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Future  作者: 浅咲夏茶
4th Chapter;Asmodian of mythology and Gods of mythology.
33/127

Target:Ren and Elisa +α/episode32

 部屋に戻ると、昼食の支度がされていた。普段の食事と比べれば豪華なその料理は、テーブルの上に並んでいて、ここが旅館であることを再確認させてくれる。

「旨そうだ……」

 皆が集まったのを確認し、箸を持って食べ始めた。

「頂きます!」


 ***


 食べ進めていく。豪華な料理も、形あるものは消える。美味しい美味しいと噛みしめながら、その料理を平らげていく。

「ふう……」

 腹に手を当て、平らげたということを実感する。顔はにっこりと自然に微笑んでいく。ある程度以上食べると、後々吐き気を催す。昨日僕が吐いたらしいからそれには注意しないとならない。

 現段階では吐き気はなく、僕は安心できた。

「さてと。これから何する?」

 食事を終えた後、時計を見ればもう13時半。もうそんなに時間が経ったのかと思うと、本当時の流れは早いんだと考えさせられる。

「……うーん。ぐーたら過ごすのもいいけどなあ」

「私は同人誌描くわ」

 姉ちゃんは同人誌を描くことを、まるでそれが仕事のように言う。

「じゃあ、ダーリンと私は……うーん」

「またゲームコーナー行くのか……?」

「いや、それは無いけどさ」

「無いのか」

「無いんだ」

「うーん。それじゃあ……」

「混浴じゃないから風呂とか無理だし……あ」

「やっぱりダーリンはそういう目で私を……」

「いや、今のは口が滑っただけで……」

「本当、凛は煩悩に犯された男だよね……」

 恋がツッコんできた。別に変なことを言っているわけじゃないし、的を当てていることを言っていた。だがしかし、ここまで的を当てていることを言われるのもなんかまるで僕が変態というようにしか聞こえない。

「煩悩に犯された男っていうのは的を当ててるけど……」

「まあ、凛はどうせ私みたいな貧乳より、エリザのような爆乳を好むんだろうけど」

「も、もう、凛さんってば、なんで私が爆乳とか……。恋さんだってDカップあるんでしょ?」

「んなっ! それは秘密にしとけって……はっ!」

 聞いてしまった。12年間一緒に居た相手とはいえ、僕はそのことを知らなかった。まさか恋が巨乳だったなんて。日本人の平均なんて軽々超えているじゃないか。……しかしまあ、恋は脱ぐと凄いっていうのに相応しい女だったわけか。けど、今まで恋の胸を意識するなんてことはなかったな。エリザに比べればスキンシップは凄い消極的だし。執事服も似合っていた。恋はサラシでも使って隠しているのだろうか。

「……聞いた?」

「いや、別にお前がDカップの巨乳なんて事は……」

「嘘……」

「心の中で思っていたことを直ぐ話してしまう癖がここでもまた出ちゃって」

「忘れろ……忘れろおおおっ! そしてエリザああっ!」

「は、はいいっ!?」

「お前もそういう事言うなあっ!」

 右手の拳を握り、メラメラと怒りの炎が燃え狂う。「ふーふー」と息を上げ、ギリギリの理性を保っている。絶対、この理性が壊れたら恋はとてつもない力で、僕とエリザを攻撃するだろう。相当な力を持った恋なら、机をひっくり返すことなど余裕のよっちゃんだろう。

「ごめんなさい」

 僕とエリザは恋の前に土下座した。本当に申し訳なく思う。僕も悪いのだろうが、エリザこそ話題を振るべきではなかったのに。外国人と日本人って、所々違うところがあるからやっぱり話題とかも、いい事悪い事の区別が違うところがあるのだろう。

