Target:Ren,My sister,Elisa,Rito,Satan and Rina./episode102
スマホをふと見る。そこには23:30の時刻表示がなされていた。夜も更け、寒さも更に強くなってきた。そして、12月12日という日が終わろうとしていた。
会長との電話の後、僕は家を飛び出し、恋の家へと向かった。だが、玄関に鍵がかかっており、僕の部屋から彼女の部屋を確認しても窓は閉じてあり、カーテンによって、中の光も見えなかった。……いや、光自体がなかった。
「恋……! ……どうして、こういう時に寝てるんだよ!」
怒りがこみ上げたのがわかった。僕は自分を軸に世界が回っているなんていうような自己中心的な発想ではない。だが、この時ばかりは世界にいらだちを覚えた。少しくらい僕にワガママをさせてくれてもいいじゃないか。そういうふうに。
恋への電話は、恋へ自分の思いを伝えるために掛けた電話だった。他の誰へでもない。恋へ、ただ一人の十二年来の幼馴染に向け、メッセージを届けるために掛けた電話だった。
だが、7コールを迎えてもその電話に彼女が出ることはなかった。
時間ばかりが過ぎ、梨人と約束した機嫌さえを超えてしまいそうになり、僕は更に苛立ちが募るばかりだった。だが、家の中で壁をドンドンしたところでどうにもならない。後々後悔して、自分で痛い目を見るのが目に見える。
僕は、早急に恋を探し出したかった。だから、詳しく事情を知っているであろう姉ちゃんに尋ねようと、姉ちゃんの部屋に向かった。姉ちゃんは、部屋でペンタブレットを巧みに使用し、ゲームの原画を描いていた。
「――姉ちゃん」
「ん?」
姉ちゃんはペンタブを置き、椅子を回転させてこちらの方を見る。
「恋は何処だ?」
「恋ちゃんは梨人と何処かへ消えていったよ。……もしかしたら告白かもね」
「告白……か」
「凛は今日が誕生日なんだしさ、早く告白してきな。12日は後25分だよ?」
「……じゃあ、何処に居るんだよ?」
「恐らく公園だとか、そういうところだと思う」
「公園か……。姉ちゃん、梨人と恋は何時頃に家を出た?」
「ご飯食べて私が皆の衣服を洗っている時に梨人君から電話が来て、『恋さんに告白してきます』ってあったから……恐らく20時半から21時の間だね」
「わかった」
「じゃあ、行って来な」
「有り難う、姉ちゃん」
「ユアウェルカムだぞ、弟よ」
姉ちゃんはそう言って、またデスクを前にして作業に戻った。姉ちゃんの部屋の戸を閉め、自分の部屋に戻ろうとした時、丁度美来がパジャマ姿でトイレから帰ってきているのが見て取れた。
丁度、僕が部屋に入る前に見つかったので、僕は美来に話しかけられた。
「……お兄ちゃんは何? これから幼馴染に告白してくるの?」
「聞いていたのか……」
「そりゃ、トイレから帰ってきたらまさか姉ちゃんの部屋でそんな重要なはなししているとは思いませんし。……まあ、健闘を祈るよ」
「ありがとな」
美来との会話が終わった。互いに部屋に戻る。
部屋に戻れば部屋は薄暗く、部屋の光をつければエリザの姿が顕になった。エリザはエリザでよく寝ていた。向かいの部屋のお嬢さんは今、梨人に呼び出されているのか。……だが待てよ。何故、彼らは20時半から21時に出たのにまだ帰ってきていないのだろうか。……まさか、魔族に絡まれたりしたか?
