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81話 知り合い・王様

 二人のいる部屋を後にして次の部屋へと進む。


 もう一度いたずらをしてもいいが、宿屋の従業員の女の方とは面識があるため、なにかのはずみで気付かれないとも限らないのでやめておく。


 王を見つけたのはある部屋だった。


 その部屋は特に豪華なわけでもなく、普通の部屋に見える。


 普通というか、石で出来たようなつくりの城の中で、この部屋だけが木で作られた内装になっていたのだ。


 この内装だと、町の中では普通だが、城の中としては異常ではないだろうか。


 他はというと、普通ではないのは椅子と机の上の書類の束だろう。


 椅子は疲れないようになのか、かなり凝ったつくりになっており、触った感じかなり柔らかかった。


 構造的には後ろにも下がれるように出来ているようで、足を延ばして寛ぐこともできるだろう。


 ただ、今は寛ぐことも出来そうにはないようだが…。


 机の上にかなりの量の書類の束が置かれているのである。


 見た感じサインをするだけのような感じではあったが、サインをする量がものすごいことになっているのは間違いない。


 このサインをしている男性が一目見たときになぜ王かと思ったかというと、頭に王冠を付けていたからだ。


 さすがにこの城の中で王冠を付けているのは王族だけだろう。


 見た目は白髪で赤眼・黄眼…火属性と木属性である。


 顔は渋めだが、白髪のせいか少し老けて見える。


 まぁ実際あの娘?がいるからには相応の年かもしれないが…。


 どんな人か見てみたかったので、本棚の陰に隠れて時を戻す。


 サラサラサラサラ………ポン。


 サラサラサラサラ………ポン。


 ひたすら書類にサインをしていく。


 その間一切愚痴すらも漏らさずに行っていた。


(しかも部屋の中に一人………しかも同じ作業の繰り返しなうえに明かりは天井に付いている光る石のみ………発狂しそうな環境だな。)


 傍から見ればまるで監禁されて作業を強要されているようですらある。


 扉の鍵が開いていたことからそんなことはあるわけないのだが…。


 半刻程観察し全く変化がなかったので諦めて戻ろうと考えていた時にそれは訪れた。


「………そろそろ出てきたらどうだ?」


 最初は何を言っているのかわからなかった。


 ただの独り言だと思いじっとしていると、作業の手を止めずに更に語りかけてくる。


「………本棚のところに居るおまえだ。」


 どうやらばれてしまったらしい。


(ばれないように気配も消していたはずだが…?)


 しかし場所まで特定されていたのでは、隠れている意味が無いので顔を隠して姿を現す。


「………俺に何か用か?」


 こちらへ顔を向けたまま王は作業をやめることなく書類を処理し続けている。


「特に用はない。見てみたかっただけだ。この国の王様を。」


「俺としてはどうやってここまで入り込んだのか気になるな。…さらに欲を言えば、ここで暴れて俺の仕事を減らしてくれるのが一番だがな。」


 どうやらこの書類処理は、王にとっても苦痛もしくは面倒だという認識はあったようだ。


「こちらとしても聞きたいな。どうやって俺が居ることが分かった?」


「交換条件としようじゃないか。お前はどうやって入ったか喋る。俺もどうやって分かったか喋る。どうだ?」


「嘘でないとどうやって分かる?」


「それは逆にそちらへも言えることだと思うが?」


 王はこちらの言うことが最初から分かっていたかのように、スムーズに話を切り返してくる。


 王を観察していたが、表情の変化は全くなかった。


 ポーカーフェイスもいいところであるが、王という立場上、交渉事には強いのだろうと思い直して条件を入れることにした。


 こちらとしては正直に話せばいいだけである。


 少々内容を変えて…。


「わかった。条件を飲もう。なぜ気づかれたのかかなり気になるしな。」


「条件を出したのはこちらだし、こちらから最初に話そう。…簡単な話だ。1刻に1度出てこいと言って、更に気配がした方に話しかけただけだ。」


 王の説明を聞いたときに、クロスとしては納得できるものではなかったが、かといって無理かと聞かれるとできるかもしれない内容ではあった。


(そんな一瞬の気配が王に分かるものなのか?隠れるところが少ないとはいえ、本棚のほかにもそこの扉や、服棚の中等もある…。しかし、もしこの王様がランク6以上の相手だとしたらどうだ?言ってることは可能になる…。)


