Target:Satan -story of My past./episode41
家に戻り、変な言い訳をこじつけ、夜9時10分前に、僕は魔力結界を張って家から飛び出し、魔王の居る神戸医院まで向かった。今日は非常に寒い。もうすこし厚着をしたいが、直ぐに終わるのだし、別にいいだろう。
***
神戸医院前のビルとビルの間。僕が魔王と初対面した所に僕は降り立ち、魔力結界を解除した。そして、少し肌寒いながらも、僕は薄着で神戸医院前まで向かった。
「遅いぞ」
眼帯少女……いや、神戸医院前に魔王様は居た。魔王様は、普通の服を着ていた。ダサくも派手でもない。普通の服。けれど、なぜ魔王様は魔力結界を張らずしても、僕から見ることが出来るのだろうか。いや、僕意外にも見えているんだと思う。何せ、働いているんだからな。魔王が働くっていうのも意外だが。
「――お前、魔族なのか?」
率直な疑問をぶつける。「答えたくなければ答えなくてもいいぞ」と補足を加えた上で、僕は魔王様の方をじっと見る。
「我は……魔族だ。けれど、魔族って言っても、特別な存在なんだ」
「どういうことだ?」
僕は聞き返した。わからなかったから。ただそれだけの理由。深い意味は無い。
「魔王っていうのはさ、必ず魔法少年や魔法少女、他の魔族からも狙われるわけじゃんか。しかも、我の身の回りにはルシファー家の執事が一人程度。SPという役職をルシファー家の一族に任せてはいるが、その防御態勢は決していいものとはいえない。……我はな、今まで人間が嫌いだったんだ」
「……好き嫌いは無い方がおかしいと思うけどな」
「そういう考え方が出来るお前は素晴らしいな」
「褒めの言葉、有り難う」
「……戻すぞ。まあ、嫌いだったって言っても、今まで言ったことを聞いていれば分かるだろう。要は、人間に殺されそうになったんだよ。何度も。何度も。何度も……。そして今、我は神戸の街に居る」
「なぜ?」
「元々は、サタンやルシファーはキリスト教の魔族だ。我の祖先も、元はギリシアに住んでいた。……今じゃ、キリスト教が様々な国に伝わったため、我の親族は相当多いんだ。日本では、我とルシファー家のみだ。が、本場に行けば、我の祖先に当たる者達も居る」
「魔族って、そんなに長生きするのか?」
「いや、魔族は死んでいるんだ。皆」
「精霊もか?」
「ああ。精霊もだ。貴様は、あの四精霊から聞いていなかったのか? 『精霊は亡霊でもある』って事を」
ああ、聞いた覚えがある。正確にいつ聞いたかは思い出すことは出来ないが、そんなことを聞いた覚えは確かにある。
「ああ、あるぞ」
「その言葉の通りで、精霊に限らず、魔族全般は死んでるんだ」
「じゃあ、魔法少女や魔法少年もか?」
「そういう訳ではない。魔力を使えしもの全てが死んでいるわけではない。……が、貴様も死んだら魔族になる。後世では、貴様は立派な魔族になると我は思うぞ」
「魔族……ですか」
「ああ」
魔族というものになりたくない訳じゃない。けれど、実は魔族じゃない後世の方がいい気もする。でもまあ、関わっていない者勝ちなんだろうな、こういうのは。現実世界では殆どそうだ。関わらないものが勝ち。そういうものだ。
「……ところで、凛。貴様に聞きたいことが有るのだが……よいか?」
「なんだ?」
「ニュクス ヘスティアは知っているよな?」
魔王様は「ニュクスヘスティア」とは繋げず、「ニュクス」「ヘスティア」と、別々に区切って言う。これが話に関係性を持っているのだろうけれど、もう少し話を聞かないと、一体何を言いたいのか分からない。
「ああ」
「元々、ニュクスとヘスティアは別の女神同士なんだ」
「女神……」
「ああ、女神だ。英語でGoddess。ギリシア語でThea《テアー/セアー》。彼女、いや彼女等は何かの事を経て、一つの身体になったはずだ」
「――な、なぜそう断言できる?」
「女神というのは、信仰される対象なのだ。魔族とは違う。『神』なのだからな。魔族は『神』ではない。『悪魔』だ。『悪魔』は信仰される対象ではない。討伐される対象なのだ。神のみが優遇され、悪魔は殺され、消され、血縁を絶たれ、家系を絶たれる。これまでどれだけの家系の悪魔の家系が絶たれてきているのか分かるのか?」
「知らない……」
「そりゃあそうだろうな」
「僕はこれでも魔法少年になって1周間も経っていないんだからな」
「ああ、それは意外だな」
「そうか?」
「ああ。意外に意外だ」
非常に驚いた表情を見せる魔王様だったが、事実、裏で何を企んでいるかは目に見えない。……魔王様は意外と純情な女の子だと僕は思うのだが、一体本当はどうなのか。そこを知りたいものだ。
