Target:Ren,Elisa and Rion./episode49
「おかえり、リア充」
愁はリビングのテーブルにノートパソコンを置いてゲームをしているようだったのだが、そのゲームから聞こえてきた音声は、どう聞いてもエロい声だった。
「……そ、そのパソコンから聞こえている音声は……まさか?」
「そのまさかだ」
エロゲのパッケージを見せつけられる。……最悪だ。なんてこった。しかも、台所の方からエプロンを着たエリザがこちらを見ていた。菜箸を持って……ん? おい。これ、もしかして昼のあの事件の二の舞になりかねないんじゃ……。
「お前、何作ってんの?」
ちょっと早足で台所へと向かう。鍋の中には茶色い物があった。おそらく、臭いからしてカレーだと思われる。……意外と上手く作れているじゃん。
「エリザ、それ味見していい?」
「いいよー」
エリザが自慢気にカレーを皿に入れて渡してきた。おお、いい匂いだ。昼のあの弁当からは比べ物にならないような美味しい香りが漂う。
「んじゃ、遠慮なく頂きます」
「待って!」
「え?」
「それ貸して。牛乳入れる」
カレーに牛乳。……悪くない選択だ。適当に入れれば、それはそれはまろやかになる。……が、エリザにそれを任せることは少々ためらってしまう。昼のあの一件を思い出してみろ。胡椒と塩の配分ミス、塩と砂糖の配分ミス。どう考えても、目の前に居る「エリザ」という幼馴染は、相当ドジで天然な女だということが言えよう。がしかし、天然でドジということは、何を犯すかもわからないような女だということにもなりえるわけだ。
「……聞いていいか?」
「なに、ダーリン?」
「牛乳、どれくらい入れる気だ?」
「うーん。500mlかな」
「……は?」
とんでもない数字。余程の辛口でない限り、そんな大量の牛乳を投入するバカは居ないはずだ。……いや、それよりもなにも、僕の視線に入っている目の前のカレーの色は、茶色と言っても濃い方ではなく、少々薄いところもあるため、恐らく中辛だと思われる。冷蔵庫の中を完全に把握していなかった所は僕の落ち目といえるだろうけど、恋に聞いてみると情報をくれるかもしれない。
「なあ、恋。この冷蔵庫の中に入っていたカレーのルーって辛口?」
「中辛だった気がするけどなあ……。てか、500mlも牛乳入れたら大変だぞ」
「そ、そうなんですか!?」
相当驚いている。……ドイツじゃカレーは一般的に主流じゃない? そんなことはないと思うけど……。でも、きっと主流だと思う。カレーがどれほど知られているか、というのはわからないけれど、殆どの国民が知っていると言えよう。
恐らく、エリザの料理に関する知識が皆無だから、このような「バカ」としか言えぬような発言をするのだろう。それこそ、やっぱりこいつに料理を任すのは止めよう、とも思える旨の発言だ。
小さいころの記憶が無い僕が言うのもなんだが、エリザが成長し、ドジっ子になったというのは、幼馴染としてなんというべきなんだろうか。
「牛乳は入れなくていいから、食べていい?」
「あ、どうぞー」
「これ、お前の手料理か?」
「うん。……お昼、どうだった?」
やばい。この質問はどう答えよう……。
ちらりと恋の居た方向を見てみるが、恋は苦笑いのまま、トイレへと逃げていく様子が伺えた。一方の愁は、黙り込んだ上で、ゲームに没頭していた。……僕が、選択肢を出して言うべきなのか? いわゆる絶対選択肢というものでなければいいのだが……。おっと、これは失礼。またラノベネタを。
さて、話を戻す。……目の前に居る幼馴染は、昼に「凶器」となるような、えげつない飯を創りだした張本人である。それを踏まえて選択肢を考えよう。
① 「美味しかったよ!」と、ニッコリ笑顔で応答。
