Target:Rina,Elisa,Satan,Nyx,Sylph,Undine and Clayer./episode50
午後8時50分。三宮駅前付近。通行人がいる中、その竜は暴れ狂っていた。……いや、竜じゃない。本当に対決しなければいけないのは……それを支配する者だ。つまり、目の前のあの竜は悪魔ということだ。
「……会長、どういうことですか?」
「ごめんね。……ベルゼブブを召喚して君を迎えに行ったんだけれど、その間にあの竜を支配する魔法少女が現れて。……唐突、だよね」
会長に説明を求めると、会長は深々と頭を下げた。
「頭を下げる必要は有りません。別に僕は会長を責めているわけでなく、ただ説明を求めたまでです。……ちょっと、言い足りませんでした」
「……さ、さあ、相手を倒すぞ!」
「相手、つまり魔法少女を倒すんですか?」
「……もちろん攻略でも構わない。けれど、プランなどは立てているのか? 魔法少女、つまり人間を攻略するのだぞ? 一筋縄ではいかないだろう」
「……それもそうですね。……けど、言いましたよね?」
「『人を殺したくない』、か?」
「そうです。まずは会話で解決するべきでしょう。闘いなんて二の次です」
「……私はそれには反抗しようとは思わないけれど。……まあ、君に任せる。女同士で闘っても、醜い争いになるだけだ。……しかし」
「なんだ?」
「悪魔は倒さなければいけないだろう?」
ドラゴン。口は有るが、会話で話を聞いてくれるとは考えられない。……いや、確率はゼロではないか。けれど、確率がコンマ以下のものに賭けるのか? ……そんなことして攻撃を食らったらどうしろというのだ。
「……わかりました。じゃあ、全力で潰しましょう」
ゲーマーとしての脳が動く。挑まれたら全力で挑む。罠にハマってしまうかもしれない。そこはハマらぬようにすればいい……。いや、そんなにいい話、あるか? ……ないか。けど、やらぬよりやッたほうがいい。それが悪い結果でも、後々役に立つことが有るだろう。それは経験になるのだから。
「まずは、敵の属性を確認しようか?」
会長が話しかけてきた。だが、敵の属性を見ぬく能力など、僕には使えない。誰かの力に頼ることが重要になる。……こういう時に悪魔か。一応、サタンでも召喚しておくか。それこそ、今の身体のままではお話にならないし。
「サタン、召喚!」
光の中に現れるサタン。魔王らしい堂々とした凛々しいその姿は、圧巻の一言である。それとともに、いつの間にかサタンは剣を構えていた。
「それは……?」
「凛の言っていたことが聞こえていたからね。構えていたのさ」
僕の声で言わないでくれ。
「すまない。……それじゃあ、身体を戻そう。――身体入替!」
入れ替わって戻ってきた身体に、僕は『おかえり』と心のなかで言った。と同時に、『主人がキモい件』とシルフが言っていた。反応が速すぎる。
「……サタン。お前のあの技でやってやれ」
「デッド・オア・アライブ?」
「そうだ。あの技が決まれば……」
「あの……」
「ん?」
「MPって知ってるよね?」
「ああ」
「今、残りMP17なんだよね……」
「デッド・オア・アライブはMP消費どれくらいなんだ?」
「――30、です」
「……なん、だと!?」
衝撃の事実。事前に確認をとっておけばよかったものを……。なぜ今更そんなことに気づかなければいけなかったのさ。
「もしかして、学校で使った時、相当減った感じ?」
「違う。身体入替えたりして……」
「やらなきゃよかっただろ……」
「――サーセン」
別に謝ればいいわけじゃないと思うけど……。けどまあ、別に謝って欲しかった訳じゃないし。むしろ、謝る必要はあったのか。
「……ニュクスでいいか」
正直、シルフからは毒舌を食らったので、召喚したくなかったというのが一点。そして、相手が何タイプか分からないので、もしかしたら超魔法使用するかもしれないというところが一点。
