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Future  作者: 浅咲夏茶
4th Chapter;Asmodian of mythology and Gods of mythology.
41/127

Target:Rina -a date with Rin./episode40

 午後5時20分。陽は沈もうとしている。11月もあと1週間を切った。まもなく来る冬を、陽の長さが教えてくれる。

「待った?」

「あ、あのどちら様で……」

「里奈だよ! 会長だよ! 誰の提案だと思ってるんだよ!」

「か、会長……?」

「そうだよ!」

「露出度高くないじゃないですか」

「そういう服は持ってなかったんだよ!」

「……なるほど。それなら仕方ないですね」

 会長は右目に眼帯を付けていた。そして、耳にヘッドホンを付け、パーカーの帽子を被って、パーカーの腰ポケットに手を入れていた。胸ポケットには、スマートフォンを入れていた。カメラが光を反射し、目が眩しい。

「……会長、それじゃ行きますか」

「何処に行くんだ?」

「決めてないです。……まあ、会長も制服じゃないようですし、イコール変なことされてもいい、ってことですよね?」

「あのさ、変なとこ連れて行く気じゃないよね?」

「んなわけないじゃないですか」

「……だ、だよね」

「まさか、会長ホテルに連れて行かれたかったり?」

「ホ、ホテ……」

 会長は何を僕が言いたいのかわかったようで、すぐに照れた様子を見せた。

「大丈夫です。僕はホテルになんて連れて行きません」

「そ、そうか。それじゃあ、この後何処行くんだ?」

「そうですねえ。デパートでも行きますか」

「デパート? ……三宮のか?」

「神戸駅まで行きますよ。……あ、最初に言っておきますね、最後に観覧車乗るので」

「か、観覧車!?」

「そうですよ。神戸といえば夜景でしょ。六甲山行くのは大変なんで」

「そ、空飛べばいいじゃん」

「会長、たまには僕に案内させてくださいよ。てか、これは罰ゲームなんで、本当は会長口出しいちゃいけないんですよ?」

「そ、そうなの?」

「そうなんです」

「てか、そんなデートコースいつの間に……」

「さっき魔力使って空飛んできて、路地裏で検索してました」

「ググったのか」

「そうですね」

「……ま、まあ仮想デートだし、今日は案内よろしく」

「デレた?」

「な、何がだ!」

「デレてますね」

「デレてるとか何を言っているんだ、まったく……」

「すいません。僕もテンパってましたね。それじゃあ、行きますよ」

「何処へ?」

「言ったじゃないですか、神戸駅って」

「電車に乗るの?」

「そうです。地下鉄ですね」

「飛べばいいのに」

「だから、会長は今日、僕のいうことに逆らえないんですよ」

「……じゃあ、案内よろしく」

「はい」

 僕は会長を連れて地下鉄へ乗ろうと、近くの三宮・花時計前駅へ向かう。花時計からすぐの場所にあるため、そこまで徒歩で時間もかからない。そして、仮想デートとはいえ、僕は今度誰かとデートすることもあるだろうから、もしものため、本気でデートに取り組む姿勢を見せた。

 例えば、僕は車道側の歩道を歩くとか。出来る限り会長を僕の身体に密着させるとか。昼間、恋に色々とされたので、僕はここで、会長に奉仕しよう、そう思ったのだ。サディストというのは貫くが、そのためには相手を見ぬく必要が有る、と感じたのだ。それに、言葉の重み、言葉の選択など。難しいような、簡単なようなこと。そんなことを身につけるためにも、この仮想デートは役に立つと、僕は思う。

