Target:Elisa,Rina and Undine/episode19
「ご主人様。こんな夜な夜な……あ、出撃ですか」
「出撃っていいかた、それ『艦○れ』みたいなことか? ……課金しなくても結構なキャラが揃うからいい……って、何言わせているんだ!」
「勝手に言い出したのはご主人様じゃないですか……」
「済まなかったな。……じゃあ、お前にも出撃してもらおうかな」
「結局『出撃』って言ってるじゃないですか……」
「いいだろ! ……とにかく、ウンディーネ。闘うぞ、僕らも」
「分かりました。ご主人様の彼女さんにいい所見せてやりましょう」
「……彼女?」
「そこのエリザさんは彼女じゃないんですか? ……まさか二股?」
「何を言い出しているんだお前は。僕は二股をかけてないしエリザは彼女じゃない。……つか、僕には彼女が居ない。そして今後それには触れるな」
「わかりました。水に還ります」
「それは違うだろ! それはやめろよ!」
こういう時、よく敵は行動してこないものだ。本当、バトルシーンとかってよくこういうのがある。主人公側が話をしている間、敵は一切行動してこない。もしくは、話が一旦切れる場所で攻撃をかましてくる。よく感動シーン演出である展開だ。しかしまあ、自分自身がそういった展開に巻き込まれるなど結構新鮮なものだ。
雨が降り続く。神戸港の街路灯が結界の外から見える。ウンディーネの服が若干透けて見えた。……今一度思う。今日の僕はなにかおかしい。
唾をごくりと呑んで、僕は深呼吸をした後にウンディーネに指示を出した。
「ウンディーネ。やれ。理性を壊さない程度であの竜を……破壊しろ」
「ご主人様、わかりました」
ウンディーネは自身の身体の周りに激流を走らせた。そして、自身で剣を取り出し、眼帯を付けた。眼帯をつけたウンディーネは、そのまま剣を振りかざしてその竜に激流をぶつけた。
「はあああああああああっ!」
風を斬る音が聞こえる。風に包まれた水しぶきが僕を襲う。しかしながら、これも青春の1ページのように思える。……青春とは到底かけ離れた存在だが、それでも『バトルの1ページ』とでも言える。
「竜を殺す……。そう私は……竜騎士だ!」
着ていた悪魔としての衣装が光によって変わり、魔法少女衣装のようになった。そして、あくまで有るにも関わらず、イヤホンからヘッドホンに大きさが上がり、そのヘッドホンをウンディーネは着けた。
自分自身を信じ、ウンディーネは剣を振りかざして激流を竜にかざす。しかし、竜は一行の反応を見せない。……余裕をかましているのか。
だが、それは大きな間違いだった。突然、竜が暴れだしたのだ。
「ご、ご主人様……ッ!」
「ぐあ……っ!」
渦巻きが僕の周りに出来上がった。水の流れがわかる。僕の炎はどんどんと消えていく。このままでは魔法少年としての姿が保たれないかもしれない。右手を上に上げ、水の中でも藻掻く。水泳は苦手ではなかった僕だが、それでも藻掻かないと耐えることが出来ない。そんな渦巻きに飲み込まれた。
「ご主人様を……助けるんだ!」
ウンディーネは渦巻きの中に潜ってきた。一方の会長は、僕の方に気がついていなかった。助けて欲しかったが、そりゃあバトルに集中しているから仕方がない。しかも、会長は自分自身も参加していた。しかし、それでもなお、会長ですら、竜を一撃で仕留めることは容易では無いようで、龍の攻撃に会長も困惑気味だった。
渦巻きの中、ついに目も開けることができなくなった僕は、死を覚悟した。ここで死ぬんだ。彼女が一切できないまま死ぬんだ、と。家で告げた言葉がフラグだったんだ。死亡フラグだったんだと。今になって僕は自分自身を憎んだ。そして、右手で水を叩いた。
その時だった。
周りにあった水の感触が一瞬にして消えた。逆に、僕は空中に浮いていて、消えた時には尻餅をついていた。「痛っ!」と声を上げ、僕は自分の尻を擦る。