「ま、まあ別に許すけどさ……」

「流石ツンデレはすぐ許してくれるねえ。いや、恋はドMだからか」

「ねえ、凛。いいんだよ? 私の力で封じ込んでも……」

「つまり、僕に死ねと……?」

「そこまではいかないけど……」

「でもお前の力は……」

「……ふっ。じゃあ、試そうか」

「試される男、凛ってか。まるで北海道だな」

「うるせえよ。いいから黙って殴られろ」

「最低じゃねえか」

「勝手に私が貧乳だってことバラして……」

「は?」

「それはエリザか。けど、あんたもどうせ私を貧乳と思ってるんでしょ?」

「……あの、恋さん?」

「何? 今更改まってさ」

「Dカップって結構巨乳な方だぞ……」

「え?」

「なあ、姉ちゃん?」

 僕は姉ちゃんに話題を振る。黒髪でストレート。そして黒縁の眼鏡をかけているが、姉ちゃんは貧乳である。姉ちゃんは貧乳だから彼氏ができないのだろうか。

「ねえ、凛君。姉ちゃんにそういう事聞いてくるってっことは、私が貧乳だからって皮肉ってるんでしょ? 私が貧乳だから」

「だ、大事なことだから二回言いました、ってか。……姉ちゃん、話題振ってごめん」

「そうだよ。分かってくれればいい。つか、同人誌描いてるんだから静かにしてくれ。集中力が消えるし、本当気が散る」

「わ、分かった」

 僕は姉ちゃんの言うことをそのまま聞き、部屋を出た。愁はテレビに釘付けで、昼寝しようとしていた。

 部屋から出ると、僕と恋、エリザはまたゲームコーナーへ行こうということになった。お金も所持しているのはほんの少しで、1000円にも達しない。だから、旅館で寛ぐ費用でゲームを楽しめるのは本当にいいことだったのだ。金がないときは、本当に有難い。

「さてと。また来たわけだが」

「何するの?」

「卓球できないし、もぐらたたきでもすればいいんじゃないか?」

「なんでもぐらたたき……」

「別にいいだろ、そんなこと。それこそ、お前は何で遊びたいんだ?」

「エアホッケーで」

「ダメだ。お前と対決するのは危なすぎる。本当、あれトラウマになりそうだったんだぞ……。お前には無いから分からないだろうが、超痛いんだぞ」

「本当、そういう事に関しては女に生まれてよかったと思うわ」

「でも、赤ちゃん産む時って痛いんじゃないかな?」

「あ、赤ちゃ……」

 恋が照れる。赤ちゃんくらいで照れないでほしいものだが、女ってそういう者なのだろうか。僕は男だからそんなこと分からない。けど、エリザみたいに羞恥心が全然ないような女もちょっとおかしいと思うけど。でも、恋は流石に照れ過ぎな気がする。これではツンデレキャラと言えるのだろうか。

「恋って本当、エリザと正反対だよな」

「ダーリン、私も思います。だって、赤ちゃんくらいで照れちゃうんですよ。どうせ、恋さんも本当はダーリンの子供産みたいんだろうけど」

「なっ……」

 恋の顔が更に真っ赤になる。たまに暴力振るってくるツンデレのくせに、やっぱりこういうところには弱いのか。しかしまあ、エリザって本当何でもかんでも当たっていくよな。魔族討伐では全然自分から当たりに行かないくせに、何故かこういう時だけ自分から当たりに行くわけだ。それこそ、ノーム攻略の時にエリザがすればよかったのに、なんで僕がしたのだろうか。

 だが、僕の一番の理解者はこの二人なんだろう。いや、愁と梨人を含めれば、彼らのほうが理解者かも知れないが、どうしてもあの二人は僕をバカにしてから理解に入る。だから、話してもどこか「理解していないんじゃないか」と思ってしまうのだ。しかし、それも友人関係を築いていく上では重要なこと。互いに責め合い、受け合う。それが大切なんだろう。

「……エリザ。恋が凄い顔真っ赤なんだけど」

「わ、私のことは心配しなくていいよ! そ、それこそエリザさんはなんでそんな『赤ちゃん』とか『産む』とか平気で言えるのさ! 女の子なんだから、少しくらい羞恥心持とうよ……」