「会長。日も暮れてきましたね」

「11月だからねえ。つか、もうすぐ12月じゃん」

「会長の誕生日はまだ先ですよね」

「悪いな。……ボクは2月生まれだ。……あと、今は『会長』と呼ぶな」

「なんて呼べばいいんですか?」

「『里奈』。あと、デート中は敬語禁止!」

「わかった。……それじゃあ、里奈。電車に乗るぞ」

 歳は3ヶ月だけ僕のほうが上。それでも僕は、『会長』と経緯を持って接してきた。だから僕からすれば、『里奈』とタメ口で呼ぶのは意外と新鮮な事なのだ。


 ***


「乗るぞ」

 僕は里奈の分の切符も買った上で、里奈に一つ切符を渡し、もう一つを自分で持った。改札を通り、ホームへ向かう。僕は、里奈に手を差し伸べ、さりげないアプローチを掛けてみた。意外と、里奈はチョロインのようなもので、すぐにぎゅっと手を握ってきた。

 それを確認し、僕は更にアプローチに入った。一旦、差し伸べられた手を離し、今度は里奈の腰に右手を回し、僕の方に近づけた。

「早く乗るぞ、里奈」

 僕は電車に乗る。当然、先に里奈を座らせる。ギャルゲー、エロゲー廃人のかがみとして、そのような態度、行動は普通だと思うが、一応これが仮想デートなわけで、今度本番が訪れた時、今と同じように出来るかが今後の課題だ。

 

 里奈の隣に僕が座った時、丁度電車が動き始めた。帰宅ラッシュ。当然、うちの高校の制服姿も見かける。たまに、年寄りや妊婦を席に譲らない人を見ると、僕は嫌気が差すが、今日は居ないようだ。

「デート、楽しい?」

「まだアプローチしただけじゃんか」

「そうだな」

 小さな声で話す。それだけでも周囲の目線が気になる。何となく、周囲の人達が何を考えているのか想像はつく。「リア充氏ね」だとか「末永く爆発しろ」だとか。けれど、それは嫉妬である。所詮は嫉妬。自らがそのようなことの出来ない環境下に居るために、汚い言葉で叩くわけだ。

 こんなことをほざいている僕でも、前はリア充氏ねとか言う側だった。でも、今は別に彼女が居ないので、『超リア充』とまでは行かなくとも、『リア充』といわれる中に入っているんじゃないかあ、とは思う。


 数分程度でハーバーランド駅に到着した。そこからかけ足するわけでもなく、里奈の歩く速さに僕の歩く速さを合わせながら出口へと向かった。正直な所、僕はあまりこういうところへ来ているわけではない。ゲーマーだからね。

「じゃあ、この歩道橋を渡るよ」

「目の前国道と高速だし、横切るバカは居ないだろ」

「それもそうだな」

「それとも、ボクをバカにしているのか?」

「いやいや、バカにはしていないぞ」

 ああ、バカってことで思い出した。確か、里奈は僕と11月の中間テストが同じ点数だった。どっちも500点だ。主要5教科のテストでは。まあ、僕も里奈も、どちらもガリ勉というわけではないと思うのだが、それでこの点数をとっていると、たまに「お前優遇されすぎ」と幼馴染のSやRによく言われる。

 

 歩道橋を渡る。海の方へ近づくに連れて、風邪が強く吹いてきている気がする。そして、夕焼けも見え始めた。けれど、ビルによって太陽は見えない。

「ここ、街路樹あってロマンティックだよね」

「確かにな。駅から少しで凄いな、ここ。冬になったらカップルであふれるんじゃないの?」

「知らないよ、そんなの」

 そんな下らない笑い話を入れながら、僕と里奈は前へと進んでいく。歩道橋を降りたコンビニで、僕は里奈に肉まんを奢ってあげた。「おいしい」と微笑む里奈の姿は、本当にいつもの会長とは大違いで、眼帯をつけているかいないかで、服装か制服か私服かで、こんなに変わるとは思わなかった。

「美味しいな、この肉まん」

 寒い季節、肉まんはとてつもない威力を発揮する。おでんだと、汁が飛ぶと悪いっていうことで僕は肉まんを奢ったのだが、里奈曰く「おでんより肉まんのほうがボクは好き」とのことだ。


