Target:Ren,Elisa,Haku and Shu/episode31
「いやあ、もうすぐ冬か……」
「紅葉の景色が直ぐ目の前に有るのに、なんで冬とかいう話言い出すの?」
「紅葉なんて、殆ど終わりを告げているじゃないか。こうして、俺と凛で二人で温泉とか、本当なんか新鮮だよな」
「そうだなあ。いい湯だわ、本当」
秋の風が心地よく、天気も悪く無い。雨は降りそうな感じはしないし、直ぐ近く六甲の山並みがうつる。今が昼時だと考えると、この後の昼食がそれはそれは美味しいものなのだろう、と考えさせられてしまう。
「しっかしまあ、よくお前も『旅行』なんて話切り出したな」
「高校三年間のバイトの給料を全部旅行代に回そうと思っていたのさ。16でバイクの免許取ってさ、あの免許だと高速乗れないし」
「だからお前は下道をひたすら……」
「そういうわけさ。まあ、この有馬温泉ってのは、僕からしてみれば何度も着ている場所でさ。この山道でサイクリングしたっけな……」
「誰と?」
「身内だよ。こんな俺に彼女が出来るとでも?」
「オフ会であったとか言ってたあの娘は?」
「狙ってるの?」
「違うわ!」
「あの娘は彼氏居るってよ。本当、世界って男が恵まれない形になってるよな」
「そうかな?」
「流石、幼馴染二人と血の繋がった二人の姉妹、生徒会長、色んな人を攻略して口説いて股開かせる事のできるお前は凄いわ」
「最後の方余計な気がするけど……」
「ともかく、リア充は黙ってろってんだ!」
「嫉妬すんな」
「嫉妬じゃねえよ。バーカ」
「愁がツンデレ口調で言っても、ただのキモい人にしか見えない」
「俺はツンデレじゃねえ」
「じゃあ何? ロリコン? ショタコン? マザコン? ファザコン? シスコン? ブラコン? ……まさか、愁はどっちでも行ける口か?」
「お前、その発言女子の前でやってみ。ただ俺をいじめているだけにしか聞こえないから」
「ああ、確かに」
「分かってるならするな。俺がマゾみたいだろ」
「いや、お前は恋に虐められて嬉しがってる時点でマゾ。お前はマゾだ」
「お、男は皆サディストだろ? 女は皆マゾヒストだろ?」
「その常識、どこ情報?」
「ソースは俺です、すいませんでした」
「だろうな」
「くっそくっそ。これだから、凛のようなサディストは困るわけだ。素直に虐められればいいのに。そっちのほうが楽しいだろ」
「僕は勝手に振り回されるのが嫌いまでは行かないけど好きじゃない。だから、僕は相手を服従までは行かなくとも、何にか聞いてくれるような相手にする」
「それならやっぱり恋やエリザがお似合いってわけだな。……寝取るか」
「最低だな、お前」
「嘘だバーカ」
「だろうな。恋には力で勝てないだろうし」
「それはお前もだろ。……じゃあ、エリザちゃんはいけるの?」
「無理。エリザ意外と力強い」
「あの大きな乳や自分の体を痴漢犯罪者から守るために、護身術でも身につけたのか?」
「そうなんじゃないかな。しっかし、本当エリザは乳大きいよな」
「恋ちゃんと比べちゃ駄目だろ、凛」
「悪いか。……恋は日本人としては平均より上らしいけど、エリザはな……」
「確か、ドイツってDカップが平均だったっけかな」
「よく知ってんな、お前」
「だからさあ、よくアニメとかラノベでドイツ出身キャラ登場するけどさ、何故か殆どのキャラクターが貧乳っていうのがあってさ」
「それ僕も考えた」
「そっか。しっかし、ドイツとアメリカってDが平均なんだな。凄いわ」
「羨ましいってか。エリザはGだってよ」
「じ、じ、Gっ!?」
「お前、驚きすぎ……」
