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Future  作者: 浅咲夏茶
4th Chapter;Asmodian of mythology and Gods of mythology.
39/127

Target:Ren,Satan and Lucifer./episode38

「……9時だ。さあ、ミッションスタートだぞ」

「……病院行くの嫌」

「仕方ないだろ。つか、頓服薬で治ったとしても、一応見せておくべきだろ」

「ちっ」

 舌打ちする恋。僕は、動こうとしない恋を、少し強引に連れて行こうとした。が、恋は僕の手を振り切り、自分から動いてくれた。最初から動けよ、と言いたくなったが、ここでは言わないでおくが吉だ。

「……で、さ。チャリで行くの?」

「歩きたいのか?」

「な、なわけないでしょ!」

「だよな。……疲れるしな。それこそ、離れられると困るし」

「な、なにその台詞。凄い意味深なんだけど……」

「勝手に思ってろ。ほら、行くぞ。早く乗れ」

「いや、二人乗りは犯罪……」

「仕方ねえな。じゃあ……空飛ぶか」

「え?」

「空をとぶ。僕の背中に掴まれ」

「え、ちょ……。は? 待って、話についていけないんだけど……」

「僕はこれから空を飛ぶ。そして、お前は僕の背中に掴まればいい。ただそれだけ、それだけの話だ。深い意味は無い。ほら、早くしろ」

「し、仕方ないな」

 僕の背中に恋が乗る。そこまで体重は重くない。万一、僕が乗せられないような体重になったら、ニュクスにでも召喚して出てきてもらって運んでもらおうって手もあった。まあ、その手間が省けたから良かったよかった。

「どうだ、僕の肩車は?」

「胸から下は暖かいけど、胸から上が寒い」

「じゃあ、もっとくっつけば?」

「変態」

「お前の考えていることとは違うからな? 誤解すんじゃねえよ?」

「無理だね。誤解しちゃうよ。私はそういう人間だから」

「さ、最低だ……。あ、そうだ。保険証とか持った?」

「大丈夫……じゃない。ごめん、ちょっと取ってくる」

 バカだ。病み上がりで、しっかりとしている、っていう感じの恋とは少し違う恋になったのだろうか。でも、そんな恋もまたいい。


 ***


 恋はバッグを持って戻ってきた。ちゃんと保険証なども入れたらしい。そして、スマホも持ってきたらしい。……人が背中に乗せて運んでやろうってのに、自分はスマホいじるのか、と少しキレそうになったが、いつも恋に世話されているような僕からすれば、たまには恋にも寛がせよう、というふうな考えに変わっていった。

「よし。それじゃ、行くぞ。しっかり掴まってろよ」

「う、うん」

「……魔力、開放!」

 赤紫色の炎が僕の体を包む。恋はその炎を当然掴んでいるわけだが、熱くないらしい。むしろ「温かい」程度で、心配は要らないらしい。

「さあ、病院まで一飛びだ」

 空高く飛び上がる。高度は約600メートル。空気はやや薄くなってきたが、活動するには問題ない程度だ。それこそ、東京スカイツリーなんて634メートルであり、これくらいで「無理」なんて言っていたら、東京スカイツリーの上の方で作業していた人達はどうなるというのだ。作業していた人達に言わせれば、「甘えてんじゃねえ」と言われるに違いない。

 上空は涼しい。冷たい風が僕の出す熱と相まって、恋の体温と相まって、余計な寒さを感じさせない。余計な熱さも感じさせない。

「こうしてみると、神戸の街って東西に広いね……」

「今頃かよ。それくらい、ネットで調べて航空写真見ろよ」

「う、うるさいな!」

「悪い。……それじゃあ、結界張るわ」

「結界?」

「まあ見てろ。……魔力結界3!」

 初めて3メートルという範囲圏内に結界をはる。上手くいったようだ。しかし、3メートルの結界では、この姿で行動できる範囲が縮まる。そして、結界を張ると同時に、僕の右手のデビルマシンが起動した。「今までこんなことあったかな?」と思いながらも、「起動したならそれでいい」と思う僕が居た。

「よし、それじゃ行くぞ」

「はーい」

 僕は、恋を連れて病院まで向かった。


 ***


 病院のすぐ近くの路地裏で魔法少年の姿を解き、魔力結界も解く。誰かに見られていないか、辺りをジロリジロリと見る。居ないようだ。安心した。

 神戸病院は道路を挟んだ向こう側なので、横断歩道をわたって向かった。


 保険証を出して数分した。初めて来た病院なので、結構時間を取られた。けど、ちゃんと診察は受けれた。……そして一つ。男として、女の看護師の姿に少々の興味を持ってしまった。排除しようと、煩悩を消そうと努力してもなお、そういう努力は無駄に終わるのだ。