「何で、何で電話つながらねえんだよ……!」
着信拒否しているかのように見て取れるくらい、電話は繋がらなかった。1回程度繋がるかと思ったのだが、そんな浅はかな希望は絶たれてしまった。1度も繋がらなかったのだ。
「クソ! 何で言わねえんだよ! 僕に言えよ! 会長に言えよ! 魔族なら……僕が退治してやるし、攻略してやればいいし……なんで!」
僕は仮定していた事を、恰も本当に起きたことのように考え、そして発狂した人間のように暴れた。壁ドンという最終手段に出たのだ。スマホを机においた後、エリザの寝ている隣で。コートを床に投げ捨て、棚にあったスケッチブックを破き、机の最下段の引き出しを強く蹴りつけた。
「むう……。ダーリン……?」
エリザの瞳がうっすらと開いた。電気がついていないわけではなかったので、すぐにエリザが起きたのだということを僕は考えることが出来た。
「殴っちゃ駄目だよ……。だって、最後に後悔するのは自分だもん……」
「そんなこと言われても……」
「落ち着いてよ」
「落ち着けねえよ! こんなことになったら、誰だって……」
「まだ決まっていないことじゃないの?」
「何がいいたいんだよ……」
「冷静になってよ。……まだ、恋と梨人が魔族に絡まれたって決まった訳じゃないんだよ? ……なのに、自暴自棄になるのは間違ってると思う」
「自暴自棄なんかじゃ……」
「大丈夫」
すっとエリザが立ち上がり、僕を抱き寄せた。僕のほうが背がでかいので、やろうと思えばすぐにエリザから抜け出せたが、この時ばかりは抜け出せなかった。エリザから溢れんばかりの母性が出ているのがわかった。それは、何処かこう、昔味わったことのあるような、そんな感情だった。
「ダーリンは、私との小さい時の記憶が無いからわからないかもしれないけど、昔はダーリン本当に自暴自棄だったんだよ? 挫けそうになったらすぐに私を呼んで、そして自分で近くの公園の木々を蹴って遊んで」
「……そんなことしてたのか」
「見せしめていただよ……」
僕の今の感情は、恐らくそういった昔のことを少しずつ思い出しているから起こっているんだろう。僕は顔を下に向けて俯けた後にエリザの話に耳を傾けた。それは、僕にも分かった感情だった。そう、少々の照れだった。
「……私は今でも昔でも、ずっとダーリンが好きだったんだよ」
「そ、そうか」
「小さい時は、私とダーリンが一緒に居たから、会う人に『お似合い』って言われてたんだよ。……でも今じゃ、ダーリンも運命の人見つけたみたいだけど」
「ま、まあ……」
「この感情はきっとラブだと思う。ううん、ラブじゃなきゃおかしいんだ。それじゃなきゃ、『子供産みたい』とか、『一生居たい』とか、そんな感情持てないし。……だからさ、はっきり答えて欲しいんだ」
「……なんだ?」
「――私を、女の子として好きですか?」
僕の答えは『ノー』だった。さっき会長に電話を掛けて分かった。それは気の迷いじゃない。強い思いとともに、僕の中を巡ったんだ。『好き』だという感情がきっと、ラブの方の感情がきっと、そこで巡ったんだろう。
「いや……」
「じゃあ、ライク、なんだね?」
「そりゃあ、ライクじゃなきゃお前に抱きつかれたくねえよ……」
「そっか。……落ち着いた?」
「ああ」
色々と自白した結果、僕は直ぐに落ち着くことが出来た。エリザから溢れんばかりの母性が出ていることも一理有るかも知れないが、僕は直ぐに落ち着くことが出来た。
それからコートを着用し、パジャマから早着替えし、そのまま手袋を箪笥から取り出して着用し、外へと出た。そして、息を吐くと、その息は白かった。
「……23時40分か」
スマホで現在時刻を確認し、近くの公園の方へと向かった。足早に向かいたかったから、早く歩いたのだが、途中でまだまだ体力が有り余っていることに気づき、僕は走ってピンときた公園へと足を進めた。
***
歩いている途中、僕は頭に乗っかる何かがあるのに気づいた。
「雪……か」
走っていれば当然外気が顔に当たる。街路灯の光りに照らされ、息が白いのが分かる。そして、空から雨ではない、冬にしか降らないものが降ってきた。そしてそれは、僕の髪の毛の真上に落ち、大熱で溶けて額に水が伝わる。
「つめてっ」
髪を整えて、僕は限り有る時間を無駄にしないよう、公園へと急いだ。だが、途中でその計画の歯車が衰えてしまった。なんと、僕が公園に急いだ時、恋と梨人の姿が見えたのだ。そして、何かと闘っているように見えた。……あれは一体なんだ?
