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Future  作者: 浅咲夏茶
3rd Chapter;Genie Cheats.
29/127

Target:Alchemist Nome underground. and Elisa/episode28

「ノームは、何か叶えて欲しい夢、とかあるか?」

 ノームは僕に抱きついたままだった。その吐息は、男の吐く吐息には聞こえない。その声は中性的で、背中に居るのは女では無いかと考えてしまう。

「夢……ですか。一つあるとすれば、ボクがこの神戸に出てきたのはもう19年も前です。この街の光景も、19年前とは大きく変わっています。地震なんて起こすつもりじゃなかったのに、それをボクは……」

「大丈夫だ」

「で、ですが……」

「大丈夫だと言っている。本当に悔しいことがあれば、憎いことがあれば、僕は君を殺していたはずだ。けど、今の僕にそんなことは出来ない。悪人を裁く、それが正義の味方の使命なのだろうけど、僕にそれは出来ないよ」

「……じゃあ、僕を殺さないの?」

「分からない。けど、現段階では殺さない。……で、シルフの話を聞いていて思ったんだが、なんでお前は大きな地震を起こすのだ?」

 ノームは僕がそういった瞬間に黙り込んだ。話そうとしなくなって、さっきとは全く違う表情をとった。

「……ボクにもストレスは有ります。だから、そのストレスが溜まった時、ボクは初めてその地震を起こすんです。だから、ストレスが溜まっていない時は、巨大地震なんて起きないんです」

「わかった。じゃあ、『ストレスを貯めない』。お前はそれが夢なんだな?」

「夢ってことではないと思うけど、でもそうしてくれる環境を作ってくれるのであれば、ボクは大歓迎だよ。むしろ、そういう環境のほうが過ごしやすいし」

「そうか。なら、僕の悪魔になれ」

「……え?」

「だから、僕の悪魔になれと言っているんだ」

「ま、マスター……。ありがとう……御座います」

「お、こ、これは……」

 ノームに抱きつかれた。女性特有の匂いは一切しない。恋やエリザからくる特有の匂いは一切しないのだ。ニュクスやウンディーネなどはどうだか分からないが、そういう匂いがあってもおかしくはないと思う。

 なにせ、ニュクスなんて自分のことを「レディー」と呼んでいるし。

「マスター。それで、ストレスはどう発散すればいいんですか?」

「一つの方法として、カラオケで歌いまくることがだと思うぞ。もしくは、大地を司る精霊だから地面でも殴るとかさ」

「そ、そんなことしたら地震起きるよ?」

「……あ」

 忘れていたわけではない。考えられなかったのだ。話を聞いていればわかったはずのことだ。マグニチュード7位上の自身を起こしている張本人は、なゐの神だが、それにはノームも加担しているということ。それをシルフから聞いているのに、何故今まで分からなかったのだろうか。

「その案は無しでいこう」

「そうだと思いますよ。……じゃあ、ボクは歌を歌いたいです」

「歌……か」

「はい。歌です。マスターは、何か歌に嫌な思い出なんかあったりしますか?」

「いや、そういうわけではないんだ。けれど、何か歌を歌う時って、緊張してしまってなあ。いい声出そうとするとどうしても無理なんだよ」

「歌なんて、人に届けばいいんです。歌詞が、旋律が、思いが。歌の上手い下手なんて二の次の話です。だから、マスターには嫌な思い出とか会ったとしても、そうやっておもいっきり歌って欲しいかなあ、と思います」

「成程な……」

 僕の心にもノームの思いが届いた気がした。思いを共有できることって、結構凄いことなのだろう。それは歌でも会話でもそう。だから、ノームはそれが言いたいんだと思う。大地の精霊ノームは、普通地中で暮らす精霊だ。だから、ノームは一人ぼっちだったんだと思う。シルフと友達のような関係であることから、一切の友人関係がなかったとはいえない。けれどやっぱり、友人関係はそう広くなかったのだろうと思う。

