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9話 立入禁止・別れ

 ベアクローの件から南の森はまた立ち入り禁止になった。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


 次の日協会に行くと、教会前でエドとリリーが立って話している。


「おはよ~。」


「おはよう。」


「二人ともおはよう。」


「昨日はごめんな。先に行っちまって。」


「私もごめんなさい。あそこで大きな声出さなければ…気付かれなかったかもしれないのに…。すぐに魔法も使えなかったし…。使うこと思いつかなかった…。クロスはすごいね。」


「気にしないで、走ってって言ったのは僕だしね。魔法を使えたのはたまたまだよ。ここにいても仕方ないし部屋に入ろう。」


「そうだな。」


「うん。」


 二人から謝罪を受けるが、こちらとしては先に行ってくれた方がありがたかったのでなんとも言い難い。


 二人とともにいつもの部屋へいくと、神父の代わりにシスターが待っていた。


「おはようございますみなさん。今日はリューイとアイリはお休みです。今日は、昨日あなたたちが見た獣について話しますね。」


 ベアクローについては親に聞いていたため知っていたが、エドとリリーは初めてなのか、シスターの話に聞き入っている。


 ベアクローの危険性について教えられたことで、エドとリリーは顔が少し青ざめていた。


 一通り聞き終わると、ベアクロー以外の危険な動植物について教えられる。


(北の川を越えなければ、基本危険なのは南の森のベアクローだけか…。)


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


 更に次の日。


 リューイが教会に来たが、周りをキョロキョロと確認しており、あまり顔色はよくなかった。


 しかも、アイリの定位置であるクロスの横に陣取り大きな音がしたりすると、クロスの服を掴んでくるのである。


(リューイはまだあの時のことを引きずっているみたいだ。)


 リューイは結局途中から、最後までクロスの服を掴んで放さなくなった。


 あの時リューイを運んだことで、クロスの近くに居れば大丈夫という安心感でも得たのかもしれない。


 教義も終わり帰る際に、子供たちにあることが話された。


「みなさん。アイリさんが王都に行かれることになりました。会うと別れが辛くなるとのことで、手紙をそれぞれに綴ってありますのでお渡します。」


 子供たちへそれぞれシスターから手紙が渡される。


 クロスは手紙を開いてみると、涙で滲んだと思われる文字が書いてあった。


(泣きながら書いたな…。)


 手紙の内容は、今まで親だと思ってた人が違い、本当の親のいる王都に行くこと、王都に行くと簡単には会えなくなってしまうことなどが書かれていた。


「アイリはいつ行くんですか?」


 手紙に目を通しながらシスターに聞いてみる。


「明日の朝早くです。準備で忙しいので邪魔をしてはいけませんよ。」


「分かりました。」


 手紙の最後には会いたいという文字が綴られている。


 手紙を読み終わり部屋を出たところで待っていたのは、教義に集まる子供たちの保護者だった。


 帰る途中に、アイリへ挨拶をしたいと親に相談するが、結局却下されてしまう。


 仕方なく親と一緒に家へ帰り、ご飯を食べて大人しく部屋に入る。


 部屋の中で、アイリへと会いに行く準備をした。


(もし親が見に来たときのために膨らみをつけてっと。よしできた。では…。)


「時よ。とまれ。『ツァイト』」


 扉を開けようとするが、扉は外側から閉まっており開けることが出来ない。


 仕方なく身体強化を施して、窓から出ていくことにした。


 地面に難なく着地を決め、アイリの家を目指す。


(窓開いてるかな~?)


 アイリの部屋の位置まで行き、窓を開けてみるが、少ししか開かず身体を入れることが出来ない。


(いつもは通れるくらいに開くのに…。)


 仕方なく他に開いているところがないか探してみる。


(普通に入り口が開いてるとは…。)


 窓は全て閉まっていたが、入り口は開いており中に入ることが出来た。


 部屋の中には幾つかの袋と、袋に食料品を入れている女性がいた。


 今まではこの女性がアイリの母親だと思っていたが、手紙により違うことが分かっている。


(この人とアイリの関係って何なんだろ?)


 アイリの部屋へ入り、扉を閉める。


 部屋は薄暗く目が暗闇に慣れるのを待つ。


(布団に丸まってるな。)


 慣れた頃にアイリの方を確認すると、布団に誰かが丸まっているのが分かる。


 ベッドの脇に近づき時を戻す。


 時を戻すと布団の中からアイリのすすり泣きが聞こえてきた。


「アイリ。会いに来たよ。」


「!…クロス?」


 布団の中からアイリが出て来て抱きついてくる。


「クロス~クロス~!」


 落ち着かせるように背中を撫でてやる。


「静かにね。」


「…うん。」


 アイリは落ち着くと不思議そうにみてきた。


「どうやって来れたの?」


「ヒミツだよ。」


 頬を膨らませてこちらを睨んでいるが、すぐに表情は戻る。


「もしかして魔法を使ったの?」


 笑っていると扉をノックする音が聞こえる。


「アイリ?何をしているのです?入りますよ?」


「(クロス隠れて!)」


「(わかった!)」


 ベッドの下に潜り込むと同時に扉が開く。


 扉を開けると、ランプを持った女性が部屋の中へと入ってきた。


「誰かと話していませんでしたか?」


 周囲を見ながらベッドの方へ近寄ってくる。


「…。」


 しかしアイリは何も言わない。


(これはまずいかも。)


