79話 実戦・筋肉痛
結局次の日は朝食を取った後に、雑貨屋などで食材を仕入れてから王都の外に出た。
アリスの練習の成果を試すべく外に出たのである。
「アリス。まずはその土で短剣を作っておくんだ。」
アリスは頷き魔法にて土を短剣にした。
「魔法と短剣で今から連れてくる奴を仕留めろ。」
ホーンラビットの巣を発見したのでそちらへと向かう。
しばらく待っているとホーンラビットが姿を見せたので時を止めてから巣穴から出してアリスの前へと持ってくる。
そして時を戻すと、予想通りホーンラビットは暴れだした。
「アリスにはこいつを仕留めてもらう。その短剣を使ってもいいし、魔法を使ってもいい。そろそろ必要魔力も15あたりになっているだろう?ではいくぞ。」
暴れているホーンラビットをアリスの前に放り投げる。
ホーンラビットはそんなアリスに見向きもせずに逃げようとするが、クロスが逃げる先に先回りしているため逃げられない。
それを続けていると、逃げるのを諦めたのかホーンラビットはアリスへと襲いかかった。
アリスはいきなり襲ってきたことに驚いて固まってはいたが、そのままさっと避ける。
(驚いて固まっていても、体が自動的に動くみたいだな。)
そんなことが数回続き、アリスは覚悟を決めたのか、両手に短剣を持ってホーンラビットへと向き直る。
再びホーンラビットがアリスに向かい、それをアリスが避けざまに撫で斬りしていく。
アリスの筋力では弱いのか、はたまたホーンラビットの外殻が硬いのか、全く進展がなかった。
ただ両方の体力が減っていっているだけである。
ホーンラビットがアリスに突進し、アリスはそれを躱して斬りつける。
それを続けていると、とうとう体力の限界を迎える時が来た。
最初に力尽きたのはアリスである。
(さすがに今の段階で獣には勝てないか…。まぁ動くものに対して斬りつけるという意識を与えただけでもよしとしよう。)
ホーンラビットは好機と受け取ったのかアリスに再び突進を行う。
ホーンラビットがアリスに当たる前にアリスを回収して王都へと戻る。
ホーンラビットは目標が急にいなくなったので周囲をキョロキョロしてはいたが、脅威がなくなったからなのか急いで巣穴へと戻っていった。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
王都へと戻り、宿でアリスを寝かせた後に、お腹がすいたのでお昼を買いに行くことにした。
ついでに、しばらく護衛で外に出るので、その買い出しも含めている。
アリスが起きたら魔法の練習でもするだろうと思い、テーブル上に土を置いてきた。
何度も往復しているはずだが、店が多すぎるせいか、未だに店の場所を把握出来ていない。
どの店に入ろうか迷ったが、どうせならと思い立ち、護衛依頼者の経営している雑貨屋に行くことにした。
1度中に入って見た感じだと、品揃えが豊富で品質は普通だった。
だからこそのあの価格なのだと思う。
薄利多売なのだろう。
1つ1つが他の店に比べて安いのである。
ただし、一部宝石など例外品はあるのだが…。
店に入ると店員と目があった。
こちらに恐縮そうな顔をして頭を下げている。
こちらもつられて軽く頭を下げる。
買うものは既にある程度決めていたので、それを探すだけのはずであったが、品物を見ているうちにあれもこれもとどんどん選んでしまう。
「これを買いたい。」
「えーっとこんなにですか?」
店員のいるカウンター上には、結構な物量の食料品から始まり、毛布や簡易テント道具など様々なものが置かれていた。
「ああ。頼む。」
「分かりました。しばらくお待ちください。」
店員はひとつずつの品物を確認して入力していく。
(この世界には電卓やソロバンは無いが代わりに水晶があるから楽でいいな…。)
どのような原理かわからないが、水晶に品物を乗せていくだけでその品物の金額が表示される。