 そんなノームの言葉に、エリザが反応を見せる。

「カラオケ、私も行きたいな。正直、私ダーリンの歌声聞いたこと無いし、カラオケなんて行ったこともないし。だからさ、カラオケ行きたい」

「そっか。じゃあ、カラオケ行くか」

「マスター、行きましょう!」

 皆居るか確認したが、シルフの姿が見当たらなかった。……違う。デビルマシンのディスプレイに表示されている物があった。それはシルフからのメールで、その内容は『勝手に戻りました。風の力ってすげー』と書かれていた。流石風の精霊、と言いたいところだが、そう一筋縄でもない。確かに凄いが、勝手に戻られるのも僕の「心配する」という感情と行動力が働くため、断ってから戻って欲しい、とつくづく思う。

 僕はシルフにその旨のことをメールで伝えた後、振り返ってエリザとノームにカラオケに案内することを伝えた。

「さあ、カラオケ行くぞ!」

「おっす。けど、昼から開いてるかな?」

「今10時半くらいか?」

「ううん。11時半前。神戸に戻って12時くらいじゃないかな?」

「空飛ぶって行っても、少し寒い感じもするもんな。まあいい。12時くらいなら別にカラオケで昼飯でも大丈夫か。流石に夜行くと危ないだろうし」

「えー。昼間でも不良とか入ると思うけど」

「そ、その時はボクが守ります!」

「馬鹿か。その心構えは有難いが、不良くらい魔法なんか使う必要はない。それこそ、精霊なんて羽とか付いてるし、バレたらヤバイだろ」

「ぼ、ボクは羽なんか無いけど……」

「え?」

 精霊には羽があるはずだ。なのに、ノームには羽がない……?

「本当、なのか?」

「ほ、本当だよ!」

「そ、そうか。じゃあ、試しに僕の背中から離れてみてよ」

「ま、マスターってもしかしてドの付くサディストですか?」

「違うよ! でもマゾでもないよ!」

「そ、そうですか。でも、落ちたらそのまま落下していきますが……」

「本当にか?」

「本当にですよ! ま、マスター流石に疑いすぎですってば!」

「はあ。けど、お前が飛べないのであればいいや。いつまでも僕の背中に抱きついていられると街中で歩いた時、まるで恋人に思われてしまう。だから、背中に抱きつくのはやめろ。そして、まずお前は、この魔法陣の中に戻れ」

「あ、は、はい。わかりました」

「意外とお前、僕の言うこと聞いてくれる従順な精霊なんだな」

「シルフと性格は正反対ですからね」

「しゃべり方は何処か似ている気もするが、本当性格は正反対だよな」

「そうですね。まあ、ボクも戻りますね」

「おうよ。それじゃあ、ノーム! 戻れ!」

「はい、マスター!」

 赤い光に包まれてノームは消えていった。魔法陣の中にだ。魔法陣ではなく、海の中に消えていった、なんて事があったらちょっと僕も居ても立っても居られないだろうけど。けど、魔法陣の中ならやっぱり安心な気がする。

「さて、エリザ。ノームも魔法陣の中に戻ったということで、僕の精霊となったわけだが。さて、カラオケ行くか」

「二人きりだし、抱きついてもいいよね?」

「寒いのか?」

「寒くはなくても、やっぱり暖かいのを求めたくなるんだよね。……それでダーリンは、寒いの?」

「寒くはないけど。お前が好きなら抱きつけよ」

「ダーリンってツンデレキャラだよね、絶対。恋と被るよ?」

「うるせえな。つか、僕はツンデレじゃねえよ」

「嘘だね。でも私はちょっと寒いのでダーリンに抱きつくよ」

「そっか。じゃあどうぞ」

 エリザはなんとも言わず、僕の背中に自分の体を密着させてきた。このやりとりももう何回目だろうか。数えても数回くらいだろうけど。けど、何回もされてくると慣れも起こってきて、今までのエリザの豊満な胸のふにゅっとした感覚なんて、もうどうでもよくなってきてしまう。それがエリザの魅力なんだろうけど、それに慣れるっていうのは、僕は恵まれている、という事なのだろう。

 

