表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Future  作者: 浅咲夏茶
2nd Chapter;Student council and childhood friend.
5/127

Target:Ren(Maid_ver)/episode 04

 暑い。十一月だというのに、今日は異常に暑い。夕方のテレビのニュースで取り上げられるんじゃないかと思うくらい今日は暑い。普通なら涼しくなっていいはずの季節なのに、めちゃくちゃ暑い。

 そして、クーラーを付けた僕の部屋でエロゲをプレイする僕と恋。

 そんな中で恋が声を張ってこういった。

「り、凛! こんなえ、えっちいシーン一緒に見てお前は何考えてんだ! わ、私を、そ、そういう目で見ていたのかっ!」

 丁度プレイしているエロゲが行為シーンに突入した。純愛モノとはいえ、抜きゲーだ。オートモードで進めていったため、もうここまできたのだ。メーカーのサイトを見ると、五回ほど行為シーンはあるらしい。とはいえ、一回目の行為シーンまでオートモードで急いだこともあり、四〇分足らずで突入した。

 さらに、恋は僕の後ろの方でパソコンをじっとみつめていたのだが、行為シーンが始まると、一気に顔を染め上げてまるでツンデレ口調でそういったのだ。

 僕も恋も、ヘッドホンを付け、外部に漏れないようにしていた。まあ、僕の部屋に有るパソコンはWindows7の64bitとWindowsXP。今使っているのは、Windows7の方だ。22インチのモデルで結構画面もでかく、ベッドからでも見える。Bluetoothのキーボードとマウスでパソコンとつないでいるので、遠距離でもエロゲ、その他ネットサーフィンだって出来る。まあ、寝る前はスマートフォンで事足りるわけだが。

 遠くから見ていた恋は右手の人差指を前に出し、僕に向けた。

「いや、僕はそんな人間じゃないから安心しろ」

「え、えっちいゲームしている男がそんなこと言っても、無駄……」

「なあ、恋。お前、今日いっぱいは僕のメイドなんだろ?」

「あ……」

「じゃあさ、『主人に奉仕しろ』と命令されたいか?」

「り、凛がそういうつもりなら……って、そんなの……」

「おお、流石は僕が認めたツンデレだ。じゃあ奉仕してもらおうか」

「本当に、やらなくちゃだめ?」

「そんな顔で聞くな。嘘だ。奉仕する必要はない」

「よ、良かった。もしかしたら、私の初めてを強引に奪われるかと……」

 僕は今、聞いてはならないことを聞いた気がするが、あえて脳の何処かに保存しないでおこう。身のためだ。後々のトラブルに繋がるかもしれない。

 しかし、恋もそういう事を考えているというのを初めて知った。

「さて。どうよ? 初めてのエロゲは」

「ど、どうってそりゃ……。わ、私は別にやりたい人がやればいいし、やりたくない人はやらなければいいっていうだけで……」

「ほう。なるほどな。ああそうだ。恋は昼飯を食ったか?」

 僕はこれ以上その話題で通していくのも苦だと感じ、話題を変えた。僕自身も腹が減っている。起きたのが一二時半すぎだったことも影響しているだろう。カップラーメンでもいいから食いたいものだ。

「た、食べていないけど……。凛は食べたい?」

 ここで恋は上目遣いをした。そして、両手の人差し指を動かして、今度は下を向いた。これでは『食べたい』という言葉の意味が、アダルティな方面一直線だ。本当、僕の日常にはなんでこんなアダルティな方面に突っ走っていく人間が多いのだろうか。

「うん。何か作ってくれるのか? 無理ならカップラーメンでもいいぞ」

「つ、作るっ!」

 目を輝かせ右手でガッツポーズをした後、僕の部屋を飛び出して恋は僕の家のリビングへと向かった。真っ昼間の相当遅い昼飯になりそうだ。

 と、エロゲに復帰しようと思った時だった。僕は有ることに気づいた。

「鎖どうする?」

「あ……」

 そう。繋がれている鎖。解除するためには鍵がいる。しかし、今その鍵はない。この鎖を早く解きたいんのが本心なのだが、そう簡単にもいかなかった。だから、ゲームデータをセーブした後、パソコンをスリープにして、僕と恋は部屋を出ていった。