「Gカップだぞ! お前、そんなにおっきい乳抱えた女と一緒にいるとか、本当うらやましいわ。ま、手出したら俺がお前を逆に襲ってやるから」
「男が男を襲って倍返しか?」
「ああ。トラウマを作らせることでな」
「お前の発想は素晴らしいようで馬鹿馬鹿しいようで……」
「なんだそれ」
「なんでもねえよ」
湯に浸かりながらそんなことを考えていた。隣では、姉ちゃんと恋とエリザが女子同士の話をしているんだろうけど。それこそ、恋話とかしてたら是非とも盗み聞きしたいと思うが、それは人として軸がぶれている。
身体を、髪を洗い終えると、僕と愁はそのまま湯を上がり、部屋へ戻った。
***
「お帰り」
浴衣を着た姉ちゃんがそこに居た。黒縁の眼鏡を掛け、髪をロングストレートヘアにし、口に安そうな飴をくわえ、キーボードを打つカタカタという音を大きく上げながら、小説家になろうのサイトで小説を書いていた。
「書いてたんだ、小説」
「私は同人誌描くっていうのはあくまでゲーム作る上の絵を上手く描くための工程だしね。本当はこうして文章書きたかったんだよ」
「へえ」
「なんか凄い私が文章書くのが意外そうな目をしやがって……」
「悪いか?」
「悪く無い。……ああもう、なんか小説書きたくなくなったじゃんか」
「ごめ……」
姉ちゃんは、パソコンをロック状態にした後、おぼんにのっていたモナカを一つ手に取り、口に運んだ。そして、姉ちゃんが「なんかしようよ」と言い出した。
「卓球とか?」
「いいね」
僕は姉ちゃんの提案を受け入れた。が、愁は受け入れなかった。むしろ、近くに置かれていたテレビを付け、祝日昼間のテレビ番組を楽しみはじめた。
「愁は卓球しないのか?」
「だって卓球出来ねえし」
「え?」
「この時間帯出来ないんだよ。夕方から夜まで出来るけど。ま、ゲームコーナーでも行ってくればいいさ」
「愁は行かないのか?」
「部屋で待機してるわ。どうせ12時だし、昼飯ももうすぐ出されるんだろうし」
「なるほど」
「だからお前等行って来い」
その言葉に、姉ちゃんがちょこっとツッコんだ。
「その言葉、年上に対して無礼だぞ」
「お、幼馴染の姉って家族同様の関係じゃないんですか? ……今までそんなこと言ってなかったのに……。あ、モナカ貰い!」
「こらっ! ……18歳になったんだ。愁君は免許もとった。結婚もできる。18ってのは節目の歳なんだよ。だから、これからはキツく当たる」
「えー」
「そういうこと言うからモテないんだよ」
「姉ちゃん、キツイこと言うな……」
そしてふと今の姉ちゃんの姿を見て思う。愁の方に視線を送っていた時、姉ちゃんの姿を捉えてしまったのだ。いつもの姉ちゃんとは何処か違う表情をしていたし、眼鏡は本当にヤバかった。「似合いすぎだろ」と思うと同時に、何故姉ちゃんに彼氏ができないのか僕は疑問に思った。
「さて、んじゃゲームコーナーに行きますか……」
「ゲームコーナーへレッツゴー!」
右手の拳を握って上に上げる姉ちゃん。その姿はどう見ても子供のようで僕も愁も苦笑いした。姉ちゃんは本当に察しがよく、すぐに「こらあっ!」とプンスカと怒りを顕にした。
そして、その時丁度恋とエリザが帰ってきたのだ。まあ、戸を開けたら目の前にはタオルで髪の毛を拭いている女の子が一人、二人なんて、突然出てきたら驚くのも当たり前だ。が、愁はそんなことを気にすることはなく、ただただテレビに毒されたように、テレビをじっと見ていた。
「何処行くの?」
「ゲームコーナーへ行こうかと」
「へー。私達も行っていい?」
「いいんじゃね。でも、愁がまたキレそうだけど……」
