87話 疑惑・確信
夕刻を過ぎた頃町、クロスたちは到着する事が出来た。
事前に話が通っていたのか、迷うことなく1件の宿へとホース車は向かう。
宿に到着すると、パルヒムに食堂へ集まるように言われた。
その後パルヒムは、宿にて待機していた数人の男たちと従業員を交えて話し出す。
冒険者たちはその姿を見ると、ぼちぼちと宿屋内の食堂へと入っていく。
話はすぐに終わったようで、宿の入り口にて待っていたクロスは話しかける。
「積み荷はいいのか?」
「今回はうちの従業員とこの町の警備隊員を雇ったから大丈夫だ。食堂でゆっくり食事でもしようじゃないか。」
どうやら積み荷の夜間警護までは必要無かったらしい。
まあそんな話よりも、今から食事の時間ということの方が遥かに重要な訳だが…。
食堂へと入り思い思いにテーブルへと着く。
客は少ないようで、カウンターに1人居るだけだった。
「今回の町中についての警護は、別で積み荷の警護を雇ってあるので安心して食事をしてくれたまえ。それと、ここの食事代は出すから腹一杯食べてくれ。但し飲み物代は別だがね。」
その言葉に惹かれるように従業員が寄ってきて注文を取っていく。
従業員にはアリスの分を別会計にするよう伝え、先に会計を済ませる。
他の護衛の冒険者たちも、酒代をその場で支払い食事を注文していく。
注文した品がきたので、クロスとアリスは食べ始めたのだが、何故か色んな方角から視線を感じたので周囲を見てみると、みんなカップを持ちこっちを見て固まっている。
(なぜみんなこっちを見る?…まさか乾杯でもするつもりだったんじゃないだろうな?)
そう思いパルヒムの方を見ると同じようにカップ片手に固まっていた。
時を止めたわけでも無いのに、時が止まったような空間は微妙に居心地が悪い。
クロスは、この空気を無視して食べてしまうことにした。
程よく食べ終わり、食後の紅茶を楽しんでいると、酒に酔った1人がクロスに難癖を付けてきた。
「あんたは~ほんとーーーーーーに、おんなじ冒険者かよ!助け合いって~言葉、知ってるか?」
酔っ払いの相手をするのも面倒だったので、無視していると、今度はクロスに濡れ衣を着せ始めた。
「おれはな~見たんだぜ!そいつに~毎回マントの中から~めしわたしてたよな!そいつは俺たちに配る予定の飯じゃないのか!?」
その言葉を聞いていた他の酔っ払いも、同じように言い始める。
「そうだそうだ!」
「おまえが盗ったんだろう!」
「獣のせいにするとは獣以下な野郎だ!」
周りの続くようなヤジに気を良くしたのか更に言ってくる。
クロスとしては完全な濡れ衣であるため、どれだけ言われようと気にもしない。
しかし、なかなか終わろうとしない罵倒に、流石に聞いていると、せっかくの紅茶がまずく感じる上に、煩わしく感じ始めたのでしめるべく言葉を掛ける。
「お前たちの浅慮はよくわかった。とりあえず酒が抜けて自分の考えたらずが分かったら、今後護衛依頼など受けないことを勧めるよ。」
そう言い残し、アリスを連れて宿側の受付へと向かう。
そしてクロスが引き払う間にも、食堂からのヤジや愚痴は鳴り止むことがなかった…。
アリスと共に部屋へと入り、アリスに魔法の練習をさせるべく、いつものように土を出す。
それまで黙っていたアリスは、口を開いた。
「言わせてて良かったの?」
「構わん。言いたい奴には言わせておけ。万が一襲われても返り討ちにすれば良いだけだ。…しかし、ついでにと思って受けたが、冒険者の質が低すぎるような気がするな…。それともうちの村が高すぎるだけか?」
今思えば、父親や村のギルドマスターは、目的に向かって一直線であり、余計なことは一切考えない。
それに常々、分不相応な依頼は受けるなと言われてきた。
そんな父親たちを単純なだけとも受け取れるが、見てきたクロスに取ってはそれが当たり前であり、気軽な気持ちで受けることで、その反動は自分だけでなく周りの者…ひいては依頼者にまで被害が及ぶのである。
今回の依頼は、護衛の冒険者の顔を一通り見ただけで、緊急時の対応をクロスが負う可能性が非常に高いと思われて…実際そうなった。
誰も彼もが、自分への攻撃にしか対応しておらず、護衛対象を護りもしなかったのだ。
アリスの荷車に飛び乗ったハンドモンキーを攻撃しようと頑張っている姿を見たときに、感動したのはそういった理由からである。
それに冒険者の質も問題だった。
鈴程度という認識は正しく…いや辛うじて障害物だろうか?にしかなっていないことだ。
ランク3とはいえ、対人経験があるということは、少なくとももう少しマシな動きをしてもよさげではあるが、まるで素人のごとく剣を振り回すだけである。
わざとかな?と思い顔を窺うも、必死な形相だったのでとても会話出来るような余裕はなさそうだった。
まともだったのはスワードくらいだろうか?依頼内容である依頼主と積み荷は護ってはいなかったが、御者と他の冒険者の加勢をしていたのである。
余裕は有りそうだったが、何も言わなかったのは、御者を護らねばホース車を進められないなと思ったからである。
御者をしつつ護衛も出来ないことはないが、あまりにもクロスの負担が大きいうえに、クロスにそこまでの労働意欲はない。
これで、夜にスワードたちが戻らねば、後1日とは言え護衛を1人でやらないといけないかと思うとかなりテンションダウンである。
(それにしても…、もしかして、ランク3の連中が、こぞってこの護衛依頼を受けたのはスワードに勧められたからじゃないだろうな!?)
嫌な予感はグングンとアップしていく。
(それなら辻褄が合いそうだ…。ランク3の育成のための依頼…と捉えれば今日のあいつの立ち回りも何となく理解できる。…そういったことはあいつらだけでやって欲しいもんだ…。)
結論が出たので溜め息をつくと、アリスが話しかけてきた。
「私はクロスの村を知らない。」
なぜ急にその話になったのか考えて、考えが口に出ていたことを知る。
「シュトラウスの東の砦までにある小さな村だよ。とくに何かあるわけでもないし、行く機会はないかもな。」
アリスに返答を返すと、遠い目をしつつメイたちの事に思いを馳せた。




