Target:Ren and Elisa +α Ⅲ/episode34
恋の額に冷えピタを貼る。
「うー。冷た……」
「そうか? ……ま、僕を看病してくれたし、つきっきりで看病しようかな」
「……そんなことしたら、また風邪引くぞ……」
「風邪なんか引けば良い話さ。どうせ、休みが来るのだから」
「土日月と三連休休んで、また風引いて学校休むのか……。出席日数足りるの?」
「足りるだろう」
「……そう」
「なんだ、浮かれない顔してさ」
「別に。……ん、んじゃ測って」
「……本当に、していいのか? 僕が、していいのか?」
「したくないの?」
「……はい、といえば嘘になる」
「変態」
「ごもっともです。……つか、僕だって性欲はあるんだ! お前は発情期だから僕を誘っているのかもしれんが、こっちは真剣にさせてもらうぞ」
「し、真剣って……」
「深い意味はねえよ」
「そっか」
「脱ごっか?」
「……別にいいんじゃね、脱がなくても」
「そっか。じゃあ、脇の下に体温計を……お願いします」
恋の咳は、以外にも治まってきたようだ。さっきから咳をしていない。……正直な話、エリザはパソコンで作業でもしているのだろうかも知れないが、ひとつの部屋の中に幼馴染とはいえ、二人の女の子がいるという状況下は、非常に気まずい。しかも、『体温測る』とかいうイベントまで発生した。
「これなんてエロゲ」
「ん?」
「あ、な、なんでもない……」
「隠し事は良くない……ゴホ」
「ほらほら。やっぱ寒いかな?」
「いや、別に……」
「けど、体温測るからちょっとだけ辛抱な?」
「……う、うん」
僕は一度ゴクリと唾を呑む。そして、体温計を手に取り、最終確認を取る。
「本当に……いいんだな?」
「うん」
もう一度唾を呑む。今日、恋が巨乳だったと初めて知った。正直、体温計さすとき、脇の下に入れる必要が有るから、どうしても胸が見えてしまう気がする。となると、僕の煩悩が反応してしまう予感がする。
「い、入れるよ?」
「ど、どうぞ……」
恋が目をつぶった。そして、僕の方に身を任せてきた。これでは、体温計を持った方の僕の手を離せない。体温計を離して、正確な体温を測れないのは困る。
「おい。身を任せてくるんじゃない」
「いいじゃんか」
「良くない」
「意地悪……んっ、ひゃっ!」
「ど、どうした?」
「アホか! 人の胸を体温計でつんつんすんな!」
「悪い」
「わざとした?」
「わざとじゃない」
「……な、ならいいや」
僕の思いは伝わったらしい。誤解をそのまま受けられているのは、やっぱり嫌だし、後々の処理も大変になるに違いない。
そうなれば、現段階でこいつを少々イジメてやるか。……けど、病人をイジメるってのはどうなんだろ。それはそれで、僕が下衆な人間、って風に考えられそうだ。それは僕からしてみれば嫌でしかない。
「なあ、恋。今のはごめんな」
「そうだよ。バーカ」
「ば、馬鹿とはなんだ!」
「変態」
「うるせえよ」
「んひゃうっ! ……こらあっ!」
イライラしたのでもう一度同じ場所をつつく。だが、丁度そこで音がなった。画面を見ると、エラーの表示がされていた。
「真剣にしてないじゃん……」
「フラグだったんだろ」
「意味わからねえ……」
「……もう一回つんつんしよう」
「突然いうな!」
「いいだろ別に」
「そろそろ真面目にやれ」
「はいはい」
僕はもう一度体温計の表示された温度をリセットして、もう一回恋の脇の下に入れた。今回は、別に変なことはしないでいよう。
「変なことしてくれないんだ」
「ドM?」
「違うわ!」
「2回もされれば、嫌なことも嬉しく感じるか」
「だ、だから私はマゾじゃない……」
「ふっ。お前はマゾだ。正真正銘の、巨乳のマゾだ!」
「……だからマゾじゃないって言ってんで……しょ……」
「どうした? 突然声量少なくなって」
「か、風邪引いてるからか咳でそうで……」
「すればいいのに」
「ゴホゴホ」
「マゾ恋はこれだからなあ……」
「ま、マゾじゃないから!」
「お前はマゾ、エリザはエス、僕はエス、愁はエム」
「だから何回言わせんだ……」
「お前、暴力系のツンデレキャラ演じてるようだけど、正直、お前はツンデレキャラでも十分いけるが、絶対暴力は似合わない気がするんだよなあ。黒髪だから、それからすれば清楚なキャラをイメージするけど、逆だしな」
「だからマゾじゃない……」
「認めろや」
「認めない」