 街路樹が続く。少し上の方を見上げると、空高くに月が見えた。現在時刻は午後5時45分。寒い冬、神戸と北国を比べるのは良くないかもしれないけれど、この街でも冬は寒い。雪はあまり降らないので、降った時には交通網は麻痺する。大都市は、雪に弱いものだ。札幌や仙台などは強いイメージだが。

「あそこがデパート?」

「そうみたいだな」

「おい、案内はどうした」

「ネットがソースだから、ちょこっと曖昧なんですよ」

「ないわ」

 里奈から少しクレームの矢が飛んできたが、問題ない。昼間、恋にどれだけ苦痛を味わわされたか、僕のこの体が知っているからな。いつか見返す。そう、その時は倍返しで。……やられたらやり返す、倍返しだ。

「さあ、行くぞ」

 少し歩くスピードを早める。たしか此処は、uumieといわれているデパートの集まる施設、というかまあそういう場所だ。ネット上でお勧めと書かれたページが有ったので来たわけだが、今は夕時だ。人もいっぱいいる。

 街路樹を抜けながら進んでいく。街中のライトが徐々にその役割を担っていく。もうすっかり陽は沈み、上空は暗くなっている。けれど、街中のライトがそれを照らしているので、そこまで真っ暗というわけではない。

 赤い何かの模型だろうか。そんな物が置いてある入り口からuumieの中へ入る。しかしまあ、人混みが有るわけだ。休日ではないのに。

「里奈。なにか欲しいものとかあるか?」

「……うーん。ゲームセンター行きたい」

「お前、僕の資金を全額使おうと思ったりしていないか?」

「デートなんだし、普通の彼氏は奢ってくれるのにな」

「わかりましたよ。……じゃあ行きましょうか、ゲーセン」

 ため息を付く。本当は見せるべきでない姿だが、仮想デートだし、真剣に取り組むのはいいが、取り組みすぎてもダメだ。本番じゃないのだから、一定以上の力を出すべきではない。

「あ、スマバじゃん」

 ゲームセンターへ向かおうとしていた時、里奈がスマートステイバックス(通称:スマバ)を見つけた。コーヒーなどが売りの喫茶店だが、今の目的はゲームセンターだ。……ここはゲームセンターに先に連れて行くべきか?

 考えた末、僕は「後で来よう」と言って、ゲームセンターの方を優先した。

「なんでゲーセンなのさ」

「いいだろ。ゲーセンの方が階は上なんだし」

「まあそうだけどさ……」

「ほら、早く行くぞ」

「はーい……」

「浮かれねえな」

「だって、凛君そうやってボクの意見無視して、自分の意見ばっか貫き通すじゃんか! 少しくらいボクにも自由を頂戴よ……」

「いや、僕自身は里奈に十分いい思いをさせていると思うけどな」

「そりゃあ、自分で奢ってるんだから当然じゃんか」

「仕方ないな。そういう事を言う彼女にはこうだ!」

「んむっ!?」

 僕は里奈を僕の身体に密着させた。暴れられると困るからだ。

「じゃあ、里奈。早くゲーセン行くぞ」

「す、スマバ行くんだよね?」

「行くよ。……てか、無計画だからな、このデート。ゲーセンで色々として、その後スマバ行って色々と話でもしようぜ」

「じゃあそうする」

「よしよし」

 髪をなでてみる。にっこりと笑みを浮かべる里奈は、とてつもない破壊力を持っている。ゲーセンへ向かう途中に時計を見たのだが、もう午後6時を回っていた。「そんなに掛かるものかな?」と思いながら、僕は時の流れに関心を持った。


「何がほしい?」

「ここは……ぬいぐるみが欲しいな」

「意外と、女の子っぽい所あるんだな」

「いや、一人称『ボク』だけど、中身は女だからね?」

「里奈って生徒会長だけど、そこまで凛々しくないよね」

「どういう意味だそれは!」

「しかし、パーカー本当似合ってるよな」

「有り難う」

 話そうと思うのだが、一体何を話せばいいのか。僕自身も、素晴らしいデートにしようと無計画であっても、頑張ろうとしているのだが、そうそう上手くいくはずもなく。やっぱり、エロゲー内での『ヒロイン攻略プラン』じゃなくて、『デートプラン』のようなもの立てておくべきだった、と今更痛感する。