「てめえ、何してくれてんの? ああん?」
不良だった。見てみれば、その不良の顔は恋とデートした時に見た顔と同じ顔だった。そう、恋を僕が守った時のあのクソ男の顔だったのだ。
「……行くべきか」
チキンハートという、その悲しい現実が僕を襲う。行ったほうがいいのは分かっていた。だが、行きたくなかった。変なことに巻き込まれるのは嫌で嫌でしょうがない。それに、今回はもしかしたら1対1じゃないかもしれない。そう考えた時、本当に行くべきなのか。それこそ、仕返しされて到底立ち向かえないような相手じゃ僕も僕で悲しい、虚しい、そして公開するだけの話だ。
そうなるくらいなら、行かないほうがマシだと、僕はそう思った。だが、僕のそういう思いは一瞬にして崩壊した。
「やあ」
「えっ……」
コートを着て、ミニスカートにニーソックスを履いたサタンの姿が目の前にあった。サタンは、笑顔でこちらに寄ってきて、今何が起こっているのかを僕に聞いてきた。
「いや、あの……」
戸惑うことしか出来ない僕に、少し強気にサタンがエールをくれた。
「我の主人はそんなチキンだったのか……心外だ」
「くっ……」
魔王にそう言われると、何かイライラするというか、逆らいたくなるというか、そういう風に思ってほしくないというか、そんな感情が僕の心のなかを駆け巡った。
「分かった」
「お」
「じゃ、ちょっと行ってくるわ」
2ちゃんねるのノリ風に言いつつ、僕は恋と梨人の方に向かって歩いて行った。公園のベンチの真上にある時計は23時48分を示していた。金曜の夜、雪の降る夜、寒さに負けそうになる夜、僕はそれを振り切るように前を向き、足音を立てながら不良の方に近づいていった。
「……おい」
「あん? ……って、お前あの時のっ!」
「……俺の幼馴染に手を出してんじゃねえよ。……ガキが」
「は、はいいいっ! すいませんでしたああっ!」
不良は僕を前にガクガクブルブルと身体を振るい上がらせ、目を大きくして、その場から姿を消した。そして、僕は恋に伝えたいことを伝えた。
「恋」
「なっ、何?」
「……僕はお前を、彼女に出来ない」
告白……ではなかった。いや、告白と考えられるかもしれない。でも、僕から考えれば、これは告白ではなかった。梨人との約束を果たした、ただそれだけに過ぎなかった。でも、僕は恋が嫌いではなかった。むしろ好きな方だったし、もっと、これからも付き合いを続けていきたいな、って思うくらいだった。でも、彼女には出来なかった。
「酷いよ……。そんなこと言わなくていいじゃんか……」
「でも、友達として、親友として、良き理解者として僕はお前が好きだ」
「じゃあ、何で私にそんなこと……」
「僕の本当の思いを伝えたい相手に話す前に、皆に言っておきたかったんっだ」
「何で?」
「……バッドエンドルートにしたくなかった。それだけだ」
「そっか……」
「だから恋」
「ん?」
「……梨人を、彼氏にしてやってくれ。僕からは以上だ。……会長を迎えに行ってくる」
「ちょっ、凛!」
右手を前に出し、恋は僕の方をじっと見ていた。恋に背を向けつつ走ったのだが、後ろの方をチラチラと見ていたので僕には直ぐ分かった。恋が泣いていたのだ。泣くことなんて滅多にない、あの暴力をふるう女が、ツンデレの女が。12月12日、僕の誕生日に泣いたんだ。
「恋……、ごめん……」
ぼそっと小さく吐き捨てるように言った後、僕はスマホを手にし、会長に電話を掛けた。
「もっ、もしもし?」
『何かな、凛君?』
「……これからデートしましょう」
『えっ』
「……伝えたいことが有るんです。……だから」
『でも、もう夜遅いし……』
「御願いします……。24時半、三宮で待ってます……」