「例えばどんな?」

「例えばって、その……破廉恥な話とかさ、それこそ『こ、子供産む』とか」

「恋さん、なんでそれくらいで顔真っ赤にしているのさ。エッチして子供授かって、それを産むとか、義務教育受けたら当然分かることでしょ?」

「おまっ……」

「んむうっ!」

 慌てて僕はエリザの口を塞いだ。いやあ、何を言っているんだこの幼馴染は。なんて事を、しかもまるで当然のように。……欧米人はなんでこんなにオープンな性格なんだ。というかこういう性格だと、エリザがまるで痴女に見えてきてしまう。

「凛、なにエリザさんに抱きついているの……」

「抱きついてねえよ! お前のためにエリザの口を抑えただけだバカ!」

「わ、私のために……」

「……エリザ、どうかしたか?」

「なっ、何にもないよバカっ!」

「……ったく、こういう時もお前はツンツンした態度をとるんだな。まあ、最近のラノベにはツンデレキャラが一人は居るからな……。現実世界でこんな事言われたら、正直腹たってるわ。まあ、お前は幼馴染だから許してるわけだが」

 僕が思ったことを口にすると、エリザが僕に聞いてきた。

「じゃあ、私みたいな外国人キャラは?」

「最近のラノベで居るかどうか的なこと?」

「そうそう」

「……お前は茶髪だからな。金髪キャラなら、幅広いキャラが居るんだがな。金髪貧乳ツンデレとか、金髪巨乳ツンデレとか、金髪妹とか。……茶髪は大体金髪と似た扱いだからなあ。茶髪ツンデレいるし。けど、オープンな性格の子って、茶髪じゃなくてピンクとか、赤とかの髪の子だと思うけど」

「現実にあり得ないよね、そういうキャラ」

「まあな。ちなみに、僕の見てきたラノベから行くと、黒髪キャラはヤンデレが多いな。ツンデレは白に近い髪、ヤンデレは黒に近い髪。僕はそう思うがな。あと、もう一つ思うのは、『幼馴染は負けフラグ』的な事だな」

「それってどういうこと?」

「要は、『幼馴染は主人公との恋愛で負ける』って事だ」

「ということは、私はダーリンから嫌われているってこと?」

「いや、そういう訳では……」

「じゃあ、恋さんは?」

「別に嫌ってない。けど……」

「私より好きだと?」

「いや、そんなこと言ってないだろ?」

「ダーリンの子供を産むのは私なんだぞ。泥棒猫にダーリンの子供は産ませないんだからなっ!」

「うるせえよ。旅館で高らかに宣言すんなバカ」

「ご、ごめん」

 日本語で高らかに宣言するんじゃない、英語とか外国語で宣言しろ、と思うのだが、それはそれで迷惑ってことに変わりはない。むしろ英語で高らかに宣言されたら、「あ、あの女バカだ……」とか「誰あの変人」なんて思われてしまいそうだ。それだと、エリザが可哀想になる。けれど、エリザもエリザで言わなければいいのに、とまた話が元に戻っていく。

「しっかしまあ、良く痴女みたいなこと言えるな、お前は」

「ちっ、痴女言うな!」

「痛っ!」

 頬をつねられる。意外と強い力。爆乳だからと力が弱いと思われそうだが、本当にエリザの力は強い。が、恋に比べればまだまだ序の口だ。恋の力は男でも対抗できないような力だ。そんな力で強力なパンチやキックをくらおうものなら、すぐさまバタンキューだ。

 ふと恋の方を見る。が、元いた恋の場所に恋は居ない。「何処行った?」

「こ、ここだよ」

「いやお前じゃねえよ、エリザ」

「名前つけろや。誤解するんだボケ」

「大阪人スキルのツッコミを手に入れたのか。外国人でもすぐに馴染むんだな」

「私はダーリンと一緒に6歳までドイツで過ごしていたからね。自然と日本語のスキルを身につけたのさ。それに、アニメとかはあんまり知識はないけど、日本に来てラノベいっぱい読んでてそういうの身につけたからね」

