Target:Student Council members/episode10
昼休みも過ぎ、何事もなかったかのように夕方になった。朝方の寒さは何処かへ消えた。現在の気温は生徒会室の温度計で18℃だ。
生徒会室には会長と僕の二人だった。6限終了後のホームルームが終了する事を知らせるチャイムがなってすぐに生徒会室に駆けていったからだ。
会長と僕はクラスが同じで、「おりゃっ」とか「このっ」とか、ところどころちょっかい出しあいながら生徒会室まで駆けた。
「会長。今日は何するんですか?」
「何って文化祭に決まっているでしょう。ボク達の高校は、これから文化祭だからね」
「ですよねえ。文化祭って11月初頭ってイメージなのに、うちは12月の10日頃ですし。結構差ありますよね。なんで差を開けたんですか?」
「12月のテストと11月の文化祭と入れ替えたらしい。てか、生徒会の議事録に書いてあるぞ。10年くらい前の生徒会が書いていたものらしくものだ」
「へえ。そんな理由があったんですね」
「ああ。そんな理由があったんだよ。で、これからボクと凛君、そして生徒会のメンバーズで文化祭を盛り上げていかなくちゃいけない!」
「ですね。で、その、朝の件なんですが……」
僕が朝の出来事について話し出そうとした時、会長は「めっ!」と僕を睨みつけ、左手の人差し指を僕の額につけた。
「か、会長怖いっす……」
「朝のことは気にするな! あんな姿見られたくはなかったが、見られてしまったからには、もうどうにでもなれってもん。別に変なことされなければ、凛君の脳内ハードディスクに記録しておいてもいいし」
「じゃあ記録しておきます」
僕はそういった。だが、そういう前から僕は脳内に記憶していた。今まで会長が男装していたわけではないし、女子生徒として女子の制服も着用していた。だが、普段は凄くボーイッシュで、僕自身も「格好良いなあ」と時たま思ってしまっていた。軽く憧れていた部分もあったが、同学年だったので憧れていた時期は少しだけだ。
しかし、ポニテ眼鏡の会長を見た時の事は本当に忘れられなかった。
が、そんなことを考えていると顔に思ったことが出てしまった。
「何ニヤけてんだっ!」
「ご、ごめ……」
「早く仕事すっぞ野郎共ッ!」
「会長、それ痛いだけですよ? 女子生徒がそんなふうなこと言っても」
「じゃあお蔵入り?」
「それは別にしなくていいと思いますけど」
その時生徒会室のドアが開き、2年生の後輩、まあ生徒会役員が入ってきた。彼は英洙。結構なイケメンだ。ぶっちゃけ、生徒会のストーリーを基本とした作品にするのであれば、絶対に英洙が主人公だったに違いない。だが、この作品は僕が主人公だ。
僕は一人称も『僕』だし、英洙は『俺』だ。高校生にもなって、僕は自分のことを『俺』と言えない。そんな自分に僕は一種の恐怖を抱えていた。
「お、遅れてすみません……。会長、これ宇城先生から」
宇城先生はこの高校の生徒会の顧問の先生だ。会長によれば、宇城先生は軽音部の顧問でもある。ときたま生徒会室で自分の得意なギターを演奏することが有る。
確かに僕も顧問の宇城先生の実力は認めざるをえない。だが、僕が会長達と真剣な会議をしている最中に弾くのはやめてほしい。たまにそれをされると、宇城先生はストレス発散しているのか、とも思ったりする。
丁度生徒会室のドアが開いて宇城先生が入ってきた。
「噂をすれば……」
「うぃーすっ! おめえらちゃんとやってっか?」
宇城先生は今日はギターを持っていなかった。
学力がいい、という理由で僕は生徒会に半ば強制的に入れられたわけだが、それをしたのもこの宇城先生だ。まあ、今となっては会長達と楽しい毎日を送っているのでいいのだが、前は会長や英洙も静かだった。いつからかわからないが、静かではなくなった。
そして宇城先生も……いや、彼女は前々からそういう人だった。生徒会に初めて訪れた日、自身のその魅力的なボデイを密着させ誘惑したのは宇城先生だ。
今までの記憶が再生されて僕は脳内を切り替える。
「やってますよ。てか、今日はギター持ってないんですね」
「いや、今日は軽音部員が皆文化祭のことでいっぱいいっぱいでな。途中部員とも会話して職員室で一服とするかと思ったんだが、結局はここへ来てしまった。まあ、たまにはおまえらに会っておこうかなと思った次第だ」