 ***


 そんなこんなでカラオケの直ぐ近くまで着いた。片道30分くらいだと思われる。別に片道10分でも行けないことはないのだろうけど、相当体力を使いそうだから、僕はあまりそういうことにチャレンジはしない。だから、姉ちゃんとかに『女々しい』と言われるのだろうけど。

 背中のエリザはもう寝ていた。やっぱりエリザも眠気に誘われたか。仕方ないってことも一つ有るだろうな。午前3時だ。その時間から正午近くまで起きていたって言う事こそ凄い。そんなによく寝ていないのに。思えば、魔族討伐して、シルフ攻略して、家で掃除して、同人誌見て、そしてノーム攻略して、今カラオケの前。そういうことを振り返っていくと、意外と一日って早いような気もしてくる。長いようで短い、それが学生時代なのだろう。

「何綺麗事言ってんだ僕は」

 寝ているエリザをおんぶして、僕は魔力結界を解除し、カラオケ店の中へ入っていった。店員さんにはニヤニヤされていたが、それはやめてほしかった。僕がエリザと居ると、本当何故かニヤニヤされるんだよな。それは僕とエリザが『彼氏彼女』の関係に見えるからだろうか。それとも、僕がエリザのパシリにされていたり、奴隷的な感じに見られているのだろうか。

 後者のほうだと僕はどれだけ女っぽいってことなんだ、全く。


 ***


 カラオケボックスの中。ディスプレイに表示させる多彩な様々な文字が、昼間なのに、この場所がまるで夜間の空間のように、ネオンの輝く眠らない街の中の一角、そこのカラオケのように感じることが出来る。

「さて。ノームを召喚っと」

 魔法陣を描いて召喚すると、ノームは「うわっ」と驚いた顔をした。けど、直ぐにソファに座って僕にマイクの持ち方などを聞いてきた。しかし、こんなことすらわからない子が居るなんて、本当に僕は珍しく感じた。カラオケなんて、僕は普通に行っていた。だから、珍しく感じるなんて、本当に以外なことなのだ。

「マスター。エリザさん寝てますけど……」

「寝かせとけ。どうせ直ぐ起きるさ」

「そうなんですかね?」

「そうだろ。どうせ直ぐ起きるさ。……こんなこと何回も言うんじゃない。早く歌って帰るぞ。夕方までぶっ通しなんてしたら、僕だって体力持たないし。僕なんて、今日3時に起きてここまで起きてるんだ。寝たのは3時間4時間くらいだぞ。しかも寝てる時間少ないから体力的にもヤバイし。だから、早く歌ってすぐに帰る。それで行こう」

「ま、マスターは、ボクと歌うの嫌……ですか?」

「嫌じゃないけど……。ただ、正直なところ僕も寝たいんだよね」

「じゃあ何でカラオケ入ったんですか……」

「いや、ノームが歌うって言ったから……」

「責任転嫁みたいなことしないでください。ボクだって、マスターに迷惑かけるの嫌です。けど、仕方ないじゃないですか。ボクだって迷惑かけたくてマスターに言ってるんじゃないんですから。ボクだって、本当はマスターに喜んでもらいたいだけなのに……。それなのに、それなのに……」

 ノームが泣きそうになる。その姿はまるで女の子そのもの。男の子には見えない。絶対、僕の眼の前に居るのは彼、でなく彼女、と言うべき人物だと、そう思わされる美しさだ。ノームは俗にいう『男の娘』というのに相応しい。

「ごめんな……」

 なでなでとノームの頭を撫でると、ノームは僕の服をぎゅっと掴んで、その服に涙の粒を少々付けた。それも青春の1ページと考えると、厨二くさいけれど、それでもいい思い出のように感じれるように思った。

「じゃあ、選曲しようか?」

「でもボク、何歌えばいいか……」

「ああもう。じゃあ、僕がボ●ロ曲をメドレーで50曲行くわ」

「ボ●ロ曲?」

 その時、僕とノームの背後から女性の声が聞こえた。その声はそう、エリザの声だ。エリザは足音をしっかりと立てて、いつの間にか僕の方を叩いていた。そして、ノームの方を向いてボーカロイドについて説明を始めた。