 ***


 リビングに来た。リビングのエアコンを付けようとしたが、何故か壊れていた。姉妹の仕業だろう。僕はリビングのエアコンをいじることはない。料理をすることも多くないし、殆どリビングで料理したりするのも全部姉妹の仕事だ。僕は関係ない。

「うわ」

「仕方ない。扇風機かどうしようにも分解している状態だ。仕方ないし、団扇で凌ごうか?」

「馬鹿言ってんじゃねえよ。団扇で凌ぐとかなんだそのムリゲ」

「お前も『ムリゲ』とか使うんだな。落ちぶれたもんだ」

「うるせえ。飯作ってやんねえぞ」

「ごめん。謝るから許して」

「許す。で、どうする?」

「よし、我慢しよう。僕が扇風機を組み立てておくから、その間にやっておいてくれ」

「仕方ないな。飯できたら、私にも風分けてくれ」

「わかったよ」

 そして僕は扇風機を組み立てること、恋は飯を作ることに専念した。集中していると暑さも感じなくなってきた。

 最初はホコリが扇風機についていたので少し手間取ったのだが、数分で組み立ては完了した。直感で作業して、終わって扇風機の風にあたっていると、「早いなおい」と恋にツッコまれた。昼飯はまだ完成していないようだ。

 風のことを気にするかと思ったが、それには一切触れなかったので、飯が出来るまで僕が独り占めした。

 

 ***


 飯が出来た。こちらに近づいてくる恋を僕は迎えた。両手で運ばれてきた皿には出来立ての炒飯があった。熱気が上へ上がっていたことからもよく分かる。

 お茶のいれられたコップが渡され、ペットボトルタイプのお茶がテーブルの上に置かれた。

「どうよ。ちょっとばかし時間掛かったけど。もう三時近くになるし、炒飯チャーハンでいい? おかずないけど」

「全然全然。むしろ昼飯食べないでいると食わなくてもいいように思えてくるし」

「で、扇風機の風をよこせ」

「はいはい。てか、命令口調なのは感心しないぞメイド」

「そこでその設定もってくるのかよ。でも暑いし設定忘れたからしょうがないっしょ」

「まあな」

 扇風機の首の固定を解除して、首を振らせた。「はあ、涼しい」と一言言った後、恋は普段妹が座る、僕の左隣の席に座った。

「さて、扇風機の風を分け合ったところで飯にいきますか」

「どうぞ」

 笑顔で恋はそう言った。照れるとか、そういうことは一切なかった。疲れたのだろうか。でも、照れてもらっても、加減が聞いていない照れは扱いにくいからあんまり僕は好まない。少し照れてくらいが丁度いい。ただあくまでエロゲやギャルゲ内での話だ。リアルでは、凄く照れているシーンを見たことがないし、そんな人と話した覚えもない。

 僕はそんな事を考えた後、スプーンを手に持ち、「頂きます」と手を合わせた。

 一口炒飯を口にして、少し味は濃い気がした。でも、僕はそういう味が好みだ。僕的にはありがたい。

「うまいな。料理の味と腕の二つの意味で」

「誰がうまいこと言えといった」

「素直に喜べよ」

「喜んでるから! じゃ、私も頂きます!」

 少し遅い昼飯は、暑い部屋での炒飯だった。それなりに風通しは良かったので特に文句はない。でも、炒飯を食べ終わった時に手にしたお茶をいれていたコップの外側についていた水滴は、どれだけ暑いのかを僕に教えてくれた。


 ***


「ごちそうさまでした」

 その言葉を言って部屋に戻る。何時もなら僕、姉、妹の三人で手を合わせて飯を食って、くだらない話して、たまに下ネタ挟んで、笑って部屋に戻る。でも今日は、三人じゃなかった。姉も妹も居ない。恋と二人だった。でも、会話は無いわけではなかった。