「ぬいぐるみ……うーん。熊でいい?」

「熊って顔文字で出来てるよね」

「まあな。……つか、それはどうでもいい。ふっ、この僕がたったの100円でぬいぐるみをゲットしてやろう」

 正直、それは自慢とか、そういうわけではなくて、僕の財布の中の資金があまり減らないように、という思い出言ったのだ。が、里奈には後者ではなく、前者の「自慢」という意味で捉えられてしまったらしく、撤回しようにも、信じこんでしまっており、困難を極めたので、いっそ此処は諦めてしまえ、と考え、撤回すること、話を修正することはしなかった。

「さあ、掛かって来い!」

 久しぶりのゲーセン。僕の腕は落ちていないことを祈りたいが……。慎重さを消し、磨かれた才能で対象物を取りに行く。熱い熱い、熱意が集まり脳内を埋め尽くしていく。

「どうだ!?」

 UFOキャッチャーのアームが熊のぬいぐるみを……持っている。そして、それを落としてくれたのだ。やった。一発で、一発で成功させた……。

「ふっ。どうよ」

「す、凄い……。たったの100円で、そんなことが……」

「正直100円あればハンバーガー食えるけどな」

「そういう事言わない言わない」

「はいはい」

 僕はゲットした熊のぬいぐるみを里奈に渡す。そして、次なる目的地、スマバへと向かう。早くコーヒーを飲みたい……訳ではないが、寒いので温まりたい、というのは一理ある。それこそ、ハーバーランド駅前、神戸駅前のコンビニに寄り、今度はアイスを買って、里奈の家にでも言ってアイスを食う、それでも何の問題もない。


 階を降りて行き、2階のスマバへと向かった。

 注文して少し経ってコーヒーが出てきた。僕はここで寛ぎたい気持ちもあるが、それでもやっぱりデート中なので、今の彼女である里奈をちゃんと見ている事が重要だと思う。ゲーマーとして、恥をかかないためにもな。