あたりを見回す。上を見上げるとまるでそれは水族館のようで、美しかった。魚は泳いでいなかったが、それでも海中から上を見ているようでほんとうに美しかった。
僕から見て右手にはウンディーネが居た。ウンディーネは僕を助ける間に濡れてしまったようで、魔法少女姿の服装を濡らしていた。そして、僕を見てニコッと笑った上で立ち上がり、僕に手を差し伸べてきた。
「……ご主人様。大丈夫、ですか?」
「ああ。それと、この空間は一体……?」
「この空間は結界のようなものです。でも、長い間この結界をはることは出来ません。四精霊にしか許されていない、そんな技です。……この結界は5分で消えます。だから、それまでに渦巻きの中を出なければいけないんです」
「でも、そんなことしたらまた僕は濡れて……」
「大丈夫。濡れても拭けばいいじゃんか」
「そんな簡単なことじゃないだろ。……てか、こういう時って炎タイプ結構大変だよな。全然自分自身の力を発揮できないし」
「そうですか? ……さあ、早く出ましょう、ご主人様」
「わかった」
ウンディーネが動くと、この結界も共に動いた。そして、この結界は渦巻きの中を飛び出して、そのまま結界は破られた。
「5分、経ったのか?」
「いえ。全然です。2分経ったかどうかもわかりませんが、それでも結界をやぶれるんです。なにせ、私が破ればいいだけの話ですから」
「それでか。……ごめんな、僕がこんなにまで弱くて」
「ぜ、全然です。むしろ、私はご主人様が私をその、貶すとかしなくてびっくりしているんです。前のご主人様はそういう人で、こんなに温かなご主人様の命令に従うことができる事が、私からすればとっても嬉しいんです」
「お前にも、嫌なことが……あったのか?」
「……はい。『水に還ります』とか私は今平気で言えてますけど、前のご主人様はそんなことも許してくれませんでした。……この話、後にしてくれませんか?」
「……トラウマはお前も話しにくいか。じゃあ、後でいいぞ。それよりも大事なことがあるからな」
「大事な……こと?」
「ああ。あの竜を倒す。それが一番大事なことだ」
「はい、ご主人様!」
ウンディーネは右手で「グッジョブ!」と親指を立ててドヤ顔で僕に合図を送った。そして、再びウンディーネは闘い始めた。
今まで水技を中心に攻めていたのだが、ここでウンディーネは攻撃方法を見直し、草技で攻め始めた。しかしながら、ニュクスの件でも知っていたが、悪魔は超魔法を使用すると、自身のMPだとか大きく削る必要があり、結構大変らしい。しかしながら、僕は魔法少年だし、あくまではないからそんなことはしならなかった。
「……草属性を……なめるなッ!」
もう一つ剣を取り出し、ウンディーネは両手に剣を持った。そして両方の剣に、緑色の光を光らせた。その緑色の光は、ウンディーネの体全体を緑色に光らせた。そして、その光は非常に明るく、光属性使いの会長もそれに気がついていた。
『凛君、あれは……どういうこと?』
会長の声が聞こえた。会長もヘッドホンを付けているらしく、こちらにも映像が届いた。この会話が一体どういう方式でされているのかはよく分からないが、プログラムのデザインはスカ○プに似ている。そして、似ていることから察するに、これはIP通話で相手と連絡を取り合っているのだろう、と僕は考えた。
『ぼ、僕にもわからないんですが……会長はどうですか?』
『あれはきっと、ウンディーネの覚醒モードなんだと思うんだけど、凛君に聞いてみたんだ。もしかしたら、何か知っていることがあるかも知れないからね』
『会長。それにしても、何も知らない僕に聞くっていうのはSですか?』
『SじゃないSじゃない。私はどちらかと言うと、イジメられたいかな……なんて。あ、嘘だよ? あの、誤解しないでね? SでもMでも無いってだけで……。今のは冗談というか……。ま、さっき言ったのは撤回ね?』
『残念ですが、会長のそのお願いは聞き捨てなりませんね』
『……あう。……つか、早く忘れろバーカ』
『会長ってもしかしてツンデレの気入ってます?』