「部屋に戻ってエロゲするか」

「おい。鎖のこと忘れんな」

「あ」

「片付け手伝え」

「面倒くさいからメイドさんがやってください」

「こ、ここで設定を活かしてくる……だと!」

「やめろ。その驚いたような表情をやめろ。そして僕は片付けをしない」

「やってよ」

 片付けをしないでいようと思っていたが、恋はここで僕に上目遣いを使ってきた。男を落とす伝家の宝刀的な位置にあるのが『上目遣い』である。そして、顔も少し赤く染めているのだ。

「く……っ。分かった。やってやるよ。やればいいんだろ?」

「うん。じゃあ、扇風機をこっちに持ってきてね」

「断る。メイドのいうことなど、これ以上聞く気が起きない」

「ちっ。いいよもう。片付けだけ手伝えば」

 僕と恋は、片付けをするため、食器類を全て台所の流し台に持って行った。最後に持って行く時、僕は持っていく食器がなかったので、扇風機を持って行った。

「あ……ありがと」

「どういたしまして。はよ洗え。僕にはエロゲをする義務があるんだ」

「それは『義務』ではなくて『権利』の間違いじゃないかな?」

「なにを言っているんだ?」

「ふっ……。隙ありっ!」

 恋は近くにあった霧吹きを僕に向けて使った。何度も何度も僕に向けて使った。扇風機を回しているとはいえ、台所も暑い。だから気持ちよかったのだが、僕はそれを恋にしてやることにした。

「やーいやーい! どうだ!」

「ちょっと恋さん? 五発なんて、下衆な人間ですねえ?」

「な、何……? ちょ、霧吹き奪うなっ!」

 僕は、笑っていた恋の隙を突いて霧吹きを奪った。そして、僕の方へ取り返しに来た恋をからかうため、手を上へ上へと伸ばしていった。それなりの身長差。一〇センチもあると結構違うものだ。霧吹きの底面の外側を手のひらにのせ、手で握り、手を伸ばした一番高いところまで持って行くと、恋はジャンプしだした。それでも恋はそれがとれなかった。

「返せっ!」

「残念! やられたらやり返す……。倍返しだッ!」

「ちょ……っ!」

 霧吹きの上部の部分、手で掴んで水を飛ばす部分を取り、中に入っていた水を上から恋に被らせた。

「なにして……」

 それなりに水も溜まっていたので、恋のYシャツはびしょ濡れになった。しかも前の方だけ。少しエロいように感じた。

「欲求が溜まってるのはわかるけどさ、少しは抑えなさいよ?」

「すまん……」

「……ったく。でも涼しいな、水被ると。凛も涼しかったか?」

「ああ。それと結局何倍返しになったかな?」

「私が飛ばしたのは五回。そんなに減ってもいなかった。一〇〇倍は軽く行ったったんじゃないかな?」

「そうかそうか。じゃあこれでお愛顧だな」

「は? ふざけんなよ? 一〇〇倍で返されたら、倍返し分私からもさせてもらうからな! そこに立ってろ!」

「バーカ。霧吹き奪えなければ話にならんだろ」

「あ……」

「という訳で、先に僕の方からさせていただく事にしましょうか!」

「やめてええええっ!」

「あ、ここでするのはごめんだ。決戦はホースを使って、外で行おう。お前もYシャツじゃなくていい……いや、着替えること自体不可能か」

「そうだよ! 着替えらんないよ! ……考えてみると凄い不利だよね私」

「あ、ハンデ無しな? 有りがいいか?」

「ふ、普通だろ! 私はあくまで『女』! 羞恥心とかもお前の姉よりあるんだぞ!」

「それは姉ちゃんが悲しむんじゃ……」

「ふっ! 私はそんなこと、しっちゃこっちゃないわ! ともかく、今は霧吹きの話やめて、さっさと片付けよう。な?」

「それには僕も同意だ」

 結局、僕も片付けを手伝った。「無理だ」「無理だ」と何度も言っていたが、何故か子供がやるようなアホな遊びに僕は燃えていた。恋も僕同様燃えていたらしく、僕も恋も異常なスピードで片付けを終わらせることが出来た。