「やっぱりラノベが元凶か……」

「お笑いだと思ったの?」

「ああ。テレビとか見ない人間だっけか、お前は?」

「うーん。別に見ないわけじゃないんだけど、私嫌韓だから、韓国よりのテレビとか見ちゃうと、『テレビとかクソ』ってなるんだよ」

「なるほど」

「新聞はクソなの?」

「……うーん。新聞に関しては、韓国よりのもあるけど、たまにしっかりとしたの書くからなあ。テレビもそうだが。ただ、新聞もテレビも、マスコミ系は殆ど特亜とくあに媚びているからなあ。11年の頃は相当媚びていたわけだが、今は若干ながら回復しているとは思うぞ。けど、それでも特亜に媚びているのは事実だが」

「特亜って何?」

「『特定アジア』の事だ。韓国、北朝鮮、中華人民を指す」

「なんで中国だけ『中華人民』?」

「中華民国(台湾)と、中華人民共和国と間違えやすいからだ」

「なるほど。……でも、オリンピックとかだと『台湾』とか『中華民国』とか言わないよね。チャイニーズタイペイって。あれって何か関係してるの?」

「お前、歴史系苦手か?」

「あんまり歴史は詳しくないかな。歴史系で見たアニメは少ない」

「そっか。まあ、中華民国、台湾がなぜチャイニーズタイペイと名乗っているか。それは、中国と関係がある。

 元々、台湾は何処の国だった?」

「え? 中国?」

「ああ。正確にはしんの国だ。一番最初はオランダらしい。まあ、そんなことはいいとして。ウィキペディアによれば、『清朝統治時代』と呼んでいるらしい。で、これは大日本帝国が日清戦争にて台湾を自国の領土にした1895年まで続く。そして、それから太平洋戦争で敗戦するまで台湾は日本の統治下だった」

「朝鮮や樺太、南洋諸島も統治下だったんだよね」

「そうだ。そこは知ってるんだな」

「だって元々日本とドイツは共に戦った国じゃん。ちょびっと調べたのさ」

「なるほどな。で、台湾は日本が敗戦したから中華民国、この頃は今の中華人民共和国のことを指す名称だ。それに返還された。けど、その中国では政権争いが起こって、毛沢東に蒋介石が敗れ、彼は台湾に逃げた。

 そして、今の国家へと変貌を遂げたわけだ」

「今じゃハイテク産業では凄いもんね」

「そうだよ」

「そっか。チャイニーズタイペイって名称の裏には、そういう話があったんだね……。ドイツも昔は東西で分かれていたからね……」

「今の朝鮮半島は南北で別れたしね」

「そうだね」

「スーダンは情勢の悪化で南北別に独立したんだ。朝鮮ももしかすると、南北で別に独立するかもしれないな」

「そっか。じゃあ、そう考えるとドイツが一国にまとまった事って凄いんだね」

「そうだなあ。それこそ、日本だって元は、日本、北海道、琉球で3国だったしな」

「そうなんだ」

「そうなんだよ。あ、そうだ。恋は何処行った?」

 恋のことを思い出し探す。この会話の間、恋はどこかに行ってしまったらしく、僕の視界の中に恋の姿はない。辺りをキョロキョロとしてみるも、恋の姿は何処にもない。当然、スマートフォンもガラケーも持っていない僕は、恋に電話をかけることも出来ない。そういうものなのだ。

「はあ。ゲームコーナー行くか?」

「いや、別に行かなくてもいいけど」

「そっか。じゃあ、戻ろうか。でも、することねえよな」

「確かにね。……あ、雨降ってる」

 ゲームコーナーには大きな窓が有る。その窓から外を見ると、辺りは非常に強い雨が降っていて、まるで土砂降りだの雨だった。こんな中を変えるのだろうかと考えると居ても立ってもいられない。ここに泊まろうにも、金がなくなったらヤバイ。早く帰るべきなのではないだろうか。