② 「正直不味かった。けど、また頑張ってね」と、右手親指を立てて応答。
③ 「感想、今度で良くない?」と応答を先延ばし出来るか言ってみる。
恐らく、①が王道というところか。ここは、エリザに腕を磨いてほしいという意味も込めて②か? ……いや、それとも③にして交渉に持ち込むか。
『ご主人様ー。あんまり悩みこまなくていいのにー』
その時、そんな声が聞こえた。ここでキョロキョロするわけにはいかないので、特に伺わず、心に問いかけてみた。いかにも厨二病のような気がしてならないのだが、仕方ない。そういう風に見えるだけだ。
『ニュクスか?』
『正解です』
『なんで会話できんの?』
『なんか、デビルマシンがバージョン3からバージョン4に上がったらしいんですよ。なんで、主人と悪魔で心の会話が出来るようになったっぽいです』
『そうなのか……』
ということは実質、ヘーベーの能力である『心を読む』という超魔法を利用せずとも、デビルマシンでそれが出来るようになった、というわけか。
『そうなりますね』
合ってた。なんだと? ……ということは、僕の心臓が今バクバク動いていることなんかも全てわかるというわけか。今の僕の焦りも。何もかも全て。
『はい。で、悪魔側ででた意見なんですが……』
『ああ、どんな意見が出た?』
『②の支持率が圧倒的でした』
『②……』
その選択肢を選択した場合、確実と言っていいほど、「絶対また今度作る」と思われる。もし仮にそうなった場合、また僕がその被害者となるわけである。宇城先生と『エリザ作弁当被害者の会』なるものを作るのは悪くないかもしれないけれどそうもいかないだろう。となれば、ここは笑いをとるために犠牲になってはいけない。本心をそのまま言ってしまえ。
……けど、それだとそれでエリザが泣くか。……考えすぎだろうか。
「お、美味し……」
咄嗟に言葉が出てきてしまった。心のなかで抑えておくべき事が、口から出てしまったのだ。このままでは当然ながら、言わなければまずくなるだろう。誤魔化そうとしても無駄だ。エリザはそういう人間じゃない。12年も間を空けたのだ。僕とのコミュニケーションを取り戻すため、積極的に話しているとも考えられる。何故僕はそのエリザの思いを受け取ってやらないのだ。
……やってやろう。美味しい、と言ってやろう。
「美味しかったぞ」
ニッコリと笑顔で。作り笑いなのはご愛嬌、と言いたいところだがそうもいかない。作り笑いなのは「不味かったからもう作るな」という意味である。
「そっかー。ダーリンありがとう!」
「ちょ、まっ……」
ふにゅ。爆乳ヒロイン故のその柔らかなあたたかみは、僕の胸のすぐ下辺りに広がる。僕の肩に自身の顔を置いたエリザは、僕の身体とスリスリとこすりあわせてきた。寒くなったためだろう。けど、今日はそこまで寒いだろうか。
『ご主人様、そういう趣味でしたか』
『軽蔑です』
『変態』
『やっぱりご主人様って……』
『マスターも男だからね……』
『ないわー』
『そんなご主人様も私は受け入れます!』
……お前等、僕のことで話題になり過ぎなんだよ。騒ぐんじゃねえよ。恥ずかしいだろ。……それより、言ってしまった。でも、『今度作る』とは言っていなかった。これはつまり……選択肢の選択を誤らなかった、ということか。
「ダーリン、やっぱり優しいね」
「日本人だからね」
「それ、ドイツ人バカにしてんだろ」
「違うわ!」
僕がエリザにツッコミを入れた時、ゲームをしていた愁が、コップの底を机に叩きつけた。当然、それと当時に家中に大きな音が響く。
「いちゃつくなバカタレ。部屋に帰れ。リア充は死ね」
「……イチャついてなんかねーよ」