「結構久しぶりですよね」
「だな。じゃあ、私は書籍室の方で一服とする。金とかで困ったりしたら私を呼べ。私は演奏しているから」
宇城先生はギターは持っていなかったものの、やる気満々だった。その姿を見て、英洙が宇城先生を指摘した。
「駄目です。あの部屋は図書室と繋がっているんです。弾かないで下さい」
「流石ね。これは来年度の生徒会長候補だわ」
「宇城先生は何を試しているんですか俺に……」
「まあまあ。軽音部の部室の鍵は職員室においてきているからギターは取りにいけない。だから弾くことはねえ」
「それは『信用してくれ』みたいなことですか?」
「大正解だ。物分かりの早い男の子は好きだぞ」
「先生がそれをすると、どうみても高校生とかを狙っているようにしか聞こえないんですが……。先生って彼氏居ないんですか?」
「だからこの高校の男子諸君に私の彼氏をしてもらおうと思っているんじゃないか!」
「やめてください。男の子は貴方の奴隷では有りませんし、みんな彼氏になるのは嫌がると思いますよ……」
「それが現実なのか……。現実はクソゲーだ……」
「先生、そういう事言うのやめてください」
「やめなーい」
……結局、先生が書籍室へ行くまで15分くらい掛かった。今日は文化祭についてのことで話し合いをするのだろう。英洙がそういう気分でいたようだったし、仕事を淡々とこなしていたのに邪魔された英洙が可哀想だ。
「さあ先生も行ったことだし、文化祭についてのことで英洙、話があるんでしょう? 言っちゃえーっ!」
「そこでハイテンションにならないで下さい、会長」
「むう。ほらはよ資料とか使って説明しろ!」
「急かさないで。……ったく、説明しますからね」
その時丁度、生徒会室のドアが開いた。僕が来てから20分は経っている。 ドアの向こうから現れたのは銀髪の女の子だった。彼女は、銀髪ということにコンプレックスを抱いているらしいのだが、全然僕から見れば可愛い。
「お、遅れました、会長……」
銀髪の髪が垂れる。彼女は『零奈』という。高校2年生だ。ちなみに彼女は僕の妹、美来と同じ学年でクラスなので、僕はそれなりに交流している。だが妹と同じく剣道の道を極めている彼女は、中々生徒会室に来ることがない。大抵、生徒会室に彼女が来る日は、僕が自分の家に帰ると妹がいる日だ。
なんてことは置いておいて。僕は、脳内のスイッチを再度切り替える。
「遅れちゃったら早く席へ座れっ! まあ、今まで顧問という名の悪魔がこの部屋にいたし、別に遅いわけじゃないぞ。本当はこんな遅くなれば起こるけど、今日は特別だ!」
「会長……」
「ふっ。じゃあ、英洙君。文化祭についてお願い」
今更だが、生徒会役員4人、僕らの割り振りを説明する。
里奈が会長だというのは周知の事実だ。まあ、何話も前から『会長』として出ているのだし、「会長職じゃない」なんていう超展開があっては困る。
僕は副会長職と優秀生徒人材枠の二つの枠。優秀生徒人材枠、というのは要は、「2年のテストで上位10位以内をキープし、3年のテストで上位3位以内をキープする」必要がある。僕が言うことは『生徒会●一存』の主人公がいうことと同じだ。「勉強に集中している者は、生徒会の仕事なんかしない」ということだ。でも僕はハーレムなんか作るような人間じゃない。
いや、むしろ作れない。会長、零奈は女子だが、英洙は男子だ。それこそ、愁や梨人に言わせてみれば『俺がハーレム王だッ!』的な事を実現しようとするため、どんなことでもするだろうが、僕はそんなことをする勇気がない。まあ簡潔に言うならば、僕は『チキン』だ。
―――おっと。僕自身の説明が長引いてしまった。
英洙は書記だ。資料関連の事などは殆ど英洙が取り扱う。まあ、彼が居ないとこの生徒会自体が成り立たない。重要な書類は書籍室にあるのだが、それは僕が過ごしている今、この生徒会の重要書類ではない。殆どの『重要書類』は英洙が持っているので、中々成り立たない。
そして零奈。彼女は会計、伝達係だ。とはいえ、居ることが少ないので実質会計職は僕がやっている。彼女は生徒会役員でありながら放送いいんであるため、伝達も行っている。
そして、重要書類保管場所英洙の文化祭についての説明等が始まった。