「ニュクス、召喚!」
魔法陣からニュクスが現れる。紅の炎。その炎は闇夜を照らし、相手の竜の鱗を赤くしている。それとともに、目の前にいた魔法少女の全体像が見えた。
「……ご主人様、どうしました?」
「いや、相手の属性を調べたいと思って」
「……調べますね」
心を読んだのかはさなかではないけど、仲がいいからか、何事にも自ら判断して率先と動いてくれる。こういうのが最前線では役立つ。
「わかりました。魔法少女の属性も検知されたのでお知らせします」
「頼む」
「竜は水と闇。そして主人は……水、ですね」
「……水、か」
勝ち目がない。ニュクスにしろ、僕にしろ。またウンディーネの力を使うのか? ……いや、いっその事ルシファーの力を使ってみるのもいいかもしれない。
「よし、召喚するか。バトルでは即決が……いの……」
その瞬間だった。とてつもないスピードとともに、その水圧は僕の服を剥がし、身体の皮を剥がし、体内へと侵入してくる。その水は熱く、それがまるで熱風のような熱さであることがわかった。
「嘘……だろ?」
目の前の少女は、一切僕に触れていない。とはいえ、水圧だけで人間の身体に危害を加える事ができるというのだろうか……。
「会長、後は頼ん……」
「てめえはそんなんで死ぬんじゃねえ! 下がってろ。エリザ、やっぞ」
会長の目が本気になっているのが分かった。身体から大量の光を放ち始めると、会長は魔法陣から剣を取り出し、それを右手に持った。
「――ギガブレイク!」
白く光りながら目を悪くさせるような光は、そのまま魔法少女と竜を攻撃した。技の名前を調べることすらままならない僕は、デビルマシンで聞いてみることにした。
『ギガブレイクってなんだ?』
『敵のHPを30%削る技です』
ルシファーが答えた。そして、ルシファーは続けて答える。
『ちなみに、他にもあります。メガブレイクはHPを20%削る技ですし、キロブレイクはHPを10%削る技です。テラブレイクはHPを50%削る技です。そして、魔王様が使用する<デッド・オア・アライブ>は、自分が気絶するかもしれないが、相手にそれ相応のダメージを与える、という効果です』
『それ相応のダメージ?』
『さっきは150,000程度でした。気絶しませんでしたけど、跪いていましたからね。ちなみに、気絶したときは500,000ダメージです。凄く無いですか?』
『じゃあ、位が減ることも有るっって事か?』
『はい。平気で立っているときは100ダメージ程度のことだって有ります』
『要は運、というわけだな』
『そうですね。それより、凛兄様は大丈夫ですか?』
『この身体を見てわからないのか?』
『見れていませんからわかりません。僕らは、凛兄様の声が頼りです』
『そうか。……それなら、シルフかウンディーネを召喚してくれ』
『勝手にいいんですか?』
『これ以上体力が持ちそうにないからな』
目の前で闘う会長。それと共に、慣れぬ剣使いで闘うエリザ。そして、それを見ているだけの僕と恋。……意識も朦朧としてきた今、僕は何をすれば……。
『シルフ、召喚!』
ルシファーの声が聞こえる。その声すら、まるでルシファーではない別人が言っているように聞こえる。……なんでこんなことに。
シルフが召喚された。僕の危機管理の甘さで、僕自身が傷ついた。だからシルフに今、こうやって回復させられようとしている。それだけでも嫌だった。プランとか立てているわけじゃなかったけど、それでも闘いたかった。
「凛は馬鹿か」
「シルフ……」
「私は確かに毒舌かもしれん。けど、高いプライドで召喚しないなんていう、くだらない理由を付けるんじゃねえ。ほら、手を出せ。回復させてやる」
手を出し、回復を頼んだ。見えぬHPゲージ。けれど、体力が復活していくのが分かる。敗れた身体の皮も元に戻ろうとしている。
「人間が、無茶しないでください……」
あれ? 泣いてる? ……泣かせる真似、したか?
