Target:My friends and My sister./episode101
「いやまさか、君がそんな風に僕のことを考えていたとはね。少し心外だが、まあいい。そういう風に見えてしまったのなら、それは申し訳ない、と言っておきたい」
夕方5時30分より少し前。外では闇夜に包まれようとしているのを、市街地の街路灯が守っている。喫茶店では、席に移動してすぐに淳さんが話を切り出した。
「……まあ、アイドルになれば当然東京に出向くことになる。ああ、でも大丈夫だ。今回のプロジェクトでは、君以外のアイドル候補生も居る。ただ、ハーフのアイドルは君だけだ、エリザさん」
今までの話口調とは変わり、淳さんは少し崩した話し方で話をした。そして、少し笑みを浮かべた後、真剣な眼差しを向けながらエリザと話をした。 ――東京か。僕も将来、もしかしたら上京する可能性は出てくるか。
「それに、泊まるところとかはしっかりとこちらが手配するから大丈夫」
「そっ、それは安心ですね」
「だろう? ……ただ、一つ問題点を挙げるとするなら、東京は本当に入り組んでいるから大変だ。特に地下鉄や首都高は、迷子になりかねない」
エリザとの会話の中で僕が話に割り込んだ。
「淳さんは東京に行ったこと有るんですか?」
「……察しなさい、と言いたいが、そう出来ないのが高校生……なのかな。嬢も言っていたが、本当に凛君は『鈍感』だね」
「……僕ってそんなに鈍感ですかね?」
「鈍感だろう」
「……そうですか」
「まあ、言わないと凛君が質問したのがチャラになってしまうので言おう。まあ、薄々凛君には気づいていて欲しいんですがねえ……」
「そ、そうですか……」
「ああ。一応、嬢から、主人から話をされていると思うんだ」
「話なんて有りましたっけ?」
「あったはずだ。……ま、あれだ。東京に元々僕ら西條家一族は居たっていう……」
ああ、それか。それなら何処かで聞いたことが有る。確か……玲紀さんの口からだったっけか。……ここでコンティニューして戻れないのが悲しい。……いや、普通にログを見ていけば良い話じゃないか。それでいいじゃないか。
「それで、色々とあって東條西條に別れ、西は神戸、東は東京……と言っても、家は横浜、と別々になった。……な? 聞いている話だろう?」
「そうですね……」
「一応、今回のプロジェクトは日本の財閥トップ2の西條家と東條家が手を組んで、アイドルユニットをプロデュースしようと考えているんだ」
「それは、離婚から縁を戻して、再度結婚するために両家の主人が支持した事ですか?」
「……それは分からない。ただ、両家ではなく、西條家として考えれば、君の言い分に首を横に振ることは出来ない。それをしたら嘘になるからな」
「でも、何でエリザなんか……」
僕がそう尋ねると、淳さんは咳払いをして言った。
「ふっ。これだから鈍感な男の子は困る、全く。余談だが、これでも僕は妻子持ちなんだぞ。……まあ、嫁はメイドさんだけど」
羨ましい。僕も欲しい……って、何を考えているんだ。妻子持ちとか、そういう話から何で寝取ろうとしてんの僕!? いや、寝取る話じゃないけどさ、そんなことしたら会長から色々と言われるし、本当に大変なことになるだろ、常識的に考えて。
「まあ、エリザは本当にアイドルに向いていると思ったんだ。学園祭のライブの際、嬢が言っていたんだ。『アイドルグループに入れるメンバーは、エリザさんが妥当』とね。だから、僕は学園祭の当日、出来る限り嬢にバレないように、勿論君にもバレないように、エリザさんの歌声を聞きに行った」
まあ、僕も思っているけど、本当にあの日はエリザが居なくちゃ絶対失敗に終わっていたはずだ。ESSという、僕から見ればただの敵だけど、それが居たからこそエリザがそれだけ早く全校生徒に知られたわけだし、アイドルになるためには、そういう素質も重要な所か。
「……何か考え事をしてる?」
隣の席に居たエリザがこちらを見て首を傾げた。
「……いや、ちょっとね」
「むう」
「顔膨らましても駄目だぞ。かっ、可愛いけど……」
「へへ」
可愛い、という言葉に裏はない。妬いてるわけでもないし、普通に可愛いからそう口にしただけだ。
「……まあ、ラブラブしてる所悪いんだが、凛君はエリザさんがアイドルになることに反対か? それとも、賛成か? ……はたまた中立か?」
「いや、僕自身は賛成です。……だって、夢を叶える事は悪いことじゃないし、むしろ幼馴染としては応援したいですから」
「綺麗にまとめますね、凛君は」
「感心してるんですか?」
「そりゃあ、君が嬢とくっつくのなら判断しなくちゃいけませんしね、執事として」
「だっ、だからまだ会長とくっつくとかそういうのは……」