「てめえみたいなチキンな主人公に、言われたくはねえ。男なら、どんな痛みにも立ち向かっていく勇気をもっと、もっと持てよ! 女々しいぞ!」
「それはお前がエムだから、そう言えるんじゃないかな? それに僕は顔意外女々しくないし。……ドMの変態ゲーマーが」
「お、おい! それが腐れ縁のリア充幼馴染の言い分か!?」
その時だった。
「ああん? 誰が『リア充幼馴染』だってえ?」
「れ、恋様っ!?」
「……ひれ伏しなさい、変態が。そして足をなめなさい。ほら。ほら。ほら」
「あ、ありがとうございますっ!」
「もっといじめてあげようかしらねえ?」
「は、はいいいっ!」
「そう。じゃあ、この顔を蹴ってあげる」
宣言通りに恋は愁の顔を蹴る。しかし、愁は一切「やめろ」だなんて言わない。これが愁の本当の姿だ。何処で道を誤ったのか、問いただしてみたい気もするが、この際そんなことはどうでもいい。僕は虐められるよりイジメるほうが好きだから、Sと自分で名乗っている。恋も僕と同じ思いのようだが、正直恋の方が僕よりSじゃないと思われる。
エリザは……Mか? いや、どっちもイケる口かな? ……わからない。
「れ、恋様っ! 今日の下着は黒ですねっ!?」
「黙れこの、童貞変態クソゲーマーっ!」
「ありがとうございますっ! ありがとうございますっ! ありがとうございますっ! ……はあ、はあ、もっと、もっと、俺を虐めてえっ!」
「『俺』じゃおかしいよね? ……愁、いや貴方のような『変態』は自分のことを『変態雄犬』とも言えないのかしら。……雄犬。言ってみなさいよ?」
「ど、どのように……」
「『僕は恋様の奴隷の雄犬です。どんな痛みも喜びに変わる、超ド変態雄犬なので、もっともっと僕を蹴って遊んでください』。ほら、復唱」
ダメだ。やっぱり愁はおかしい。愁が凄い笑顔で恋の言うことをすべて聞いている。僕なら絶対歯向かうけどな。……けど、それが失敗して返り討ちにされること、倍返しされることもある。でもまあ、そういうことがないっていうのもな。楽しければいい、だけじゃコミュニケーションは学べないだろう。時には苦しいこともなくちゃ。それを乗り越えてこそ、本当のコミュニケーションがうまれるのだ。
乗り越えたということは、目の前の愁と恋にも当てはまる。
「なあ、エリザ。先に食わないか?」
「うん、別にいいけど……。でも、私まだ風呂に入っていないし……」
「お前は当然お風呂の沸かし方も知らないと思うけど」
「当然でしょ。私はダーリンと違って外国から来た女の子だからね」
「まあな。……僕から一つ提案なんだが」
首を傾げるエリザ。恋は僕の話に耳を傾けようともしなかった。目の前の野獣を支配するので精一杯でこちらに手が回らなかったのだろう。
「銭湯、行かない?」
「セン・トー?」
「センとトーで区切るな。ベン●トーみたいじゃないか」
「それ、隠せてなくないですか?」
「……伏せ字はそこで合ってると思うけどな。……まあ、そんなことはどうでもいい。まずはその銭湯というのが一体どういうところなのか、知ってもらおう」
「うん」
「銭湯というのは、男湯と女湯で分かれてる。一応、シャンプーやリンスなども置いてある。ボディソープもある。恐らく、エリザが女湯に入ったら、色んな女の人から嫉妬されるの間違いないと思うけど……いいのか?」
「嫉妬? ああ、ダーリンの子供を作るのは、既成事実だから?」
「……お前それ絶対に銭湯で言うんじゃねえぞ?」
「心に刻んでおくよ」
「そんなんじゃダメだ。絶対に言わないか、約束しろ」
「破ったら?」
「お前とデート……じゃなくて」
「男に二言はないよね?」
「う……」
