛成でいいね? 恋とエリザは?」

「賛成ってことで」

「なんで凛君が答える?」

「だって、聞かなくても分かるでしょ。電車代とか払う必要ないし」

「じゃあ、凛君が私の家の車を使った代として、明日は書類を大量に書いてもらおうかな。――さーて、明日は休みだぞー!」

「仕事を押し付けるな!」

「仕方ないなあ。……こっちは各部からの要望や目安箱関連で大忙しなんだ」

「だから文化祭の書類程度は副会長が仕切れと?」

「そうだ。承認用の判子も渡すぞ」

「特典的な言い方ですね、それ」

「いいじゃないか。……さて。外にいるのは寒い。電話を掛けて飲食店へ……って、もうすぐ夜10時じゃん! ――しかし寒いなあ」

「おい。そんな状況説明は地の文でいいから。早く呼べ」

「せっかちだなあ。君はホモか?」

「会長は腐女子ですか?」

「『ふじょし』と私を呼ぶのであれば、意味は腐ってない方で頼む」

 腐っていない方。『婦女子』の方だろう。元々『婦女子』が『腐っている』から『腐女子』と言われているわけであって、腐っていないのに『ふじょし』と言われるのはちょっとかわいそうな気もする。


 ***


 夜10時すぎ。三宮駅前にタクシーのような黒い車が到着した。街路灯によって黒光りするその車体はいかにも豪華で、「流石お嬢様」と思わせてくれる。

「さあ、乗りたまえ」

「あったかー」

 恋が一番初めに乗る。車内は暖房が効いているようだ。

「失礼します……」

 エリザが敬語を使って車内へと乗り込んだ。ここまで二人共、私服なのだが、僕だけ私服ではなかった。制服だったのだ。まあ、サタンと体ごと入れ方ため、僕の着ていた服はサタンへと渡された。そして、今度はサタンの着ていた服が僕へと返還されて、今に至る。着替えていたわけではなかったからな。一応私服なったのは女になってから。だから、僕と体を入れ替えて、再度元に戻すまでサタンが僕の服を着ていたわけである。

 そんな説明をしていると、実況とかで「説明乙」とかコメント打たれそうだが、脳内でコメント入力欄とキーボードが浮かび上がってくる僕がちょっとありえない風に思えてくる。

「んじゃ僕も……」

「狭くない?」

「じゃあ、誰か会長の膝の上に乗れば?」

「それこそ、凛の膝の上に乗る人をじゃんけんで決めちゃえばいいんじゃない?」

「ぼ、僕の上?」

「何か悪いこと有るか?」

「一応男なんで……」

「変態」

「言い返す言葉もございません」

 少々狭いが、それという大きな行動をしない限り、別に苦ではない。しかしまあ、なんというか。今日も一日色々とあったなあ、と思い返す。ところで、あのデータディスクアローズは、何故僕や会長に闘いを挑んできたのだろう。……恐らくあの手の黒幕には、絶対何かが隠されているはずだ。


 スマホをいじり、データディスクアローズのページを覗く。新作のギャルゲの紹介とともに、新作のロボットまで。……書籍の文庫も作るとか書いてあるし。一体、データディスクアローズは何処へ向かおうというのだ……。


 ***


 午後10時30分前。僕の家に到着した。

「さて、んじゃあお前等はもう寝ろ。明日も学校なんだろ」

「休む気?」

「アホか。徹夜してでも行くわ」

「生徒会で忙しいのかあ。……それとも、不純異性交遊?」

「違うわ!」

 恋が爆弾を投下した。と同時に、爆弾に反応したエリザが僕の方を指さして言う。

「――ダーリンの初夜は私のものです!」

 こいつら、本当になんなんだ……。こんなやつらが幼馴染だと、本当に世話が焼ける。まあ、恋に関しては、世話が焼けないって関係でもあるか。一応飯を作ってもらっているわけだ。それくらいの感謝はしないと。

「んじゃあ、お願いします」

 僕はそう言うと、ニュクスの安否を確認する。三宮の駅前では、おんぶして、酒に酔った人を運ぶように演じた。駅前で安否や現状確認が取れなかった分、車内ではしっかりと確認をとることにしよう。

「――死んでないな。息してる」

 少しニュクスの髪を触ってみる。めちゃくちゃサラッサラ。なんだこの髪質は。……幼馴染の髪以外触ったことなかったものだから、女神の髪が相当サラサラだということには驚きを受けた。髪を撫でると、ビクビクと身体を震え上がらせるニュクス。と、少しして左目を開け、こちらを見てきた。

「起きたか?」

「う、うん……。って、ご主人様が制服……」

「ここはリアル世界だ。結界の中の世界じゃない。――ちなみに、今会長の家へと向かおうとしている。そして今、お前は女神じゃなくて人間だ」

「に、人間……」

「今のお前は紅の髪が一つもない。だから人間だとサタンに聞いた」

「――それ、正解だ」

「そうか。――それより」

「ん?」

「お前を一時的に気絶させるような真似、してしまって悪かった……」

「そんなん気にしてないですよー、ご主人様」

「な、ならよかった……」

「というか、私達悪魔や女神は一度死んでるんです。傷つかないんです」

「ちょいちょいラノベのタイトルが浮かんでくるのは気のせいか?」

「気のせいだと思います」

「……それなら、なんで浮かんでくるんだろうかなあ」

「さあ? ……というか、私生き返ったので、ご主人様の魔法陣に戻しても構いませんよー。それこそ、会長さんとの不純異性交遊をお楽しみくださいな」

 成長したのか。それとも僕をイジるためだけに、自らの本心を犠牲にしているのか定かではないものの、ニュクスはそう言っている。今はニュクスの言うことに答えてやるのが一番ってもんか。