 ***


 僕の家の庭。松の木と芝生というミスマッチな光景が有る庭だ。花壇には色々な花がある。この花達は母親が作っているものだ。察するに、母は園芸が趣味なのだ。

 恋の家の庭。芝生はもちろん有る。しかし、松の木は一本足らず生えていない。しかし、恋の家の庭には桜がある。この桜は、この家に恋、そして僕の親たちが住み始めた頃から有るらしい。また、親が言うには、樹齢一〇〇年を超えるらしい。幾多の戦争を乗り越えて来た桜なのだろう。

 僕は、散水栓に外れていたホースリールを繋いだ。そしてホースリールを五メートル程度引っ張って、対戦の準備を整えた。一方恋は、ホースリールではなく、普通のホースを散水栓に繋いだ。さらに、もう一方は駐車スペースの後ろ側に有る立水栓からも普通にホースを繋ぎ、二刀流をする方向で準備を整えた。

「ほう。それが、恋のハンデか?」

「そうだ。これが私のハンデ。あんたはシャワーで行くの?」

「ストレートがいいか? アレを狙ってやろうか?」

「アレとか言葉を隠すんじゃない。まあ予想はつくがな。さて。私は二刀流で行く。お互い、身体を隠してはならないということでいいか?」

「おいおい。お前、Yシャツ濡れて大丈夫なのか?」

「別にいい。それに部屋にいてもエロゲするだけなんだろ? なら、体動かしたほうがいいだろう。どうだ? 戦闘開始するか?」

「バカだなお前は。散水栓、立水栓に繋いだところで水は出ない。じゃ口を回す必要があるだろう?」

「……あ」

「まあいいぞ? じゃあ戦闘開始か」

「ま、待って! 早すぎるってばそんなの! ハンデなんだし、蛇口回すくらいは別に待ってくれてもいいんじゃない? ……ね?」

「僕は『倍』返ししたんだ。お前は『倍』なのか? 同じ数量を二つ、または同じ数を重ねて合わせるやるのが『倍』だ。お前のは『倍』か?」

「つ、つまり、ホースを二つ使うんだからそれでもう『倍』ってこと?」

「そういうことだ。僕は『霧吹き』の威力を倍にした。霧吹き本体を倍にした覚えはないぞ? 『威力』を倍にしたんだ」

「……わかったよ」

「そうかそうか。それはいいことだな。じゃあ、ホースと時間、どっちを取る? どちらかを倍に出来るんだぞ? 別に『二倍』に限ったわけではないしな」

「じゃあ、ホースを倍にする……」

「いいのか? じゃあ始めようかね? ああ、お前が時間取らなかったからお互い蛇口ひねってスタートな?」

「いやその前に濡れるから、私制服脱ぐね?」

「それもそうだな。

「わかった。じゃあよーい……」

 僕と恋は、互いに『スタート』と高らかに宣言し、二人共蛇口をひねりに向かった。恋は先に駐車スペースの後ろの立水栓の方に向かった。

「さて。ホースリールが許す範囲内が僕の陣地か……」

 立水栓の方の蛇口を捻って帰ってきて、散水栓の蛇口をひねり終えた恋に、僕はシャワーの勢いを最大にして水を向けて放った。

「ひゃっ! 冷たっ! ……って、横から人のお、お、おっ……むっ、胸だけに水を放ってくるなド変態野郎! 最低! 最低! 最低だ!」

「ごめん! そういう訳じゃなくてだな……」

「そんなこと言っても、人の胸だけに水当てれば普通変態って思うだろ」

「だから本当に違うんだって。横から水をかけようと思っただけで……」

「本当? もう胸に当てない?」

「それは……。ワザと当てたわけじゃないんだぞ? 胸に当てたのだって」