 部屋の中でまともに隠れられる場所が、ベッドの下とクローゼットしかない。


 クローゼットにはおそらくまだ服などが入っているため隠れられるとするとベッドの下しかない。


 このままここに隠れていては見つかるのは必須と言えた。


「(時よとまれ。『ツァイト』)」


 時を停めてそっと部屋から出て、扉の隙間から中の様子を窺い時を戻す。


「時よ戻れ。『ツァイト』」


 女性は、部屋の中を一通り確認すると、ベッドの下を覗き込んだ。


 アイリがこの時にビクッとしたが、女性は誰も居ないことを確認すると不思議そうにしている。


 アイリについても、女性がベッドの下を確認したが、何も言わないので不思議そうにしていた。


「明日は早いですから寝ておきなさい。」


「…。」


 こちらへ来そうだったので、再度時を止めてベッドの下へ戻り時を戻す。


 扉が完全に閉まり、しばらくしてからアイリがベッドの下をのぞき込んできた。


「?」


「(見つからなくてよかったね。)」


「うん…。」


 クロスは、ベッドからアイリに手を引っ張られて這い出る。


「さっきよりも手が冷たくなってるよ。温まろ。」


 アイリはクロスに、布団を広げ招き入れる。


 布団の中はアイリが篭っていたため暖かかった。


「今日は来てくれてありがとう。」


「僕もアイリには会いたかったしね。」


「うん…。(ありがとう。)」


 アイリの顔を触ってみると、結構長い時間泣いていたのか、顔が濡れていた。


 それからは、抱き枕のようにくっついて離れようとしないアイリを見て諦め、アイリが寝るまで待つことにする。


(魔法を結構使ったしいつもの寝る時間だからそろそろ眠たい…。)


 意識では起きようとするが、眠気には勝てず一緒に寝てしまう。


「(ありがとうクロス、さようなら。)」


 アイリが何か呟いたが聞き取れなかった。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


 ノックする音に気づき目を覚ますと、周りは薄っすらと明るく、ちょうど部屋の扉が開くところだった。


(…!まずい!)


 とりあえず時を停めてアイリから離れる。


 離れる代わりに手近にあった人形を抱かせた。


 部屋を出ると、テーブルに知らない大人たちと神父がいた。


(迎えに来た人かな?)


 家の外に出ると、ホース車(この世界では馬をホースと呼び、引く動物によって馬車改めホース車の名前が変わるらしい)が待っていた。


 ホース車では御者が待っており、既に荷物を積み込んだ後のようだった。


(空も明るくなって来たみたいだしそろそろ出発するのかな?)


 家の陰から様子を見ることにし時を戻す。


 待っていると大人たちが出てきた。


 アイリも起きているようで人形を抱きしめて歩いている。


(挨拶くらいはしても大丈夫かな?)


 出ようとすると、先に声がかかる。


「誰だ!家の陰に隠れてるのは!」


(ばれてるみたいだし出るしかないか。)


「僕です。クロスです。」


 子供が出て来たことで不思議に思われつつも、アイリが走って近寄っていくのを見て慌てる。


「大丈夫だよ。クロスはお見送りにきたのかい?」


「はい。」


「一人かい?」


「そうです。」


 いつものようにアイリを宥めながら答える。


「まあ、少しくらいは時間をあげるよ。」


「おいおい、予定が遅れるじゃねえか。」


「少しくらいおおめにみな。小さいことをグズグズいうやつは嫌われるよ。」


「あ~そうかい。勝手にしな。」


 冒険者風の男は先にホースへ乗り、他の冒険者も同じようにホースへと向かう。


「アイリ、挨拶はちゃんとしとくんだよ。終わったらホース車に乗りな。」


 そういうと先にホース車へ乗り込んだ。


「起きたらクロスが人形になってた。クロスは昨日来てくれたよね?夢じゃないよね?」


「一緒にいたよ。見つかりそうだったから先に外に出たんだ。」


「そうなんだ…。来てくれて嬉しかった。…もう会えないかもしれない。」


「王都に僕がいけばまた会えるんじゃないの?」


「分からないけど家の中の人以外とは会えないんだって…。だからお別れの挨拶をしときましょうって言われたけど、行きたくないって言ったら、友達には会わせないって言われたの。泣いてたら手紙を書きなって言われて書いたけど、もう会えないと思ってた。会えて嬉しかったよ…。クロス…ありがとう。」


 アイリは言い終わるとホース車へと入って行った。


 それからホース車を見送り立ち尽くしていると、神父が声をかけてきた。


「アイリは貴族の娘なんじゃよ。アイリは理由があってこの村で生活しとったんじゃ。」


(そうだったのか…。)


「帰ります。」


「気を付けての。」


 家に帰ると両親が待っていた。


「お別れは済んだの?」


「うん。」


「言ってなかったが、今日からクロスにはギルドの手伝いをしてもらうことになったんだが…、明日からにするか?」


「今日からで大丈夫。手伝いってなにするの?」


「ギルドの手伝いだな。」


「それじゃ分からないわよ。クロスにはお父さんと一緒に報酬カウンターで確認作業をしてもらうわ。そこで、基本的なことを学びなさい。」


「ちなみに他のやつらも親の手伝いだ。」


「わかったよ。」


 この日から教会に集まっての教義や魔法についての勉強は無くなった。


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