Target:Elisa -morning surprise/episode12
「もう……朝か……」
日付が変わってから寝たので、若干の眠気が残る。9時半過ぎから床についたとはいえ、隣でエリザが寝ていたのでよく眠れなかった。要は、睡眠が十分に取れなかったわけである。
「あ、そうだ。エリザ、そろそろ朝……」
隣を見ると、裸の女の子が居た。髪の毛は僕の膝に掛かっていて、僕がなにかこの娘に犯してしまったんじゃないだろうかと思ってしまう状況だ。
「あ、エリザか。……ん?」
ふと、この裸の女の子がエリザだということに気づく。布団をかぶっているとはいえ、裸だ。今は15℃を下回っているだろうし、寒いだろう。
服を着せようにも、女子物の服って複雑すぎて分からん。量が多すぎる。いや、それより置いてある場所自体がわからないのだから手のつけようがない。
「……ダーリン。おはよお……」
「……っ!」
別にエリザは髪をいつも縛っているわけではない。ロングが似合う女の子だ。今までエリザとここまで近寄っていたことはなかったから、これまで髪のことなんか微塵足りとも考えたことはなかった。ドイツ、というよりヨーロッパ諸国の女の人ってふわふわのパーマの髪の人が多い気がする。
だが、エリザは違った。僕は「髪触るくらい別にいいだろう」と、甘い考えのもとエリザの髪の毛を触った。サラサラだった。日本人のようだ。もしかして、日本人とのハーフなんだろうか。それでも、こんなにサラサラの髪は羨ましい。
しかしまあ、なんで男と女って髪の質感が全然違うんだろうか。
「ふにゃあ……」
髪を触るごとに子猫のように声を上げる。まるで小動物のようだ。恋に見られたら即僕は死亡してしまうんだろう。しかし、今が楽しければそれでいいのだ。「青春は今しかない!」って開き直れるし。
馬鹿馬鹿しい考え。それが出来るのも学生だからなんだろうなと、僕はまるで年をとった人のように考えこんでしまった。
「しっかし、本当にこの猫は可愛いなあ……」
僕は猫とか動物が得意ではないのだが、こういうような猫なら、動物なら得意かもしれない。そして今、猫カフェで何故人があんなに猫を愛でているのかということが解決した気がした。
「お、おはようございます、ご主人様……」
「……え?」
あれ。エリザってこんな風に僕を呼んでいたっけ。
「え、えと。今私裸ですけど、これってご主人様まさか……」
「え。あ、あ、お、おい。一つ聞いていいか?」
「何ですか、ご主人様?」
「お前、ニュクスか?」
「にゅっ、ニュクスなわけ……」
「だってエリザは僕のことを『ご主人様』なんて呼びはしないからな」
「……」
「墓穴をほったな。いい加減認めたらどうだ」
ボンッ、と効果音のようなものがなった気がした。現実にはなっていないが、既に僕の脳内はアニメのサウンドエフェクトでいっぱいになっていたのかもしれない。
煙が上がる。そしてそれが消えた時に見えた姿は、ニュクスだった。
「なぜこんなことをした」
「ご主人様、私を魔法陣に戻さなかったでは有りませんか!」
「……なら、今もどれ」
「い、今裸なんでちょっと着替えたい……」
「悪魔なんだからそんなんどうだっていいじゃんか。ほら、戻れニュクス!」
「ご主人様のバカあああっ!」
魔法陣を描いてニュクスを戻す。戻すときにツンツンしていた。裸でも別に悪魔なんだし別に僕は気にする必要ないと思う。……それでもニュクスは一応女の子なんだよな。裸見てしまったということがこんなにも僕の心に傷を負わせてしまうなんて。エロゲのイベントならあのシーンなら直行だっただろう。
ふと時計の方に視線を移す。
「うお。7時じゃん……って今日は土曜日じゃんか」
びっくりした。が、一息つこうとした時、今度はドアを叩く音が聞こえた。
「ダーリン起きましたか?」
「お、お前か。驚かすな。ああ、起きたよ。ご飯でも作ってくれたのか?」
「う、うん。御飯作ったよ。義妹さんは今日明日と遠征だそうです」
「ああ、そうなんか。じゃあ家には僕と姉ちゃんとエリザだけか」
「はい。ですが、義姉さんはまだ起きてきてません」
「そうか。ま、土曜日だ。休日くらい好きな様に寝かしておいてあげろ」
「わかりました。じゃあ、ダーリン。入っていいかな?」
「いや、先にリビングに行っていればいいだろう。後で僕も行くし」