「はあ。とりあえず、凛は『胸にに当てたのはわざとじゃないことからもわかるが、もしかしたら胸に当ててしまうかもしれない』か?」

「そういうことだ。でも本当、ワザとは当てないから。な?」

「わかったよ……。じゃあ、私に恥ずかしいことしたってことで、凛そこで10秒間静止な」

「え」

「10秒間静止。女性を辱めておいて、自分だけ辱めを受けないなんていう甘い考えは受け付けないぞ。さあ、そこで10秒間静止だ」

「ちっ……」

 僕は、立った状態で、芝生の上で10秒間静止することを決めた。何かされるかもわからない状況。そして、相手は二刀流の水を使う女だ。

「目も閉じろ」

「それも、辱めを受けた罰か? 倍返しみたいなもんか?」

「そう。倍返し」

「わかったよ……」

 僕は、目を閉じた。目を閉じた状態でただただ立っているだけというのは非常に怖い。それこそ、ナイフで殺されたり、傷を負わされたりしたらどうしようかと思うと、怖さで身体もプルプル震えた。

 しかし、恋にされたことはそういった恐ろしいことではなかった。

 僕は、怖さのあまり目を開けてしまった。しかし、丁度その時に恋はホースを持っていなかった。恋の手は、僕の背中に回っていた。そして……。

「ん……」

 「展開早すぎだろこのギャルゲ」だとか「これなんてエロゲ?」だとか言おうとした。でも、それは二次元の世界ではなく、三次元の世界で起きたことだ。僕の唇に、恋の唇が触れた。

「おい……嘘だろ……」

「え……」

「あ……」

「目、開けてた?」

「開けてなかったぞ。な、何があったんだ?」

「さあね? い、いいことだよ。悪いことじゃなかったよ」

「そ、そうか……。幸い、傷を負っているわけではなさそうだし」

「り、凛は一体私がどういう人間だと思ってるんだ!」

「そりゃあもちろん、『世話のやけるバカな幼馴染』だとか『怖い幼馴染』だとか。柔道強い女子とか、マジ怖いから。マジ勝ち目ないから」

「ふふふ。じゃあ、その柔道で素晴らしい功績を叩きだした私の魅せる柔道を、喰らわせてあげようか?」

「『勝ち目ない』って言ったろ。お前には、『恋愛』でも『力』でも」

「あ? 何ほざいてんだてめえ。前に教えただろ? 『タブー』ってもんを」

「……」

「今日はスカートを履いているから柔道をするわけには行かないんだ。だから、水責めで行かせてもらうぞ」

「おらこいよ。かわしてやる」

 そういうと、二つのホースを恋は持った。そして、僕にその水をかけた。しかし、僕は水をかけられても動じなかった。逃げようとはしなかった。

「逃げろよ。面白味ないだろ」

「馬鹿か。倍返しなんだろ? お前を辱めた僕に早く倍返ししろよ」

「……自分自身を守れていない人を私は虐めない。だから私は、今の凛に倍返しはしない。だから、倍返しをしたいから、お前は逃げろ。もしくはホースでも持って反抗してくれ。そっちのほうが楽しいから」

「そうかそうか。お前も案外、いいこと言うんだな。まあまずは、いいこと言ってくれたお礼に、お前に水かけてやんよ」

「お。やる気になったか凛」

「おうよ。お前のその『自分自身を守れていない人を私は虐めない』って言葉、心に響いたわ。だからさ……」

 僕はホースリールのシャワー部分を手に持って、恋に向けた。

「そうか。バトル……スタートか」

「そうだ!」

 そしてまた、小学生じみた馬鹿馬鹿しいバトルが始まった。僕はホースリールのシャワーを使って、恋は二つのホースの出口を巧みに操って、バトルが繰り広げられた。

 