「人間とは実に残酷であり、冷酷なものだ」
「魔王様、何語りだしているんですか……」
「いや、でも事実だろう?」
「……確かに」
確かに人間とは残酷冷酷な生き物だ。同じ種の者を罵倒し、殺し、自ら快感を得る。最悪な生き物だ。……けれど、僕らには喋ることが出来る。笑うことが出来る。冷酷残酷であっても、出てくるいいところはそれより多い。
まあ、『残酷』で上げれば他にも有るっちゃある。
「我は元々は人間であった……訳ではない。我の父はサタン、母はルシファーのそれぞれの家系の者同士だ。人間から血筋を分けてもらっては居ない」
「どういうことだ?」
「我の父……いやサタン家の婿は殆どの場合、そこらの女をレイプし、そして子供を強引に作り、既成事実を作った上で、結婚を持ちかけ、強引にこれまた結婚する。その為、基本的には魔族同士の結婚はあり得ないのだ」
「ということは、ルシファー家とサタン家の婚姻は、極めて稀なケースというわけか」
「そうなる。……そして、ルシファーから聞いたと思うが、現在の我の執事であるルシファーは、性別は男だ。だが、彼の母親に当たるルシファーは性別は女ながらも、男として20年間生きた。執事となるため」
「なぜ、執事なんですか?」
「……それは、分からない。が、一つ我の仮説的なものを挙げるとするならば、きっとサタン家とルシファー家が婚姻しないようにしたかったんだと思うんだ。元々、サタン家とルシファー家は対立していた。そして、サタン家が勝利した後、ルシファー家全員はサタン家の言わば『奴隷』となったんだ。おそらく、それ以後、奴隷ではなくなったものの、執事という職が出来、ルシファー家に逆らわぬよう、奉公を尽くさせるため、そして、今後長くルシファー家の子孫を『自らの家系の執事』にするため、男のみを産ませ、執事にさせたんだと思う。
結局は、ルシファーとサタンはくっついちゃいけない。そんな家系だったんだよ。……それに、ルシファー家は女を産むことは許されないわけじゃなかったけど、女を産んだら、確実にサタン家の一族の『奴隷』になる」
「その女が……ですか?」
「ああ」
「じゃあ、なんで魔王様の母親にあたるルシファーさんは……」
「我の母から聞いた話なんだが、我の母の父、要は我の祖父だ。我の祖父は、副魔王をした。その当時、我の父親の父にあたるサタンが突然他界した。新しい魔王になってもおかしくないサタンの息子、要は我の父親がその頃はまだ12歳だったらしく、『流石にまだ彼に魔王をさせるのは早いだろう』ってなったそうでな。それで、我の祖父は魔王の代理を8年間努めたんだ。20歳になるまで」
「ということは、平安時代の日本の摂関政治と似ているわけですね」
「よくわからんが……。摂関政治とは一体なんだ?」
「大丈夫です。日本史なんですが、今度教えましょうか?」
「いや、教えられる必要はない」
「それならいいです」
「……それで、我の祖父は非常に人柄が良くてね。サタン家の長年の恒例になっていた事を止めようとしたんだ。『レイプして女を妊娠させ、既成事実を作った上で結婚なんて止めよう』ってね。
でも、そんな話上手くいくはずもなかった。遺伝子的な事なんだろうね。我の父はやったそうだ」
「レイプ……ですよね」
「ああ。そして、その年に我の祖父は殺された」
「誰に?」
「知らぬ。が、殺されたのは事実である」
貯めていたのか、大きなため息を魔王様は一度ついて、話を再開した。
「そして、その当時まだ次期魔王様は16。あと4年残っていた」
「じゃあ、誰が……」
「当然、ルシファー家に魔王様になる権限は移っているわけだ。でも、なれる者はいなかった。我の祖父は殺されたんだ。それまで産んだ子は一人。しかも、女だ。対してサタン家は男一人のみ。でも、20歳以上でなければ魔王にはなれない。……話的に分かってたか?」
「ああ」
「で、その時に我の母親が魔王になった」
「それまでも、男として変装していたんですか?」
「さっき言っただろう。『20年間男として』と。我の母は生まれた時から男として生きる術を身につけられ、そして日々を積み重ねていった。考えてみれば、我の母は、女性初の魔王だったわけだ」
「お前も女だろ」
「我は女だ。触って確認するか?」
「その必要はない」
「その必要がないのなら、無理をして触られることもない」
「そうだぞ」
「……話を戻す。我の父は4年後、ちゃんとした魔王になった。そして、我の母は魔王の役職を失った。けれど、執事として『男として』生きていくことにした。そして、我の母親が実は女だったということが分かり、我の父は驚くわけだ。が、それから恋愛が発展したらしくて、今に至るそうな」
