88話 目覚め・状況
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「………。」
目が覚めると、そこはどこか見覚えのある場所でした。
今、自分がどこにいるのかを確認するべく移動しようとしましまたが、思ったように体が動きません。
体を少し動かそうとするだけで、まるで自分の体じゃないように鉛のような重さです。
無理に動いてこのベッドから落ちれば戻ってくる自信はありません。
こんなときは、風属性魔法にて移動したいところですが、どれくらい移動しなければならないかもわからない上に、そんなに長く魔法を使ってはいられません。
まぁそこまで無理をする必要もないでしょう。
起き上がることはとりあえず諦めて、見える範囲にて情報収集を行います。
時刻は夜…でしょうか。
窓から星明りが入ってきています。
部屋は木で出来ており、広さは普通ですね。
扉と窓が1つずつあります。
部屋の中には特に家具はなく、あるのが今寝ているベッドくらいでしょうか。
あ…ベッドの脇にベッドよりも少し高いくらいの棚も置いてありますね。
棚の上には桶が置いてあるようです。
部屋の中が星明りでしか見えないので、これ以上は詳しくはわかりません。
次に自分の状態を確認します。
特に頭痛などはないのですが、体に力が入りません。
体を動かそうにも鉛のように思いです。
今分かったのですが、体を触ってもほとんど感触が分かりません。
まさか麻痺でもしているのでしょうか?
それにしては、うごかそうとおもえば動かせるのが不思議です。
暗くて自分の体も満足に見ることも出来ないので、状態確認もこれ以上しようがありません。
次は、なぜ今の現状になったのかを思い出すことにします。
私の名前はメイ。
ツヴァイ家に仕えている……いえ、仕えていたですね。
だんだん思い出してきました。
セリーヌ様を護送中に盗賊に襲われたところを助け出した………えーっと……クロ……クロ……そう!クロウ様に従者として仕えることになったのです。
それから………シュトラウスを離れて…そうです!クロウ様の故郷のゼーロー村に来たのです!
思い出しました!
どこかで見た部屋だと思ったらここは私とクロウ様の家です!
しかし家に居るということは…それから私は一体何をしていたのでしょう?
こんなに体を痛めるようなことは私自身の性格からはあまり想像できないです。
クロウ様はお強いので、人質などになるような方ではありませんし、クロウ様にお仕えしている以上私がクロウ様の傍を離れることはほぼありません。
むしろ離れたくはありませんね!
いえ!離しません!
あんなにかわいらしいお顔をしていらっしゃいますし………微笑まれると思わず抱きしめたくなってしまいます!
これはどうしようもないことなのです。
仕方がないことなのです。
しかしだからこそわかりません。
なぜこのような状態になったのでしょうか………?
仕方がないので順を追って思い出すしかないようですね。
確かクロウ様のお母様に紹介していただいて……自己紹介して……ギルドの仕事をして……結婚…?
そういえば結婚式の手伝いもしましたね。
私とクロウ様との結婚式だったらもっと良かったのですが、段取りなど非常に為になったので、とりあえず良しとしましょう。
結婚式が終わってから……そうです!結婚したのがゼーロー村のギルドマスターとギルド職員のエレンさんだったので、それを知らせるための手紙を配る依頼を受けたのです。
行先は………シュトラウスと王都と…………あと一つあったような……?
駄目です。
思い出せません。
とりあえずこの件は置いておいて、その手紙を持ってシュトラウスに向かったはずです……。
何か忘れているような……?
?
誰かが部屋に近づいてきました。
木で出来た家だというのに、ほぼ音を立てずに規則正しく歩いてくるところから考えると、かなりの教育を受けたものに違いありません。
歩いてきた者はこの部屋の扉の前で止まり……入ってきました。
ランタンを持ってきているようで明るいです。
というよりまぶしいです。
女性のようです。
どうせ体がまともに動かないのです。
せめてコンタクトを取るべく声を掛けることにします。
決して驚かしてやれ!なんて思ってません。
………いえ………少し思いました……。
「……こ…ん…ば…ん…は。」
自分の声とは思えないほど小さく掠れた声です。
入ってきた女性の方を見ると、向こうも驚いたようで、こちらをまじまじと見ています。
「目が覚めたのね!とりあえず口に入れるものを持ってくるわ!」
入ってきた女性は、ランプを部屋の中央に下げられた鉤に吊るすとすぐに踵を返してしまいました。
言われるまで気付きませんでしたが………お腹がすきましたね………。
そういえば、さきほどの女性が去り際に言った言葉………目が覚めたのね!と言われました。
ということは私は結構な日数寝ていたのでしょうか?
やはり空白の期間を思い出す必要があるようですね。
そして先ほどの女性ですが思い出しました。
ナタリアです。
私とクロウ様との結婚を阻んできた敵です。
あと少しで神父様に認められる!……というところで、ツヴァイ家とクロウ様へ告げ口をすると脅してきたのです!
ツヴァイ家に知られようと、もう離れた身なので問題ないのですが……いえ、セリーヌ様やマリー、ペルには知られたくはないですね。
クロウ様に結婚前に知られるのもまずいです。
結婚さえしてしまえばこっちのものなのですが……。
これでさきほどの忘れていた穴は埋まりました。
ナタリアです。
クロウ様、ナタリアと一緒にシュトラウスの町に行き、手紙だけではなくランクを上げるために動き始めました。
私だけであれば、結婚すれば従者契約は解除されそのままこの家で過ごせたものを!
ナタリアは私の人生設計を軽く変えていったのです!
しかし、脅される身としては仕方ありませんでしたが、簡単に諦める私ではありません。
友好的な態度を取っておいて油断した所を一気に攫う作戦に切り替えました。
シュトラウスの町について………クロウ様が依頼を受けてる間は、自由行動していいとのことでした。
さすがクロウ様優しいです。
それから………どうやらさきほどの女性が戻ってきたようです。
「お待たせ。ゆっくり食べなさい。」
料理からは湯気が漂っています。
これは重湯でしょうか?
「あ…り…が…と…う。」
重湯を作るには高価な食材と時間が必要なはずですが………?
食べてみて確信しましたが、これは重湯で間違いありません。
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食事も済ませてナタリアの状況を確認することにします。
シュトラウスについてからの記憶までは思い出したので、そこからのことを聞けばいいので早いはずです。
たぶん……。
「お…し…え…「朝まで待ちなさい。朝になったら状態を見て話してあげるわ。」…わ…か…っ…た。」
話している最中に遮るなんて、同じ従者として許せません!
私がやるのはいいのですが、やられるのは好きではないですね。
とりあえず朝には聞けるようですし、また寝ることにします。
といっても起きたばかりで寝れそうにありません。
……………夜は長そうです……………。
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