「じゃ、じゃあダーリンの言うとおりにします」
「わかった」
エリザが階段を降りてリビングに戻っていった後、僕は直ぐに支度をして、僕もまたリビングへと向かった。
***
朝7時15分。姉ちゃんはまだ起きてきていない。
リビングに入ると、エリザがエプロン姿で立っていた。……それだけなら良かったのだが、エリザはエプロンである以上に『裸』だった。要は『裸エプロン』というわけだ。紳士たちの心を揺さぶらせる姿で立っているだけに、僕も紳士として反応を示してしまった。
「ダーリン。似合ってるかな?」
「に、似合ってるんじゃねえの……?」
エリザがくるっと回った時、エリザがブラをしていないことに気付いた。本当に鼻血が出そうなレベルだ。僕は今、顔を真っ赤に染めているに違いないだろう。そう思うと、更に恥ずかしくなって顔が真っ赤に真っ赤に真っ赤になっていく。
「じゃ、ダーリン。朝ごはんだよ。あーん」
「え。ちょ、そんなのマジで無理……。エリザだって嫌だろ?」
「嫌じゃないよ。だって、幼馴染だもん」
「と、ともかく僕は……」
「恋から聞いたよ。裸エプロン姿であんなことやこんなことをされるのが好きなんだって。恋にダーリンが預けてるエロ本の中身がそういうものばっかりだったって……。そ、それに、たまには恋じゃなくて私を見てよ……」
「な……な……」
エリザが迫ってくる。心臓の鼓動が高鳴る。今に鼻血を吹き出してしまいそうなくらい恥ずかしく、照れていて、目の前のエロティックな光景に何処か興味を抱いている。男ってのはなんでこう……。
「ねえ。ほら。ちょっと早いけど……」
エリザはパリっと近くにあったチョコを割った。そして、そのチョコを口に加え、口からはみ出した部分には冷蔵庫から取り出した練乳を掛けた。
「ん……」
目を閉じるエリザ。自然と自分の方へチョコが出てくる。練乳がついている部分が見える。既に溶け始めているところもある。いや、溶けてしまってエリザの胸の谷間に付いてしまっているのも一部見受けられる。
僕は覚悟を決め、ゴクリ唾を呑む。
「い、頂きます……」
「んう……」
チョコを頂く。あんまり深いことは考えないでいよう。
パクパクと食べ進めていく。美味しい。しかし、さっきまで半分はエリザの口の中に入っていたのだということを考えてしまうと、やっぱり照れてしまった。
食べ終わった。朝食には一切手を出していない現実。チョコという悪魔に、朝食を食べるという嗜み的なものを奪われてしまったのだ。
「え、えへへ。美味しい?」
「ああ。美味しい」
動揺してはいない僕だったが、内心は相当動揺していた。「えへへ」と言いながら頬を真っ赤に染めているエリザは本当に誘っているようで、エロいようにも見えた。
「じゃ、じゃあ朝ごはん食べよっか!」
「おう。チョコだけじゃそりゃあ飯足りねえよ。チョコだけとか夜食かよ」
「夜食って……。で、でもダーリンは、いっぱい女を食べてるんでしょ?」
「エリザ。ちょっと、一発いいか? それはダメだ」
僕は目を閉じ右手をあげる。エリザは苦しい表情で「ご、ごめ」と謝った。うるうると涙目になっていたわけではないのだが、ちょっと弱ってるところが可愛かった。……何弱ってる子を可愛いと思ってるんだ僕は。
出された朝飯は蕎麦だった。
「は? ……え? 蕎麦……?」
それもカップに入ったインスタントの蕎麦。パンとか、そういったごくごく普通の朝食が振る舞われるかと思ったのだが、まさかのカップ蕎麦だった。
「ご、ごめん。その、私料理作れなくて……。ドイツに居た時は、親が『カップラーメンなんか食べちゃいけません』って言ってて、こういうの食べたことなくて。……あはは。迷惑だよね?」
「人の朝飯まで自分の思うようにされれば困るよ。……だが、エリザが食べたこと無いって言うのなら、お前に合わせるよ」
「ダーリン……。そういう気遣い大好き」
「それが日本人の心ってもんよ」
「ほお。Cool JAPAN!!!」
「ふっ。これくらい普通。つかお前外包も取っていないのか。早く取れよ」
「う、うん。だ、だけど本当こんなの食べたこと無いし……」
「……日本人なら、生涯に一度は食うよ。ドイツ人でもそうさ」
「なんか名言見たく言わないでよ。じゃ、じゃあさ、ダーリン作って?」
「うぃっす。じゃあ、お湯あるのか?」
「お湯?」
