Target:Ren and Rina/episode37
「Good morning,Rin!」
「会長……貴方今何時だと思っているんですか……」
「午前2時。フミキリに望遠鏡ってことはないけど、2時だよ」
「さらっとネタを入れるのやめて下さい。……で、エリザはどうしたんですか?」
「起きてくれなかったので、凛君だけを連れてきたのだ」
「……こっちは幼馴染の看病をしているというのに」
「じゃあ、ごめんなさい」
「そうですよ」
「あ、そうだ」
「なんですか?」
「凛君、凄いぐーぐーって寝てて、起こそうとしても全然起きなかったから、諦めようと思ったんだけど、生憎、生徒会メンバー全員にメールしたのに返信ないからさ、結局起こすことにしたんだよ」
「酷い理由ですね」
「で、その時に、最初間違えて媚薬飲ませちゃったから、ごめんね」
「媚薬、ああそれくらい……は? ……会長、今なんて」
「媚薬飲ませちゃった。……相当な量だから、後々大変なことになるかも」
「で、それであとは何飲ませたんですか?」
「目を覚ます飲料。いずれも、水なしで飲めるタイプ」
「……最悪だ」
「ほ、本当にごめん!」
「いいですよ、別に……うっ」
どれだけ媚薬を飲まされたか、僕は知らない。が、僕は今、非常に危機的な状況に陥っている。このままでは理性が崩壊した瞬間に、狼になる可能性が高い。それに、会長に手を出してしまう可能性が高い。
そして、媚薬の効果だろうか。呂律はそれなりに回るのだが、頭の中が真っ白になっていくのだ。このままでは、魔族討伐など到底出来そうにない。
「だ、大丈夫?」
「だ、大丈夫なわけ、無いじゃないですか……。でも、こんな状態で僕に魔族討伐しろなんて言われても、力なんてそうそう出せませんよ……」
「そういう時のために、合体っていう消去法があるんだろ」
「……また僕の性別が変わるんですか」
「悪いな!」
「なんでちょっとキレ気味なんですか……」
「いや、キレてないよ」
「そ、それなら安心です」
「安心するのかよ」
「……はい。……なんか、こんな深夜に合体とか意味深ですね」
「うるせえよ」
「はいはい。じゃあ、お願いします……うぐっ」
合体という風に言っていたはずだったのだが、僕の口を会長は抑えた。息を使用にも、そう簡単に息はできない。しかも、それなりに強い力なので、安易に立ち向かおう、だなんて以ての外なのだ。
「会長、前に僕のことを殺そうとしましたけど、本当は僕って会長にとってみると、うざったい存在で、消し去りたい男ですか?」
「……そういう訳じゃない。それに、今のやつも、ちょっと寒いからお前の体温で温まろうとしただけだ。それに、神戸大橋の一件は私も気が狂ってしまった。悪かった」
「今謝ってくれたからいいものの、謝ってくれていなかったら……」
「ご、ごめんな」
「いいです。それに、そろそろ『ボク』口調に戻って下さい。僕はそっちのほうが好きなので。まあ、僕と一人称被りますけどね」
「カタカナと漢字だから、話し方は異なると思うけどね」
「アクセントでしょ?」
「ああ、そうそう。じゃあ、ボクに変えます……」
「どうぞ」
「え、えと、ボクと合体して下さい……」
その言い方は効果抜群過ぎる。『合体』という言葉自体意味深長だというのに、それ以上に更に、更に、上目遣いというのは強烈だ。
「……あのね、会長。上目遣いに僕が弱いの知ってる?」
「うん、知ってる」
「じゃあ、なんでするの?」
「飲ませた媚薬がどういう風に効果を見せてくるか知りたいから」
「下衆の極みですね、会長は」
「それを言うならサディストと呼んで下さいな」
「会長はサディストでも、マゾヒストでも、どっちでもなくて、どっちでもある、要は適応能力のある人だと思いますけど。だから媚薬飲ませたんでしょ?」
「いや、媚薬の件に関しては言ったと思うけど、起きさせる薬と間違えちゃってさ」
「あのね、人に媚薬を飲ませるってことはね、それなりの覚悟がいるんだぞ?」
「た、例えばどういう……」