会長に対してのテンションと同じテンションでいってしまった。故に、やらかしてしまったと言える。心のなかでは『ご主人様(ノ∀`)アチャー』とニュクスが顔文字付きで言っていた。……厳密には、そういう顔文字が浮かんだだけだが。
「決まりだね。んじゃ、破る」
「こ、こらおま……」
「ここじゃ叫ばないけどね」
「……デート、するか」
「落ちたか!?」
「その、『やったか!?』みたいな口調はやめてくれ。フラグを建設するんじゃない。『一級フラグ建築士』の称号もないようなお前に、フラグを建設される筋合いはない。ほら、もうその話題終わり!」
話を終わらせようと、いや僕がただただ話を止めようとしただけだが、その作業実況中、これがまた簡単に行かない原因となっている恋が話に加わってきた。
「話題?」
「……銭湯に行くことになった。準備しろ」
「マジかよ。俺はいいや。両手に花なんて、マジでリア充裏山氏ね」
「ネットスラングを連発する男の人って……」
「お前は凛だから虐められたくない。……恋なら大歓迎さっ! エリザちゃんでもいいぞ! さあ、俺の胸に飛び込んでこい! そして虐めてくれ!」
「恋、エリザ。こいつの近くにいると危険だ。急ぐぞ」
「おいこら、貴様……」
愁に止められそうになったが、僕は恋とエリザを連れて銭湯へと急いだ。外へ出ると、それはそれは寒かった。……いや、そんなことより道具が重要だ。流石に僕の家に再度戻るのなら、愁になにか言われぬまま僕が自分の部屋まで辿り着くのは面倒だ。ここは恋の家から入るのが正解だろう。
僕は恋に許可を得た上で、恋の家から風呂場へ……と思ったが、風呂場へ行くまでにはリビングを通る必要が有るため、流石にそれは無理だ。
「恋、貸してくれるか?」
「し、白いやつでいいよね?」
「いいけど……」
その時だった。サタンの声と共に、嫌な囁きが聞こえてきた。
『我の超魔法で凛が女の体になれば万事解決じゃね?』
ははは。何を言っているんだ。でも、そんなこと言っていても、召喚できないはずだろうけど……。魔王は何か違かったりするのか?
『そうだね。……我の超魔法で、身体を入替えてやる!』
その瞬間、勝手に魔法陣から光が出てきた。同時に、魔法陣からサタンが召喚される。すぐさまサタンが『身体入替』を宣言し、僕とサタンの身体が入れ替わった。この身体入替は、サタンの使用する超魔法であるが……まさか自分にされるとは。
「それじゃあ、凛。銭湯から帰ってくるまで我は魔法陣の中に戻ることとする」
「あれ? 魔法陣の中に戻ったら効果は……」
「私が魔法陣にいる間は、凛がどんなことを言っても解除されないから」
「は?」
「んじゃ、ばーい」
「ちょ……」
そう言うと、サタンは颯爽と魔法陣の中へ戻っていった。当然、僕の声も女の声に変化し、男だった身体も女の体へと変貌を遂げた。変わっていないのは、脳と心のみということか。……しかも、着ていた衣服ごと変わってるし。一体どうするべきか……。
「はあ……」
「ほ、本当に凛……?」
「僕は凛だけど……」
「ボクっ娘……だと!?」
「いや、僕はボクっ娘というわけではないけど……でも身体は女か」
「ということは、銭湯で男湯に入れないってことじゃん?」
「……出てなかったところがでてるし、ついてたことろが消えたしね」
「じゃあ、服貸そうか?」
「頼む。なんか、風吹いたらやばそうじゃん?」
今更だが、女とは何故こうもスカートやらを冬に履くのだろう。それこそ、男より冷え性で悩む者も多いのだから、女こそ冬場はスカートではなく、少々長めのズボンでも履けばいいと思う。……がそうもいかないか。制服だからな、冬でも。正直、制服って色んな意味でアウアウなやつだよな。風が吹いたら自分の下着が見えるわけだし。