シルフが突然泣きだした。HPを回復させながら。大雨の如く、生温かい水が上から落ちてくる。それは心の鼻血であり、シルフの本心から出たものだろう。
「……どうした?」
「どうしたも何も、なんで人間がそんな無茶してんですか……」
「いや、僕はただ……」
「私達精霊は皆、亡霊なんです。つまり、たとえ傷ついたとしても、必ず復活する、そういうものなんです。任せてください。亡霊が、主人を守ります」
「……そうか」
シルフは回復しながら上を見つめる。僕もそれと共に見つめる。と、その時。突然、空から矢が降り注いできた。……いや、1つや2つじゃない。3つ、4つ、5つ……数えることすら大変になる量である。当然、喰らえば今の回復など無駄になる。
「凛、待……」
「僕が、恩返しをしなきゃね……。回復してくれてありがとよ」
魔法陣から剣を取り出す。……間に合うか? コンマ一秒でいい。間に合ってくれ。こんなところで格好悪い姿を見せる訳にはいかない。会話で絵にならないような事をするのなら、しないほうがマシだ。そんなのただの恥晒しである。
「間に合え……頼むっ!」
空高く飛び跳ねる。矢がどんどん落ちてくるのが分かる。眼帯もしていないし、眼鏡をしているわけでもない。目に当たれば、確実といっていいほど失明間違いなしだ。……そんなことになりたくはない。回復しなければいけないような事態になって欲しくはない。頼む。届け。僕の剣よ!
「いけ―――――――――ッ!
剣に炎を混じらせ、その炎混じりの剣を右から左へ大きく振る。けれど、矢の範囲はそれでは届かない幅だ。この後移動してまた……。
そう思った時、炎で身体を包んだ人影が見えた。その人影もまた、大きく右から左へ剣を振った。それだけではない。たくさんの炎の矢を、上から降り注いでくる矢にあてがっている。
「―――ニュクス?」
「私はエリザだよっ!」
「ニュクスは?」
「会長と共に、あの竜を討伐しようとしている。……それと、あの魔王様を戻しておかなくていいの? MP消費しちゃうよ?」
攻撃を喰らう前に、いや喰らったとしてもだが、攻撃を返す必要が有る。その時、超魔法を使えば、どうしてもMPは減る。HPも減る。一石二鳥ではない。いい話ではないからな。……相手側から見たら別だが。
「それなら、戻れ! サタン! シルフ!」
回復をしてくれたシルフも戻した。本当はシルフの草の力を借りてもいいのだが、回復もおそらく超魔法なんだろうし、そこまで僕も人に頼りまくる人間というわけではない。成績優秀、それを武器にしていかなきゃ。何でもかんでも出来る、そういう人間に僕はなりたいものである。
「――ニュクスは戻さないのか?」
「最前線で闘っているやつを戻すわけにはいかないだろ。人の頑張りを否定するのは良くないと思うぞ、僕は」
「まあな。……けど、大丈夫なのか? 水に炎なんか」
「……僕は信じてる。綺麗な言い方かもしれないけど、絶対あいつは竜を倒すって。あいつは精霊でもないし、魔王でもない。普通の女神なんだ。女神ならやってくれるはずだ。僕は信じてる」
「……ダーリン、本当こういう時って自分から動こうとしないんだ。変わってないね」
「え?」
エリザは会話を自分のペースにすると、僕がドイツに居た時の話をしてきた。
「昔、フランスに遊びに行ったの覚えてる?」
「……覚えてないな。そんなこと」
「覚えていないんだ。……そうだよね。だって、私とダーリンが一緒に遊んでいた頃の記憶、全部無いんだもんね」