「隣の彼は、彼氏さんかね?」

「か、彼氏というわけではないですよ……」

 白衣を着たハゲたおじさんが、回転式の椅子に座っていた。胸のポケットには右から赤、黒、青のボールペンを付け、首から『仁志』という名札をかけていた。

「そうかそうか。ああ、そうだ。私からこれを渡しておくよ。今夜にでも使いたまえ」

 僕は白衣を着たおじさん、いや仁志さんからゴムを貰った。ゴム、つまりアレだ。夜ということからわかると思うが、アレだ。

「こ、これは……」

「彼女さんを悲しませないようにな。ああ、そうだ。ここには小児科と産婦人科もあるから、また来てもらいたいものだ。はは」

 僕は言い返す気もなくなった。この爺さん、酷いことを言いやがる。なんで平日朝の9時半から夜のテンションなんだ。恋も困惑している。が、看護師はニヤニヤとニヤけている。それに、この医院は診察する所がドアで区切られている、まあ普通の医院はそういうものだと思うが、区切られているので、ああもう、と逃げることも出来ない。話に加担しない、それこそが最前の逃げ道なのだろうが、話の相手が自分自身ならそれは無意味だ。

「……あの、早く診察を」

「済まない。……さて。彼女さんは、診察の為に服を脱いでいただきたいのだが……ああ、変な意味は無い。安心してもらっていい」

「だ、大丈夫です……」

「彼氏さんはどうだね?」

「いや、僕はそんな嫉妬とかはしませんので……」

 あれ。僕今、彼氏じゃないって否定しなかったよね。これだと、最悪「僕は恋の彼氏」っていう結論に至りそうだけど、大丈夫だよね。

「……それじゃあ、診察に移りたいと思う。恋さんは、腹痛とかはないんだろう?」

「あ、はい」

「咳はどうだ?」

「昨日はありましたが……今日は無いです」

「そうか。それじゃあ……熱は?」

「昨日は39℃までいったんですが、今日はまだ測っていないので……」

「それじゃあ、まずは体温を測ろうか。……体温計を持ってきてくれ」

「そこにありますよ、仁志先生」

 仁志さんは看護師に助言をもらった。

「ああ、すまない」

 流石に爺さんにもなってくると、脳の回転も遅くなってくるようで。仁志さんは、少し戸惑いながらも、体温計を見つけていた。

「自分で測ってくれ。もしくは、彼氏さんの手で。流石に私が測るというのはおかしいからね。彼氏さんも、測ってみたらどうだ。パートナーの身体に触れてみたらどうなんだね。スキンシップとして」

「仁志先生、あのですね……」

「なんだね?」

「恋は、そういう話にはすぐ照れるんですよ。なんで、あんまりしないでいただきたいかなあ、と」

「おお、そうかそうか。済まないね。……いやあ、私自身、学生と会話することなんて滅多にないからね。それに、カップルで来られるってのも、君らくらいだから」

「そうなんですか……」

「そうなんだよ。だからねえ、会話のテンポとか上手くないだろう?」

「じゃあ、最初のゴムはなんだったんですか……」

「あれはスキンシップだ」

「そ、そうなんですか」

 この先生、おじさん臭がぷんぷんする。医者ということで、確かにバカに出来ない人なのだろうけど、絶対この人『エロじじい』だ。話の内容から、そう推測できるからな。でも、もとはいい人なんだと思うけど。


 計測が終わり、音がなる。

「37.8℃。回復していますね。この調子で行けば大丈夫でしょう。咳が会ったらしいですが、インフルエンザの診断します? この時期は流行りますし」

「する?」

 恋は僕に聞いてきた。「いや、自分で決めろよ」と僕は言って決定権を委ねた。というより、もしかして恋ってこういうこと経験するの初めてなのかな。……でも、確かに恋が風邪引くのなんて、久しぶりだしな。前は何年の時だったっけか。それだけ、恋は体調管理ができているってわけだ。僕なんて、年に2、3回は体を壊しているというのに。