「キレねえよ。俺はお前みたいなリア充は嫌いだが、キレるなんてことはない」
「格好良い……」
「男に『格好良い』なんて言われてもどうにもならないから。可愛い子に『格好良いね』とか言われるのは本当、一生に一度でいいから味わってみたいなあ……」
愁が妄想に浸り始めようとした頃、エリザがぎゅう、と僕の身体にくっついて抱きついてきた。そして、耳元で「格好良いね」と小さく吐き捨てるように話してきた。そう、これは愁が言っていた、妄想に浸ろうとしていたのとほぼ同じことだ。
「貴様ばかり優遇されおって。……こちとら怒りが爆発しそうなんだぞ?」
「ほら、キレないとか言ったくせにキレそうじゃん」
「俺は女の子がどうこうしてもキレない。けど、男があーだこーだしたらキレる」
「なんでだ?」
「この世の風紀を乱すからだボケが! 街中でイチャつきやがって!」
「いや、それ僕じゃないし……」
「うっせんだよ! どうせ俺に春は来ないんだ……。どうせ、どうせ……」
「ごめん、僕もフォロー出来ない」
「うわあああああああっ! ああもう、出てけ! 出てけ!」
暴言を吐かれた末、僕と恋、エリザ、姉ちゃんの4人は戸を閉めてゲームコーナーへと向かった。
***
ゲームコーナーに来ると、浴衣を着たカップルと思われる二人が、もぐらたたきゲームで遊んでいた。もぐらを叩く彼女、そしてその後ろから彼女の身体をぎゅっとしている彼氏。……愁の言ってるのはこういう事か。そりゃあ、やっぱりムカつくよな、こんなこと直ぐ近くでされたら。
「なあ、エアホッケーしない?」
「なんでエアホッケー……」
「近くにあったから」
勝手につけた理由を話す。特に理由はなかったのだが、やりたい気分になったのだ。だから僕は提案した。ただそれだけの話だ。
「うーん。ま、エアホッケーしよっか」
「お。んじゃやろうやろう!」
「2人1組でいいよね?」
「いいと思うぞ。けど、誰と誰が誰と誰と対決?」
「うーん。凛と私、恋と義姉さんでどう?」
恋と姉ちゃんは、そろって『なんでさ!?』と怒鳴った。先ほどのカップルにはちっ、っと睨まれた挙句、カップルらは帰ってしまった。我ながら酷いことをしてしまったなあ、と『後悔』以外に言葉を連想できない。
結局、じゃんけんで決められ、僕はエリザとすることになった。が、その初球。マレットによって、とてつもない強さで放たれたパックが外枠に強く2回あたり、空中を舞う。そして、それは見事に僕の股間にヒットし、力強いそのパックによって、僕は激痛に襲われた。
「痛ってえ! あああああああ! ああああああ! 痛い、本当痛い!」
手で股間を押さえる。それしか出来ない。脳内は、股間部分の痛みでいっぱいいっぱいで、他のことを考えられなかった。本当、それくらい痛くて、痛くて、痛かった。
吐くまではいかなかったが、僕は股間を抑えながら、エリザの肩につかまり、後ろに逃げた。恋は「ご、ごめ……」と謝っていたのだが、僕からすれば謝るのはいいから、もうやめてほしかった。なんというか、これがトラウマになりそうだったのだ。トラウマなんて、持ってしまったら負けみたいなもの。今まで、楽しくやっていたことですら、拒否してしまうのだ。だから、トラウマなんて持ってしまったら負けみたいなものなんだ。
股間にパックが当たるというのも、僕からすれば完全にトラウマに成りかねないことだ。この時ばかりは、エリザが本当巨人のように見えた。僕を守ってくれるという意味でだ。背がでかいとか、そういう意味ではない。
「……ふっふっっふ。ダーリンに悪い事した罰に、行かせてもらうよ!」
「……え? ……嘘っ!」