「――悪い」
「悪くないよ。……で、そのフランスに旅行に行った時、パリのエッフェル塔の近くの道路で私の両親は轢かれた。……違う。正確にはお母さんが」
また人が死んだ話かよ。……僕も死んだっていうのに。不謹慎だ。……でも、不謹慎だとしても仕方がないのか。きっと、エリザだって僕に言いたくなかったかもしれないけど明かしてくれたんだ。不謹慎なんてことで終わらせちゃダメだ。けど、あんまり深く聞き過ぎるのもかえって逆効果だろう。
「そして私が12の時、お父さんの運営していた会社が倒産して、多額の借金を支払えなくなって、お父さんは自殺した」
「自殺、か」
「そう。自殺。……そしてそれから私は祖父母の家で生きてきた」
「そして11月22日の自分の誕生日に合わせて日本に来たって言うことか」
「そう。……それでさ、異国の地の暮らしには戸惑った。6歳の時、ダーリンと別れるときに神戸に来たことがあるけどさ、それでも怖かった」
「……てか、僕の家よくわかったな」
「お父さんの部屋に、小さな紙切れがあって、そこにダーリンの家の住所が書いてあった。……ただそれだけ。それだけだよ。他には何もない」
「よく12年も保管していたな」
「だよねえ。……で、私には白ロムの携帯しか無かったから電話もかけられなかった。だから、コンビニのWIFIスポットからドイツに居る祖父母の家までIP通話で連絡取ってた。んで、その祖父母がまた紙切れ見つけて、そこに書いてあった電話番号を入力して掛けたら、ダーリンのお父さんに繋がった」
「そして、その父から恋へと伝わって、僕に伝わってきたってことか……」
「で、一応許可取った上で、ダーリンの家に来たの」
「……つまり、お前は来た日に僕の家に来たってことか」
「そうだ。……で、なんかダーリンのお父さんが学校に電話を掛けたらしくて、私は入学した。……んまあ、そういうことさ」
「……今話す必要あったん?」
「確かにねえ。……でもそういうわけなんで」
「はいよ。……んじゃ、バトルに戻るか」
「そうだね。……竜は水属性らしいし、相当長丁場になりそうだけど?」
「失禁すんなよ」
「……ダーリンのバカっ!」
「うぐっ……」
機嫌を損ねてしまったらしいです。……いつものエリザなら、もっと笑ってごまかしてくれるんだと思うけど、やっぱりそうもいかないか。
「この罪は償うよ」
「じゃあ、デートの件、覚えてるよね?」
「……」
「私が考えるから、明日デートね」
エリザがデートプランを考えるだと? ……確かに僕はノープランで会長とデートをした。正直、楽しかったんだけれども、エリザがデートプランを考えるだと? ……大事なことなので二回言ったわけだが、本当に大丈夫なのか? 家に帰ってる途中に、ホテルに連れて行こうとしないよな?
『主人様、大丈夫だと思いますが』
『凛兄様もお年ごろですから考えるかもしれませんが、大丈夫ですよ』
『ま、たまには女の子主導のデートも楽しんでみては?』
それはゲームとかを踏まえていっているのだろうか。確かに、デートプランとかはゲームではほぼ男側が考えることになっている。正確にはゲームの制作会社のシナリオライターさんだが、今はそんなこと気にしなくていい。
というか、そんなこと言い出したらこのラノベだって、シナリオライター=作者というわけであり、僕が考えたデートプランは作者も考えているということになる。……そんなこと言ったら、二次元全否定だよな? 愁怒るか?