「プライド高いな」
「うるせえ」
丁度その時、体温計がなった。「意外と早いな」
「そうだ……んっ!」
僕は最後にもう一度同じ場所をつつき、体温計を抜いた。
「てめえ!」
「病人は大人しく寝てろ」
「は、はい……」
「38.7℃……。風邪かな? でも今日は医者も開いてねえし。……明日でいいよな?」
「いいよ。どうせ今日雨だし」
「だよなあ」
外を見る。雨は一向にやまない。車を走らせようにも、愁がどう出るかで対応も変わるし。それこそ、風邪じゃなくてインフルだったりでもしたら、僕に移った時ヤバそうだ。
一応、インフルエンザも視野に入れながら、僕は体温計をしまった。
「気が変わった」
「ダーリン、どうかした?」
「僕のベッドのシーツ、変えてくれ。僕は今日の夜、恋の部屋に居ることにする。……38℃の熱はインフルエンザの可能性もあるからな。それに、今は流行の時期だし。……エリザ、今日は寂しいかもしれないが、ここで一人で寝てくれ。もし、何か恋に変わったことがあったら、お前が頼りなんだ」
「……ダーリンが泥棒猫と居るのは許せないけど、いいよ!」
「ど、泥棒猫言うな……ゴホ」
「黙ってろ。咳出てるんなら、ツッコミはいらないぞ」
「……ゴホゴホ。ありがと」
僕は、必要最低限のものを持ちだした。モバイルバッテリー、携帯電話2種、タオルを2枚。最悪、必要な物があれば僕だけでもいいから、恋の部屋から飛んでくればいい。屋根で部屋と部屋が繋がっていたりすれば更にいいのだが、そういうわけにも行かないし。濡れるのは仕方ないか。
僕は、最低限の物を持って、玄関に行き、そこから恋の家まで向かった。
「この数メートルをおぶるってのもな」
「病人なんだからいいじゃんか」
「お前をおぶるなんて、久しぶりだなあ、って。昔はじゃれあったのにな」
「何言ってんだお前。誰のせいで私が柔道習い始めたのと思ってるんだ」
「なんだったっけ?」
「愁や梨人、そしてお前に散々スカート捲られたからだ!」
「……あったな、そんな頃が」
「なにその、『昔は良かった』的な台詞」
「お前はマゾだけど、ツッコミ上手いな」
「うるせえ。だから夫婦漫才とか言われたんだろ」
思い出せないけど、そんな時代もあったらしい。まだ十代なのに『あんな時代』とか言っちゃうっていうのはおかしいか。
「付いたぞ。あ、鍵開いてる?」
「バーカ。そっちじゃねえよ。勝手口から入るんだよ」
「なるほどね。ま、僕は先に傘おいてくるから、先に入ってろ」
「私の家だぞ……。なんだ、その自分の家みたいな言い方は」
「知らんがな。ま、傘おいてくる」
僕は、恋を降ろして、降り続く土砂降りの雨の中、傘を一旦家に置きに戻って、もう一度恋の家に戻った。
***
勝手口を閉めると、台所の椅子に恋が座っていた。いつの間にかマスクをつけていた。マスクを付けていると、窒息すんじゃないかと思われるかもしれないが、実はそんなことはなくて、保温や保湿、免疫に効果があるらしい。でかしたぞ、恋。
恋ってやっぱり家庭的な女の子だなあ、と改めて思わされた。本人は、どうせ風邪引いたからマスク付ける程度にしか思っていないのだろうけど。
「咳、大丈夫?」
「大丈夫」
「んじゃ、夕飯おかゆでいい?」
「やだ。拒絶反応起こす」
「マジかよ。……好き嫌いあるのか、お前」
「あるよ。風邪引いたの初めてじゃないし。……ま、あんたには関係ないけどね」
「休まねえもんな、お前」
「そうだよ」
「身体の疲労が溜まり過ぎたんだな、お前は」
「そうかもね。それなら安静第一だね」
「ああ。それもそうだが、それ以外にも水分をしっかり取れ。……あ、そうだ。トイレとかは大丈夫か。……一人で出来るよな?」
「そ、そういう破廉恥なことを……」
「お前を不快にするために聞いているんじゃない。風邪引いて、身体弱ってるから、少しは助けようと思ってるだけ。……変な事想像するな」
「うん、それ、想像した」
「そっか。じゃ、今日の夕飯は生姜スープ作るか。生姜ある?」
「うん。あるよ」
「そっか。じゃあ聞くけどさ。その、下痢とかはなってないよね?」
「ま、またそういう質問……。だ、大丈夫だと思うけど……」
「食欲は?」
「有ると思う」
「じゃあ、水を多く飲むか。生姜スープは決定として。今日は寒いし」
「じゃあ、スポーツドリンクはある?」
「あ、あるよ。冷蔵庫の中に、ポカリエットと、アクエリアースが入ってる」
「ギリ商品名じゃないのか」