「じゃあ、お願いします」

「それじゃあ、鼻に綿棒を突っ込むけど、覚悟は大丈夫?」

「だ、大丈夫です」

 僕からも一つ助言を加えておくことにした。

「綿棒入れられても涙目になるなよ」

「ちょ、凛、それどういうこと?」

「やればわかるさ」

 僕の中のサディストとしての心が花開き、僕は少し顔に笑みを浮かべたあと、もう一度笑みを浮かべるのをやめた。そして、恋が鼻に綿棒を突っ込まれるのを見ながら、顔には出さずにニヤニヤとしていた。

「……っ!」

 恋の表情から見るに、恋は初体験なんだろう。……ヤバイ。泣き顔がとっても可愛い。しかしまあ、泣き顔を見て可愛いと思う僕もどうかと思うけど、それでも可愛い。目をつぶり、そこから涙を少し出していて、口もぎゅっと閉じているのだ。

「泣いたな」

「う、うるさいっ!」

「いやいや、初めてなのであれば泣かないほうがおかしいですよ」

 流石は医者。初めてか初めてじゃないか、すぐに見ぬいた。流石だ。

「それじゃあ、少し待っていてくださいね。ああ、別に腹痛がなくて食欲も有るのであれば、院内のフードコーナーでドリンク買って飲んでも問題有りませんからね。ああ、それでも暴飲暴食は避けて下さい」

「あ、はい」

「それじゃあ、また呼びますからね」

「はい」

 僕と恋は、戸を開けて、診察室を後にした。


 ***


 20分程度待って、恋が呼ばれた。僕も付いて行ったが、正直ついていく意味が無いようにも考えられた。が、僕が付いてきた意味は『インフルエンザで隔離された時に金を払う』為だ。だから、ついていかなければ本末転倒だ。

「大丈夫でしたよ。インフルエンザではなく、普通の風邪ですね。それに、回復の兆しが見えていますし、風邪薬を5日分出しますので、もらっていてください。ああ、飲み切る必要はないですよ」

「その薬は、もし僕が風邪引いた時に使っても問題無いですか?」

「無いですけど、そうされたとき、私達に文句言われても受け付けませんよ? あ、でも有料で貰ったりしないでくださいね。犯罪ですので」

「わかりました」

「あと、どんな副作用が出ても、文句言わないで下さいね」

「なんか法律に掛かりますかね?」

「掛かるんだよ、これが。詳しくは忘れたけど、犯罪だからやめてね」

「はい」

「それじゃあ、処方箋を貰って、様子見て、悪くなったらまた診察しに来て下さい。あ、君たち学生なら、帰り道で変なことするんじゃないぞ。学校に通報食らったりするかもしれないからな。現に若き頃の私もそうだった」

「そ、そうなんですか……」

 途中から一気に話が変わっている気がしなくもないが、経験豊富な歳をとった人の話は、意外とためになるやつが多い。ここは聞いておいて損はないだろう。


 ***


 処方箋をもらい、僕と恋は神戸医院を後にした。そしてまた路地裏で、僕は魔力を開放し、空へと飛ぼうとした。……のだが、その時、パーカーを来た少女が現れたのだ。灰色のパーカーに、赤色の髪。まるでそれは、鮮血の色のようだ。そしてその少女は右目に眼帯を付け、強い凛々しさを持って、僕に近づいてきた。

 路地裏。僕は追い込まれた。こんなところで死にたくないって。早く飛んでしまいたいって。けれど、この強烈な威圧感に、僕はひれ伏した。

「ま、魔力開ほ……っ!?」

 その瞬間、少女は僕の目のすぐ近くに突き刺さるような勢いで、剣を出してきた。一瞬僕の息が凍った。そして、僕はその場で、後ろへ、後ろへと移動していく。

「な、なんだ。何が欲しいんだ。欲しいものならなんでもくれてやる。ま、まずその剣を置け。お前の要望はなんだ、お前は誰だ、なんでこんなことをするんだ」

 アスファルトの地面に少女が剣を突き刺した時、辺りに地響きが起こった。

「ひぃっ!」

 少女は剣を地面に落とすと、目を閉じた。そして、何科を暗示したらしい。その瞬間、変化は僕にも訪れた。なんと、ニュクスなどの悪魔が現れたのだ。これでは、恋に言い訳をするのも無理だ。だから、僕はもう、開き直って恋に質問されたら何でも答えよう、そう決意し、覚悟した。