あえて僕は24時と言った。12月12日、予定ではその日に方を付けるつもりだった。なのに、僕はそれが出来なかった。時間的に考えても、僕の家から三宮までは走ってもそれなりの時間がかかる。だから、あえて0時半、今日の24時30分と言ったのだ。寝ていなければ今日じゃない、そう思ったから、そしてそう考えて欲しかったから、僕はそう言った。
そして、僕は三宮駅まで走って向かった。途中、スマホを見ると時刻は夜23時58分を回っていた。12月13日まであと2分だ。だから到底、三宮までは今日中に行けそうになかった。
***
24時20分。三宮駅前。予定時刻より10分早く着いた。……18歳になったんだなっていう自覚がまだ僕にはなかった。でも、もう18歳なんだな。
「……そういや、会長からは誕生日プレゼント貰ってないや……」
いらないとか言っておきながらこういうこと言う僕って、結構酷い人間なんだなあ、とつくづく思う僕だったが、それでもよかった。これから直していけばいい、とそう前向きに考えるのが一番と思ったからだ。そうじゃなきゃ、ストレスが溜まりまくってストレス発散できなくて、結局自分で心を痛めつけて苦しみ、悲しむのだから。
「あの……」
そう考えていた時、黒髪の女が僕に近づいてきた。前にデートした時、あの時と同じ服を彼女は着用していた。そう、目の前の女は……。
「会長……ですか?」
「うん、そうだよ。……勉強してたら『付き合ってください』とか凛君に言われてさ、ちょっと眠気が飛んじゃったというか……あっ、まだ夜は大丈夫」
いつもの会長だった。……早速だが、もう言うべきなのだろうか。告白するべきなのだろうか。いや、中学校時代やったじゃないか、恋に。あの時と同じく、落ち着いて告白すれば大丈夫だ。……恋にした時は尽く失敗したけど。
「えとさ、もう0時回ってるから外にいるのもあんまりいい気にならないんだけど……ボクの家、来る? それとも、このまま街中でうろうろする?」
「いや、流石にうろうろするのはアウトでしょ……一応会長は未成年なんだし」
「『未成年』って凛君もじゃん」
「まっ、まあそれは……」
「じゃあ、ボクの家に来る? ……ああ、心配しないで! 朝の5時にはちゃんと帰すから。……なっ、なんか不満有る?」
「無いです。ただちょっと、色々と不安というか……」
「不安、か」
でも、ここで会長を悩ませてもどうにもならないでしょ、と考えた僕は、会長の肩に手をかけ、抱き寄せて言った。
「ささ、行きましょう」
「やっ、やけに積極的だな、凛君……」
「夜ですから」
「バカか」
「……あの、車で来たんですよね?」
「まあな。ちょっと離れてるが、大丈夫だ。問題はないよ」
「そっ、そうですか」
「ああ。……しっかし、本当寒いね」
「ですね」
互いに寒いと言い合うと、それなりに近くにいたくなった。理由として、そのほうが温かいからだ。それに、僕ももう会長の前だったらデレれると思ったので、それも関係していた。……まあ、悪魔を攻略した人間が、ボクっ娘に攻略されるっていうのはありなのかどうなのかってところだけれど。
そんなことを考えつつ歩いていると、突然突風がふいた。異常に寒かったので、スカートを履いていた会長は相当寒かったことだろう。ブルブル震えているので直ぐに会長が寒くなっていることがわかった。
「きゃあっ!」
いや、それだけではない。会長は吹いた突風によってスカートがめくり上げられ、パンチラをしてしまったのだ。別に攻略中のミッションというわけではなく、僕も突然起こったので見れなかった。
「みっ、見た……?」
「みっ、見てません!」
「そっ、そっか……。まあ、凛君がその気ならボクはいつでもみっ、見せてあげるけど……。あっ、いっ、今の無しっ! 今の無しだからね!?」
「なんでツンデレキャラなんですか……」
「なっ、なんでってそんな……。まっ、まあその、いっ、行くよ!」
「ちょ……」
車に連れ込まれ、僕は会長に連れて行かれるままに会長の家まで向かった。
――12月12日。神戸の街に今年初めての雪が降った。




