Target:Elisa -Confession to the Rin./episode42
「お前の家は意外と広いんだな」
午後9時40分。夜も深まってきた頃、僕は寒い中で魔王様にそう言われた。
「魔王城と比べたら小さいと思うけどな」
「魔王城?」
「いや、魔王とかその側近が住むような大きな豪邸のことを指す言葉だが……」
「我はそんなに豪華な屋敷に住んでいた記憶はないぞ」
「じゃあどこに……」
「ギリシアの首都、アテネの上空15000メートルに浮かぶところ」
「飛行機とか、そういう系のものか?」
「……そうなるね。飛行機、とまではいかなくても、空中に浮かんでいる船って言うべきなのかな。しかしながら、我の住んでいた部屋は大きくもなかったぞ」
「大体大きさはどれくらい?」
「東京ドーム3個分」
いや、こいつわかっていっているのか? ……もし、仮に魔王様の主張があっていたとしよう。……どんな宇宙船だよ。なんでそこで暮らせるんだよ。未来的すぎるよ……。
「お前、東京ドーム3個分ってどれくらいの面積かわかるか?」
「どれくらいなの?」
「14ヘクタールだぞ」
「14ヘクタール?」
わからないようだ。魔王様は学力がおありでないようで。……それにしても、よくもまあ、病院なんかに就職したものだ。なぜそんなことが出来たのだろう、と、僕は少し疑問に思ったので、魔王様にぶつけてみた。
「魔王様はなんで病院に勤務しているんですか?」
「我の力を使ったのさ。試験とか、そういうのあったけど、我はそんなことお構いなしに時間止め、能力を交換して、ここまで来たわけだ」
「悪の王はやっぱりひと味違いますね」
「うるさい。我はいちいちそんなことを言われるためにしているのではないのだ」
「じゃあ、なんか理由でも有るんですか?」
「……その船が壊れたのさ」
「嘘でしょ……」
「いや、本当に。壊れたんだ。その船が」
「それって、日本の技術じゃないですよね……。絶対海外製でしょ……」
「ああ。そうだ。中国製だぞ」
察した。仕方がない。それがチャイナクオリティというものだ。技術的に見れば、どうみてもジャパンクオリティには敵わない。
あえて触れないでおくことにして、僕は家の中へ案内した。
「ただいま」
インターホンを鳴らすより先に、僕は玄関のドアを開けようとした。が、そうはいかない。前々から知っていたが、試してみたかったのだ。男には、たまに「やりとげるまで諦めない」っていう感情が浮かぶことが有る。その感情に、「考えたことは直ぐにやる」なんて事を思い出したら、そりゃあもう止められないだろう。諦める判断がつくまでは。
「ダーリ……嘘。お、女の子連れて……」
「いや、この子は女の子だけど別に変な意味で連れてきたわけじゃ……」
「やっぱりそうなんだ。ダーリンは好きな女の子をコロコロ変えるような酷い男の子だったんだ。……ダーリン、酷いよ。信じていたのに」
「おいおい。話が勝手に進みすぎだぞ……」
「け、けど、私のダーリンはそうそうあげないから!」
「なんの宣戦布告だよ……。別に魔王はお前に闘い挑んでないだろう……」
「魔王?」
首を傾げるエリザ。今更だが、エリザのそのまるで誘っているような服が、僕の視線を捉える。そして、それと同時に僕自身の心の中に炎が点った。
これから寝るというのにもかかわらず、半袖のYシャツに、黒色のネクタイ。一応暖房は効いているものの、明日起きれば寒いわけだ。それなに、エリザは偶数のつく数のYシャツのボタンを外していたのだ。
「ダーリンのスケベ」
「い、いや、僕は……」
「ダーリンって、本当、女心分かってないよね。視線、気づいてるよ?」
「いや、僕はお前の身体をジロジロ見たりしてい……はっ!」
「バーカ」
「クソ……。自ら墓穴を掘るなんて……。なんてこったい……」
「変態はもっと苦しめ!」
「……え、エリザお前……」
「ん?」
「寒くないの?」
一応思っていたことを聞いてみた。返答は、「寒くないよ」という一言だけで、暖房が聞いていれば問題はないようだ。まあ、若干長袖長ズボンで揃えているのと比べれば、多少は寒く感じるかもしれないけれど、十分大丈夫なレベルなんだとは思う。
「……凛」
「なんだ、魔王様」
「そちらの女性は一体なんていう方なんでしょう?」