「うん。熱湯じゃないとね。僕、中学校の時帰宅部で両親共働きで。姉ちゃんも妹も部活やってて。カップラーメンよく土日に食ってたんだけど、ぬるま湯入れた時は、直ぐ腹壊したからなあ」
「か、カップラーメン怖いよ……」
「蕎麦だけどな。別に熱湯をカップの中に打ち込めばいいだけだ」
「つまり……。『(カップの)中に(やかんからお湯を)出す』……?」
「ああ。だがその言い方は駄目だ。言い方には細心の注意を払え」
「ダーリンわかりますた!」
「素直でよろしい」
そうしてお湯を沸かす。やかんの蓋をしっかり閉めないと音がならないという、あのジレンマにあわないようにするため、しっかりと閉じる。そしてそれをエリザにも教えてあげる。
正直、カップラーメンって栄養摂りにくいけど、めっちゃ手軽なんだよな。3分で食えて(実質、お湯をわかす時間含めると8~10分程度)、温かいからスープ代わりでも行ける。
とはいえ、僕は最近こういったカップラーメンよりコンビニの飯やおでん、そしておでんの出汁をスープに麺を入れてラーメンや蕎麦にする、そういった方面のほうが個人的には好きだ。
***
「あ、温か……」
3分待って蓋を開けたエリザは、カップラーメンの匂いを堪能した。そして11月という季節、少々の寒さを感じさせないようにカップラーメンの熱気を手に感じていた。
「え、えと……」
「ん?」
「……箸ってどうやって使うの?」
やっぱりエリザもドイツ生まれドイツ育ちの子だ。箸の持ち方は知らないようだ。西洋諸国は何しろスプーンとかの金属で作られたもので飯を頂く文化だからな。東洋みたく、木の文化じゃない。だから箸なんていうものを使う概念なんて無いんだろう。
ふと僕は思った。日本って本当いろいろな文化が交じり合っているんだなと。
使用する言語なんて、日本語だけでも『カタカナ・ひらがな・漢字』の3つ、更には外国語として英語は学校で習わなくてはいけない。ローマ字も覚えなければならない。
使う食器だって、箸、フォーク、ナイフ、スプーン、手……。日本って本当、色々と文化が混ざっている国だということを僕は再認識した。
そして、僕はエリザが聞いたことに答える。
「鉛筆を持つ時みたいに持つんだよ」
「こ、こう……?」
エリザは普通に鉛筆を持つ時と同じように持った。やっぱり日本人のハーフなんだろうか。遺伝子レベルで受け継がれているんだろうか。すんなりと持ち方を覚えている。
「で、こういう風に動かす」
我ながら、箸の持ち方には自信がないものの、外人に持ち方では負けていられない。日本人としてのプライド的なものが僕の箸に現れていた。
「お、おう」
「う、うまいな。じゃあ食ってみろ」
「うん。ずるる……」
エリザは美味しそうに食い始めた。いい笑顔で食っているその姿はなんとも愛らしい姿だった。
「旨いか?」
「うん。でも、良かったの? 私の分だけで」
「エリザ。こういうのは、分け合えるんだよ。それこそ、いっつもエリザは『ダーリン』とか言って僕に懐いているんだから、これくらい楽勝だろ?」
「……か、カップ蕎麦は全部私が食べるから!」
「……ダメだ。もうカップ蕎麦は無いんだ。それに僕はそれを今日の昼に食おうかと思っていた。しかし、エリザがそれを食べた。それに、譲ったのは僕だ。少しくらい、いや半分くらい貰ってもいいだろう?」
「嫌だッ!」
「箸の持ち方も教えてあげたのに」
「うるさいな! 美味しいんだからあげたい訳ないだろ!」
「ならば、取り返すために強引に行くべきだ!」
「だ、ダーリン、今私裸エプロ……きゃあああああああっ!」
僕は、まるで無邪気な子供、要はガキだ。それ同等の考えで、エリザのエプロンを脱がした。そして、脇をこちょこちょする。エリザは僕のこちょこちょしている手を押さえるべく、ぎゅう、と自分の手で僕の手の動きを止めようとした。しかし、僕はさらに強い力でこちょこちょする。
「あははははは……っはははは……!」
「さあて。カップ蕎麦は頂きだ!」
「このド変態があああああああッ!」
僕は、頬を叩かれた。痛い。今までに経験したことのないような痛みが僕を襲った。まるで、その声は恋のようだった。が、恋の姿は此処にはない。
「幼馴染に手を出しやがって! 忘れろ! 今見た私の裸の姿忘れろ!」
「ごめん……」
「忘れろ忘れろ忘れろおおおおっ!」
本当にこの時のエリザの表情といい、声といい、とっても恋に似ていた。