「最後は観覧車に乗るようだけど……」

「ん?」

「その後ってどうするの?」

「神戸駅でさよならとか」

「……も、もしよければ」

「ん?」

「ホテル、行きたいなあ、なんて」

「お前、頭大丈夫か?」

「そ、そうだよね。お金ないもんね」

「そうだぞ。僕には金が無い。ホテルに泊まるなんて、そんなこと金が無い僕に出来るわけがないだろう。……なあ、里奈」

「ん?」

「お前って、もしかして、財閥の令嬢とか、そういう人かな?」

「今更?」

「え」

「ボクは令嬢だぞ。お前、3年間高校に通って分からなかったのか!?」

「お、おう」

「嘘でしょ?」

「割とガチで」

「……まあ、金なら100万程度余裕で貸してあげれるが」

「す、すげえ。……つか、そんなに金あるなら僕じゃなくて里奈が奢れば良い話だったのに。なんでこれまで気づかなかったんだ……」

「隠しているからね」

「なんで?」

「うちの財閥、日本の中で1、2を争う財閥でさ。それで、例えばボクが『金持ち』ってことで、不良とかに絡まれてお金を奪われたら大変じゃん?」

「いや、それなのに僕に話していいのか?」

「ああ。でも、このこと話すのは凛君だけなんだぞ。ボクは口が堅いからね。あ、それと、この事バラしたら……キミをこの世界から抹消するから」

「それってつまり……」

「殺処分するって意味」

「さ、殺処分!?」

「声がでかいぞ、お前」

「さ、殺処分ってことは……」

「神戸港の時みたいに、お前に襲いかかる」

「こ、怖いなお前……」

「秘密を共有したんだ。堅い約束を交わしたんだ。破ったら……ね?」

 この時の里奈の怖さ、会長の怖さは、今までに経験したことのないような怖さで、僕の背筋は一瞬にして凍った。


 ***


 スマバで会計を済まし、後にして、僕は里奈を連れて観覧車の方へ向かった。あえて、夜の神戸を楽しむために外に出てから向かう。

「綺麗だな、観覧車」

 街路樹を一層鮮やかに染める観覧車のライト。今からあそこへ向かうのだ。しかしまあ、仮想デートといっても、本当のデートみたいだ。里奈から、僕にしか伝えていない、そんな秘密を聞くことが出来た。口を閉ざしておかないと、殺処分とか危険な事態に僕が陥るため、恋やエリザに話たりするのはやめておこうと思う。万一、家に帰って「何してた」と言われたら、「バイト探し」とでも答えよう。堂々とした表情で居れば、疑われることはないはずだ。

 僕も里奈も、お互いに口を閉ざして観覧車まで向かっていく。uumieの前の信号をすぎれば、次の信号はGosickと白色で描かれた6文字が、茶色バックの看板のようなもので付けられた、uumieのGosick館の目印前の信号だ。

 そして、僕と里奈はそこへと辿り着いた。お互い、特に面白いことを話すわけでもなく。寒いから手を繋いで向かったが、その頃の僕と里奈の間には、照れることなど一切無く、これが仮想デートだという事を感じさせてくれた。


 ***


「はい、どうぞ」

 観覧車の中に入る。係員に誘導され入る。観覧車はぐんぐん上昇し、神戸の町並みがよく見える。神戸ポートタワーが目下の海を挟んで向こうに紅く輝いて見える。振り向いて逆を向くと、今度は六甲山が見える。……暗いためよくわからないものの、目を凝らしてみてみると、明かりがチラホラと見え、そこが山の方なのだと知らせてくれる。

「しかしまあ、仮想デートお疲れ様でした」

「いや、ボクからも感謝感激感動の3感だよ。短い時間ながら、わがままとか聞いてくれて有り難うね。てか、マジであの肉まん美味しかったんだけど」

「里奈は肉まん食ったことなかったの?」

「無いって言えば嘘なんだけど、ああいう温かい肉まんは初めてなんだよ。ボク、基本的にコンビニとか寄らないし。昼食は基本弁当だし」

 いちいち里奈が昼食に何を食べるのか気にしていなかったのでそこまでは分からなかったが、それなら肉まんとかは食べないか。手作り弁当ならな。

「それは手作りか?」

「当然さ! ボクは意外と家事が得意なんだぞ! ……あ、オムライス美味しかったか? ……正直な感想を頼む」

「美味しかったぞ。文句なしだ」

「ありがと。んじゃ、あとはあの秘密をバラさないことだけだね」

「いや、あの秘密、バラしたら僕が処刑されるんだろ?」

「うん」

「それなら誰でも言うことはしねえよ。言うやつタダのドMだろ」

「確かに」

 里奈が笑った。そして、その時丁度観覧車の一番上の地点に到達した。あと半分。半分でこのデートプランも終りを迎えるんだ。……いや、返すのが本当の終わりか。それならまだ半分じゃないじゃないか。何が言いたいんだ、僕は。

「それじゃあ、仮想デートお疲れ様でした!」

「これ観覧車じゃなくて神戸駅でするべきじゃね」

「いいのいいの。ボクは凛君と仮想デートできて嬉しかった。またやろうね」

「なんだその約束」

「いや、また仮想デートしようってだけ」

「まあ、今度するときは僕がちゃんとデートプラン立てておくよ」

「よろしくお願いします」

 ペコリと里奈は頭を下げた。別に頭を下げる必要はないと思うが、下げたければ下げておいてもらえればいい。要はお辞儀なんてそんなもんだ。マナーとしての礼儀以外でお辞儀するときなんて、自分で決めてすれば良い話。いちいち僕が口を出す必要はない。