「ああ、こいつはエリザだ。Gカップの爆乳、茶髪で凄い僕にじゃれついてくる幼馴染だよ。……んでもって、魔法少女である」
「我は殺されないか?」
「殺されないと思うけどな。……お前の身体に傷か付くか、付かないかっていう意味でだぞ。……けど、お前の心に対しては、傷が残るようなことをいうかもしれない。でも、基本エリザは優しい女だ」
「へえ」
「僕がピンチの時、悪魔達と共にエリザが助けてくれたことがあったし」
「可愛い一面も有るじゃないですか」
「可愛いのか?」
「はい。それこそ、主人に奉公する婦人って、意外と憧れます」
「知らねえよ。……まあ、憧れているのであれば、別に文句は言わない。一々僕がなにかいう資格など無いのだからな」
言う資格はない。自由と平和を尊重する日本において、誰かの発言を極端に押しつぶしにかかるのはどうかと思うのだ。それが損になろうと、得になろうと。確かに、隠さなければいけないことはある。それは隠せばいい。けれど、隠さなくてもいいのに隠しているようなことだって有るのだ。もしくは、隠してはいけないことを隠すっていうことも。
それは暴力団と関わっただとか、大麻を吸っただとか、そういうことも含めて。
「あ、そうだ。魔王様は何処で寝るんだ?」
「魔法陣の中がいいなあ、なんて思ってみたりするんだけど、入れるかな?」
「やってみれば?」
「じゃあ、やってみる」
「わかった」
目を閉じ、精神を統一した上で、声を整えて僕は言った。
「……魔力、開放!」
独特の光を放ちながら、魔法陣が浮かび上がる。
「戻れ!」
その瞬間に、魔王様がその魔法陣に吸い込まれていった。意外といけたらしい。朝、ルシファーが言っていたこととは違う結果になったが、これはこれでいい。なにせ、僕のベッドはただでさえシングルベッドであって、エリザと寝るのですら互いに場所を撮り合うというのに、そんなベッドを更に占領されたら、寝る場所がなくなってしまう。
魔力を一旦封じ、僕は寝支度につこうとした。明日は学校。恋の風邪も治ったし、早く学校にいって馬鹿騒ぎでもしたいものだ。
そんな中、エリザだけは僕の方をじーっと見ていた。
「ん? どうした、そんなに僕の方をじーっと見て」
「ダーリンって、色んな女の子に囲まれているなあ、って」
「どういう意味だ」
「そのままの意味だよ。私含め、ツンデレ、クーデレ、デレデレ、姉、妹、幼馴染、悪魔……。本当、恵まれてるよね。優柔不断だと、後々殺し合いが起こるかもよ?」
「そんな人生の終焉迎えたくないよ!」
「そりゃあ、私だってダーリンを殺すなんていうのは、最終手段としてしか考えていないし。……あ、それと」
「ん?」
「会長さんと、デートしたんだってね」
「……は?」
僕はちょっと強気の口調でエリザに威圧感を表して聞き返す。
「いやあ、びっくりしたんだよ。だって、9時くらいに
『――こちらは西條財閥の会長を務めている者である。そちらに、凛という男はおらぬか? ……娘とその男がデートをしたらしいのだが』
っていう、男の人の声の電話がかかってきたんだぞ。しかも、凄い声が低くて、めっちゃ怖くて。しかも、デートなんて言われて凄い驚いたんだからね?」
「なんでさ」
「そ、そりゃあ、未来のダーリンだもん! ……私はダーリン以外の子供なんか産みたくないし。……なのに、なのにデートとかふざけんな!」
「ごめん……」
「聞いた話によれば、デパート行って、コーヒー飲んで、観覧車乗って、不良から助けられて……とかしたらしいじゃん! 私なんてまだそんなことサれていないのに……。酷いよ。酷すぎるよ……」
「ごめんな……。お前のこと、後でたっぷり可愛がってあげるからな」
あれ。この言葉、色々と誤解を招きそうな感じがするんだが……。まあ、エリザだから誤解はしないだろう。しないだろう。しな……いわけないか。
「今、可愛がれ」
「いや、何を言って……」
「可愛がれ。私を可愛がれ」
「どういう風に?」
「お前の好きなようにしていいぞ」
その言葉は非常に意味深長な気がする。しかも、ここで上目遣いを使ってきたのだ。これはもう、萌え死ぬ。正直、僕が上目遣いに弱いのは色々と知れ渡っているはずだ。足で背中を踏まれたが、それでも恋の上目遣いには敵わないし、凄いデレているエリザの上目遣いにも絶対敵わないだろう。