『私がツンデレ? 有るわけがないだろう。……それより、ウンディーネが行動を開始した。主人である君が見守らないでいいのか?』
画面から目を離し、ウンディーネのいる方向、要するに竜の方向を向いた。ウンディーネは両手に持った緑色に光る剣から緑色の光線を出し、それを竜に向けてあてがっていた。ウンディーネの目は赤く、そしてまるでその目はニュクスの目を見ているようで、いつものウンディーネとは一味違った美しさだった。美しい以上に格好良く、力強い姿は、僕も圧巻だった。
『見守ります』
『そうか。それじゃあ私もドラゴンスレイヤーとして闘う』
『魔法少女と書いて『ドラゴンスレイヤー』ですか……』
『分かっているな。ああ、そのとおりだ。それじゃあ、私も行動に移す。炎属性を中心とする君は、この闘いに手を出してはならない。手を出したところでどうこうなる相手ではないし、攻撃を喰らえば大ダメージだ』
『そうですよね。……だから僕は、ウンディーネに希望を託します』
『そうか。……それが君の決意か。じゃあ、ここはパロディ風に聞こうか』
『ここでもパロディネタを使うんですか……』
『ああ。こういった絡みも文化祭のぶっ通し放送で必要になってくるからな』
『そうなんですか……』
『ああ。そうだ。それじゃあ、言わせてもらうか』
『いつでもどうぞ』
僕は一旦ため息を付いて、画面に目を移す。ため息は会長にも届いているはずだが、会長はそれには一切触れなかった。それが大人としての対応というものなのだろうか。……さて。それはいいとして、ここから会長がネタをぶちかましてくるわけだが。
呆れた僕はまたウンディーネの方を向き、その姿を見つめた。
『―――問おう。貴様の思いはそれでいいのか?』
『何そのFa○eみたいな言い方。……同じ神戸を舞台にした作品といえど、この作品と比べたら限りなくそっちのほうが神だろ』
『バトル中に「神」だとか言うんじゃない。……まったく』
『おい。またバトルが進展したようだぞ』
僕は会長との通話を切った。再度会長から通話が持ちかけられたわけだが、僕はその通話に対して、一切対応を見せず、切って切って切りまくった。ウンディーネの闘いに専念したい、というのもひとつの理由だったが一番の理由は会長をイジメたかったというのが大きな要因だ。……それにしても、流石にこうもシカトしてばかりいると、会長が泣きそうなので僕は8回目くらいで通話に出た。
僕の予想通り会長は泣いていた。
『ネタを混ぜ込んだだけで通話を切るなあっ! 剣を凛君に投げるから!』
『や、やめてええっ!』
『そんなの、聞いていられるか!』
『投げないで下さい。……お願いします、なんでもしますから!』
『ん? 今なんでもするって……』
『あ……』
『それじゃあ、今のはナシにしてあげるけど……。その代わり……』
『その……代わり……?』
『あとで映画館のチケットあげるから、明日エリザちゃんと一緒に行ってきなさい。それで私への侮辱的行為をチャラにしてあげる』
『……くそ。やらなきゃ駄目ですか?』
『うん。てか、魔法少女と魔法少年っていうことで私達は仲間だけど、私のほうが実力派上だから、凛君のことなんか5分で落とせるね』
『な、なんだと……?』
『5分で落とせるから。いや、割りと本当に。それじゃ、いいね?』
『わ、わかりました』
通話が切られた。……会長は泣いているわけではなく、不吉な笑みのようなものを浮かべているようだった。声だけでもそれは伝わってきた。
僕はまたウンディーネの闘っている方を向いた。HPとかは僕からは見えない。魔族討伐はそういうもので、ゲームとは少々ながら違う。HPとかが見えれば完璧なのだが、HPとかが全然見えないので相手のHPがどのくらい残っているか伺う必要がある。それこそ、覚醒だとかのモードは更に体力を消費するはずだ。僕もゲームとかでよく味わったからそれはよく分かる。