「今年の当校文化祭は12月7日、日曜日に朝8時から夕方6時まで行います。途中、ミスコンイベント、各クラスの催しや、パフォーマンス大会、そして12時から13時半までは『歌のど自慢大会』を今年も開催します。ちなみに、今年は各クラス7000円支給するので、その範囲内で制作して下さい
はい、以上が説明になります」
会長は、英洙の説明の最中、出てきたワードをホワイトボードに書き込んでいった。
「12月7日か。……あと2週間程度しか無いじゃないか! しかも明日はもう土曜日、そして三連休だぞ。2週間で全クラス催しもの、ミスコンだとかの衣装等は完成するのか?」
「大丈夫だと思います」
「それならいいんだが。じゃあ、英洙。更に詳しく時間ごとに説明してくれないかな。8時からなになに、とかそういう風に」
「分かりました。
8時から、我々が司会等を務めるオープニングセレモニー、
8時半から各部活動ごとに発表会。
11時頃から、各委員会対抗のクイズ大会、
11時半頃から、各部活対抗のクイズ大会。
12時から、歌のど自慢大会、
13時30分頃より、ミスコン、
15時頃からコスコン(コスプレコンテスト)です。
15時半頃から、部活動対抗の料理コンテスト、
17時半頃から、我々が司会を務めるエンディングセレモニー、
18時15分頃から得点発表で、これも我々が司会です。
片付けは18時半を過ぎると思います。外も暗くなるので、生徒会長権限で、同意有りの生徒はその日のみ学校で宿泊OKにしてもいいかもしれません。
あ、それと最後の得点発表について言ってませんでした。得点発表は、あれです。あの、途中のコンテストとかで得点が加算されるんです。ちなみに、審査するのは会長、各学年代表です。例外としてミスコンは男子票のみ、料理コンテストは女子票のみです。のど自慢大会は音楽科の先生です。
でも、どの場面でも、会長と凛先輩は審査員ですよ?」
「え。審査員って、なんだ……。その、料理とかにも得点付けれるのか?」
「はい。一応生徒会が審査しますが、学年代表からも審査してもらいます。あと、もうひとつ考えたんですが、各学年から抽選でもう一人審査員を選ぶ、というのを」
「いいかもなそれ。そっちの方が公平なんじゃないかな?」
「そうかもしれませんね。俺と零奈は、会長と凛先輩とは違って、舞台裏の方に回りますので。二人である意味のデートを」
「おい英洙。何を言っているんだ」
会長はこくこく、と首を振る。僕の言ったことと同じことを思ったらしい。
「それなりに私も理解できた。しかし、これだと防犯面がなあ。12月だし、日没も早くなるだろう。夕方5時には日も沈む。出来る限り防犯面からすれば18時30分終了は避けたいものだ。いっそ、開始時刻を7時にしないか?」
「それでもいいですけど、そんなに早くても人は来ませんよ」
「……だから、夜の方に時間が伸びているわけか」
「はい。あ、二日間使うってのは無しですよ? 宇城先生に聞いた時もそう言われたので」
「へえ。でも、料理コンテストとかはどうするのさ。部活動対抗って言っても、2時間じゃ足りないと思うよ? それこそ、予選からやろうとしたのなら、部活動の数は軽く20を超える。もし調理を体育館でやろうにしても、体育館はガスとかそういうのも引かなけりゃいけないし。それこそ、京都で祭りの際に起きた爆発の件も影響して、近くで火を使うのを見に来る人は少ないかもね。家庭科室で予選大会した上で本大会ってことで、16時半頃から体育館で決定戦の調理開始、もしくはいっそ15時半から決定戦でもいい」
「ただ、15時半から決定戦するにしろ、それまでの道のりを見せなければいけないと思うので、やっぱりVTRとか作る必要があると思います。なのでそういったものに特化した部活とかあればいいんですけど……」
「じゃあパソコン部は確定として、アニメ系等映像制作に優れているであろう美術部の一部、BGM担当で軽音部とか、合唱部、映像撮影は写真部とかだね」
「はい。じゃあ、15時半開始は……」
「いや、ミスコンを1時間枠にしてコスコンを30分前倒し、料理コンテストも30分前倒しで、15時スタート、映像見せてもどんな余裕があっても30分あれば行けるだろう。んで、料理コンテストは16時半まで。1時間で料理は作れるっしょ」
途中で、零奈が割り込んできた。