「最後のほう、凄い雑な締めな気がするが……」
「悪い。聞いていないのだ」
「人の恋愛を聞くのは恥ずかしいのか?」
「……凛。今、我の心のなかでうごめいているこの感情は何だと思う?」
「ストレスでしょ?」
「大体あってる。が、正確には『怒り』だ。この怒り、どこにぶつけよう?」
「僕の身体……なんちゃって」
「君はじつに馬鹿だな」
「ば、バカとはなんだ!」
「自ら己の命を絶ちに来るとは、これまたバカげた真似をするものだ。本当、人間というものは愚かで間抜けな生き物だとつくづく思うよ」
「い、言い返せない」
「まあ、こんな所で長話もなんだ。これ以上ここで話していたら職質でもされるかもしれない。貴様の家に案内していただきたいのだが、良いか?」
「どうぞ。つか、何のために迎えに来たと思っていたんだ、お前は」
「我は、我を殺すために貴様が来たのではないかと錯覚していた」
「僕はなんて悪な人間と思われていたんだ……」
「我にはトラウマがあるからね」
「……なるほど。それじゃあ、錯覚するのも納得です」
「納得、するのか」
「はい。……それじゃあ、空飛びます?」
「その必要はないな」
「え?」
「我の魔法、見てみるか?」
得意気に話す魔王様。魔王様は笑顔をこちらに見せた。
「魔王の魔法、意外と新鮮な感じですね」
「まあな。我はいわいるボスだからな。魔王ということもあるし」
「だから魔法はめったに使わないと」
「ああ」
「それじゃあ、お願いしますよ」
「わかった」
そういうと魔王様は、自らの目を紅に変色させ、付けていた眼帯を外した。外された眼帯の方の目は黄色く、魔王様の髪の色は、どんどんどんどん黒く染まっていくのがわかった。
「空間停止―――!」
その瞬間、車の音、人の声、風邪の音、その他あらゆるものの音が途絶えた。信号機も、電車も、観覧車も。全てが止まった。インターネットに繋がらない。テレビを見ることも出来ない。時計は短針が9、長針が3を指していた。
「これは……」
喋ることが出来るのは僕と魔王様だけのようだ。
「スペースストップ。その言葉の通りだ」
「じゃあ、悪魔の召喚とかも出来ないんですか?」
「当然だろう」
当然と言われても、僕からしてみれば全然当然じゃない。空間停止能力。凄まじい力だ。というか、これだけで相手を倒せると思うのは僕だけか? それこそ、どっかの学園都市なら、確実にこの能力はレベル5だ。……いや、レベル6、レベル7……。いや、レベル5にしておこう。そうしよう。
「……さあ、ここからテレポートを使う」
「……なんだと?」
「当然、空間停止能力は途絶える。まあ、テレポートして家に戻るだけだ。今のは、我の実力と考えてくれればいいぞ。……あ、そうだ。でも、テレポート使えないな。貴様の家行ったこと無いし」
「おい」
初歩的な考え不足じゃないか。もっと考えてから言ってほしいものだ。
「空を飛んで戻ろう」
「……あの、正直僕思うんですけど」
「ん?」
「この空間停止能力使うと、魔力結界要らないですよね?」
「まあな。これで事足りるし。それこそ、我はこれ以上の事もできるぞ」
「例えば?」
「心情入替!」
魔王様はそう宣言して技を発動させた。が、互いに驚く。
「わ、我が凛の体になった!?」
「僕が魔王様の身体に!?」
「心情入替!」
そして、もう一度心が入れ替わって元に戻る。
「……魔王様、マジすげえ」
「凄いだろ。まあ、この技を使えば、相手の考えていることも分かるんだぞ。なにせ、身体以外すべてを入れ替えるからな。だから、何を企んでいるかも分かり、時間も停止しているわけだから、相手は抵抗できない」
「魔王様、マジ怖いです……」
「そうか?」
「はい」
「それはすまない。まあ、これの姉妹技として、『身体入替』もある。これは体を入れ替える技だ」
「要は、合体と同じような事になるんですね」
「男から考えればそうだな。女は基本的に合体しても性別は変わらないしな」
「酷いもんです」
「そうか? ……母から聞いた一件聞くと、『男なんて皆女になればいいのに』って思うんだけどなあ。レイプとか聞きたくないし」
「そりゃあ僕もだけど、女になるのもなあ……」
「なってみる?」
「いいよ!」
「どっちの意味で?」
「嫌って方の意味だよ!」
日本語は同じ言葉で2つの意味を持つ言葉が多すぎるから困る。
***
結局、空間停止能力を解き、僕と魔王様は僕の家まで戻ることになった。当然、魔王様は僕の家の場所など知らないので、僕が魔王様を案内した。