「ボーカロイド。VOCA●OID。通称『ボ●ロ』。それを使って作られた曲の名称を『ボ●ロ曲』と呼び、それを使ってその曲を作った作者を『ボ●ロP』、などという。ボ●ロPのPは、プロデューサーという意味を含む。要は、アイ●スでもあるけど、そういうプロデューサーって意味だね。アイドルをボ●ロのキャラクターと考えた時、裏側で支えている人達は皆プロデューサーなんだよ」

「よ、よく分からないです……」

「ボカロ曲はニコ●コ動画で『Voca●oid』とタグ検索してみれば、ヒットする数は軽く20万、30万を超える。ニコ動のみならず、ユー●ューブなんかでもアップされているし、その曲を元に歌った動画、キャラクターを書いた動画、そこから生まれた同人誌。色々な言葉や曲や作品群がそこから生まれた」

「あのさ、エリザ。なんでお前、ニ●動とかボー●ロイドとか、名前わかるの?」

「いや、ニ●動はドイツでも展開してたじゃんか」

「ああ、やってたな。ドイツ、スペイン、台湾、アメリカ……今となってはもう、全部統合されたんだよな。……さて、ほら歌を歌うぞ」

「ダーリンって歌うまそうだよね」

「そうかな?」

 我ながら歌には自信なんてものはないけど、人から「上手いんじゃね?」と言われると、僕は簡単に引き下がれなくなる。なぜだか分からないが、これも「何が何でも貫き通す」という思いを強く持っている僕だからこそ、引き下がれないのかもしれない。

 とまあ、僕も「ボ●ロ曲メドレーで50曲歌うわ」なんてこと言わなきゃよかった。なにせ、エリザが今の段階で起きているわけだから、僕がそれを言った時に起きていなかったんじゃないか、なんて考えることも出来る。

「さてと。僕もノームに言っちゃったし、やってやろうかな」

「お?」

「んじゃあ、ボ●ロ曲50曲、メドレー行きます!」

「おお、頑張れダーリン!」

 僕はマイクを持って、ディスプレイを操作し、ボカロ曲を歌うリストの中にいれ、そしてそのリストを連続で流すという機能を使い、僕はそれで歌うことにした。一々何度も何度も歌う歌を操作することなんて、とてもじゃないけど時間を食う。だから、必要最低限の時間と声への負担で歌うことができれば、結構いい。


 ***


 そして、歌い終わった時、時刻は軽々夕方4時を過ぎていた。外を見れば、周りは雨が降っていた。そうか、遠征先の福岡で大雨と言われていた時の雨雲がついに神戸に来たのか、と考えると、妹が少し心配になってくる。

 時間も時間で、僕はエリザやノームの姿を確認した。が、二人共バタンキュー。ノームに関しては、シルフと同じくメールで「戻ります」と書かれていたものを残して戻っていたのだ。ということは、このボックスの中では今寝ているエリザと二人きりというわけだ。

「……はあ。延長とか、関係なしにやらかしたからなあ。もう帰るか」

 確か1時間で入っていたはずだった。僕は歌に夢中で、それに関しては一切脳を働かせていなかったのだが、それはエリザがやってくれていた。なんと、「4時間」延長してくれたのだ。要は5時間。大体5時半くらいまでこのカラオケボックスに居てもいいことになる。

「恋にメールだけ送っとくか」

 またまた恋に悲しい思いさせてしまった気がする。恋に済まない気持ちになる。けど、それは家に帰ってから謝ることにして、5時半まで枠をとったのだとすれば、もうちょいここで歌っていようと思い、僕はまたマイクを握った。


 ***


 夕方5時半前。計5時間の時間の枠は終わり、延長分の料金を払ってカラオケを出た。寝ているエリザを背負いながら、路地裏に入って魔力を開放し、僕は自宅までひとっ飛びしていったのだった。




 ――――これから起こる神々による闘いなど、僕には到底分かるはずもなかった。

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