 ***


 夕方四時過ぎ。一時間以上も水で遊んだ結果、僕も恋も濡れまくった。歯止めが効かなくなって、水道代は大変なことになるな、と僕も恋も察した。

 散水栓、立水栓を止めて、僕と恋は僕の家の中へ入った。

「さて。お互い濡れ合いましたが、水道代が大変なことになりそうな予感ですな」

「もう私、凄い濡れてるけど羞恥とか気にしてないし。なんか凄い涼しくなったね。クーラー使うのも遠慮しちゃうよ」

「いや、もう少ししたら水の効果で冷えが襲ってくるかもしれない。Yシャツ洗うぞ」

「正確にはワイシャツだけどね。でも、洗うってことは脱ぐってことでしょ? ということは、一緒に風呂入るの?」

「んなこたねえよ。流石に羞恥心がないとはいえ、それは恥ずかしいだろ。それに、鎖を取ってもらわないと。鎖をしたのはエリザなんだろ?」

「うん……」

「あいつが帰ってくるまで待ってりゃいいだろう。あいつ、僕のことを『ダーリン』って言って、僕の生活に支障をきたす真似してるから少しガツンと言ってやらなきゃな」

「どんな風に言うの?」

 恋がそう聞いてきた。僕はそれに応えようと、声を低くしてこういった。

『エリザが恋をいじめたら僕はお前を許さない。恋がエリザをいじめたら僕は恋を許さない。僕がどちらかを虐めたら、僕をどちらか虐めていない方が怒れ。友達って、そういうものじゃないのか?』

 それを聞いた恋は、終わるなやいなや、手を叩いて満面の笑みで『かっけえ……』と感動したかのように言う。そして「感動したのか」と僕が聞くと、「感動した……」と、まるで演技のようにガッツポーズをした。

「演技するんじゃねえぞ」

「ごめん。ちょっと、バカにし過ぎちゃったか」

「バカにし過ぎたとかそういうレベルじゃないだろ。まあ、本当に今言ったそのことをそのままエリザに言ってやろうと思う。てか、恋も何もなかったのか?」

「なかったよ。凛が気絶している間、

『私はエリザに『なんで幼馴染である貴方が、私のダーリンに手を出すんですか! それに気絶させちゃって……。じゃあわかりました。今日一日、明日の深夜0時までは凛さんと貴方が手を鎖でつなぐ、明日の深夜0時1分から明後日の深夜0時までは、私とダーリンが愛を育む。これでいいでしょ?』

 とエリザさんは言っていたけど」

 僕は真実を聞いて寒気がした。

「そうか、情報提供ありがとう。僕は明日も危険な目に合うんだね?」

「危険な目って……。エリザさんはエリザさんなりに頑張ってるんだから」

「頑張ってんのかな? 僕からしてみれば、学校で『ダーリン』って言われ続けるのも苦なんだよね。こんな僕みたいなキモヲタでいいのかって」

「き、キモくないよ! 凛はキモくない! エロゲもギャルゲもプレイする男だけど、全然キモくない! ってか、『ダーリン』って呼ばれてるってことは、それだけ自分のことをアピールしてるってことなんだよ? そのアピールに答えてやんなさいっての」

「明日の日付が変わった直後から、エリザの猛アピールが始まるのか?」

「そうなるね。辛くても、私は明日エリザと貴方の付き合いに入れないんだよ。ちなみに今日も。最低限の会話はOKだけど、お互い、恋愛とかには口を挟まないで行く方針でさ」

「明後日までか。でも別にいいぞ? 僕が言えばいいんだろ?」

「それもそうだね。ダーリンが言えば、エリザも認めるでしょ」

「お前今ダーリンって言ったな?」

「エリザ風に。ただそれだけ。エロゲやってるくせに、人から何時もと違う呼び名で呼ばれると意識するような男だったとは」

「悪いか! 二次元と三次元は別の世界なんだよ! てか、『三次元(現実)《リアル》はクソゲー』って言うのが二次ヲタのニュアンス的な物なんだよね。まあ、僕はクソゲーとは思わないけど」