女装……じゃなくて、女になって誘惑してみた時の愁のあの顔、あの緊張していた声が脳内で再生された。……ヲタクというものは、二次元に浸りすぎてしまうと、コミュ障気味になってしまう、という典型的な例だ。だが、勿論それは一般論であって、コミュ障気味にならないヲタクだって居るわけだ。
『例えば凛兄様とか』
『僕?』
『……エロゲやって、悪魔を落として、リアルでデートして、凛兄様は本当に幸せものですよねえ。……精霊全員を落とし、魔王2名を落とし、会長すら落とすという。本当、要注意人物ですよねえ、風紀委員会とかから見れば』
『うちの学校には風紀委員会など無いがな』
それは本当である。代わりに、生徒会と生徒会執行部が『風紀委員会』として活動を行っている。つまり、生徒会長=風紀委員長となる。ちなみに僕に例えると、風紀副委員長であり、学年代表であり、生徒会副会長である。
3学年の代表に選ばれる者は生徒会副会長をしなければならず、こういった文化祭前などの時期は学級委員長同士の会合には行けず、こうやって生徒会の方に来なければならない。
前に、生徒総会の場で出た意見で、『風紀委員会の創設と、生徒会長、生徒会副会長の権限を弱めよ』とのこともあった。結局、討議で棄却されたものの、あれ以来、生徒会に入ろうとする猛者が多い。特に、生徒会長選挙の開かれる文化祭の近い日なんてそうだ。玄関前で、キモいヲタクのような顔をした豚が右手を上げて堂々と政策を掲げているのを見ると、「今年もこの時期か』と思わされるものである。
ちなみに、昨年は、先述の『風紀委員会の創設と、生徒会長、生徒会副会長の権限を弱めよ』という声により、演説等が諸々中止に追い込まれ、『立候補なしの、学年上位成績者を生徒会役員にする』という手段が用いられた。
そして、僕はテストで堂々の1位を取った。点数は500点満点中500点だ。特に悪い行いもなく、教師からは『社交性もあるから会長やれ』と言われた。だが、会長になった場合、様々な書類を作らねばならず、勉強時間の確保が大変になると考えたため、僕は生徒会長になることを諦め、2位だった里奈、つまり今の生徒会長にその役を渡した。
ちなみに(里奈)会長は500点満点中498点である。何処を間違ったかはまだ聞いていないが、特に泣いているわけでもなく、嬉しんでいるわけでもなく、会長になった時の会長は、「ふうん」という表情をしていた。
長すぎる長文により、『尺稼ぎ』と思われるかもしれないが、メタ発言は避けてもらいたいものだ。……さて、話を元に戻そう。
「会長。順調ですか?」
「ああ。順調だ。……だが、君の悪魔の調子は順調ではないようだが……」
辺りを見渡してニュクスを探す。……居た。けれど、ニュクスは左右にいたわけではなく、上にいたわけでもない。……地面に居た。倒れていた。
「会長、どうして……」
「ボクは戦闘中だった。気が付かなかった。目が行かなかった。……けれど、死んだ訳じゃない。ニュクスも精霊も魔族も、一度きりで死ぬことなんて無い。私達が魔族討伐をしているのは、殺すためじゃなくて、更生させるためなんだ。それをわかってほしい。そして、その更生させた証こそが――」
「オールジュエル、ですよね?」
「正解だ。……ここはボクに任せろ。大丈夫。死ぬことはない」
「それ、フラグじゃないことを祈りますよ」
「ああ」
ハイタッチを交わし、ニュクスのもとへ向かう。代わりに、エリザを会長のもとへ向かわしてあげる。足手まといになるかもしれない。けれど、せめてもの時間稼ぎをしてくれ。ここで挫けちゃダメだ。魔法少年が傷つくんじゃない。
「ニュクス、大丈夫か?」
「あの竜、強すぎ……」
「攻撃力だとかは分かるのか?」
「はい。攻撃力(AP)は約7000、防御力(BP)が約500、HPが120,000です」
「120,000……。やっぱりデッド・オア・アライブなら一撃……いや、防御があるからダメージは減るのか。……やっぱり地道に」
「いや、ご主人様、それは誤解です。デッド・オア・アライブは、代償としてその分のHPを奪いますが、与えるダメージは防御等を無視したものです」
「でも、MP……か」
「MPが必要最低限無い限り、超魔法を使うことは出来ません」