「会長。一応、僕も高校3年生です。それに男です。性欲も当然有るんです」
「ま、まさか、凛君野獣になんてならないよね? ……ね?」
「もし、なるって言ったらどうしますか?」
「ぜ、全力で逃げるよ! 合体なんて撤回だよ!」
「じゃあ、野獣にならないように努力します。……ただ、媚薬入ってるんで、今本当脳内の回転が悪いんです。……出来れば、今すぐにでも寝たいんですが」
「仕方ないなあ。……って、魔族討伐が先だ!」
「ですよね……」
「ほら、行くぞ」
話の切り替えが早いのか。それとも、媚薬のために考えることすら難しくなっているのか。息を荒くしているわけじゃないし、身体をビクビクさせているわけじゃない。だが媚薬の影響からか、引っ張られただけで僕の身体が反応したのだ。ビクビクした訳じゃないんだが、反応を見せたのだ。
「あのさ、会長。マジで、僕の分戦って下さい」
「三年生が弱気でどうするんだ」
「それは会長もでしょうよ……」
「じゃあ、凛先輩。先輩が弱気でどうするんですか。……ボクの思う先輩は、そんなことで挫けません。だから……」
会長に初めて先輩と言われた。年齢としては、今は僕も会長も歳は同じだ。だが、12月12日、その日で僕は18を迎える。まあ、会長はそれからもう少し遅れて18を迎える。だから、先輩と呼ばれるくらい年齢は離れていないはずなのだ。
「……会長、その目で先輩って呼ぶのやめて下さい」
「可愛いから?」
「そうですね、それもあります」
「有り難う」
「いえいえ。……って、早く魔族倒すんでしょう?」
「いや、それが……」
「ん?」
「今回の魔族は、ひと味ちがうんだ。何でも、今回の魔族討伐には……」
会長は、それまでの優しい目から一変、ぎろっとした目でこちらを向いた。
「魔王が居るらしい」
「魔……王……?」
「ああ。魔王だ。魔王。そして、今回討伐、いや攻略するのは……」
ゴクリと僕は唾を呑んで、会長が何を言うのか心をバクバクさせながら待つ。
「今回攻略する魔王はそう、『超魔王サタンルシファー・ジ・エンド』だ」
「性別は……」
「良かったな、女だ。またハーレムメンバーに追加されるぞ」
「うるせえな。……でも、サタンとかルシファーって、男じゃないの?」
「いや、それは私も知らないけれど、男だとしても、女になることは有る。それこそ、彼女が魔王の娘、と考えることも難しくないと思うが」
「家系が同じだから、魔王と?」
「……いや、違う。『超魔王サタンルシファー・ジ・エンド』は、女だし、現魔王だ。昔魔王をしていた者と同じ名前なんだ。だから、娘か」
「よ、よくわからないが、要するに、『超魔王サタンルシファー・ジ・エンド』は女で、魔王一族の家系で、大体そんな感じで?」
「更に有りますか、的なこと聞くな。もう言うことはねえよ」
「会長……」
「どうした?」
「教えてくれてありがとうございます」
「そうかそうか。それは良かった。……それより」
「……?」
「合体の件、無しでいいよな?」
「はい、大丈夫です」
「そうか。それじゃあ、ボクはここで帰るぞ。攻略はお前一人で出来るだろ。……噂では、その魔王は神戸市内の中央区の何処かで勤務しているらしい。確か何処かの病院だったような……。まあ、恋の看病と同時に、魔王を攻略して来てくれ。あ、そうだ。命令させるなら、褒美も居るよな。何がいい?」
ここで僕が何か言えるのか。でも、流石に『会長のおっぱいペロペロ』なんて事は無理だろう。……となると、仮想デート。会長とデートして何になるというのだろうか。
と、その時ゲーム脳だからか、僕の脳内には選択肢が2つ現れた。
① 会長の胸を触らせてもらう。
② 会長と仮想デートをする。そして、恋を嫉妬させる。
クソ。なんて際どい選択肢なんだ。ここでどうしろというのだ。1でも2でも、どっちにしろ会長から「うわ」と引かれるのは明白だ。
それなら、これを無しにしてもらうのか? ……いやいや、またとない機会なんだぞ。ここで逃したら、いつ巻き返すというのだ。
