Target:Youth Hebe and Satan./episode47
「――執行対象です。攻撃を開始します」
校舎から出た瞬間だった。突然、目の前に銃を向けられた。
「……っ!?」
目の前には、見たことのない魔族、いや魔王か? 人型で、喋ることが出来るようだが……。目の前の物体は一体何なのだろうか。
「攻撃対象確定。攻撃を開始します。危ないので離れて下さい」
「一体何が起こっ……」
「発射――」
「危ないっ!」
「きゃ、きゃあっ!」
目の前の物体に飛び込む。発射しようとしていた光線らしきものは、遥か上空へと打ち上がった。とはいえ、大気中に消えるわけではなかろう。その為、早く安全な場所に避難することが重要となってくると考えられるが……。
「恋、お前は校舎内に隠れろ! そこにいると危ない!」
「う、うん……」
目の前にいたのが少女と断定された。ここからは攻略も含め、ミッションを発動しよう。……彼女をデレさせ、魔力を抑えさせる。意外とそれは重要だ。……そして、行く行くは僕の悪魔になってもらうことで、ミッションは初めてコンプリートということになるのだ。
「お前が一体誰だかわからんが、この銃は貰う」
「……え」
押し倒した少女から銃を奪った。そして、その銃を落ちてくる光線に向かって放つ。みるみるうちに、その光線が大きくなってきているのが分かる。
「発射!」
光線の位置を確認し、その方向に向け銃弾を発砲した。
「……やったか?」
その瞬間、落ちてきた光線は、銃弾によって二方向に分かれた。そして、片方はグラウンドに、片方は体育館の直ぐ近く、自転車小屋の方向へ向かっていった。
「魔力開放! 20!」
間に合うかわからない。しかし、今ならあいつの力を使える。
「サタン、召喚!」
魔法陣が光を放つ。そして、その光からサタンが現れて地に足をつけた。そして、直ぐにいろいろと言い始めてきた。
「我はこれから医院へ行かなければいけないという……って、もう夕方ではあるまいか! 貴様、なんてことをしでかしたのだ! 絶対に許さんぞ!」
「そのことはあとで解決だ。まずは、時間を停止してくれ」
「いや、先に我の願いを叶えるのが先……」
「主人の言うことを聞け!」
「……ああもう、空間停止!」
時間が止まる。僕のデビルマシンのディスプレイに表示された時刻は、夕方4時47分16秒33。その時刻は動こうとせず、ただ動いているのは僕と、サタンだけという状況となった。
「……サタン、有り難う」
「それじゃあ、約束を……」
「それは夜ということにしたいと思う。……ウンディーネ、召喚!」
光線ということで、一応炎ではないか確認してみる意味も含め、僕はウンディーネを召喚した。一応水属性の精霊であるし、光線程度軽々と排除してくれるに違いない。
「あれ……?」
「凛よ。お前は、バカなのか?」
「……え?」
「デビルマシンのディスプレイの下の方にあるだろう、ボタンが」
「うん」
「それはホームボタンだ。それを押すと、今起動しているアプリケーションから、使用している悪魔及び全悪魔と魔族、そして神を確認することが出来る」
「す、凄いな……」
「一応日本の技術が結集されているんだぞ? ●ニーと●ャープ、富●通などの会社の技術力が積み込まれているものだ。基本的には、凛が普段使うスマホと同じパーツで作られている。OS等は若干の変動があるが、別にそれといった変化はないし、ディスプレイもタッチで操作できる静電気タイプのものだ。それくらいは凛でも知っているだろう?」
「そりゃあね」
「……それなら、何故ホームボタンを知っていなかったのか疑問だが」
「教えられてなかったんだよ」
「……それはそれは、可哀想に」
「それじゃあ、このホームボタンを押して……って、あれ?」
「どうした?」
「バグかな?」
ディスプレイの画面が、上下左右どの方向へ指をスワイプしても、一向に動こうとしない。恐らく、ゲーマーが一番恐れる『バグ』というものだろう。正直バグってものは、本当に厄介なもので、データを細かに保存していない場合、それまでのデータがすべて吹き飛ぶのだ。僕は一番それを恐れている。
