Target:Alchemist Nome underground./episode27
会長はまだ起きてきていない。それもそうか。僕が起きる前から起きていたのだから、そりゃあもう徹夜のようなものであろう。なにせ、チケットを貰ったのが昨日の20時前だった。会長は金たらいを回収する作業も行っていた。だから、それだけ作業で疲れも溜まっていたはずだ。その疲れが会長を苦しめる眠気になり、そして『ばたんきゅー』的な感じで、会長は寝てしまったのだろうと考えられる。朝の6時だからな。そりゃあ寝てしまうのも無理ではないか。朝のあの日差しは、眠気を誘ってくる時があるからな。「やりきった」という心の中の思いと、「まだまだ頑張らなきゃ」という心の中の思いが戦い始める。だからこそ、眠気を誘われてしまうのだ。やりきったという思いが強くなった時に。
「エリザ。朝の10時だ。ここまで待ったが、姉ちゃんは同人誌の仕上げをするらしいし、恋や会長も寝かせておこうか」
「起きた時に驚くんじゃないかなあ、と思うけどどうなん?」
「まあ、恋と会長の関係は悪く無いだろうし、別にいいんじゃないかな」
「そうか? ……それならいいか。じゃあ、紙になにか書いていくか」
「そうだね。てか、メルアドとかって聞いていないの?」
「生徒会の役員でも、そこまで聞かないからなあ。電話番号は知っているけど、掛ける訳にはいかないだろう。変なことになると悪いし。それこそ、メールもそうだけど、電子端末系って、おやすみモード的な感じ以外の時にメール送ると、着信音がなるでしょ?」
「あ」
「ほら。だから、恋や会長が起きるかもしれないじゃんか」
「そっかー。流石学年トップは言うことが違うんだね。本当、凄いよ」
僕はエリザに撫でられた。撫でられると、エリザが本当の姉の様に思えてくる。……いや、こんな姉居たら大変だろ。血縁関係がないからこそ、これだけ密接な関係に慣れたわけで、血縁関係があればある一定以上の関係性を超えることは出来ない。それを何とするかは関係している人なのだろうけど。
「撫でるな。僕はペットじゃないぞ」
「それ、性的な意味で捉えたら私がなんかSみたいじゃん!」
「いや、エリザはMでしょ。マゾで爆乳で茶髪とか、神じゃん……あ」
「い、今のお世辞じゃない?」
「……ご、ご想像にお任せします」
ついつい、心の中で思ってしまったことが口に出てしまう。「言うはずじゃなかったのに……」と後悔してからではもう遅いのだ。このことは僕もゲームでよく経験している。例えば、ゲームで敵に負け、悔しんで発狂した時、大声で怒り狂った時、そんな時に姉や妹から「うっせえよ!」と言われた時、もしもそれがエロゲだったとしたらと思うと、本当に危険な状況下に入る。それだけ、心の中で思ったことを口に出すというのは危険なことなのだ。
エリザは顔も赤く染め上げた後、僕の右手にくっついてきた。
「……う」
「だ、ダーリンが悪いんだぞ! し、心臓バクバク言わせてさ!」
「や、やめろ……デレ顔とかマジ反則……。この後攻略あるんだから、少しは照れるのやめろ。こっちが恥ずかしくなってくる。……って、なんか背中と腕にふにゅっとした柔らかい物があたってるんだけど……」
「あててんのよ、という台詞を言わせてもらおうか」
「はあ。……ま、早く攻略しないとな。折角の日曜日をぐーたら過ごすより、何かで埋めたほうがいい気がするって気分なんだよな、今日は。いつもはゲームしてゲームしてゲームして寝る、っていうのが日曜なわけだが、今日は違うっぽいし。まあいい。行くぞエリザ」
「ちょ、ま……」
「せーの」
『魔力開放!』
「……と、突然過ぎるぞ! 少しくらい時間を貰ってもいいじゃんか!」
「いや、勝手に一緒にしようとしたのはそっちだろ。僕こそ、それに対して答えてあげたってのに……。ま、ごめんな、変なことしちゃって」
「べ、別に……」
「ツンデレキャラ?」
「違うわ!」
「本当、お前恋に似てるよな。しゃべり口調と言い。元々のしゃべり方でいいのに。まあもう無理か。身につけちゃったら」
「無理だね、きっと」
「そっか。でもお前はその大きな乳と、可愛い顔で色んな男を口説けるんだろうな。……あ、そうだ。ノームって男じゃん。お前口説け」
「え。わ、私はそういうエロゲもギャルゲもプレイしたこと無いのに!」