「ここは、②だ。恋を嫉妬させるのは無しとしても、会長とデートは有りだ」
「で、デート?」
「そうです。デートですよ。会長、もしかしてデート初めてですか?」
「ななな、なわけな……」
「誤魔化そうとしたって無駄です。……それじゃあ、魔王を攻略したら、会長と放課後デート、いいですか? それと、ちゃんとした服で来てください」
「た、例えば?」
「露出度が高い服とか、そういうのでお願いします」
「変態」
「会長こそ、僕を殺しかけた罰なんですから」
「……わ、悪かったな。で、でもデートで露出度の高い服とかどんな服着ればいいのさ。ボクは、そんな露出度の高い服なんて持っていないぞ」
「じゃあ、制服でいいです。……但し」
「ん?」
「超ミニスカでお願いします。当然、ニーソックスもお願いします」
「……やらなきゃダメ?」
「罰です」
「……ちっ」
「あ、今舌打ちした」
「わ、悪いな! きょ、今日は解散だぞ。私はもう、家に帰る!」
「照れるな照れるな」
「照れてない!」
会長はそのまま魔法少女の姿のまま、姿を消した。……結局、僕はただ会長に強引に起こされ、媚薬を飲まされ、挙句の果てに自らの性癖にあうような格好をデートでしてこいと言う、という暴挙に出たわけだ。
冷静になって、ようやく媚薬の効果の強さを実感した。
「あーあ」
後悔した時、それは僕が負けたという時と同じというわけだ。そう、つまり僕は今、媚薬との戦いに負けたわけだ。……クソ。
「ま、帰るか」
バトルで倒すわけじゃなく、攻略して相手を落として倒す訳だ。ここで寝不足になっていてはどうにもならない。……それより、家にいる恋の安否のほうが心配だ。死ぬことはないにしろ、さらに熱が上がっていたりでもしたら大事だ。
「さあ、戻ろう」
僕は、魔法少年の姿で家に戻っていった。
***
病院に魔王が居るっていうのも意外過ぎるわけだが、それは夜が明けて、恋を病院に連れて行った時に攻略対象を見つけ出せばいい。……あ、重要な事を忘れていた。どうやって魔王を見つけ出せばいいのかということを。
「後で電話しよう」
スマホは家においてきた。デバイスから電話をかけられたとしても、方法がわからないのだから、どうにもならない。どうせ、家に戻れば会長だって着替えるはずだし、この時間だから寝るはずだ。
「ただいま……」
家の中に入る。鍵が開いていない、ということはおそらく、会長がここから入ったということだろう。それなら、ちゃんと閉めてから出て行って欲しいのだが、流石にその時は僕も寝ていたし、どうこう口出しは出来なかった。
「……恋は起きたかな?」
暗くてよく分からなかった。部屋に最低限の明かりをつけ、恋が寝ているか確認したが、恋は起きていなかった。丁度、恋の枕の隣にマスクが置いてあった。きっとそのマスクは僕が付けていたマスクだと思う。
「午前2時半か。……寝ようかな」
マスクを再度付け、僕は布団に入った。恋の体温と、それまでここに寝ていた僕の体温が布団を温かく、心地よくしていた。だから、すぐに眠りにつくことが出来た。
***
翌朝。朝の7時。窓から入る日差しが僕を目覚めさせた。目覚まし時計を付け忘れたためか、僕は早く起きれなかった。隣には、ぐっすりと寝ている恋の姿があった。そして、この一夜の中で、僕は恋の身体をぎゅっと掴んでいたのである。それはもう、恋をまるで抱き枕のようにして掴んでいた。
「うわ……。でも、可愛いな、寝てると」
静かな朝。恋の部屋は、外を見れる窓が僕の部屋との窓意外にない。だから、外の様子をそう詳しく伺うことは出来ないが、昨日とは違い、今日は秋晴れの天気のようだ。
そして、静かな部屋に一つの音が響いてきた。それは僕の部屋の方からではない。恋の家の台所の方から。僕の部屋にはカーテンが掛かっておらず、おそらくエリザが作っているのだろう、と想像はつくのだが、もしかするとエリザ意外の人が作っている可能性も0ではない。
「降りるか」