「……ちなみに、お前のHP、MP、AP、BPはそれぞれどれくらいだ?」
「HPが50,000、MPが63、APが4500、BPが2100となってます」
「ちなみにサタンは?」
「実際に計測したわけではないので、正確は分かりませんが、レベル最大の状態で、HPが70,000、MPが99、APが9999、BPが3340です」
「レベルとMPって比例するのか?」
「そうですね。比例します。なんで、私はLv63です。ちなみに、Lv99がLV最大です。……まあ、進化とかは所詮主人との愛情度なので、経験値とかいらないんですけどねえ」
「そ、それ初耳なんだけど!?」
「そうですか。……愛情度、つまりアフェクションポイントは、今のところ私とご主人様の場合では『500』くらいですね」
「色々と初耳だけど、その『アフェクションポイント』なるものは、溜まるとなにかいいものがあるのか?」
「じゃあ、お見せしましょうか」
「え?」
突然だった。今まで地べたで大の字になっていたニュクスが、突然その場で炎とともに雄叫びを上げた。……女神だから女なんだけど、よく声を出せるものだ。
眼の前に居るニュクスは、炎の渦巻きを形成し、その渦巻きの中で裸体になっていくニュクス。……とともに、その裸体にスーツ、そして右手に超巨大なピストルを構え、目を紅の色に染め、髪全体も紅の色に染め上げた。そして、背中に剣を炎が覆った物を構え、それを持った上で、目の前の竜へと向かっていった。
炎の渦巻きとともに竜へと一歩、一歩、そしてまた一歩。疾風のような速さで、竜さえもを驚かしている。
「貴様を……破滅させよ」
デビルマシンに送られてくる映像。魔法陣から黒色の眼帯を取り出してそれを自身の右目を隠すように装着する。そして、目の前の竜へと突撃していった。デビルマシンの映像からは、それまで照らされていなかった影が照らされて明るくなっている様子が伺えた。
「カオスソード・ブレイクハートッ!」
デビルマシンが停止した。……いや、配信されてくる映像が途絶えただけだ。ディスプレイには『上限温度1000度を超えたため、デビルマシンからの映像が届かなくなりました。解決手段には以下の方法をご使用ください』との表記が。でも、どうせまた買ったりするのだ。電子デバイスなんだし、ニュクスだってそれくらいは考えているだろう。
目の前のニュクスは、今までの渦巻きを更に大きい炎の疾風にした上、魔力結界の中に大量の炎を充満させた。みるみるうちに魔力結界の中には二酸化炭素が増えていった。中毒を起こしていしまいそうだ。けれど、サタンの能力は使えないか。時間を停めても、酸素が減る一方だ。じゃあ、魔力結界を抜ける? ……ウンディーネに水を供給してもらうのも有りか。
「ウンディーネ、召喚!」
ウンディーネを召喚し、今までの概ねの話を話す。
「わかりました。それでは、水を供給します。けれど、私は植物ではないので、酸素を作り出すことは出来ません。……出来れば、早く終わらせていただきたいのですが……」
「そうもいかんだろ。あいつにも事情ってもんが有る」
「……わかりました。それでは、ちょっと待ちましょうか」
「そうだな。それが最善ってもんだ」
最善策はそれくらいしか思い浮かばなかった。眼の前に居るあのニュクスに早くこのバトルを終わらせてもらえばそれでいい。これ以上酸素を使われると大変だ。それこそ、二酸化炭素が増えすぎている。一度魔力結界を抜けてみるのも一案かもしれない。
そんなことを思いながら居ると、目の前で変化があった。竜が燃えているのだ。竜が。目の前のあの大きな、大きなあの竜が。逆鱗のごとく暴れ狂っている。その竜が、火を吐き、水を吐き、血を吐いた。渦を巻いた上で、暴れ狂っていた竜にもその強さに陰りが見え始めた。
うめき声を上げながら、その竜は羽を動かし始める。俗にいう混乱状態だ。攻撃が全て炎に吸収されているからか、ニュクスには攻撃が当たっていない。
「――デッド・オア・アライブ!」
今、宣言が聞こえた。その宣言は僕の耳を通る。右耳からも、左耳からも。間違いない。ニュクスはあの大技を使用した。……嘘だろ? 闇属性だから使えるのか? 魔王以外にも使える奴が居るのか?