「いや、それは関係ない。流石のノームもお前にはぐっと来るはずだ」
「会ったこと無いくせに」
「悪いな! けど、それでも無理なら会長に電話して聞けばいいだろう。会長は僕らより相当長い時間魔族と戦ってきたのだから、まるでババアの様に、素晴らしい話をしてくれると思うぞ」
「会長さん、ババアなんて言われたら傷つくと思うけどね」
「そうだろうな。ま、いいや。取り敢えず淡路島まで一飛びだ」
「はい、マスター!」
「おい」
「ん?」
「今、エリザの声だったけど『マスター』って聞こえたんだけど」
「ごめん。じゃあ『提督』? それとも『ご主人様?」
「その2つだったら提督で……って、僕が艦これしているということを何故知っている……? いや、そんなことはどうでもいい。今更何故呼び方を変える?」
「いや、だって私がダーリンに指示しているようだったけどさ、私本当は指示される方が好きなんだよね。……あ、へ、変な意味は無いよ?」
「ほう。じゃあ、エリザはドMなんだね。わかったよ」
「ち、違っ……」
「ドM爆乳茶髪外国人。いいとこばっか。しかも日本語いけるとか最高じゃん。あ、そうだ。聞き忘れたんだけど、エリザってドイツ語出来る?」
「これでもバイリンガルですから。私が話せるのはドイツ語、英語、日本語の3つだね。けど、それ以外は全然出来ない。数学とか化学とか、国語とか日本史とか、もうわけがわからないよ!」
「確かにね。僕も日本で暮らすのに何故英語を覚える必要が有るのか、って思ったことあったけど、今じゃ英語が一番得意だし」
「へー。ダーリンって凄いんだね」
「おう」
「さて。淡路島行くぞ」
「でも、なんで淡路島なんだ?」
「知らない。けど、どうせノーム自身が理由はわかってるんだろ」
「そうだね。じゃあ、ノームに聞けばいいか」
「そうそう。んじゃ行くぞ」
「ひ、引っ張るな!」
「お前にはノームを攻略してもらうからな!」
「うう……」
「ほら行くぞ」
エリザはやる気が無いようだった。流石に、エリザを叩くのもどうかと思ったので、僕はこれ以上エリザにキツイことを言わないことにした。言うのが悪いとか、そういうことではないと思うけど、キツイこと言いすぎてエリザに泣かれると嫌だし。僕が、人の涙見るのが嫌ということもあるだろうけど。過去にそんなトラウマと遭遇したのかに関しては、明確な事は言えないが、今こうして嫌だと思えるということは、何かしらの理由があるのだろう。
淡路島への飛行中、僕はそんなことを思っていた。
***
『――魔力結界! 30!』
一応30メートルの半径を結界で覆い、下を見下ろす。
淡路島にほど近い海上の上空にて。軽く100メートルの高さは超えていると思われる。そんな場所から見ても何起こらないと思う。だから、僕はそれについて口出しした。
「見つからないな」
「ダーリン。いっそ、私達が行けばいいじゃん」
「いや、僕は炎属性だから無理だ。昨日の竜の件でも、僕はウンディーネに助けられた。だから、炎属性が水に勝とうなんて無理な話だったんだよ」
「……ん? じゃあ、ウンディーネに探してもらえばいいじゃんか。前にニュクスがダーリンの指示でシルフを探しだしてくれたんでしょ? じゃあ、ウンディーネも大丈夫なんじゃない? それこそ、海の中っていう予想外の発想も有りでしょ。シルフも海の近くに居たんだし、ノームもありでしょ」
「けど、ノームって地中で暮らしているんだろう? それなら、海中を探す必要はない気がするけど……」
「そっか。それなら、風の精霊であるシルフを使うべきか」
「使うって、言い方酷いな、お前。もしかして腹黒?」
「ち、違う!」
「本当か?」
「本当だ! ああもう、話題ずらすなバカ!」
「はあ。じゃあ、お前の指示通りシルフ出すかな」
僕は別にシルフが嫌いではないが、何故かシルフと会話していると、話しずらいような感じもするのだ。けれど、嫌いではない。それは本当だ。
僕はエリザの言ったとおり、シルフを召喚した。
「凛様、どうされましたか」
「シルフ。ノームは淡路島に居るんだろう?」
「はい。淡路島に居ます。彼は、地震を起こしている精霊でも有るのです。阪神淡路大震災で神戸が大きな被害を受けましたが、丁度その時に彼はこの地に引っ越してきたのです。まあ、本当はなゐの神(地震の神)と一緒に起こしている、とのこともあるのですが、なゐの神は三重の名張に居るので」