「なあ、エリザ。これ、早く帰らないとマズイんじゃ……」

「なんで?」

「凄い強い雨だぞ……」

 これが福岡を襲った雨だというのだろうか。もしそうなら、これは豪雨に成りかねない。しかし、2日もかけて移動するなんて、それも珍しい。

「きゃあっ!」

 突然、稲妻が鳴り響いた。ゴゴゴ、と天空から大きな音とともにボルトが地面を直撃する。六甲山の近くにそれは落ちた。幸い、火災にはならなかったようだが、それでも強い雨と雷だ。これは早く帰った方がいい。

「なあ、エリザ。雨と雷は強くなる一方だ。帰ろう」

「ダーリン、雷怖いの?」

「いや、そういう訳じゃねえけどさ。でも、この雨と雷は絶対大事になる」

「大事ってことはどういう……」

「河川の増水とか、低地の浸水、そういう事が起こるかもしれないってこった。もしかすると停電が起こるかもしれない。今日中に家に帰れないかもしれない」

「え……」

「戻るぞ、エリザ」

「待って。恋は?」

「戻ってるんじゃないかな?」

「そう。じゃあ、戻ろう」

 僕はエリザを引き連れて部屋に戻った。

 

 ***


 部屋に戻ると、姉ちゃんはパソコンを閉じてバックの中に詰めていた。愁は、テレビを見るのを止め、スマートフォンとにらめっこしていた。

「愁。これは大事になりそうだぞ」

「そうらしいな。この雨雲、福岡で特別警報だしたやつだ」

「特別……警報?」

 特別警報。それは大雨などで、それまで経験したことのないような災害、数十年に一度訪れるか訪れないかくらいの災害が迫っている時に発令されるものだ。事実、福岡や佐賀では河川が氾濫し、福岡県では死者も出た。

 そんなことを引き起こした雨雲が今、この神戸の街の上空を通っているのだ。

「それは早く帰らないと……」

「分かってる。……けど、恋が居ないんだ」

「え?」

「恋が居ないんだ」

 僕はその一言で、自分の攻略に対しての思いと同じような思いを抱いた。それと同時に、「アイツは何をやっているんだ」という感情、「ふざけんな」という感情。そんな感情が数多く僕の心の中で生まれていく。

 

 部屋を出て、旅館の女将などに確認を取るものの、誰ひとりとして恋が何処へ入ったのか分からないようだった。僕は、部屋に一旦戻り、スマートフォンを片手に旅館を飛び出して外へ出た。当然、外は大雨で、服はびしょびしょになる。けれど、幸いなのかどうなのか、僕は浴衣を着ていなかった。

「クソ……クソ……」

 エリザとの会話に夢中になっていたばかりに、恋が何処かへ消えてしまった。必死の捜索を続ける。走る。走る。走る……。けれど、何処にもエリザの姿は見えてこない。何処に居るのかも分からない。携帯も繋がらないし、こんな雨じゃ雷で酷い目に遭っていないか心配だ。

 魔法陣を描こうにも、僕の持っているうち、使えるのはウンディーネ、シルフくらいだ。ノームは草を持っているから、水には強いが、それは飛べない。だから、ノームは却下だ。一番いいのはウンディーネか。

「魔力……開放……っ!」

 魔法陣を描いて魔力を開放しようとするが、生憎の雨でそれは使えない。土曜日の竜との闘いでは、小雨のような雨で、そこまで困る雨ではなかった。だから、魔力は解放できた。しかし、今は大雨。土砂降りでもある。こんな中じゃ、炎属性使いの僕には魔力を開放できないらしい。

「なんで僕はこんなに無力なんだ……」

 人に聞こうと必死に走って藻掻く。けれど、雨の中ではその抵抗など無駄なあがきのようなもの。僕の体力はどんどん失われていく。途中でバテそうにもなった。けど「恋を探すんだ」という思いが強くなっていけば行くほど、「最後まで貫き通す」という僕の信念は揺るぎないものへと形成されていったのだ。