竜の方を向いた時、ウンディーネは両手に持った剣を竜にあて、攻撃を加えていた。前に見た時のウンディーネの緑色の光と比べると、約3倍程度にまで光は眩しく、そして色も透明度が増し、竜から見えないような光になっていた。
それが幸運をもたらしたのだろうか。竜もどこから光が来るのかわからないらしく、混乱しだした。身体を今まで以上にうねらせて、ウンディーネから逃れているようだったが、ウンディーネはそれを追った。ウンディーネは大きな白い翼を背中から出して、精霊というよりも天使に見えるその姿で竜を追っていた。
そして、両手に持った剣を竜の背中に力強くクロスさせて竜に攻撃を与えた。
「零下結晶……ッ!」
今まで緑色の光に覆われていたウンディーネの姿が、白い結晶に包まれた氷結の魔女のような、そんな感じの姿を醸しだした。そして、大声で自身の一撃必殺技を叫び、両手の剣をクロスさせて、周りの結晶を竜に当てた。
「ウンディーネ……いける。いける……!」
そう僕も心が高鳴っていったのだが、やっぱりそれはフラグだった。竜はその結晶を跳ね返したのだ。幸い、その結晶はウンディーネに当たらず、僕にも当たらず、誰も負傷せずに済んだ。しかし、それがフラグだということに気がつくまでは結構時間がかかってしまった。
「……もう一発、いけ」
「ご主人様……私だけでは……無理です」
「ということは、僕が……水属性に弱い炎属性だぞ? 大丈夫なのか?」
「大丈夫です。HPは減ったとはいえ、私のHPは結構ありますから。まだ5%しかHPは減っていないですし。魔力を回復する時間がほしいので、ちょっとだけご主人様に協力して欲しいなあ……と思うんですが、どうですか?」
「ウンディーネがそういうのであれば、僕もそれに協力しよう」
「ありがとう……ございます! それじゃあ、合体開始ですね!」
「合体……?」
言葉だけでは卑猥な意味に聞こえなくもない。『あなたと合体したい』というキーフレーズで作られた作品もある。しかしながらこの作品にアク○リオンは登場しない。
所々でネタを混ぜ込んでいる僕だが、それでもディスっているわけではない。愛がないパロディは、パクリと同じなのだから。
そんなことを考えた上で僕はウンディーネの方を再び向いた。
「……合体っていうのは私とご主人様の心を通わせ、リンクさせて、一つの身体となって闘うっていうものなんですが、男×女の場合は、女の姿になります。……魔法少年というか、男の子が報われなくて私悲しいです」
「いや、お前女だろ……。てか、僕が女になるのはちょっと抵抗があるというか……。女装もしたことがないし、顔とかも一緒になるんじゃ……」
「えと、顔とかは全部女の姿に統一されます。服装も全部。ですけど、考えてることとかは別に私には伝わりませんよ? 喋る時の声も女声になりますが、考えることが出来るのはご主人様もです」
「よ、よくわからないが……が、頑張ればいいか」
「そうですね。で、でも、女装癖患わないでくださいね? いくら女の子の姿と言っても、その、触ってるのは私の体なので……」
そう言われると、ウンディーネの身体をジロジロと見てしまう。静かになると、少し照れてしまう僕。いい匂いがすることも僕の顔が真っ赤になるのを加速させる一つの原因だ。
「へ、変なコト考えてませんか、ご主人様……」
「か、考えてないから!」
「そ、それならいいです。じゃあ、私が『せーの』って言うので一緒に叫んで下さい。『合体』と大きな声で言えばそれでいいです」
「そ、そうか。じゃあ……」
「せーの……」
『―――合体っ!』
僕もウンディーネも、大きな声で叫ぶ。大きな声に反応したのか竜は雄叫びを上げた。そして、自身の尻尾をぶるんぶるんと振り回した。
僕の身体はウンディーネの身体と結合され、今まで膨らみのなかった場所が膨らみ、膨らみのあった場所が消えた。そわそわしてしまったが、ウンディーネが『やめてください』と心の中で訴えてきたので僕はやめた。合体状態でも、僕の意思で手とかは動かせるようだ。
(ウンディーネ……。取り敢えず、あの一撃必殺技をするのか?)