「データ、飛ばないかな?」
「普通なら飛ぶことはない。……それに、デビルマシンは再起動してもらえば、普通に使うことが出来ると思う。……とはいえ、一定の時間は魔力結界がなくなる」
「空間停止能力を使用しても駄目なのか?」
「……空間停止能力を使用した場合、魔力結界が消えることはない。我と凛以外の魔族、悪魔、神、人、動物、植物、どれも動いていないのだからな」
「風は動いているわけですか」
「いや、お前は今風が吹いているのがわからないのか?」
「いや、わかりますけど……」
僕はちょこっと疑問に残る点があったのだ。時間を停止したら、もし僕とサタンが話を出来たとしても、それは酸素がなければ出来ないわけだ。だから、「時間を停止したら酸素は普通ストップされるはずなのに、何故?」という点が僕の疑問なのだ。
「空気中の酸素とか、難しい方向に持って行こうとしがちだが、至って仕組みはシンプルだ。この結界の中以外からは今、酸素を供給されていないんだ」
「ん? どういうこと?」
「要は、凛が魔力結界を張った時、張った範囲内の空気中の酸素は全てこの魔力結界の中に閉じ込められたんだ。空間を停止しているのは辺り全体だ。時間を止めているということは、酸素の供給、そういったものも全て止まる。時間が動いていないのだから。……けれど、この空間、そこだけは時間が動いている。でも、それは主人と発動した人間だけだ。初期状態ではな」
「酸素を、多量に供給しないために、ですか?」
「ああ、正解だ。酸素には限りがある。植物も光合成をしていないのだ。二酸化炭素は溜まる一方さ。……だから、制限が設けられた。初期の状態では、『空間停止能力を使用した魔族・悪魔・神とその主人』のみとなっている」
「ちょっ……」
その時、サタンが身体入替を使用した。効果は前にもサタンが話していたが、僕とサタンの『心』はそのままに、『身体』を入れ替えるという超魔法だ。……つまり、僕の身体は今、女なのだ。
「な、ない……?」
「どうだ、女になった感想は?」
「お前、意外と胸出てるんだな」
「殺意がわいてきたから、一発……いいかな?」
「やめてください。目がマジになってますよ」
「察して下さい」
「……わかった」
しかしまあ、日頃の生活で胸なんて気にすることもないし、こうも肩に負担がかかるものとは思わなかった。前に、合体等で女になったことも合ったが、あの時は脳内がそういった『自分が女になっている』という事を感じさせてくれなかった。今、デビルマシンがバグっているためにこうなった、という事も考えられるものの、合体していたときは、正直マジの気だったのだろう。だから、こんなことには頭を回すことが出来なかったのだろう。僕はそう推測する。
「声も甲高いし……」
「我は男声を手に入れたぞ! ああ、やっとあの肩の辛さが……」
「あの、元に戻れるんですよね、サタンさん?」
「凛が『元に戻れ』と我を魔法陣に戻し終えれば、凛の身体は男の体に戻っている。もしくは、我がもう一度宣言すれば解除が出来る」
「……今直ぐ解除して下さい」
「よいではないか。たまには、こういう珍しい体験もしておくといいぞ?」
「……本当、こういうのは嫌なんですけど」
「それなら『悪かった』と謝らせていただきたい」
ペコリとサタンが頭を下げる。魔王が頭を下げている姿を見ると、なんだか意外すぎて度肝を抜かれる感じがする。……新鮮すぎて、目を疑ってしまう。
「それじゃあ、ちょっとイジるから待ってろ」
「大丈夫か?」
「我は機械音痴ではないからな。40秒で支度、いや操作を完了できるぞ」
「それはもしかして失敗フラグ……」
「ふ、フラグとかいうな! ああもう、そういうのを言うから……」
失敗フラグ出ないことを祈るのは僕以外でも同じだと思われる。……というか、早くウンディーネに水で光線を消してもらわないと。
「よしっ!」
大丈夫らしい。速すぎる。……でもまあ、無理ゲーとまではいかないか。例え無理と思ったら、そこで諦めれば良い話……ではない。そういう都合の良い話というわけではないのだ。