「そうか。クソゲーか。なら、三次元は『神ゲー』か?」

「神ゲーか……。それはないな。必死に勉強して、自分の目標に向かっていく青春、恋愛して楽しんで過ぎていく青春、ただただ会話することもなく部屋でいるのが楽しいという青春、三次元はゲームだよ。僕自身が主人公。恋自身が主人公。ただ、それはゲームとはいえ、神ゲーでもクソゲーでもない。最初は普通のゲーム。でも、どんな方向に行くのかは自分次第ってわけだ」

「よくわからない私に三行で」

「要するに、

『ゲームは自分自身で作るもの。最初は普通のゲーム。そのゲームには、プログラムという概念がない。だから、色んなルートが有る。ぼっちになるか、ならないかなんて、自分プレイヤー自身が決めること』

 これでいいか?」

「つまり、

『自分が自分の将来ルートを決めるってこと?」

「ああ。そういうことだ」

「結構いい名言なんだねえ。と、思ったんだけどさ、一つ聞いていい?」

「なんだ?」

 少し間をおいて、恋は僕に言った。

「ろくにゲーム作ってないくせに、そんなこと言えるのか?」

「今日のおまいうスレはここですか?」

「んなっ! お前私の彼氏居ない歴イコール年齢だからってまたバカにして! 何度も言うけど、本当にそれタブーなんだぞ? わかってんのか?」

「だって、スカート履いてる状態で柔道技決めたら、ハイパーパンチラタイムだろ? どうせ今は柔道技決めてこないくせに」

「そ、そうだけど……」

「だから、お前が言うなってこった」

「こ、恋人が居ないことはお前もだろ! だったらお前もそれは言うなよ!」

「僕は特別枠さ」

「何が特別枠じゃゴルアッ!」

「やべっ。恋起こらせると結構怖いんだよね……」

「待てえっ! とはいえ、鎖で繋がってること忘れてるようだな」

「あ」

「ふっ! 隙ありっ!」

「あははは、あははははははははは……マジやふぇて! やふぇてっ!」

 脇の下をくすぐられ、僕は立っていられなくなって後ろに倒れてしまった。が、後ろに倒れると丁度恋の胸にあたってしまい、僕は恥ずかしくなってしまった。

「ごめん……」

「これは仕方ないことでしょ!」

「そ、そうだよね……。と、とにかくくすぐるんであれば僕の部屋でやってほしい。僕そろそろギャルゲしたい」

「今度は18禁じゃないんだね」

「ああ。今度するギャルゲは結構面白いギャルゲでな。戦闘シーンの有るギャルゲなんだよ。んで、このギャルゲの素晴らしいところは、ヒロインとの恋愛でな。普通の恋愛ゲーなら、恋愛終了でゲーム終了なんだが、このゲームは、凄い作りこまれていてな。エロゲ時代からそうだったんだ」

「へえ。凄いんだね。それやってみたい!」

「お前、エロシーンは見たくないくせに、恋愛とかはいいんだな……」

「いいとか、そういう問題じゃないし! ただその、私も凛と同じで『彼氏居ない歴が年齢と同じだから、やっぱり彼氏欲しいかなあ、なんて」

「はあ。まあ僕なら、本当に『こいつは裏切らない』『こいつは僕の為になんでもする』ってのが分かってからないと付き合う気は起きないけどな」

「へえ。凄いこと考えてんだね。でも私も、本当に心に決めた人としかキスしたくないし、付き合いたくもないわ」

「お前も乙女なんだな。『恋』って名前だから、そういうもんか」

「そういうもんです。じゃあ、早くギャルゲプレイしたいから部屋行こうよ」

「はいはい」

 僕は、恋を連れて二階の自分の部屋へ向かう。もともとPC版だったソフトが、PSP、PS3、Xbox360など、幅広いゲーム機で出来るようになったわけだ。とっても嬉しかったのだが、面白さではPC版には劣る。要求できるスペックとかの問題なんだろう。

 僕は、自分で作った痛PSPを恋に渡して、ゲームをプレイさせた。痛PSPに描かれていたキャラクターについて、恋は訪ねてきたが、僕はそれを無視して、PC版の方のソフトをプレイした。


 そうして暑い一日は終わりを迎えようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