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92話 前兆・襲撃

 昼食も取り終わり、山を越えるべく進み始める。


 しかし、予想以上に道に石が多くホース車の速度もかなり落ちてしまった。


(人が通る道にしてはかなり石が多いな………。しかも小石ではなく大きな石が………。)


 実際に今まで人が通っていたであろう5メル程度の幅は、地面が均されていたが、その上にわざとらしく転々と大きな石が置かれている。


(これは本格的に狙われるかもな………。)


 襲撃される恐れを感じながら盗聴されていることなどを考慮して他には伝えないことにした。


 これくらいあからさまにされていれば逆に気付くだろうという思いもあったのである。


 結局夕刻になっても襲撃されることはなかった。


 しかし、遠回りにではあるがついてきているのは分かった。


 幾度も風属性魔法を使っているのである。


(よく魔法力が持つもんだ。…しかしそろそろ尽きるころかな?)


 パルヒムの掛け声にて馬車は止まり、各自夕食を取ることにする。


 夕食を取っている際にスワードがみんなに届くように伝える。


「夜の護衛方法は前回と一緒だ。みんな協力して護衛についてくれ。」


(最後の一言は俺に向けて言ったっぽいな………。まあ協力する気はさらさらないが。)


 そう思いつつ、不自然な風が吹いていないことを確認しアリスへと囁く。


「(アリス。)」


「(なに?)」


 アリスもクロスの囁きで何かを感じ取ったのか、小さな返事をする。


「(今夜盗賊団の襲撃がある恐れがある。そのつもりで備えていろ。もしかしたらこの冒険者の中に仲間が居ないとも限らんからそのつもりでな。)」


「(わかった……。)」


 アリスは表情を引き締めて懐から短剣を取り出すと、胸の前にて構えて目を瞑る。


 それを確認して、クロスも食事を取ることにした。


 夕食を取り終わり、今回はホース車の一番前にて休息を取ることにする。


「アリス。ここにこの前のと同じものを作るんだ。」


「わかった……。」


 アリスは頷くと、合成魔法にて、前回とは少し違うが家のような形をしたものを作る。


(前回よりも家に近付いてきたな…。)


 前回と同じ物という言葉は通じなかった訳だが、機能的に問題が無いと思い直す。


「アリスはその中で休んでいろ。何かあったら起こす。」


「クロスは?」


「前と同じように外で寝る。っと、その前にシートと毛布を出さないとな。」


 クロスは家の中に入り、周りから見えない位置にてシートと毛布を出す。


 毛布をアリスに渡し、シートを家もどきへと被せて、飛ばないように石にて押さえつける。


 それが終わったら、家もどきをに背を預けて休息を取る。


(襲撃前に寝ておくか…。)


 時を止めた中にて睡眠を取った。


 気分よく起きたところで気持ちを切り替えて時を戻す。


 流石に荷車ふたつは、護りきるのは精神的にもキツいため後ろの積み荷は諦めて、前に居る依頼主のパルヒムとパルヒムが乗っている荷車を護ることにする。


 監視者については特に教える気はない。


 昨日あれだけこちらに向けて色々と言ってきたのである。


 もし襲われても助ける気はクロスにはなかったし、護衛としてはいつ襲われるか分からないというくらいの考えを持って行うのが普通だという考えだからである。


 まあ、前者の理由の方が大きいかもしれないが…。


 それはさておき、睡眠をしっかりと取ったクロスは前と同じように、家もどきを背にして周囲の状況に意識を飛ばす。


 どうも、ここから少し離れた位置にて囲まれているような圧迫感がある。


(もし襲われるとしたら真夜中あたり、もしくは寝付いたころあたりだろうか?)