僕はそれだけ上目遣いに弱いのだ。僕はそれが嫌だ。
「……だ、駄目か?」
「い、いや……」
「撫でるだけでいいんだぞ。それとも、コスプレとかした方がいいか? 衣装さえ貸してくれれば、私はダーリンの為にコスプレを受け入れるけど……」
「いや、受け入れる必要はないぞ」
「じゃあ、コスプレなしでいいんだね。……ほ、ほら。撫でて?」
上目遣いをやめないエリザ。目にはうるうると、若干の涙が浮かぶ。
「お前、瞬きしてる?」
「してない……ぐすっ。あっ、上目遣いやめちゃった……」
「いや、瞬きしろよ。……はあ。ほら、頑張ったな」
ナデナデ、とエリザの頭を撫でる。最初、僕の手がエリザの髪に触れたときは「ひゃあっ!」と、驚いた声を上げたが、撫でるうちに、声を上げなくなった。むしろ、撫でれば撫でるほど、僕の服を引っ張ってくる。
「……ダーリンがいないのなんて、もう嫌なんだ。だから、離れないで欲しい」
「え、エリ……ちょ、何をし……」
「う、う、うえええええん!」
エリザによって、僕は床に押し倒された。丁度僕の胸にエリザのたわわに実った胸があたった。けれど、僕は無乳であるため、エリザの胸の感触が余計に強く伝わってくる。
「ダーリンと離れ離れなんて嫌なんだぞ……。いっつも、いっつも恋とばっかりイチャついて。悪魔とばっかりイチャついて。私のことなんて……」
「正直、僕はお前が一番女性らしいと思うけどな」
「じょ、女性らしい……」
「そうだ。要は、お前が一番『可愛い』って意味だ」
「あ、あれ……。嬉しいはずなのに涙が……」
「嬉し涙だな。……お前、嬉し涙流したこと無いの?」
「わかんない。でも、ダーリンの前で泣いたのは、これが……2回目だよ」
「……え?」
エリザは顔を上げて、僕の方に視線を移してじろっとこちらを見た。
「6歳の時、神戸空港で別れを告げた時、あれが私の最初の涙だった」
「いや、産まれた時泣いただろ」
「ああ、そうだね。……って。いや、ダーリンの前でって意味だよ?」
「それなら最初の涙って言ってもあり得るか」
「そうだよ。……あの時のは、私の初めての涙だったんだ。そして今は、二回目。……私ね、ダーリンに会えて嬉しかったんだよ? 12年間も会えなくて。それで、もしも忘れていたらどうしようかって」
「まあ、結果的に僕はお前のことを忘れていたがな」
「そうだよ。……あの時、私は結構傷ついたんだぞ。謝罪しろ」
「嫌だよ」
「じゃあ……何か、しろ」
「じゃあ、一つだけ何でも言うこと聞いてやるよ。僕は土下座するのだけは嫌なんでね。僕のプライドが許さないからさ」
「じゃ、じゃあ……えと……き、キス……」
「キス? ……ああ、魚か。でも、今はもう夜だぞ?」
「逸らすな!」
魚の方ではないらしい。なんとなく、『キス』という単語が出た時にわかっていた。が、あえて僕は魚の方で捉えた。正直、僕も少し照れていたんだと思う。つか、僕自身言いたくなかった。だから女っぽいって言われるのだろうけど、僕は『キス』なんて言われたくなかったんだ。
「き、キスしてください……。い、愛しのダーリン様……」
僕の身体の上を、僕の顔めがけてゆっくりと、ゆっくりと向かってくる。そして、丁度僕の顔の真上に来たところで、エリザは動くのをやめた。そして、徐々に自らの身体を僕の方に近づけてきた。
「いい……よね?」
「い、いや、僕はキスしていいなど一言も……」
「なのに、私を退けようとはしないんだ」
「そ、それは……」
「私は、恋さんよりも力は弱いし、力が強くなったとはいえ、私は十分ダーリンのちからで退けられるはずだよ? ……もしかして、下心あった?」
「例えば?」
「き、キスからエッチな事を……」
「ないないない! ……お前に魅力がないわけじゃないけど、下心は……」
「目、閉じろ」
「は? ちょ……」
僕は目を閉じたわけではなかったが、目の前が真っ暗になった。そして、その瞬間、唇に温かいものが触れた。柔らかいそれが当たる感触と同時に、僕の胸部や腹部にも柔らかい感触が当たった。
「目、閉じたまま聞いてね?」
その時、僕はエリザが耳元で呟いた言葉は、吐き捨てるようで、でもどこか可哀想な女の子のようで。でも、言い方は嬉しそうで。凄い言い方だった。
「―――私は、ダーリンのことが……大好きです」