最近では、「乳袋」という、胸の部分のみYシャツが出るようになっている制服も様々なエロゲで登場しているが、僕的にあれはリアルでは絶対に有り得ないと考える。あんな制服提案したら、PTAや教育委員会が黙っちゃいないだろう。……でも、割と自由な僕の通う高校なら受け入れられる、かも。
「そうだね。……じゃあ、何がいいかな?」
「普通に長ズボンでいいけど……」
「アホか! 女の子なら、ちゃんとお洒落しなさいよ!」
「やっぱり女と男は違うんだなあ、とつくづく思うよ……僕は」
「私って言ったら?」
「『僕』でいいよ! 一人称は別に大丈夫だろ!?」
「甲高い声だから許すか」
「中性的といえ、中性的と」
「……しかしまあ、本当可愛いよね。これが凛なの?」
「身体はサタン。心は僕。身体が入れ替わった。脳と心は入れ替わってない」
「ということは、エッチな事を考えたり……。ムッツリスケベっ!」
「いやいや、なんでそういう結論に至るのさ!?」
「……女なのに男みたいな妄想してたら『ムッツリスケベ』としか言えないだろう? ……じゃあさ、その格好で愁の前に行って来てよ」
「は? なんでさ?」
「服を貸すから交換条件として」
「い、嫌に決まってんだろ! つ、つか愁は僕の大切な幼馴染だ。それに、あいつにこの姿見せたらどうなるか想像ついてるのか?」
「初めに出る言葉は『お前誰?』だろうな」
「そうだろ!?」
……いや、愁にそんなことを言える覚悟はあるのか? ないかもな。それこそ、愁はゲーマーである。このことが意味すること、それは『二次元をこよなく愛している』という事である。愁は、所謂『ヲタク』、その中でも『キモヲタ』に近いところに分類される男である。正直、キョドってしまうんじゃないかな。「キモい」とか恋にもエリザにも言われていないし。
「流石にミニスカはこの時期私服としてはねえ。夜だし、絶対狙われる」
「じゃあ、違う服で頼む」
「OK。コーディネートするよ」
「頼むぞ」
「んじゃ、愁に会ってこい。んで、虐めてこい」
「男同士でイジメるとか、お前何考えてんだよ」
「私は腐女子ではないぞ」
「その発言はそうとれる発言だ!」
「ソーリー」
右手を上げ、さらりと受け流す恋。……仕方ない。愁に会いに家に戻るか。どうせ、ちょいちょい会話していればすぐ終わるさ。それに家から戻った後には、恋がコーディネートしてくれるはずだろう。
「……入るか」
ドアを開けて入る。ソファに座る愁。ゲームをしていた。マイク付きのゲーマー用ヘッドホンを着用し、ゲームをプレイする愁は、正しくゲーマーの鑑と言えよう。僕は、そんな愁に近づいていった。
「……」
今更だが、僕の髪は伸びていた。サタンはここまで髪が長かったかなあ、とも思いつつ、愁へ近づいていく。……予想通り、まだゲームに夢中のようだ。
「愁?」
「な、なぜ俺の名前を!?」
パソコンの画面をパタンと閉じる。……正直、僕のサディストの心が目覚めた。別にホモってワケじゃないし、僕はノーマルだが、少しキョドっている愁を見ると、無性にいじめてやりたくなったのだ。
「……えと、こんなこと言うのもあれなんですが……」
「ん?」
「ぼ、ボクはその、前キミを見た時から一目惚れというか……その……」
モジモジしてみる。照れ隠ししているのか、愁はヘッドホンを再び耳に当てた。更にS心が動かされた僕は、もう少し愁の攻略を進ませる。
「へ、ヘッドホンを外して聞いて欲しい……」
とは言え、照れ隠しのためにしているから愁が外すわけもない。……正直、こんなこと男の腐れ縁のドMのゲーマーの幼馴染にしているのかと思うと、本当に気が気でならない。けどまあ、愁をイジるのは意外と楽しいということがわかった。
「す、好きだっ!」
友達として。幼馴染としてな。