「凛、怖いよ……」

 僕の服に掴まる恋。ニュクスとウンディーネはギロリと少女を睨む。シルフはすぐに僕の近くに移動し、恋を慰めてくれた。サラマンダーは、ニュクスとウンディーネと行動を共にしていたが、剣を持つことはなく、淡々と僕に何が起こっているのか説明してくれた。

 デビルマシンに、IP通話であろう。サラマンダーから通話の着信が来た。

 すぐさまヘッドホンをつけると、サラマンダーは察したらしく、コメントで、要は文字で僕に現状を伝えてくれた。

『目の前の少女は魔族界の現魔王、サタンルシファーです』

 あの少女が、サタンルシファー……。とっても意外だ。けれど、右目の眼帯は見えたが、左目の色は見えなった。

「ご主人様、あの少女は魔王です」

 ニュクスが今サラマンダーから聞いた話をしてくれた。そう言うと、ニュクスは剣を構え、ニュクス、ウンディーネと魔王との攻防が始まった。

『マスター、結界を』

『ノームか?』

『はい』

 サラマンダーと同じ所にノームが現れた。少し遅れて召喚されたらしい。

 悪魔に結界を張れと言われたため、僕は結界を張った。

「魔力結界500!」

 500メートルを選択する。高さ500メートル、僕を軸に半径250メートル。今更だが、当然地下も範囲だ。まあ、大体500メートルくらいあれば十分だろう。

「ご主人様。あの魔王、どうしますか? ……攻略しますか?」

「まあな。僕は会長に攻略と断っているからね。攻略で行かせてもらうよ」

「分かりました」

「それじゃあ、お前等、戻れ!」

 闘うわけではないので、召喚してもらった恩を忘れず、僕は皆を戻す。人型、話を聞いてくれる悪魔を倒すなんて、そんなの嫌だ。殺すなんて以ての外。話し合いで解決する、それが日本の常識なはずだ。それがダメなら武力行使すればいい。けど、まずは話し合い。僕はそれが一番だと思う。

「り、凛……?」

「ふっ。待ってろ、そこで。僕がこの女を攻略する」

「攻略って何? デレさせるの?」

「よく分かるな。アニメとか見てるの?」

「……最近、攻略とかデートとかで落としたりデレさせたりするアニメあるからね。私はラノベマスターになるべく、アニメは欠かさずチャックしているのさ」

「うわ、キモ」

「ひ、酷くない?」

「ごめんごめん。まあ、見てろ。つうか、これ終わらせないと、会長とデート出来ないんだよ。……ああ、心配すんな。罰ゲームみたいなもんだから」

「うわ」

「いや、ちゃんと会長に言ってあるし。仮想デートだし。練習だし」

「最低だな」

「五月蝿いな!」

「全く……」

「小学生は?」

「最高だ……言わせんなこら! はよしろ!」

 いいノリツッコミだ。そして、ここからが本番という場面なわけだが、ここで一体魔王をどう口説くか。……それよりもなにも、魔王がまだ口を開いていないので、これではどうしようにもならない。

「君、魔王だって?」

「我は魔王。貴様は勇者の孫か? ……違うな。魔族を従わせているということは、魔法少年か。……それより、貴様は我を倒したいのだろう?」

「いや、僕は倒さないぞ」

「そうか。それはよかった。我も命を落としたくはない」

「ふっ。僕はね、美少女を殺すなんて言う、クズみたいな思想は持っていない」

「平和主義というものかね?」

「まあそうなる。……ところで」

「なんだ?」

「貴様、あの医院で働いているようだが、履歴書などはどうしたんだ?」

「ああ、履歴書は他人の物を利用していた。我の力を用いれば、人間など簡単に催眠状態に出来る。当然、強引にレ●プすることも不可能ではないのだ」

「でも、魔王は女だから、される側じゃないの?」

「……貴様、我に狩られたいのか?」

「『駆逐してやる』ってか。……バカなことを言うな。抵抗しない人間に、魔王を手を出すのか。流石は悪だな。本当に悪だな」

「我は現魔王だが、我の家系は元々魔王をしていたからな。いわば悪の遺伝子というものが引き継がれて居るわけだな。仕方ないだろう」

 魔王は誇るように言う。流石は悪の家系。それすらも誇れるのか。僕からしてみれば、誇ることが出来る時点で凄いと思う。色んな意味でな。僕なんて、誇れることは数えるくらいだ。エロゲーが大好き、だとかそういうこととかね。