 そんなことを考えていると、王は今度はこちらのことについて催促してきた。


「さて。私の方は言ったわけだが、もちろん君の方も教えてくれるのだろう?」


「ああ。半刻程前にそちらの扉から入ってこの本棚の陰に入っていた。それだけだ。」


「聞き間違えかな?そこの扉というと私の目の前にある扉から?側方にあるそっちの少し見づらい扉ではなく?」


「<嘘は>言ってないさ。」


「<嘘は>ね…。」


「まぁそろそろお暇するからすぐにわかる…。王様にも会えたことだしな。」


「もっとゆっくりしていかないかね?色々と詳しく知りたいことがあるんだが。」


「こちらにはなさそうなので失礼する。助言をするのならば、娘の友好関係にはもう少し人選を選んだらどうだ。会ったらいきなり窓から飛び降りようとしたぞ。」


「娘の性格は最初からだ。どちらかというと友達の方が変わってしまったというべきかな。…とてもお世話になっているよ。しかし娘に会ったとはね。更に聞きたいことが増えたよ。」


 どうやら王の好奇心?をかなり刺激してしまったようだ。


 王はサインをする手をやめてこちらへと歩いてきた。


 クロスは再度本棚の陰へと入り時を止める。


「『ツァイト』」


(悪いがこれ以上話すつもりはない。)


 王城を後にして元来た道を戻る。


 教会にて柱の陰に入り時を戻す。


 その後武器屋と防具屋によって剣や防具を購入しておく。


 それから宿屋へと戻った。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


 名も知らぬ男を捕まえようと男の方へと歩んでいく。


 男は慌てることもなく、本棚の陰へと入ったかと思うとそちらへたどり着いた時にはいなくなっていた。


 扉の方をすぐに振り向くが扉が開いた形跡は全くなかった。


「木よ。動きを止めたまえ。『ドルン』」


『ドルン』:一定範囲の木を生やし動かす【木属性5】


 男に言ったことは納得できそうな嘘であった。


 実際には木を微妙に動かして、部屋の中を探っていたのである。


 もし幻惑魔法により分からないようにしたとしても、木属性魔法にて探りを入れれば分かる。


 毎朝木属性の魔法の訓練のために先ほどの男が来る1刻程前から魔法を使っていたのである。


 すると、半刻程使った時に魔法内に違和感を感じたので、それを探るために神経を集中し、もし見られていてもわからないように平静を装いつつ書類へとサインをしていった。


 サインは何十年もしてきたので慣れたものである。


 今では見なくともサインを出来るようになった。


 とりあえず手は書類へのサインを止めずに、違和感の正体を探るべく意識を割く。


 少しずつ部屋の木を動かしていき、違和感の場所を特定することが出来た。


 本棚の陰…こちらからでは確認できない場所から、何もないはずなのに何かがあるような感触が返ってくるのである。


 そちらへと顔を向けずに声を掛けると、しばらくして男が現れた。


 動揺はしていたが、王たる者それを周りに悟らせるわけにはいかない。


 小さいころからの教育の賜物なのか、特に表情を変えることなく男に話しかけることが出来た。


 男の情報を得るべく会話をする。


 なかなか話したがらず、また話した言葉も怪しいものだが、嘘は言ってなさそうだった。


 最後に娘に会ったと言っていたことから、さっきの男が、昨日娘の言っていた男だったのだろうと思う。


 昨日の段階ではただの妄想だろうと思っていたが、どうやら本当の事のようだ。


 兵士に一切気付かれずに塔の最上部へと昇り、またベッドの下に潜ったと思ったら居なくなっていたと言っていたのを思い出す。


(確かに一瞬だったな。本棚の陰に入ったかと思ったら居なくなっていた。最初は魔法による幻惑かと思ったが、扉は開いてないし、詠唱すら聞こえてはこなかった。そして部屋の中から一瞬で消えた。そんな魔法の存在は知らない…。あいつは一体なんだったんだ?)


 納得がいかないまま、また納得せざるを得ない状況に、思考力が空回りしてきそうだったので、椅子に座り直して一息つく。


(ギルドに依頼でも出すか…。)


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


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