(じゃあ、零下結晶を今するんですか? 結構コストが……あ、今合体状態でした。合体状態だとご主人様のMPも追加されますから大丈夫ですね)
(よくわからないが、技を出せるようなら一発かまそう)
(わかりました)
僕もウンディーネも一度深く息を吐き、吸って叫んだ。
「零下結晶ッ!」
さっきの2倍の結晶が出来上がった。そして、その結晶はさっきの2倍の大きさで、体積も相当なものになったはずだ。そして、その結晶は竜の方に近づくに連れて、一つに固まっていった。風で固まるようだ。そして、その氷は肥大化し、その氷が竜の背中に当たった。
さっきとは違う。自分自身で技を叫んだからだろうか。結構清々しい気分だ。女の姿になっているからか。なんだか自分に対して新鮮さを感じる。
それから数分後にもう一発零度結晶をかました。そして、その技も竜に当たった。竜はそのままもがき苦しみながら死んでいった。ウンディーネとの心の中での会話によれば、『あのもがき方は急所にあたった証』と言っていた。自分自身の急所がない今、それを聞いて僕は冷え冷えした。
***
討伐に成功した。「Congratulations!」と、デビルマシンのディスプレイに表示されていた。そして、その瞬間に僕は合体を解かれ、再び元の姿に戻った。裸で戻ったわけではない。パソコンがスリープから復帰した時のように、データが破損していたということはなかった。
結界を解いて、僕、エリザ、会長はまた神戸大橋の直ぐ近くに降りた。エリザは僕、会長の闘いをみて拍手をくれた。解く前にウンディーネは魔法陣に入れておいた。
「あの、ちょっと痺れが有るんですが……」
「それは『合体疲れ』と言うものだね。疲れるとそうなってしまうもんだ。私もよく経験している。あ、ウンディーネから聞いたと思うが、合体は男の子が報われないんだよね、女×男だと。でも男の子のほうが多ければ、男の子の姿になるし、女の子のほうが多ければ女の子の姿になる。……同数は女子のほうが優遇されるけど。……ま、女子として一時的に過ごした感覚はどうよ?」
「『どうよ?』とか、そんな軽い話じゃない気もしますが……」
「会長は、君にあげるものがあるからね。話を軽くしてスムーズにしようとしているのだよ。ライトノベルなんだから、ライトに行かなくちゃ」
「……そうですか」
「そうだ。んで、ほら。これが君にあげる映画館のチケットだよ。エリザちゃんと一緒に楽しんでこーい!」
「って、お、おわっ!」
会長は僕の背中を押してエリザの身体にくっつかせた。つかまろうとした時、エリザの脇腹を掴んでしまった。エリザは驚いて「ひゃうっ」と声を上げていたが特に困った様子もなかった。
「ああもう、せっかくラッキースケベ展開にしてあげようと思ったのに」
「バトルが終わったらなんでこうなるんですか! 完全に消化不良じゃないですか、こんな展開!」
「五月蝿い。黙れ。映画館行け。まだ8時回ってないし。行けよ」
「明日行く。行くんなら」
「今日行け。今日。まるでシンデレラのように、12時とは言わないけれど、今日中に映画館に行け! エロゲーマーなら、攻略に力を注げっ!」
「会長もそんな笑顔で『エロゲーマー』なんて言わないでください。心が傷つきます。……会長って、結構Sですよね」
「またその話かいっ! ……もういい。私は帰るからあとは二人でどうぞ! ロマンチックな夜をお二人さんで。んもう、リア充爆発しろおっ!」
そう言い残して会長は魔法少女姿で去っていった。右手を伸ばし、「ちょ……」と口から言葉を漏らしてしまった僕は、街路灯に照らされるエリザの姿のほうを向いて照れた。そして、僕は顔を下にむけて男気のない姿を撮ってしまった。