「そうだ。……それ、飲むの?」
「飲んでもらうぞ。水でもいいんだが。熱いの飲ませようにも、一々お湯作るの面倒くさいし。腹痛とか、そういう症状もないのなら、冷たい飲み物も大丈夫だろ」
「そっか。……寒いから、ちょっとくっつかせて。……いや、抱きつけ」
「何言ってんだ、お前」
「寒いんだよ……」
「病人が言うなら仕方ねえか」
「そうそう。仕方ない仕方ない」
「ほら」
ぎゅう、と僕の方から抱きついてみる。胸のあたりに手は回さず、腹の少し上に手を当てる。変な感情を持ってほしくないからだ。あくまでこれは、こいつを助けているだけ。そう思いながら僕はぎゅう、と弱めの力で抱きつく。
「じゃあ、夕飯食べる前にもう一回測るぞ。それと、氷枕ある?」
「うん、冷凍庫見て……」
「わかった。じゃあ、お前は休んでいてくれ。夕飯出来たらお前を呼ぶ」
「う、うん」
恋は、僕の言葉を聞くと、速やかにその場を後にし、トイレに寄った上で自室に戻っていった。僕は、見送った後、恋の夕食を作ることにした。
「さてと。生姜生姜……あった。さてと。あとはのどごしのいいやつも」
スマホ片手に、今日のディナーの献立を考える。久しぶりに僕も手料理を作る。滅多に僕は手料理を作らないからね。もしかすると、力は衰えているかもしれないが、それならそれで構わない。恋に喜んでもらえればそれでいい。
「牛乳は腹壊すと悪いから止めておこうかな。……うーん。それじゃあ、ヨーグルトかプリン。そこら辺で行こうか」
該当する品物を探す。あったのはプリンだった。温度を確かめてみる。まあ、冷たいけどこんなもんか。生姜スープ飲んで温かくなった後に冷たいものを食べればいい話だ。けど、それをすると、殆どの場合、歯が痛くなる。
「僕も夕飯に食べないとだな。生姜スープは明日の分も作っておこう。プリンは常温にして置いておくか」
けれど、冬場の室温は普通に涼しい。だから、そこまで冷えない気がする。夏場ならそうとう温くなっているのがだが。
「今は……16時半か。んじゃ、19時までに作るってことにするか」
勝手に目標を立てて、そこまでにあうように作るようにする。
「さてと。人の家で人の材料で人の飯を作るのは初めてだけど。ま、がんばろう」
今はスマホがあるから便利だ。なにせ、インターネットで、「生姜スープ_作り方」で検索すればいい話だ。だから、直ぐに該当したものが見つかれば、サイトにアクセスして、そこから情報を入手できる。
「えーと……」
僕は書かれていた作り方を見ていく。そして、スマホは電子レンジの上に置いておくことにした。スタンドとかがあれば尚よかったのだが、流石に人の家で、病人のいる前でそれは出来ないだろう。
「よし、作るか」
その時、作り始めた時には、恋は寝ていたのか分からなかったが、きっと寝ていたのだろう。声が一切聞こえない。それに、恋はちゃんと人の言うことを聞いてくれる奴だ。もちろん、僕の言うことも聞いてくれるだろう。そういう人柄の良さから、僕が言ったようにマゾと言われるのだ。悪くはないのに、そう言われているのを考えると、可哀想だ。……僕が悪いのに。
***
午後7時すぎ。
「終わった……」
僕の夕食はインスタントのご飯でいい。それこそ、ついつい前に食べたばかりだから、飽きてもおかしくないのだろうけど、僕はあんまりそういうのに飽きない。なにしろ、子供の頃からインスタントに親しみを持ってきていたから、今更除外することが出来ないのだ。
「さて。恋を起こしに行くか」
タタタタ……と、階段を上る。恋の部屋に来て、恋の部屋のドアを開ける。そして、その時、僕の目には、衝撃が飛び込んできた。
「……」
恋は、カーテンを閉めて、暖房をつけ、さらに布団をかけないで寝ていたのだ。しかも、シーツにはシミができていた。
「これはまさか……」
僕は恋の体を揺らし真相を確かめる。
「起きた?」
恋の目が開いたので、僕が問う。
「うん。起きた……って、あ」
気づいたらしい。シーツにシミがついていることを。
「これって……」
「多分……おも……」
「嘘だろ?」
「し、死にたい……」
「トイレ行って、要足したんだろ?」
「で、でなくて……って、何言わせてんだ……!」
「出なかったのか。それなら仕方ねえか」
「し、仕方なくなんかないよ!」
「先風呂だな。着替えろ」
「は、はい……」
僕は恋の部屋から出て、恋が着替え終わるのを待った。