「それでは、エリザさんとくっつかれるのですか?」
「……いや、エリザは可愛いけれど……」
「アイドルになって欲しいから自分の思いを犠牲にする……。そんなこと、あってはいけません。それこそ、『夢』なんじゃないんですか?」
「えっ?」
「自分の好きな人と、一生過ごしていく。それが夢、なんじゃないですか?」
「まあ、そういうのはあんまり分からないといいますか……」
「悪いね、変なこと言って。ただ、そんな変なことじゃないんだ。安心してくれ」
「は、はあ……」
「基本的に、僕は凛君に嬢とくっついて欲しいと思っている。そして、エリザさんにはアイドルになって欲しいと思っている。だが、仮に君がエリザさんに恋心を抱き、アイドルとかそういうことはお構いなしに、君の強い思いをエリザさんにぶつけ、付き合い始めるのなら、僕は彼女をアイドルとはしないよ」
「アイドルとはしない、ですか……」
「ああ」
「……でも」
僕は少し間をおいてから、大きなことを決めた僕は言った。
「――僕はエリザを彼女にしません」
それは大きな決断だった。僕は、自分の思いだとか、そういうものが消えていったのがわかった。そして、それが変わって『エリザを応援する気持ち』に変化を遂げているのがわかった。
エリザが悲しむかもしれないけど、そうなったらそうなったで慰めてあげればいい。そうすれば、エリザはきっと、笑顔をまた僕に、色んな人に振りまいてくれる。そう思った。
僕が淳さんに真剣な眼差しを向けながら言った後、淳さんが反応する前にエリザが僕の制服の裾を掴んで話をしてきた。
「……じゃあ、『ダーリン』って言わないほうがいいね」
「別にそれは継続して構わない。別に嫌な気分じゃないし、アイドルに耳元でそう言われれば、反応しない男は居ないだろう、普通」
「そっか。……でも、公ではちゃんと『彼氏なし』って言うね」
「そりゃアイドルなんだし、そうしないと事務所から怒られるだろ」
「まあ、どうせ後々ネットの住民に知られて、ジ・エンドだと思うけど」
「……そういう事考えないで」
「悪い悪い。……でもさ、ダーリン」
「ん?」
「私の事、嫌いではないんでしょ?」
「そりゃ嫌いだったら、こんなに近くには居ねえよ。ただ……」
僕がセリフを吐こうとした時、エリザは下を向いていった。
「いい。それ以上言わないで……」
少し悲しんでいるような顔をしていたが、顔を上に上げた瞬間、今まで見たことがないくらい笑顔のエリザの顔が、僕の目に焼き付いた。
「……ダーリンの、本当に好きな相手に迷惑だもん。へへ」
なんていい子なんだ。……だからハーレムは嫌なんだよ。変に好意持たれて、結局誰か一人が喜び、他の人は悲しんでいく。何処かで立ち直ろうとした時にはもう遅く、コンティニューしようもない。
――つまり、人生とは小説である。
『哲学ですな』
地の文で固めていこうと思った時、イブリースがそう反応を示した。
『なんだよ』
『……いや、ご主人様がやけに厨二病に見えたので』
『おちょくんなバーカ』
『はいはい。……それじゃあ、また』
『はええよ』
ニュクスとのデビルマシンを使用した心中会話に慣れてしまっていたせいで、僕は『早い』と感じてしまったが、本当はそんな要素一欠片もないだろう。
「……それじゃあ、エリザさん……いえ、バインリヒ・エリザさん」
「はい」
「ここに、貴方の思いをお書きください」
そう言うと、淳さんは胸のポケットから一枚の小さくたたんだ紙を取り出し、元の大きさに戻して喫茶店のテーブルの上にそれを置いた。
紙には「契約書」と書かれていた。右上の方には、『西條財閥会長:西條玲紀』の文字が入っていた。そして、名前の下には赤い判子が押されていた。
「判子は持っていないと思うので、判子は無くて大丈夫です。後で、本契約の時に判子を押してもらいます。……18歳超えれば、それなり権限を与えてもらえるし、必要最低限の学力は持っていて欲しいのでね」
「中卒アイドルとかも居ますけど……」
「エリザさんは美貌だけが命、という人じゃないだろう」
「それ会長じゃないですか」
「そこで嬢の名前を出すってことは、凛君ってまさか気があるのかな?」
「い、いや……」
「まあ、君が本当の自分の思いに気づくまで僕は君に助言は与えないよ。……ああ、男同士恋愛の話はこれからもやりたいし、それこそエリザさんの様子が気になるだろうから、今のうちからメルアドを交換しようか」
「はっ、はい。でもその、一応エリザは男性にちょっと恐怖心を……」
「それは聞いているよ。……というか、僕は妻子持ちなんだぞ?」
「ああ、手を出したら一瞬で家族が崩壊しますね」
「同時に職も失うが」
「ですね」