「魔王様、倒さないのですか?」

 丁度その時、魔王の後を追ってきたのか、執事姿の男が現れた。彼もまた何かなのだろうけど。きっと、魔王の側近とか、そういう役職だろう。

「彼は?」

わたくしは『ルシファー・ヘイラ』ともうします。ルシファー家の長男であり、魔王様の執事をしております。捉え方によっては、使い魔とでも呼ばれます」

「使い魔……か」

「はい。それと、私の家系は代々魔王様の執事をしておりまして。まあ、その中でも男装して執事をしていた者が居るのですが、その者が現代の魔王と結婚し、子を育み、今のこの魔王様が産まれたわけです。だから、名前が『サタンルシファー』なのです。……ああ、私は男ですが」

 別に男装執事とか、そういう展開狙っているわけではないのだろう。けど、代々同じ家系が、何処かの家系の執事をするっていうのはどこかで見た気がするのだが。けれど、魔界の人間……いや、魔王や側近にそれはわからないだろう。

「そして、魔王様。一つ提案がございます」

「なんだ?」

「その魔法少年の悪魔になってはいかがでしょうか?」

「……何を言っているんだね? 我がこの男の悪魔だと?」

「その方が、私の仕事も減りますし」

「結局は貴様の都合じゃないか。我は認めんぞ、そんな事」

「いいじゃないですか。……それじゃあ、凛様キスをお願いします」

「……え?」

 魔王の側近からとんでもないことを言われた気がする。

「え? なんだって?」

 難聴主人公のような素振りを見せるが、結局は魔王の側近にニヤつかれて終わる始末だ。……それならしないほうがマシだったか。

「……ですから、キスしてください」

「男にキスする趣味はないぞ」

「いや、私じゃないですよ。魔王様にキスです」

「だ、だから我は……」

「私は魔王様がされそうなメスの顔をしているので言ったまでですが」

「お前は女心がわかってないな! 別にキスとかどうでもいいんだよ!」

「いやあ、絶対キスしたそうな目をしていますね。それこそ、男側がそれに答えないと。……それこそ、初めてじゃないんですか、ああいう男は」

 僕は首を傾げ、「どういうこと?」と問いかける。魔王の側近によれば、それまで魔王を見つけた者は殆どが闘いを挑んできたという。そして、致命傷を負わせようと奮闘していたらしいが、結局は皆負けてしまったらしい。

 そういうことから考えれば、僕のような「攻略」で行くような男は珍しいのか。それもそうだ。女の子を攻略し、もしくはデレさせるなんていうのは、ごく限られた数しか僕も知らないしな。たまにエロゲやギャルゲで、ヒロインを攻略しながら、魔族なんかを倒す、というものも存在するが、それすらも希少価値だ。そうそうお目にかかれない。

「キス、キス、キス……」

「お前、意外とテンション高いんだな」

「ルシファー家は元々こういう一族ですから」

「サタンとかルシファーってヨーロッパだったっけ?」

「ええ。なので、基本的にテンションは高すぎるのが普通でしょう。欧米人は」

「魔族と人って違うでしょ……」

「すいません。けど、早くキスしてくださいよ。魔王様だって、もうデレてメスの顔になっているわけですしね。早くやっちゃってください、凛様。……いや、凛兄様とでもお呼びいたしましょうか」

「その呼び方は何なんだ……」

「早くキスしてやって下さい」

「やらないと駄目か?」

「駄目です。やってください」

「ちっ」

 僕が舌打ちすると、ルシファーはニヤけた。だが、丁度その時、僕の服を引っ張る一人の少女が現れた。……恋だ。少女というわけでもないのだろうけど、一応少女にしておこう。

「どうした?」

「私の彼氏を渡したくない」

「いや、僕は別にお前の彼氏じゃ……」

「幼馴染じゃん。だから、渡したくない」

 恋は、そう言うと僕にくっついてきた。温かい。けど、背中に柔らかい物が当たる。……柔らかいな。変なことを想像するんじゃない、僕の心よ。

 ルシファーは更にニヤけた。そして、抱きつく恋を尻目に、ルシファーは強力な力で魔王を押し、僕にくっつかせてきた。

「んむっ!?」

 ハプニングのような感じで、唇同士がくっついた。そして、ルシファーは笑顔を見せて魔王に言った。

「さあ、魔王様。この男の悪魔になりましょう」

「わ、我は嫌だぞ、此奴の悪魔など……」

「それなら、力尽くでも悪魔になってもらいますよ! ……凛兄様!」

 名前を呼ばれる。初めて弟ができた。……ノームは男だが、女みたいな存在だからな。「性別:ノーム」にしても問題ないんじゃないだろうか。どこぞの作品でも、そういうふうにしている事例があったし。よし、決まりだ。