とてつもないスピード。そのスピードでパックは消えた。時速にすると、軽く100は超えていると思われるその超越したスピード。もはや、エリザは選手として出れるであろう。僕は、いや誰がみてもそのスピードと、人類を超越したようなその高速魔球には、皆が驚くはずだ。
「……私の力はこんなもんよ!」
だが、ここで僕は有ることを思いついた。それは、まさか……かもしれないが、エリザが魔力を使ってパックを高速魔球にしたのではないかということだ。僕はそれを、エリザの耳元で聞く。
「エリザ。お前、魔力使った?」
「使ってないから。結界も張ってないし」
確かにそうか。考えてみれば、エリザは結界なんて張っていない。そりゃあ、魔力も使えるわけ無いか。「……それならこれが実力なのか?」
「実力って訳ではないけど……」
「魔力でもない、実力でもない……。じゃあ執念のようなものなのか?」
「そうなんじゃないかな……。えと、ダーリンの子供は私が産むから、赤ちゃんの素を失われたら困るし……。だ、だからその、守ろうと」
「ちょちょちょ……。赤ちゃんの素ってつまり、アレだよな?」
「そ、そうだよ! ……ダーリン女の子に言わせないんだね、そういうこと」
「い、言わせるとか僕はそんな羞恥プレイを追求するサディストじゃねえ!」
「嘘だな。人に、自身の胸の大きさ聞いてきたくせに」
「あわわわ……」
「何隠そうとしてんだバーカ。隠すことも出来ねーよ」
「……う」
「おいおい、それより相手からパック届いてんぞ」
「マジか!」
僕はエリザの後ろからひょこっと抜けだしてパックを跳ね返した。嬉しい事に、股間の痛みは収まっていた。それだけ、僕の行動にも素早さがうかがえる。
***
「33-4……やった! やった!」
僕とエリザは、恋と姉ちゃんとのダブルス対決に勝利した。33-4という、圧倒的かつ、どこかで見たような数字だったが、勝ったことに変わりはなく、非常に嬉しい。エリザはぎゅうっ、とまた僕に抱きついてきて、更に恋からの視線が僕とエリザの関係を疑うような、睨みの目だった。
「なあ、恋。機嫌直せよ。負けたくらいで……」
「それ、私が恋愛に負けたみたいな言い方に聞こえるんだけど。……つか、凛がエリザと抱き合ってるの見ると本当カップルに見えるんだけど、カップルなの?」
「いやそれは……」
僕が答えようとした時、丁度エリザが話を切り出してきた。
「違うよ。私とダーリンは『一つ上の幼馴染』って事にしてある。……あ、でもダーリンの子供産むのは私なので、これは決定事項ですからね!」
「なぜそこで強気になるんだお前は……」
「わ、悪いか! ……でも、決してダーリン以外とはしないから」
「あの、勝手に誓いを立てられても困るんですが……」
「とにかく、恋さんと恋愛しても、子供を産むのは私です!」
恋は、破廉恥なことを想像したようで「破廉恥なっ!」と置き台詞のようなものを置いてトイレに入っていった。人差し指でこちらを指す姿は、完全にツンデレキャラの風格そのものだ。
「さて。戻ろうか。昼飯だ」
「そうだね。……まあ、魔族討伐とか無ければいいんだけどな」
それは登場するフラグなのか、登場しないフラグなのか。僕にはそんなことまだ分からなかった。どうせ、時が流れるにつれてそれも分かってくるはずだろうけど。
そう思うと、この後昼飯食ったら何しようか、と思えてくる。なにせ、計画性皆無のこの旅行で、一体何を楽しめばいいのか。最終的な話はそうなってくるのだ。
ツンデレキャラを見送った後、僕はエリザをおぶって部屋に戻った。しかし、エリザもよく僕におぶられるのが好きなんだな、と改めて僕は思わされた。