 そして、ようやくこの温泉街を傘を差して歩く一人の男性に会った。

「あの、黒髪の女の人、見ませんでしたか?」

「見た。彼女は鼓ヶ滝公園の方向へ向かったよ」

「あ、有難う御座います!」

 僕は残った体力を使って、必死の抵抗で鼓ヶ滝公園へ向かった。息を上げ、旅館からの距離は1キロを超えたように思える。それだけ疲れたのだ。日々、ゲームと、ディスプレイと向き合っているためか、それだけ体力も衰えた。息をゼエゼエと上げながらも、僕は走る。前へ、前へ。

「……はあ、はあ」

 滝川沿いの遊歩道を走りぬけ、滝の方向へ向かう。けれど、どこにも恋の姿は見当たらない。探しても、探しても。結果はすべて同じだ。

「ゲームの攻略通りには行かないってことか……」

 嫌な雰囲気が僕の心を包む。けれど、希望を捨てたわけではない。希望を捨てたら、そこで終わりなんだ。あきらめたらそこで試合終了だ。そう、試合終了、攻略終了、そして……。

 不安が募る中、滝の近くで恋の姿を見つけた。僕はこの時、「やってやった」というやりきった感とともに、恋に怒りを持った。なぜこんなことをしでかしたのか。それを知りたい。

「恋……。なんでこんなところに……」

「私は別に嫉妬とか、そういうことで逃げたんじゃない。……あのさ、覚えてる? 7歳の時私と凛と愁と梨人と、凛の親で来たよね、有馬温泉に」

「そんなこと、あったっけか?」

「それも忘れたのか、お前は」

「悪いかツンデレ」

「……今なんて言った」

「いや……」

「別に何を言ってもいいよ。私に言論統制する権利なんてないし。……でも、覚えてないんだ。ねえ、この場所も本当に見覚えないの?」

「……ない。見覚えなんて、ない」

「そっか。それじゃあ、これ見てよ」

 恋はズボンのポケットからスマートフォンを取り出して、写真を見せてきた。その写真の解像度は決していいとは言えなかった。けれど、その当時、2003年ではそれでもいい解像度だったんだろう。携帯で撮影したわけではなさそうだ。しっかりとデジタル文字で写真の右下に日付が書かれている。

「2003/11/23……今から11年前か」

「そう。愁は、これを狙っていたんじゃないかなって思うんだ」

「なんでだ?」

「この写真に愁はいる。けど、こっちには居ないでしょ?」

「た、確かに……」

 写真に居たのは僕、恋、梨人のみ。愁の姿はなかった。

「愁の両親が死んだのって何時だった?」

「あいつが7歳の時……。あ。そうだ。そうだよ……。東京に行ってる最中事故にあったんだよな。……僕の父さんも、母さんも。愁の両親も事故で死んだんだ」

「そう。私の両親も離婚して、今じゃお母さんは大阪で風俗嬢として働いているし。……なんで私達の周りって不幸ばかり訪れるんだろうね」

 今まで曖昧、いや全く分からなかった幼少期の記憶が今蘇っていった。僕は何故か小3以前の記憶が無い。だから、エリザが幼馴染だということも、愁や恋の両親が暗い過去を持っていたということ。そんなことを今、僕は思い出していた。

「ごめんな、昔の記憶がなくて」

「……そっか。そうだよね。……じゃあ、一つ聞いていい?」

「なんだ?」

「いや、何でもない」

「隠すなよ」

「ごめんね。でも、今度時間があったら話す。もしくは、私に告白とかして来たら。……まあ無いと思うけど。でも、近いうちに話すよ。うん、きっと」

「そうか」

「うん」

 恋は、何故か僕に昔の記憶が無い理由を教えてくれなかった。でも、それを知るのはまだまだ先の話だ。恋はそれをもう聞かれるのを恐れたのか、僕の手を引っ張って、旅館に連れていかれた。本当は僕が連れて行くほうだと思うのだが、何故こういう事になったのだろう。