「は、はい?」

「私を、凛兄様の悪魔にして下さい!」

「え、ちょ……」

「嫌と言ったら斬りますよ」

「ちょちょちょちょ、それは無いだろ?」

「……じゃあ、悪魔にしてくださいよ」

 髪の毛を弄くる。そして、少々ため息を付いた上で、「分かったよ」と僕は呆れたように、負け犬のように言った。

「ありがとうございます。それじゃあ、ご契約完了なので、強制的に魔王様も貴方の悪魔になりますよ! 良かったですね!」

「い、いや我は……や、やめろおおっ!」

「魔王様、いい加減諦めたらどうですか?」

「あ、諦めない! 我は諦めん!」

「じゃあもういいです。魔王様は魔法陣に戻らないで下さい。……はー、やっと私にベッドが来る! 敷布団だと寒さに耐えれないんだよね……」

 完全にくつろぎ始めたルシファー。流石は欧米人。ギャップも激しい。エリザもそれなりのギャップがあるし。……本当、日本と世界って意外と同じ所も違うところもあって面白いなあ、とつくづく実感する。

「さて。恋。僕の背中にいつまでいるんだ?」

「温かいから離れたくない。それに、運ぶの楽になるでしょ」

「仕方ないなあ。どうせ明日には離れるんだろうし、いいやもう」

「分かった。じゃあ寝る」

 こいつもか。お前も寝るのか。……悪魔なら余計な負担にならないのに。人間を悪魔には出来ないだろうけど、出来れば悪魔化したいものだ。『幼馴染が実は悪魔』っていうのも、あってもいいかもしれない。

「り、凛と申すのか?」

「僕の名前? ああ、凛だよ」

「り、凛と申すのか。……なんというべきだ?」

「今背中で寝てる恋は僕のことをそのまま『凛』と呼ぶし、僕の持っている悪魔は『マスター』、『ご主人様』、『凛様』、『凛兄様』……とか、色々と言っているぞ。まあ、どれでもいいがな、僕は」

「じゃあ、『凛』って呼ぶ。……ああ、『駄犬』とかの方がいいか?」

「僕はマゾヒストではない。サディストだ」

「じゃあ、我はどうすればいいのだ?」

「普通に行動すればいいけど……名前なら、普通に『凛』でいいや」

「じゃあ、凛。凛。凛……。うーん、女っぽい名前だな」

 いきなり言われた。結構突き刺さるんだよなあ、そういう事言われると。しかしまあ、こんな簡単に魔王を攻略したわけだ。ストックが少ないのだろうか。それとも、作者が急いで書いているのだろうか。……話が短すぎる。つか、そうそう落ちないはずなんだがな、人間は。すぐ落ちるのはゲームの世界の話で、リアル世界じゃ通用しないはずなのに。

「あ、そうだ。お前、医院で働いているなら、戻らないとマズイんじゃないか?」

「あ、ごめん……」

「なんて言い訳するんだよ」

「いや、患者様が処方箋もらい忘れたから届けに行ったんだって」

「ひどい話じゃないか」

「悪いな。嘘を本当としてしまって」

「そうだぞ。……まあ、僕も高校生だからそういう事はわからない。……あ、そうだ。お前、仕事何時に終わる?」

「医院が閉まるのは午後7時なので、少なくとも帰宅は9時ぐらいだと思われ」

「9時か。……普通に残業みたな事になるんだな」

「そうだ。医者は数が少ないから、ほぼ毎日残業との戦いだ。それに、ここはそれなりに規模も大きいし。……迎えに来てくれるのか?」

「迎えに来てやるよ」

「あ、有り難う」

「魔王のくせに、感謝を伝えられるんだな。感激だ」

「我は知識が無いわけではないぞ」

「悪い、誤解をしていた」

「そうだそうだ。誤解はちゃんと解かないと」

「そうだね。……それじゃあ、僕は恋をおんぶしながら戻ることにするよ」

「わかった。それじゃあ、また」

「ああ。僕はこの路地裏で待っている。21時前でいいか?」

「21時前でいいぞ」

「それじゃあ、また」

「お、おう!」

 ぎこちない挨拶をかわされた後、僕は恋をおぶって空へと羽ばたいていった。

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