「そうか。でも、何処から引っ越してきたんだ?」
「そうですね、前に大きな地震が起きたところでしょうか。なゐの神が起こすのはマグニチュード7未満、ノームがそれに関わるのがマグニチュード7からだと言われていますから、マグニチュード7以上の地震が起きたところからだと思います。
……すいません。ウィキペディアで調べたところ、その前の地震はあの『奥尻島』が被害の中心となった『北海道南西沖地震』だと思われます。マグニチュード7.8、最大震度6、津波も発生しました。神戸の地震では津波は起きませんでしたが、それでも神戸の地震のほうが死者は多かったです」
「神戸……か」
1995年1月17日。僕はまだ生まれていなかった。僕が生まれたのは1996年の12月だ。それこそ、僕の両親は、神戸での地震が起こる前からドイツに居た。だから、神戸に住んでいた祖父や祖母などは皆死んだ。住宅の倒壊に巻き込まれて。僕もそれは見ていないからわからない。けれど、両親から聞いた話ではそういう話だったんだ。
暗い空気。シルフも察したらしく、これ以上の説明を避けた。
「凛様。2011年3月11日の記憶に新しい自身を起こしたのもノームなんです。……ノームとなゐの神が起こす巨大地震こそが、相当なエネルギーをプレートの境界に及ぼし、津波やら、様々なものを発生させるのです」
「なるほどな」
「だから、その元を殺してしまうべきなんです。けど、ノームはそれが嫌なんですよ。私は元々ノームと一緒に居たので分かるんです。彼が何故地震を起こさなければいけないのか」
「……色々とあるんだろうな、ノームにも」
「はい。だから、私から提案させて下さい」
「なんだ?」
「凛様が私を攻略した時もそうでした。自分で決めたことは最後までやりぬき通す。凛様はそういうお方です。ですから、きっと私を攻略したように、また馬鹿みたいに真面目に、自分で決めたことを貫き通すんだと思います。だから、そんな凛様に一言言わせて下さい」
シルフは息を吐き、そしてまた吸って気持ちを整えた。その後、僕の方をじっと見つめて空気がまるで止まったような雰囲気にした上で、話を切り出した。
「もしもノームが叶えたい事がある、と言ったら、必ず叶えてやって下さい。そうすれば、ノームも大きな地震を起こさなくなると思います」
「なあ、なんでノームは大きな地震を起こすんだ?」
「大地の司る精霊である彼は、何故精霊である自分が男なのかということや、精霊である以上に、何故地の奥深くに眠り、そこで行きなければならないのか。それが彼は嫌なんですよ。だから、大地のプレートが歪みを治そうとするときに、彼は貯めていた怒りを爆発させ、大きな地震を起こすんです」
「怒りを爆発させない地震が、マグニチュード7以下の地震というわけなのか」
「はい」
ふとエリザの方を向く。エリザはポカーンとしていて、シルフの話を効いていた。ドイツ人であるエリザからすれば、地震など分かりもしないことだろう。ヨーロッパでは地震なんてほとんど発生しない。巨大な地震が発生するのは、中国や日本くらいなんだ。あとはトルコやチリくらいだ。殆どの国では地震という事自体がメジャーな言葉ではないだろう。そう思えば日本はどれだけ地震が発生する地震大国なのだろうか、と考えさせられる。
「で、ノームは何処に居るんだ?」
『――此処に居ますよ』
「え?」
甲高い声。これがシルフの声なのだろうか。それなら僕のイメージしていたガタイのいい男とは違うようだ。中性的な声で、甲高い。男というより、声だけでは女という風に捉えられる。成長期に声変わりにスルーされた、そういう男だって居るわけだから、確かに僕の身近にいてもおかしくはない。
「ノーム、なのか?」
「凛様。その中性的な声はノームの声です」
『ボクはノームだよ。貴方がボクのことを拾ってくれる新しいマスターですか? それなら、マスターのお名前は一体何と言うのですか?』
「ぼ、僕は凛だが……うぐ……」