「あ……」

 川は増水していた。ギリギリ温泉に、旅館に戻ることは出来たものの、川は増水しており、一歩間違えば死んでいても間違ってはいなかったはずだ。

 びしょ濡れの僕らを見て、旅館の女将さんが湯を貸してくださった。しかし、丁度女湯が掃除中だったため、僕と恋は男湯に入ることになった。しかも、女将さんのリクエストなのか分からないが、僕と恋に二人だけの混浴を用意してくれたようで、他の入っていた客が居ないのを確認し、両方の湯の入り口に『掃除中』の看板を置いて、掃除担当さんは女湯の方で掃除を再開した。そして、僕と恋は男湯に入ることになったわけだ。

「……絶対変なことしないでね?」

「し、しないよ!」

「したら、急所狙ってキックする」

「おい馬鹿やめろ」

「冗談冗談」

「冗談で済まされな……。おい馬鹿、何脱いで……」

「脱がないと入れないでしょう……」

「だ、だけど流石にそれは……」

「うるさいな。男ならもっと『やった! 女と一緒に混浴だ!』って喜んでよ」

「僕はそんな男じゃねえ。……まあ、脱いでもいいがタオルを巻け」

「いや、マナーとしてタオルは湯の中に入れちゃダメだ」

「くっ……」

「ま、まあ、私も手で隠すから……」

「あ、ああ。頼む。そうしてくれ」

 僕と恋は一応の話をした上で、お互いに背を合わせて、無言で着替えた。そして、恋の裸(一応隠してある)を見た時、僕の心のバクバクは約18年の人生の中で一番の速さになっていたに違いない。

 僕は先に裸になり、湯へ向かった。それこそ、男の本能を押さえつけなければ、恋に何かしてしまいそうだからだ。そんなことしたら大問題だ。というか、こんな場所でできないだろう。

「……お、お邪魔します……」

「うお……っ」

 そうこうしていると、恋が湯に入ってきた。当然、隠すべき場所は隠しながらだ。高校3年生で幼馴染と風呂にはいる、という展開のエロゲなんてあっただろうか。……僕のプレイした限りではそんなエロゲはなかった。というか、そういう展開が来たら、殆どエロシーン直行のはずだ。ということは、この後流されて展開を作っていくとしたら……。いやいやいや。そんなことしちゃだめだ。恋は彼女じゃない。幼馴染だ。……でも僕に彼女は居ない。が、流石に子供を宿されても責任は取れない。

 湯に入ってきた恋は、隠すべき場所を隠すのをやめた。代わりに、僕とは背を合わせて隣り合わせになり、そのまま湯に浸かることにした。

「……あの女将さん、なんて事してくれるんだ」

「そ、そうだよね。……でも、袋用意してあげるって言ってたよ。それに、泊まっていけば洗濯してくれるらしいけど、それは無いんでしょ?」

「まあな。余計な金を出したくないだろうしな、愁も」

「そっか。日帰りだもんね。それに明日は学校だし」

「そうそう。……それにお前、良かったのか? 僕と一緒に風呂なんて」

「いいよもう。……どうせ、エリザとはこれ以上のことしてるくせに」

「し、してねえよ!」

「どうだか」

「……じゃあ、僕身体洗うよ」

「待って」

「ん?」

「探しに来てくれて、有り難うね……」

「お、おう……」

 それから、僕と恋は湯で話さなかった。僕も恋も、身体を洗って、髪を洗って、恋はトリートメント系のケアも忘れず。そして、ドライヤーをかけて、一連の支度が終わった後で、僕と恋は部屋へ戻った。

 

 ***


 部屋では姉ちゃんがニヤニヤしていた。愁も「リア充爆発しろ」と一言。そしてエリザはお決まりの「ダーリンの子供は私が産む」発言。……僕の周りは本当、馬鹿な人やちょっと頭を疑ってしまうような人ばっかだ。


 そして、15時前。支度と会計を済ませて僕らは旅館を出た。

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