ふっ。精々お前にとって、これが女からの最後の告白になることを祈ろう。どうせ二次元の世界で数々の女に告白されたくせに。しかも、初めて告白された相手が、『ドッキリ中の幼馴染(男)』なんて知ったらどうなることやら。……発狂するかもな。本当に笑い話だ。
「き、君はなんて名前かな……?」
「り、凛音です……」
適当に名前を入れてみた。「り」と「ん」の間に、咄嗟に思いついた「お」の文字を入れた。ただそれだけの話だ。
「り、凛音さん……」
「そ、それじゃあっ!」
「え、ちょ……」
颯爽と廊下を走って外へと僕は出た。
外では恋の家の二階からエリザが手を振っているのが見えた。服を貰うために二階へと向かう。……恋は家事的だが、一応清楚なキャラだしな。消極的なキャラのはずだがな。……最近は結構積極的だが、エリザに比べたら全然ってもんだ。
「……よっす」
「どうよ?」
「愁のことか?」
「そうだよ。いじめてきた?」
「凛音って偽名なのってドッキリ仕掛けたわ」
「告白的なやつ?」
「そうそう。『じ、実は前から好きでした』的な」
「……後でちゃんと説明しとけよ?」
「どういう設定にしようかな、凛音」
「普通に『妹』とかはどうなの?」
「僕にはちゃんとした実妹がいるからな?」
「じゃあ、義妹設定でいいじゃん! 『実は凛の義妹』ってことで」
「超展開じゃね?」
「そんなこと言ったら、私からすれば凛が女の子になった事の方が意外だけど」
「……一番大きいだろうな、そこは」
「設定くらいエリザが通してくれればいい話しだしな。いっそ、父さんの隠し子とか」
ちょっと話題で父親に触れただけなのに、ちょっと心が締め付けられた。やっぱり、六甲山に墜落した飛行機事故で死んだから……。
「ないな。……ま、コーディネートは……ん?」
「パーカーにジーンズ。凄い地味だけど、顔がイケテルからOK」
「どういう意味だよ?」
「可愛いって意味だ。……それに、胸も意外と大きいようだし」
ちょっと恋が焦っているようだが気にしない。その点、エリザの胸の方にも心と脳が変わっていないために視線が行ってしまうわけだが……。
「ダーリン?」
「悪い。……あと、名前『凛音』にまとめてくれないか?」
「じゃあ、喋り口調も女の子っぽくしないとね」
「ど、どんな風にだよ?」
「ほらそこ。……まあでも、いけなくはないかもね。ちょっと強がってる感じのボーイッシュな女、みたいな感じで行けばOKじゃね?」
「それお前のことじゃねえの?」
「私のことじゃないと思うけどなあ」
「だから恋愛が出来ないんだよ」
「今は女の子の姿してるから許すけど、後でもとに戻ったら金的してやる」
「や、やめろよ? マジでそんなことしたら摘出手術受ける羽目に……」
「冗談だ」
「お前の冗談は怖すぎるわ!」
一応のツッコミを入れ、僕は恋からグレーのいパーカーを貰うと、前に恋が風邪を引いた時に僕が恋の髪を梳かしたあの櫛で、恋は僕の髪を梳かしてくれた。ついでにエリザの髪も梳かしてくれていた。
***
「んじゃ、銭湯へレッツゴー!」
午後8時すぎ。一応の支度を終え、銭湯へと向かう。11月25日ということで、もうすぐ12月ということもあり、至るところでもう『クリスマス』の文字があったりする。……早くも一ヶ月前かと思うと、時の流れはほんとうに早いものだと感じる。
***
「ほ、本当に女湯に入るのか?」
「その身体で男湯なんて入っちゃダメだよ」
「……まあね」
「んじゃ、三名ってわけで。……いやあ、しかし銭湯なんて久しぶりだな」
「僕は女の湯の方の暖簾を潜るのは初めてだけどね」
「そういうことは言うんじゃないの!」
「ご、ごめん……」
「まあ、お風呂入るよ」