バーコードなどの読み取りが無いはずなのになかなか便利なものである。
「お待たせしました。24万3820リラになります。
(これで要らないとか言ったら嫌がらせ以外の何物でもないな…。)
カードにて清算し、一緒に購入したリュックに詰め込みどこに行くんだと言わんばかりの荷物を持って店を出る。
昼ということもありまだまだ人は多く、こんな大荷物をもって表通りを行くと目立って仕方がなく、かなり恥ずかしかったので、店を出た瞬間に時を止める。
(この店と大通りの境界付近なら見られたとしても錯覚と思うだろう。)
人を押しのけながら大通りを通って宿へと向かう。
部屋の中へと入り荷物を置いてから時を戻した。
(この部屋が最初の部屋のように扉の小さなところだったらこの荷物が通らなかったな…。)
でかいリュックを買ったのは良かったが、幅が大きく店や宿の入口のように大きな扉がある場所でなかったら通るためにリュックの中身を減らさなければいけなかっただろう。
一旦部屋に荷物を出して分類ずつに魔法で収納していく。
一気に収納しない理由は、そもそも魔法をいくつ使っても問題ないのと、取り出すときのイメージの補完の為である。
出すのは思ったものが出せるようになったとはいえ、収納したものを覚えておかなければ、イメージして魔法を唱えたとしても出てこないからである。
魔法で収納し終わったところでアリスが目を覚ました。
「さてアリス。昼飯………買ってくるの忘れたな…。」
旅に必要そうな食材は購入したが、肝心の昼飯を購入するのを忘れていた。
アリスはというと体中が痛いのか顔をしかめている。
「アリス。動けるか?」
「うごけ…る。」
かなり無理をしているのが分かるいい方な上に、動きも緩慢である。
「いや。いい。ここで待ってろ。昼飯を買ってくる。」
再度昼飯を買いに前日に入った軽食店へと向かった。
軽食店にて持ち帰りのパンサンドと飲み物を注文し、それを持って宿へと戻る。
「アリス。買ってきたぞ。」
「……あり…がとう…。」
昼飯を食べ終えてから、風呂に入ることにした。
アリスが寝てしまったのでそのまま寝かせたが、服も汚れているうえに汗だくだったのである。
しかし、このままの状態ではアリスはひとりで満足に風呂に入れそうにない。
かといって、人が居る状態では入りたくはないのでまずは人が居ないかの確認を行う。
部屋を出て浴場へと向かう。
浴場へと入り中を確認するが誰も居なかった。
(これなら大丈夫そうだな。)
部屋へと戻りアリスを連れて再度浴場へと向かった。
立っているのも少し辛そうではあったが服を脱がせて風呂へと入る。
髪と体を洗ってやり、先に風呂へと入れた。
自分の体を洗い風呂へと浸かる。
アリスは途中途中で沈みそうになっていのたで、自分の体へとのせて使っていると、誰かが脱衣場に入ってくる音がした。
(またメイドか?しかしこの時間に来るのもおかしいような気がするな。)
前回は真夜中だったので掃除をするのは理解できるが、今は昼間すぎである。
十分に人が入る可能性のある時間だろう。
同じような過ちをするとは考えにくい。
そんなことを考えていると、仕切りの戸が開いた。
湯気でおぼろげになっているので、すかさず時を止める。
アリスをそのままに戸の方に近づいてみると、そこに立っていたのは昨日の男だった。
(なんて奴だ…。家名持ちなら王都に自分の家くらいあるだろう!?そっちにいけよ!)
そんなことを思っても仕方がないので、アリスを湯船から上げて脱衣場へと連れて行く。
アリスの指を咥えて、時の止まった中で自分で立たせる。
髪の毛でも行けるだろうかと思い、髪を咥えたところアリスの時は止まらなかった。
(髪も肉体と見られるわけか…。)
その後、下着姿のまま部屋へと戻り時を戻して着替えさせ、ソファーに寝かせる。
呼び紐を引き従業員にシーツなどの替えを頼んで椅子に座りくつろいだ。