「お疲れ様でした」

 係員さんがそういった。彼は、相当ニヤけており、そのニヤケは僕らを指しているんだろう。凄いにやけているんだ。

「デートのラストですか?」

「あ、は、はい」

 係員の質問に里奈がそう答えた。係員は、「またお会いしましょうね」と笑顔で見送ってくれた。正直、僕は「デート」とか言われた時、ちょっぴりばかし、顔を赤く染めてしまった。気付かれなくてよかったものだ。


 また街路樹のある歩道を通って行く。涼しい風、暗闇を照らす光。そういったものが今、僕の心に温かみを与えてくれる。光という部分が。


 ***


「コンビニで何か買うか」

「ええ、いいよ。早く家に帰って温まりたい」

「そうか」

「うん」

「じゃあ、行きましょうか」

 僕が里奈の手を取った時、里奈の身体が何者かによって運ばれた。黒い面を被り、黒い衣装を身につけた、いかにも怪しい何者かが。

「待て!」

 僕は直ぐに気付き、その黒い服、黒い面を着けた何者かを追う。ゲーマーとはいえ、これでも昔は足が速かったほうだ。今でもなお、最速14.3秒(100メートル)の記録を持っている。自慢ではないがな。

「てめえら!」

 黒服黒面の者達が向かった先は路地裏だった。しかし、路地裏というのは暗いため、黒服黒面の者が刃物等の凶器を持っていた場合、僕は殺される可能性が圧倒的に高い。

 そこで僕は、スマホのライトで辺りを点灯した。

「……っ!?」

 案の定、黒服黒面の者達はナイフを所持しており、里奈は二人がかりで抑えられていた。そして、黒服黒面の者達は、ナイフと銃で僕を脅した。

「は、早くその場を離れろ。さもなくば、こ、こいつを……殺す」

「り、里奈! 魔力を……」

「魔力なんか僕らには効かないね」

 僕は先に魔力を開放した。そして、勢いで黒服黒面の者達から里奈を取り返そうと突撃する。

「貴様ら、僕の里奈を返せええええええええっ!」

「うぐあっ!」

「くっ」

 凄まじい力で男たちを振りきって、僕は里奈だけを抱きながら空へと飛ぶ。有難いことに、路地裏ということも有り、人は黒服黒面の者達のみで、バレタとしても、そいつらだけにしかバレない。それに、写真を撮っている一幕もなく、ネットにばら撒かれる心配もないと確信した。

「意外と楽に振り飛ばしたね」

「いやあ、執念っていうか。……まあ、彼女役やってもらってるんでね」

「それにしても凄かったね」

「ゲーマーなんで、意外とこういう身体使うことは慣れてないので、火事場の馬鹿力的なものだったんじゃないですかね。まあ、彼女役を助けるっていうのは、彼氏役のすることだと思いますし。……てか、会長なんで変身しなかったんですか?」

「ボクは凛君の力を感じてみたかったんだよ」

「はあ……」

 会長ももうすこししっかりとした頭を持ってほしいものだ。いくら学力がいいとはいえ、常識的なものがかけ外れていては、元も子もない。その点、恋って意外と常識人なんだなあ、と思ったりする。会長も常識人ではあるが、殺しにかかったことがあるからね。