恋が結んでいたヘアゴムを取っていく。男、いや僕の好みというかなんというか。女がヘアゴムを取る姿は、本当に見惚れてしまう。……僕は今、男としての象徴が無いため、特に煩悩に警戒する必要もない。意外と、そこはいいところかもしれない。それこそ、身体男のままで女湯に来たらヤバイかも。
「……れ、恋」
「ん?」
くるりと向いた恋は、髪を解いていた恋だった。やっぱり、いっつも髪をヘアゴムでいろんな髪型にしたりして結んでるけど、やっぱり個人的には結んでいない恋の髪型が一番好きだ。……女の姿になってそんなこと言っているってこと自体、どうかと思うけど、思ったからには仕方がない。
「ぶ、ブラジャーが取れない」
切実な思いだ。……一応、無理なら妹って設定でいけばいい。まあ、今は他のお客さんも居ないし。……むしろ、いい年した女が他人の女のブラジャーを外しているのを見たら、見た人からは「百合?」と思われるかも知れない。
「はあ……」
ため息を付きながら恋は僕のブラジャーを取っていく。
「終わり。……んじゃ、タオル持っていくよ」
「シャンプーハットとか、お前持ってたのか」
「男っぽくなってるよ?」
「……ごめん」
指摘が入った。これは仕方ないだろう。……一応今、僕は全裸である。風呂場の前だからな。タオルで色々と隠してみるものの、恋が堂々としていられるのは驚きだ。……というより、エリザは相当恥ずかしそうにしている。
「エリザ?」
「……ちょっと、凛音ちゃん恥ずかしくないの?」
初々しいなおい。……けど、なんか僕、意外とこの環境良くね? 両手に花って愁が言ってたけどそのとおりだ。両手に花。間違っちゃいない。けど、胸の大きさで言えば、『両手に爆弾』とでも言えるか。
ガラガラと扉を開ける。誰もいない。閑散としている。
「居ないね、誰も」
「それがいいんじゃん。……銭湯ってのは、女子トークが盛り上がる場所でも有ることを分かっちゃいないな。……凛音は当然か」
「わ、悪いか!」
「悪くない。……けど、凛音、いや凛って変態だよね」
「な、何突然言ってんのさ!」
「ま、そんなことは置いておいてさ。湯船に浸かろうよ」
「うん……」
僕は乗り気ではなかった。エリザも、すぐにあがりたそうな顔を見せた。銭湯は日本の文化だからなあ。やっぱり、あんまり外国人には受け入れられないのかなあ。……寮制の学園だとかなら、風呂とかも一緒にしてるんだろうけど。
それから、特に女子トークも盛り上がることもなく、ただただ雑談をしながら時間が過ぎていった。
そして、水風呂に浸かって、身体を冷やした僕ら三人は、サウナへと向かった。……と、そこには居たのだ。人が。今まで人影一つ無かったのに。居たんだ。人が。なんというのだろう。幼女体型? そう、幼女体型だ。
一応、なんにも言わないでおこう。スルーが肝心だ。見知らぬ人に声をかける時は困ったときだけで十分だ。
「凛さん」
「……え?」
「ベルゼブブです。魔王です」
「こ、ここでなに? は?」
「……突然ですが、貴方に手伝ってほしいことが有ります」
「な、なんだ?」
「神を、倒しますよ」
「――悪い。討伐とかには興味ない」
「大丈夫です。その神は、ドラゴンです」
「ドラゴン……」
久しぶりの闘いか。力がみなぎる。
「わかった。行こう」
「え?」
「じゃあ、私もダーリンと」
「わ、私は……」
「まあいい。お前も付いて来い」
「だ、ダーリン!?」
エリザがちょっと不服のようだけど、我慢してもらおう。
湯気が立ちこめる風呂を走って、転けそうになりながらも、元着ていた服を着て、お金を支払った後、銭湯を後にした。……恋の体重を見て後々弱みを掴もうとしたが、それは後になってから思い出したことで、急いでいた時にそんなことは微塵も思っていなかった。