「んじゃあ、ニュクス、戻れ!」

 魔法陣を描き、戻そうとする。が、目の前の女神は魔法陣に戻れていなかった。ニュクスは「もう一回」と僕にいった。それでも、僕が何度やっても、結果は同じまま。ニュクスの表情からも僕の表情からも、笑顔が消える。


 ***


「う、うわ……」

 ニュクスも僕も、目の前に広がる豪邸に圧巻の一言だった。もう何も言うことはない。ただひとつ、述べろというのであれば、『圧巻』としか言えない。

「す、凄いですね、ご主人様……」

「ああ。流石はお嬢様だ」

 僕がそうコメントすると、僕の背中を会長が叩いた。

「ボクの豪邸についてはあまり触れるな。……あ、あと、色々とボクの家は広いからな。逸れるなよ? ……というか、夕飯食べていないよな?」

「食べてないな。手料理で出してくれるのか?」

「凛君がどう言うかによるけど……。もう夜11時だしなあ。お風呂に入って、ご飯食べてたら日付変わっちゃうよ? ……今日は手料理無理だね」

「えー」

「お、落ち込むなっ! てか、書類片付けちゃおうよ」

「寝たい」

「――お風呂入るよ! ……なんか、恋やエリザの苦悩が分かった気がする」

「いや、苦労しているのは僕の方だと思うけどな」

「そ、そうなの!? ……て、てかさ、凛君と恋ちゃんってここだけの話……」

 会長がそこで止めた。僕は首を傾げ、会長の言葉を待つ。

「恋人同士なんでしょ?」

「――んなわけあるかああっ!」

「絶対嘘だ! あんなにいっつもイチャつきやがって!」

「――ほ、本気で言っているのか?」

「本気じゃないとしたら?」

「ご、誤解すんなよな!」

「な、なにさそのツンデレ口調は!」

「べっ、別に僕はツンデレなんかじゃ……」

 完全に会話のペースを会長に取られている。このままでは、僕が『ツンデレ』という事になってしまう。そんな誤解は早く解きたいものだ。

「ま、凛君はそんなツンデレじゃないことは知っているけど」

 それだけで僕はホッとした。

「――じゃあ、お風呂行くか」

 会長を風呂に誘ってみる。さり気なく。さり気なく。

「てか、ボクの豪邸なのに、なんで君が風呂の配置とか分かるのさ。変態か?」

「ばっ、会長何言って……」

 会長はたまに危険爆弾を笑顔で投下してくるから困る。こういうところを見ると、会長はSと思ってしまうが、それは誤解である。……僕自身、会長の本当のデレを見たことがないので、そういうSだとかMだとかっていう事は言えない立場だが、会長は人をいじめていると笑う。そんな人間だ。

 ああ、イジメと言っても、一に危害を加える方じゃない。イジる系での話だ。

「まあ、君が風呂に入りたいようなら、先に入ればいいんじゃないか?」

 風呂ということで、淡い期待をしている僕がいる。ということで、まずはニュクスにも聞いてみるか。一人で入るより、みんなと一緒に入ったほうがいいだろう。会話もできるしな。……というのは建前で、本心ではあんなことやこんなことも期待したりしている。

「なあ、ニュクス。お前は僕と一緒に風呂に入るって事、出来るか?」

「ご主人様のご命令なら、何でもお聞きします……」

「じゃあ、そういうわけだ。会長、一緒に入ろう」

「――タオル着用でいいよな?」

「撮影のためじゃないんですから、タオルなんて……」

「だ、だがな……」

「会長、なんで恥ずかしがっているんだ?」

「は、恥ずかしがってるっていうかその……。り、凛君も年頃の男の子だからさ、暴走したり爆発したりしないかなあ、と思って……」

「会長、なんか変なこと考えていないですか?」

「え?」

「僕が会長と風呂に入ろうとしているのは、親睦を深めるためですよ?」

「なっ……」

 会長の顔が真っ赤になる。……すいません。それ、建前です。会長、本当ごめんなさい。……後々何か謝罪とかしなくちゃいけない雰囲気ならなきゃいいけど。

「さて、会長。風呂場へ案内お願いします」

「も、もう行くのか?」

「――なんでそんなに止めたいんですか?」

「着替え持ってきてないからだ。ちょっと待っててくれないか?」

「――じゃあ、早く行ってください」

 僕は、そう言って会長に着替えを持ってこさせた。お嬢様とはいえ、自らそれを隠そうとしているからか、意外と会長は家事的な人である。そういう家事的な所は、所々恋に似ているな、と思わされる。


 そうして、僕は会長と別れた場所で待機していることにした。むやみに動いて迷子になるのは嫌だったためだ。

 時刻はもう夜の11時半近くになっていた。

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