「さあ、凛。ご都合主義的展開に飽き飽きしてきているかもしれんが、やらねばならぬことが有る。……さあ、ウンディーネの空間停止を解除だ!」
男声のサタンは、やっぱり女のサタンだった時と比べると、凄い可愛い声、いや中性的な声……って、その声は僕の声じゃないか。なんてことを思ってしまっているんだ、僕は――。
ウンディーネの方を見る。水の精霊らしく、ウンディーネは身に水を被っていた。そして、その水を僕にぶちまけた上で、話を始める。
「……それで、要件はなんでしょう?」
「主人に水をかけるというのは、ちょっと酷くないか?」
「所詮、私はガチャで出た精霊なので、そういうことはやっぱりしつけがないと覚えられないというかですね……って、あの方は魔王様!?」
ああ、そうだったな。こいつとサタンは初対面だったっけか。凄い初々しい。
「魔王様! お会いできて光栄ですっ!」
態度が激変した。こりゃまたしつけが大変だな、と思いながらも、僕はサタンと握手を交わし終えたウンディーネに指示を出した。
「ウンディーネ、超魔法の水攻撃で、あの光線を消せ」
「あれ、火なんですかね?」
「え?」
「あの光、どうみても炎じゃないと思うんですが……やってみましょうか?」
「でもまあ、水属性の攻撃でやってみてくれ」
「わかりました、ご主人様」
即座に攻撃が開始される。とはいえ、その光は消えそうにない。やはり水の攻撃では駄目なのだろうか。……それなら、あれは本当にただの光?
「ご主人様。魔王様に頼んでみては?」
「え?」
「いや、魔王様は一応闇属性で最強の方ですからね?」
それもそうか。魔王、ということは魔を極めた人物ということだし。闇属性の頂点、といっても過言ではないのだろう。……正直、空間停止能力というのは、相当な強さだと思うし、そこに心情入替、身体入替を使うことが出来るというのは相当な強さだと、改めて思う。
「じゃあ、サタン。やってくれるか?」
「我は別に構わんぞ。……けど、凛は闇属性の魔法少年なのだし、君がやってもいいとは思うが……。それとも我の真の力を見たい、とでも言うのか?」
「おう!」
「仕方ないな……。やってやるよ」
サタンは魔法陣を出して、そこから灰色の眼帯を取り出した。そして、その灰色の眼帯をつけるとサタンは自身の手に魔力を集中させていった。
「……殺る」
目を紅の色に染めたサタンは、ぼそっと吐き捨てるようにそう言うと、掛け声とともに、その魔力を放出した。
「デッドオアアライブ――!」
「――!」
眩しい光線が目に入る。サタンは光属性だったのか、と考えさせられてしまうくらい、その光は強いものだった。その『デッドオアアライブ』という技が、一体どんな技で、どんな効果なのかは僕はまだ知らなかった。しかし、その効果は相当なものであろうと、僕は思った。
***
音はない。光が消えるまで、15秒程度掛かっただろうか。目の色を紅から黒色に戻したサタンは、技を使用したその場に跪いて、息をあげていた。
「大丈夫か?」
「……ふっ。これくらいで、魔王が死ぬわけじゃねえよ……」
「それなら良かった……。で、あの技は一体なんだ?」
「『デッドオアアライブ』か?」
「そうだ。その技だ。名前からして相当厨二的な感じだが、効果はなんだ?」
「効果? ……ああ、それは結構アレな内容でね。一つ間違えば気絶するし、上手く行けばHPは0も減らない。そういう技だ。デッドオアアライブって、どういう意味か分かっているか?」
「ああ。『生死を問わない』って意味だろ?」
「知っているのか」
「『デッドオアアライブ』という言葉に似たタイトルのラノベがあるからね」
「『デート●ライブ』だな?」
「そうだ。……って、なんで魔王様がラノベを?」
「我が医院で働いてるのは色々な意味があるが、一番に金を稼ぐ事が我のこの日本の神戸に来た一つの大きな理由だ。そして二番に、この街の魔族を保護するという意味でもやってきた。……まあ、基本的にその二本の柱で動いていたわけだが、初任給で貰った給料を持って、本屋へ入ったんだ。で、その書店の入って直ぐにおいてあったんだ。ライトノベルが」
「ちなみに、何を買ったんだ?」
「なんだと思う?」