僕は恋の部屋を出て、リビングへ向かった。そこでは、エプロンを付けた会長の姿があった。そこに居たのはエリザでも、姉ちゃんでも、妹でもない。もちろん悪魔でもない。そう、会長だったのだ。
「か、会長、朝から何しているんですか……」
「いやあ、ちょっと伝え忘れたことがあってね。何か他に聞きたいことがあったら最後に教えてあげようと思ったまでなんだけど、無い?」
「いや、大有りだよ」
「た、例えば?」
「魔王はどの病院にいるのか、そしてもう一つ。なんで会長がここに居る?」
「魔王は、神戸病院にいる。で、ボクがここに来たのは、さっきも言ったけど、『凛に一つ、何かいい忘れたことがあったから伝えよう』と思っただけ。それに、さっき凛を叩き起しに来た時、恋が寝ていたし、机の上に薬が出ていたから、『風邪引いたのか』って察してね。じゃあもう、朝飯作ってやろうってことで、凛が3時過ぎに寝たのを確認して、朝飯作っていたんだよ」
「ありがとうございます、会長」
「いいんだよ。ボクの今作れる、最高級のメニューで作ったから。それと、今日は凛休むのか? ……凄い元気そうだけど、愛する彼女のために看病か」
「あ、『愛する彼女のために』って、会長何言って……」
「でも恋のこと、嫌いじゃないでしょ?」
「嫌いじゃない。……嫌いじゃないぞ」
「ほら。それじゃあ、攻略してボクとデートしたら、恋ちゃん悲しむんじゃないの?」
「大丈夫です。仮想デートなので。……もしかして、会長本気でした?」
「ほ、本気とか。……お、女の子の恋心をデートとか言って操るな!」
「恋心、ですか」
「わ、悪いな、そういうこと言って。……ああもう、私は今日も平常運転で学校行くんだから、早く食え。別に残してもいいから、恋の世話頑張れよ」
「ちょ、会長先行かな……」
「こっちは朝の挨拶があるんだよ! 副会長休んだら、会長が行かないで誰が入って挨拶するってんだ。お前は恋をちゃんと世話しろ」
バタン、とそこまで強くないものの、会長はドアを投げて閉めた。
台所の机の上に置かれているオムライス。朝から会長は何を作っているんだか。こういうのは、普通夕飯で作るべきだというのに。
「……ん。これは置き手紙か?」
ラップで包装されているオムライス。そこには、ぺたっとセロハンテープで貼られた一枚の紙切れがあった。そこに書かれていたのは、『早く元気になれよ』という文字。……会長って意外とこういう気配りできるのか。
「おいおい。文字で『昼飯用』って書くなよ……」
ケチャップで書かれていた文字は『昼飯用』の3文字。あともう一つ、『頑張れ』という3文字が書かれたオムライスも隣にあった。まあ、この字で「これは僕が作ったんだぞ」と、会長がこの場所にいた事、この場所でオムライスを作ったことを伝えないで誤魔化すのは無理だろう。
人それぞれ、字には色々と出るから。
「おはよ……」
「咳は大丈夫か?」
そんなことをしていると、2階の恋の部屋から、恋が起きてきた。目をかいて、髪はまだ整えておらず、ボサボサだった。恋のこんな髪を見るのは本当に久しぶりだ。小学生の時に僕が恋の部屋に泊まった時以来だ。なにせ、この前の停電の時は、恋を深夜に連れだしたけど、その時はボサボサしていなかった。が、今はすごいボサボサだ。髪を梳かしたりするのも、世話役の僕がしなければならないのか。……悪いが僕はそういう事はよくわからない。
「髪、ボサボサだぞ」
自分が恋の髪を梳かさなければならないのかも知れなくなる確率はもうどうでもいい。臨機応変に対応する事こそが、今の僕に求められていることだ。
「じゃあ、梳かしてよ」
やっぱりな、と思いながら、僕は受け入れた。世話役になったのだから、そりゃあ僕が受け入れなれば、誰が受け入れるのかって話だ。
「櫛持ってこい」
「はーい」
僕はその後オムライスを食べ、病院が開く午前9時半まで待った。意外にも、昨日の恋は食欲旺盛でなかったのに、今日の恋は食欲旺盛で、風邪に回復の兆しが見られた。昨日食べられなかった分、今日で巻き返そうというわけか。
***
午前9時。僕と恋は、家を出て病院へ向かった。