高ぶる感情を抑えるのに必死だった。僕は男だ。まずそれを僕は再確認する。勿論出ているところは出ているぞ。男だからな。しかし、目の前に居るこの悪魔が、精霊が、ノームが。彼は一体、いや彼女は一体? ……頭のなかの混乱が収まらない。目の前の精霊は本当に『男』であるのか。僕は確かめたくなった。もし女だとしたら、それこそ『実はボク、お、女の子だったんだ!』的な台詞があるはずだ。けれど、無ければ要するに『男』。それこそ、僕自身も、彼が女だとしたら、精霊は皆女という訳になるし、悪魔も幼馴染も含めれば、確実に『ハーレム』は広がる。
僕自身がハーレムを作りたいといったわけではないのに。ぐんぐんハーレムは広がっていく。……いや、エリザ、姉ちゃん、妹は別として、他は皆僕に好意を持っているのだろうか。それも、裏付ける証拠とかがあるのであれば、僕のハーレムが次第に巨大化していっているという事が言える。
ひとつ言うが、僕は望んでいるわけではない。リアル世界のハーレムなんざ、余計な恋愛トラブルが増えるだけ。理想の世界、要はゲーム世界のハーレムだけで十分だ。会長も言っていた。『リアルと二次元を混同するな』と。このことだけは会長の言うとおりだと思う。
「さて。ノームは本当に男なのか、シルフ頼む」
「だから男だって。じゃあ、ノームちょっとこっちへ」
「え? ちょ、何し……やめろ!」
しかし、シルフは狙った獲物は逃さない。別にシルフがそれを元に行動しているのかは定かではないが、今の僕から見れば、シルフとノームの構図は、僕の思ったようなふうに言えるのだ。それくらい、シルフが必死であるということも、そこから僕に伝わってきた。
「し、シルフ!」
「いいからいいから。ほら、くっつけ」
「え、えと。マスター、いいの?」
「か、確認だ。つか、別に僕はそこのシルフじゃなくて、茶髪の方のエリザから何度も僕の理性をトロトロにさせられるようなことをされてきた。耐久はついている。男同士なら大丈夫だ。別にお前はホモじゃないんだろ?」
「ホモって、同性愛者のことですか?」
「ああ」
「ぼ、ボクは同性愛者なんかじゃありません! の、ノーマルです!」
「そっか。じゃあいいや。ほら、くっつけ」
「は、はい。マスター。じゃあ、行きますね……」
「ああ」
むにゅ。それは柔らかい感触でもない。固い感触でもない。でも、男としての象徴はしっかりと伝わってきた。そう、シルフは男だ。けれど、この声は一体なんなのだろう。男なら、もう少し低い、いや『もう少し』じゃない。『もっと』だ。もっと低い声なはずだ。だが精霊だから、多少は女っぽいのだろうか。
僕はくるりとまわって、ノームに喉仏があるか確認した。しかし、喉仏はない。ガタイも女っぽいガタイで、男らしいとは申し訳ないが、いうことは出来ない。
「……ノーム。お前、女っぽいよな」
「ま、マスターはまさかのど、同性愛者ですか?」
「違う! 違うということを頭に入れた上で、深い意味は無いのだと考えた上で、僕の話を聞いて欲しい。……大丈夫か?」
「大丈夫です」
「なら、話を始める」
「僕はここに居るシルフもそうなのだが、精霊たちを口説いて、そして自分の悪魔にしている。だから、口説いた以上は彼女等に精一杯の愛情を与えていかなければいけない。そしてノーム。お前は男だ。別に男だから嫌、だなんてことはいわないさ。けど、お前とは彼女とか、彼氏とか、そういう関係にはなれないことを了承して欲しい。そう、言うならば『大親友』か」
「大親友……。マスターは、友達です」
「親友だってば」
「マスターは、大親友です!」
「こ、こらくっつくな!」
男同士でじゃれあうと、バカが集ったように思える。女同士のじゃれあいは、うざったらく感じる。やっぱり僕は人を見下す、最低な人間なんだろうな、と思ったりすることもある。一概には言えない。けど、一言言えることが有る。「別に、攻略なんて性別関係ないじゃん」と。
同性でも『親友』になればいいのだ。『彼女』じゃなくて。大事なのは、自分の嫁が出来た時、しっかりと祝ってくれる大親友、それが居るべきなんだ。それは幼馴染でも、精霊でも、悪魔でも。なんでもいい。重要なのは、質のいい友だちを作る、それだけのことだ。
じゃれあっていると、僕はそんなことを思ってしまったのだった。
このサブタイトルの元である、
錬金知者ノームアンダーグラウンドを翻訳したのですが、いまいち上手く行かなかったので、英語が上手い方、詳しい方、何かアドバイス等あれば感想などでお願いします。
僕はエリザのように英語が得意ではないのです・・・。