「分からない」
「じゃあ、答えないでおこう。まあ、買った本は色々とあるが……」
「でも、本棚とか無いじゃん?」
「それは書店の店員に言われた。そこで初めて『電子書籍』というものが有ることを知ってな。以後、そっちに本は入れている」
「ということは、本は一冊も持っていない、ということか?」
「本棚はないから、製本は一切持っていないな」
「凄いな。……まあでも、僕も特に特典がない限り製本版は購入していないが」
「凛のようなヲタクは、観賞用と読む用で2つ購入するという話を聞いたのだが、それは本当なのか?」
「まあな。傷つけたくないし。コレクションしたいし。なにしろ、製本より電子書籍のほうが安い時があるからね。大量に購入しているよ」
「尊敬するよ」
「勝手に尊敬していればいいさ。……ま、戻れ」
「もうちょい外にいていい?」
ウンディーネだけ戻ったようだ。……ったく、なんてこった。このままじゃ、僕は女の体のままもう少し過ごすことになる。それは僕も嫌だ。
「駄目。身体を戻してくれたらいい」
「ちっ」
舌打ちをした。……少し誂ってやるか。
「はあ、しかしまあ、お前は意外とナイスボディだな。胸もそこそこ大きいし、声も結構可愛いし、髪も長いほうだしね」
「う、うるさいっ!」
照れ隠ししているのだろう。凄い可愛い。……抱きしめたくなるような可愛さに、僕の胸が締め付けられる。……いや、こいつは魔王だ。何を考えているんだ、僕は。それに、誘惑に負けない事も重要なんだぞ……。
「そ、外の世界に居ると、凛にちょっかい出されるから戻る!」
「それはそれは」
勝手に戻りやがった。機嫌悪いな。それもそうか。一応、サタンは職場へ行くことが出来なかった。僕のせいで。……あ、イブリスも。
と、そう思っていた時、空間停止能力が解除され、僕は地面に叩きつけられた。
「ケツ痛っ!」
魔力結界を張っていたため、なんとか痛みも軽減できたものの、仮にもし、地面にケツを打っていたら、とんでもないことになっていたに違いない。
「あの……」
「ん?」
「光、消したんですね」
あ、そうだったな。サタンが消していた。
「ああ」
「……余計に苛立ちを覚えました」
「は? いや、ちょっと……え?」
「その後ろに居る方は、彼女さんですよね?」
「いや、そういうわけでは……」
「なんで、告白しないのですか? 向こうの彼女はデレているんですよ?」
「いや、恋は決してデレているわけではないと思うぞ?」
「ツンデレというわけですか。……攻略が容易ですよ、ツンデレなんて」
「お前はゲーマーか?」
「いえ。私はゲーマーではありません」
「じゃあ、お前は一体……」
「初対面の人間に『お前』という事が少々気に食いませんが、許します」
ちょっと僕もイラットきた。……それでも、相手がゲーマーではないということはやっぱり魔族かなんかか? ……けど、女神という可能性も否定出来ないか。……目の前の彼女は一体なんという者なのだろうか。
「こんばんは、凛さん。……貴方の恋愛をサポートするためにやってきた『ヘベと申します。正式な名前は、『青春の神妃ユース・ヘーベー』です。ヘベと呼んでいただければ結構です」
「そ、そうか。……で、でなんで君が僕に?」
「私の主人、里奈様のご命令です。これから12月12日までの期間限定で、貴方の恋愛をサポートさせて頂きますので、よろしくお願いします」
丁度その時、会長からメールが届いた。
『件名:空間停止能力でも使って光でも消したかな?
宛先:凛くん
本文:
青春の神妃ユース・ヘーベーはどうかな? ……ヘベは、嫉妬したり、羨ましがると光を放つから気をつけてね。……まあ、基本的にマスクを付けてあげれば、特に問題はないぞ。あと、ヘベは恋愛には口うるさいから気を付けてね。
ちなみに、ヘベは明日から、ボクの管理下に置かれなくなっちゃうので、凛君が学校にいかせるなりしてください。
追伸:学校側には、金で許可取ったよ(^o^)/』
「……会長、貴方って人は……」
僕は、ヘベに「今日からよろしく」と、少し涙目になりつつも、ヘベの右肩に僕の左手をおき、左の手で涙溢れる目をかいた。