「……それじゃあ、今日はここまで。安全に気をつけて帰ってくれ」
「はーい」
「まあ、ちょっと話し口調がさっきから崩してある感じだが、すまないな」
「別に構いませんよ」
「そうか」
「はい」
「……じゃあ、さようなら」
淳さんは手を振り、笑顔でこちらを見ていた。そして、僕らが店舗から出たのを確認した後、出した契約書を胸のポケットに戻し、会計を済ませていた。
***
夜6時30分過ぎ。家に戻ってきた僕とエリザは、すぐに手を洗い、寒さに負けてエリザから風呂となった。他人の身体を思いやるというのは、少々意味深長だ。けれど、それでもアイドルなら仕方ないだろう。髪の毛にしろ、身体にしろ、色々と手入れを加えなければ、後で崩れ去る。形あるものはいつか消えるからだ。
そして、先に恋と姉ちゃん、そして美来が風呂に入っていたので、僕が風呂から上がった後、まだ髪の毛を乾かしただけで僕は夕飯となった。
「ええと、皆さんに重大発表が有ります……」
「……ん?」
「……えっ、えと。私、アイドルデビューすることになりましたっ!」
最初、皆顔をポカーンとさせていた。僕は内容を知っているから助言に回るべきだったのだろうけど、僕にはそれをするような事を読み取れなかった。鈍感さ故に起きた、察する力の低下である。
皆の反応は様々だったが、二度エリザがそう言うと、反応を見せた。
興奮冷めあらぬ中、僕の誕生日会がスタートした。……と、スタートして数分だった。突如、家のドアからノックの音がしたのだ。幸い、インターホンも最新のもので、ちゃんと外に誰が居るか確認できたが、仮にそうでなかった場合、怖さは尋常ではなかっただろう。
インターホンで顔の形を見て、来たのが誰かを確認すると、僕はすぐにドアを開けた。
「よっす」
「うい」
梨人と愁の二人だった。どうやら、恋が頼んでいたらしく、不審者だと思ってしまった僕は本当に酷い人間だな。
「つうわけで、買ってきてやったっすよ、恋さん」
「サンクス」
愁が袋からケーキの入っているであろう箱を取り出した。そして、それを恋に渡すと、すぐに冷蔵庫に持って行かれた。まあ、これがケーキでなかったら何なのか少々疑問に思いつつも、僕は夕飯を食べ始めた。
***
話題は様々なところに行ったが、一番多かったのは、エリザがアイドルになるっていう件についてだった。やっぱり、アイドルって言うと皆反応するんだな。
皆が夕飯を食べ終わった後、恋が冷蔵庫にしまっておいたケーキの入った箱のようなものから物体を取り出した。案の定、それはケーキだった。しかも、そのケーキは僕が好きなチョコケーキで、僕は大歓喜だった。
「ハッピーバースデートゥーユー」
そして歌を歌い始める。
「ハッピーバースデートゥーユー」
「Happy birthday to you dear Rin.」
さり気なくエリザが自慢の英語力を発揮した発音を見せた後、皆が合わせて僕をお祝いしてくれた。
「 Happy birthday to you 」
そして、皆の声が合わさった後、「このこの」とか姉ちゃんや恋にいじられつつ、梨人や愁には足蹴りの攻撃を受けた。皆、僕に対しての日頃の不満をぶつけているらしい。……失敬だな、ホント。
「よし。じゃ、ケーキを食べようか!」
ムードメーカー的な存在に立ったのは姉ちゃんだった。大学の講義で日頃疲れているのだろうけど、よくもまあこんなにテンション高く要られるものだ。
***
皆が寝た後、僕は会長に電話を掛けた。今日の生徒会の活動を聞くためであるのが一点。そしてもう一つは……。
「もしもし?」
「会長」
僕はそう言った。会長が「ん?」と首を傾げたような声を出したのを聞くと、すぐに僕は言った。
「――好きです、付き合ってください」
告白だった。いつの間にか、幼馴染だとかより、会長のほうがいいと思うようになっていた。喫茶店で淳さんに色々と言われ、本当の自分の気持ちに気付かされた。少なくとも僕は、他人の意思を自分の意思にするような人間ではない。だから、今回は、淳さんに影響を受けたという、ただそれだけのことということで考えて欲しいものだ。
そう思いつつ、僕は会長との電話を続けた。
光回線○ね……。雨で回線切れるとかマジで無いわ。あり得ないわ。
ああもう、何これ。早く寝ろっていう天からのお告げ? ……てか、雨やめよ。なんなの、ホント。この時期に雨ふられても農家じゃないから嫌なだけなんですが……。
はい、愚痴を後書きで書いてるRenonsです。……もうやだ。ネット切れるのやだ。
そして、もうあと1日。明日で終わりですよ。……でも、その後も続きますけどね、エピローグは。
人生は小説です。……愚痴を言うのも、恐らく会話文なんだと思います。