『居るに決まってんだろ。我の力を我のみが使用していては少々不公平だろうからな。神々に技を教えたのだ。炉の女神であり夜の女神であるニュクスも、当然デッド・オア・アライブを使用可能というわけである』
『早く言えよ』
『察してください』
察せないから聞いているというのに。なぜ言わないんだ。
――返信はない。けれど、目の前に変化はあった。
「倒した……」
暴走していたニュクスを止めに向かう。これ以上の暴走は、正当行為とは言えないだろう。他人を殺すためにしているわけじゃないと会長が言っていた。暴走状態のニュクスは、言わば『闘いの道具』と呼ぶに相応しく、いつもの人懐っこさは微塵の欠片もない。
「――よくも、やってくれたな、魔術師よ」
「ん?」
「吾輩は『紅の疾風少女こと、フレイム・ゲール・クレイア』。皆は我のことを『紅月クレイア』と呼ぶ。通称名はFGCだ」
「『紅月クレイア』、それが本名だろ? ……ニックネームか?」
「我は本名なるものを持ってはいない。まず、本名なる概念自体を知らぬ」
「戸籍作れませんよ?」
「所詮魔力を使用すれば大丈夫である故、これまたDDMの言い分を聞けぬのう」
なんか、話すだけでも嫌気が差してきた。
「紅月クレイア。……いや、下の名前で呼ぶことにしようか」
「それはDDMの自由であり、我は自由というもの、DDM等の他人の意見を尊重するとここに誓いたく申す」
「……あのさ、一つ言いたいことが有るんだけど……」
「我はDDMのような両手に爆弾を抱えた魔術師ではなく、これまた素晴らしい魔法使いで有る故、貴様の話に数々の文句を付けたく存ず」
「デートしたいんですが……」
「デイト? それが一体なにを差すのか我にはさっぱり分からぬ」
「だから、デートだ、デート。……別にデートじゃなくてもいいぞ? なんなら、僕が金をやってもいい。僕は君と闘いたくない。これ以上の戦争を生み出すということは、闘うことしか考えられない能無しと見なすが?」
「な、なんのことやら……」
「恍けるな、紅月クレイア。貴様は『紅の疾風少女』なのだろう? それなら、素早い判断ができるんだろう? そして、人々を驚かすんだろう? 疾風の如く……」
「いや、我は……」
「答えろ。貴様には友達がいるのか?」
威圧感を出すように言った。そして、その傍らで僕を見守るニュクスを魔法陣に戻し、エリザも自らの悪魔を魔法陣に戻した。
「友達とはなんのことやら理解できないのだが……」
「貴様との話にはついていけない。それを解決したいから、答えてくれ」
「友達とは、恋人のような関係のことを差すのであれば、たくさんの嫁を」
「二次元の話は聞いていないぞ? 紅月クレイア」
紅月クレイア。それは中二病の少女である事が今わかった。話し方もサタンのようだ。自らを『我』と名乗る。が、相手は学生なんだろう。『魔法少女』と言っているし、自らの2つ名にも『疾風少女』と入っている。
そして、彼女がヲタクであるということも判明した。
「紅月クレイア。さあ答えよ。現在の友達の人数を」
「……ぜ、ぜろ」
「大きい声で言ってみろ」
「今までに出来た友達の数も、今居る友達の数も、全てゼロっ!」
僕は溜息をつく。目の前の紅月クレイアと名乗る中二病の少女は、人差し指でこちらを指して言った。
「わ、我は機巧少女でもなく、祓魔師でもなく、精霊使いでもない! ――覚えておけ! 我は『紅月クレイア』。次世代の……」
後ろから声が聞こえた。それは、女の声であり、新たなる物語の始まりを告げる、そんな声だった。そして、その声の主が言った台詞、それは……。
「――人造人間だ」
振り返った時、僕は返り血をあびた。