 パルヒムの居る場所を視界に収めつつ、その時を待った。


 その時が来たのは、第一陣が寝てから2刻経ってからだった。


 頭の中に詠唱文が流れたのである。


『バオム』:一定範囲に茨を生やし動かす【木属性4】


『ブルフ』:一定範囲を爆発させる【火属性4】


 どうやら足止めして一気に片を付けるつもりのようだ。


「『ツァイト』」


 とりあえず時を止めて無属性の詠唱を始める。


「無よ。我が範囲の魔法を無効化したまえ。『ラディーレン』」


 無属性の魔法無効化を張ると、背にしていた家もどきがあっという間に消えてしまい、シートが浮かんだ状態になった。


 その状態を維持してアリスとパルヒムの中間に移動する。


(この位置なら二人をカバー出来るな。今唱えている魔法も無属性2の俺の無効化なら問題ないはず…。積み荷に関しては、盗賊もさすがに手を出さないだろう。)


 ある意味盗賊の頭加減を信用しつつ時を戻す。


 時を戻した瞬間に、クロスを中心とした範囲を除き、護衛たちが多く集まっていたところを中心に爆発が生じ、他の場所には茨が護衛たちを捕縛するように動き出した。


 爆発が止むと同時に盗賊たちの襲撃が始まった。


 視界が多少悪かったが、ホース車から下げられたランタンの明かりでまだマシだった。


 ある程度盗賊たちが近づいてきたと感じたところで時を止める。


(ざっと見4人くらいは爆発に巻き込まれたようだな。茨にて拘束されているのが後ろの方で寝ていたやつらか…。)


 爆発の起きた辺りには肉片の他に、手足の千切れている二名が喚きながら転がっている。


 その爆発にて起きた後方に居た護衛たちは、茨にて体を拘束されていた。


(さて、出てきているやつらをやりますかね。)


 こちらへと向かって来ている十数名の首を刎ねて回る。


 もちろんその際にカードの奪取も忘れない。


 見える範囲にいた盗賊の首を刎ねたところで、元いた位置に戻る。


 そこで時を戻して、ホース車の後ろについた積み荷の枠に乗り周囲を見渡す。


 そこでは、こちらへと走ってきている盗賊たちが次々と倒れる姿が見えた。


「な………なにが……起きてるのかね……?」


 パルヒムの思考が回復したようで、こちらへと尋ねてくる。


「ただの盗賊たちの襲撃だ。とりあえず20名程度はやったが、まだ後続が居るかもしれないから動かないでくれると助かる。」


「……わ……わかった。」


 パルヒムは首を縦に何度も振りながら体を小さくして業者席に身を隠す。


 茨にて拘束されていた冒険者も、魔法使用者が死んだのだろう。


 茨が食い込むように締め付けていたものが固定されたようで、未だにうめき声は上げているが無事なようだ。


 そこでまた頭の中に詠唱文が浮かび上がる。


『グルート』:一定範囲に灼熱を出す【火属性3】


 どうやらまだ高レベルの魔法が出せたようだ。


 クロスのいる積み荷と後ろのホース車との間に炎が生まれ、それが一気に大きくなり周囲一帯を飲み込んだ。


 クロスの位置では、後続のホースは範囲に入っていたようで無事だったが、その後ろの積み荷は範囲外だったのか、灼熱の炎に包まれた。


(無属性魔法も1まで持っていくべきだな………。今の俺の位置から考えると10メルくらいが今の限界かな?)


 丁度いい機会だったので、自分の無属性魔法の効果範囲を覚えておく。


 今度の魔法は、完全に積み荷ごとこちらを始末するつもりだったようだ。


 位置的に、茨にて拘束されていた数名の冒険者はさきほどの炎に包まれてしまった。


 生きている?のは手足を失った2名とパルヒムにアリス、前のホース車の手綱を持っていた御者のみとなった。


「とりあえず、まだいるようだ。もう見境なく攻撃してる感じだな。」


「だ………だい……大丈夫……なのか?」


「とりあえず移動する準備をしてくれ。」


「わ…わか…わかった。」


 パルヒムは焦りながらも御者と共に動き出す。


 指示だけではなく自分も動くところを見ると、自分の代で成り上がったように見える。


 クロスは残りの盗賊を討つべく動き出した。


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