「あの……。映像は別にいいんじゃないですか? 午前中に家庭科室で料理コンテストの予選をする、というのを言っておけば、見たい人はそっちへ流れると思うんですが……どうでしょう?」
「うん、じゃあそれでいこう。……所詮は人気ってか。でもさ、一応VTRは長そうよ」
「じゃあ、流すということで決まりですね」
結局、VTRを流すことになった。ただ、相当編集されたVTRを流すのだろう。テレビみたいに偏向的な内容を流さなければいいけれど。
「あ、そうそう。今年もあれやりますよね」
「あれ?」
僕は何を指すのか分からず、頭をかしげる。零奈も僕と同じで分からず顔をかしげた。
「24時間ラジオテレビっていう、生徒会役員が24時間バカな会話を学校内で放送し続けるっていうやつ。今年はテレビも使うんですよね、二日目は?」
「あのね、あれ本当に苦痛なんだよ? 去年先輩たちがやったけど、別にやらなくてもいいんだよ?」
「いやいや。絶対、校内に残っている生徒に勇気くれると思いますよ」
「……そ、それなら」
会長、落ちるのが速すぎるだろ、と僕は心中思う。
***
結局、24時間ラジオテレビをすることになった。土曜日の準備開始時間である夕方4時くらいから、日曜日の生徒完全下校時刻、夜9時くらいまでするらしい。本当にアホか、と思ってしまうくらい下らない企画だ。
その日、生徒会の仕事が終わった時、気がつけば夜の7時を回っていた。
「さてと。完全下校時刻は文化祭当日は9時だけど今日は7時でっせー」
「やっべ。先生に怒られる」
「ほら行くぞ」
英洙、零奈の二人は用事があるだとかいう理由でもう帰っていた。英洙の置いていった書類等を書籍室に運んで生徒会議事録のファイルに入れた。そうしているうちに、時刻は夜7時を回ったのだ。
鍵を閉めて、職員室に戻す。生徒玄関前まで着た時、涼しい風が僕の体にあたっていた。
「はあ。涼しいなあ……」
「会長、結構外暗いですけど大丈夫ですか?」
「ああ、凛君は7時に下校なんて初めてか」
「はい。僕はこんな顔ですし、誘拐されることもないと思いますが、会長は可愛いですし……」
「お世辞乙っ。でも凛君の家は知っているし、今から行きたいなあ、なんて」
「あの、会長って一人暮らしなんですか?」
「う、うん。そ、そうだよ。一人暮らし」
「じゃあ、そこまで連れて行きますね。行きましょう」
「ちょ、腕引っ張んな!」
僕は無理やり会長の腕を引っ張って、会長の家まで一緒に変えることにしたのだが、公園で会長が足を止めた。それと同時に僕も足を止めた。
「会長、どうしました?」
「魔族……。魔族のニオイがする。……よし、魔力開放っ!」
会長は、魔法少女姿に変身し、辺りに結界を張って、魔族討伐を決行した。僕は、会長がやってくれていたので、「まあいいや」的な感覚になっていた。
会長は魔族を光技で一撃で倒した。でたジュエルを僕にくれた。だが、僕は魔法少年姿ではなかったので、それを握ることは出来なかった。
「ったく。じゃあ、後でこれ転送する」
「お願いします」
そうして、ちょこっとヒヤリとしたところもあったものの、会長を無事に家まで送り届けることが出来た。そして、僕も自宅まで歩いて帰る。何故なら、財布を入れた場所を忘れたからだ。きっとバッグの中なんかにあるのだろうが。
***
家に帰った時、姉ちゃんが跪いていた。
「ど、どうしたんだよ姉ちゃん!」
「お父さんもお母さんも……死んだ」
「え?」
「今、よくわからない人なんだけど、きっと航空会社の人だと思う。その人が、お父さんの電話の番号から掛けてる。そして、テレビ見てみ」
僕は視線をテレビの方に移した。
『―――関西国際空港を出発した飛行機が、現在六甲山付近で墜落し、大炎上しています。繰り返しお伝えします。速報です。先程、19時50分頃に、関西国際空港を出発した飛行機が、現在六甲山付近で墜落し、大炎上しています』
「なあ、父さんも母さんも死んだってどういうことだ?」
「夕方、私がバイトから帰った時、父さんと母さんは『海外まで行ってくるね』って言ってた。そして、搭乗時間と、墜落時間が同じなの」
「……っ!」
その日、僕は絶望の淵に立たされた。瞬きをせぬまま「嘘だ」と何回も連呼し、自分自身を励ました。絶対に有り得ないと思って。
「死んでるわけ……ない……」
―――その言葉は、事実とは異なる考えだった。