「は、恥ずかしがってる……のか?」
「……さっき、キスしようとしたからちょっと……」
「わ、私も今考えたら……凄い恥ずかしい……」
僕もエリザも互いに赤面になった。恥ずかしい。恥ずかしい。けれど、ここにいつまでも居る訳にはいかない。そろそろ帰らなければ…‥。
「あ、そうだ。映画館のチケットって貰った?」
「あ……」
その時だった。
「痛っ!」
たらいが落ちてきた。痛い。本当に痛い。頭に大ダメージだ。頭にあたって地面に落ちてひっくり返った金たらいを僕は裏に返した。中には、映画館のチケットと、あれをするときに使うゴムが入っていた。
「んな……っ!」
そして、チケットの下に手紙が入っていた。
『このたらいはその場所においておいていいです。後々私が回収します。この紙もここにおいたままで大丈夫です。映画館に言った後、夜のムードで言っちゃって下さい。是非、彼女といい夜を。それでは会長からでした』
何書いてるんだ会長は。更に空気が重くなった気がする。最悪だ。それまでですら重い空気だったに。……僕もエリザも照れていて話が始まらない。
そんな空気の中、エリザが僕の服を掴んできた。
「ど、どうした?」
「……」
照れているエリザ。それだけでも可愛い。それに加えて、今のエリザはチケットと、あのゴムを咥えていた。そして、頬を凄く真っ赤にして僕の方に顔を近づけてきた。僕の心は当然高鳴る。けど、ここで変なことでもしたらエリザになんて言われるか。恋になんて言われるか。……それでも心のバクバクは止まることを知らない。
僕のポケットから僕のスマホを取り出すと、メモアプリを開き、エリザはそこに『口から取って下さい』と文字を入力した。
「じゃ、じゃあ……」
僕は好奇心のほうが理性に打ち勝ち、「それくらいなら……」ということで右手を伸ばし、そのチケットとゴムを取り出した。ダラアッ、と涎がひいている。それを見てエリザはさらに顔を染め、僕も心臓がバクバクとさっき以上になる。
「えと……。ちょっとエロイな、今のお前……」
「えへへ……。じゃ、じゃあ、会長さんの置き台詞どうり、映画館にい、行こうか……ダーリン?」
「お、おう……」
エリザの唾の付いたチケットを握りしめた僕は、エリザを抱き寄せ、魔法少年の姿になって翼を生やして空を飛んだ。そして、近くの映画館までひとっ飛びすることにした。
***
「さて。回収しますか」
会長は同時刻頃に金たらいを回収していた。僕も見ていたワケじゃないし、魔法少年姿でデビルマシンから若干の声が聞こえただけだ。何処に隠れていたのかは分からなかったが、回収していたのは分かった。
サウンドオンリーのその時、会長が金たらいをを集め終わった時に誰かの声が聞こえてきた。それは姿も見ていないから分からなかった。けれど、その声は途中で途絶えていた。
「……里奈さん、悪魔ですよね?」
「え……」
「貴方は悪魔ですよね?」
「ち、違う。私は魔法少女……」
「嘘ですね。だって……
『―――魔法少女は男の子を好きにはなりませんから』
「え……」
「里奈さん、貴方はあの男の子、凛君に……」
『好意を抱いていますよね?』
話はそこで終わった。その頃には既に僕はエリザを抱きかかえて映画館の近くまで着ていた。そして、地面に着陸し、翼を閉まって魔法少年としての姿を封じ、エリザを抱きかかえていたのを開放した。
「ひゃっ……寒っ」
「僕に抱かれていたから暖かかったのか。……んじゃ、映画館行くぞ」
「ちょ、ま……」
僕は強引にもエリザの手を引いて映画館に入っていった。