「あの、前に神戸港の時に殺しにかかったのって、僕に秘密話して、もしばらした時にどうするか的なことのシュミレーションだったんですか?」

「それもあるね」

「こ、怖……」

「女は怖いんだぞ」

「あの、財布とか奪われてませんか?」

「うん。奪われてないよ」

「それじゃあ、僕が会長を会長自身の家まで送ってあげますね」

「いやいや、そんなことしなくていいよ! てか、ボクの家は超巨大だよ?」

「東京ドーム10個分くらい?」

「おしい! 東京ドーム14.3個分の大きさだよ!」

「で、デカイな、おい!」

「そうなんだよ。だから、移動にも車を使うんだよー」

「完全に令嬢って感じですね」

「そうそう。……だからさ、正門の前まででいいよ」

「――正門とか、入り口いくつ有るんですか?」

「7つ。正門、東門、西門、南門、北門、裏大門、第二南門。7つだね」

「あの、会長案内して下さい」

「嫌だよ。ボク、デートプランに口出しも出来ないし、案内なんて以ての外だよ」

「い、いやそれはもう終わったことじゃ……」

「終わってないぞ」

「あ、案内してくださいよもう」

「仕方ないなあ」

 会長は意外と優しいところがある。加減を知っているのだ。恋の場合、こういう所で加減を効かせてくれないから困る。


 ***


「おお、凄いなここ」

 空を飛行し、山の麓に位置する神戸市北区に会長の自宅、いや豪邸は有った。その豪邸は、とてつもない広さらしいが、暗い最中、上空からではわからない。それでも、相当大きいのだ。なにせ、正門と裏大門に光が付いているが、これまた相当離れているのだ。

「正門はここだよ」

「はーい」

 正門前に降り立つ。暗くて何処に家があるのかわからない。本当に巨大すぎて、広大すぎて、尊敬せざるを得ない。

「んじゃ、ここでさようならか」

「神戸駅から大きくずれたけどね」

「そうだな」

「ああ、でもまだ行かないでね?」

「なんでさ」

「えと、正直……怖い」

「はああっ!? あの、里奈。怖いのは分かるが、それじゃいつも帰れないんじゃ……」

「普段は空飛んだり、執事やメイドに迎えに来てもらったりしているんだけど……。今日は『迎えに来なくていい』って言っちゃったから、お父様には『成長したんだなあ』って言われて。それで、もうここでメイドさんが車で来るの待つの嫌だ。だって1分かかるし」

「それじゃあどうしろと」

「ここで、一緒に待ってて欲しいかなあ、って。……ボクじゃだめ?」

「……」

 無言になってしまう僕。やはりボクっ娘は素晴らしいものだと、今確認させられた。寒い冬、暗い夜。こんな中で1分も居たら、風邪引くだろう。1時間外にいる時よりはマシかもしれないが、それでも寒いから風引いてしまう可能性は十分にありえる。

 しかも、僕のパーカーをぎゅっと掴んでいる。その姿が本当に可愛い。愛くるしい。そして、何気に凄い僕に密着してきている。会長と密着なんて、初めてだ。いや、こんなことして車で迎えが来るまで待っていたら、一体どうなるものか。


 里奈がインターホンを鳴らす。現代モノのインターホンで、顔認識が搭載されているインターホンだ。そして、インターホンから一人の女性の声らしきものが聞こえた。おそらく、この家のメイドなんだと思うが。

 正直、僕もメイドが欲しかったりする。

「さ、寒いからもうちょっとくっつかせて」

「む、胸が……」

「そ、そんなこと気にするな。ボクは寒いんだぞ。女にとって寒さは敵なんだぞ」

「れ、令嬢。そんなことより、迎え、来てますよ?」

「あ」

 気づくのが遅い。もうちょっとくっついていたいってのも分かったが、いがと早くメイドさんが車に乗って到着した。一分も掛かっていない。

「お帰りなさいませ、里奈様。そちらの殿方は、里奈様の将来の彼氏様で?」

「い、いや、生徒会で一緒の凛君。きょ、今日は外が暗いから送ってもらった」

「里奈様、本当女の子の顔していますね」

「う、うるさい! は、早く戻るぞ!」

「はいはい」

「あ、それじゃあ、凛。ま、また明日」

「ああ」

 車に乗って里奈は戻っていった。

 こちらは一人寂しく寒さに当たっているわけだ。現在時刻は午後7時すぎ。魔王様が仕事を終えるまであと2時間程度。神戸医院まで行かないといけないのだが、まだ時間あるし、どこかで暇つぶしするか。

 結局、僕は家に戻ることにした。あと二時間も有るのであれば、先にご飯を食べていても大丈夫だろう、と思ったまでだ。


 僕はそのまま上空へ飛び上がり、家へと戻っていった。

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