77話 競技会場・王城
夕刻になり競技会場へと足を運ぶ。
そこの受付にて武闘祭に登録してから再度競技会場を見て回るべく歩き出す。
例のVIP専用の場所には見張り番が立っていて簡単には入れないようだ。
続いている先は大体わかっているとはいえ、秘密の抜け道のような物を見てみたいという好奇心はかなりある。
夕刻ということでだんだん暗くはなってきているが、まだ十分に見える範囲であったので、石柱に隠れてから時を止めて部屋の中へと入るべく扉へと近づく。
扉には鍵が掛かっていたので、扉の傍にいた兵士を調べて鍵を見つけ出し中へと入る。
扉の先には大きな部屋があり、更に奥へと続く扉があった。
その扉を開けて奥へ進むと、通路が分岐しており、ひとつは競技場へともうひとつは王城のある山の方へと続いていた。
王城のある方へと歩みを進める。
奥に進むにつれて暗くなってきたので、人がいないことを確認し、時を戻してランタンを出して周囲を明るくしてから
しばらく行くと、中央に大きな柱とその周りを上へと昇る階段があった。
近づいてみると、大きな柱には扉が付いていたので、中を覗いてみると、上へと続く空間があるだけで他に何もなかった。
何もないことに落胆しつつ階段を使って上へと昇る。
しばらく昇っていると扉へと辿り着いた。
その扉を開けて中へと入る。
中は石造りの簡素な部屋になっていた。
その部屋を通り抜けて更に上に向かう。
扉を抜けた先には広い幅のある明るい通路に出た。
その通路にはいくつか扉があるので、帰るときに間違えないよう目印として扉にランタンを置いた。
通路が明るいことや途中途中に兵士がいることからここが王城であると確信する。
通路の先に出ると、城下町を一望できた。
(なかなかいい眺めだな。)
夕日に染められた町は、白い建物が多いので夕日の色がよく映える。
王城を散策したが、やはり宝物庫らしき場所などは鍵が掛かっており入ることが出来なかった。
(せっかくここまで来たし王様の顔でも見ておくか。)
上へと向けて足を進める。
(やはり王様となると天辺付近に部屋があるイメージだよな。)
外から見た外観では、塔のような突き出ている部分が少ない上に、そこまで高くは見えなかった。
一番最有力候補である真ん中から見てみることにする。
その塔は一番奥に建っており、さすがに入口からして厳重で通路からこの塔に着くまでに結構な兵士が巡回や見張りをしていた。
そんななか扉を開けて中へと入る。
(鍵が掛かってなくてよかった。まぁこれだけの兵士に守られてたら逆に鍵を掛けてるともしもの時に逃げられないよな…。)
扉の中には、競技会場からこの王城に来るまでにあった例の螺旋階段と扉のついた柱があった。
扉は諦めて階段にて上を目指す。
その先には扉があり、扉の前には兵士が2人脇に控えている。
そんな中を気にせずに開けて入る。
見た目意外と高級感はあるが、手狭な部屋だった。
確かに今泊まっている部屋の2倍くらいではあるが、これだけだとあまりにも狭いように感じる。
よく見ると、奥の方に階段があり更に上へと続いていた。
その階段を昇り上へと行くと、少女がひとりポツンと椅子に座り机に向かって書き物をしているのが分かる。
覗き込んでみると、本は歴史書のようでパッと見だが、戦争について書かれていた。
(この子はもしかして王様の子供かなにかかな?王様ってどこにいるんだ?折角見ようと思ったのに…。帰ろうかな…。)
しかし折角来たので…と思い直して少女にいたずらをしていくことにする。
少女の後ろに立ち、顔の下半分にかかっていたマスクを上げて時を戻し、勉強に集中している少女の耳に息を吹きかける。
「ひぁっ!?」
突如耳に息を吹き込まれたせいだろう。
少女はびっくりして飛び上がり後ろを急いで振り向く。
クロスも顔を見られないようにマスクを再度上げ直した。
「あ…あな…あなたは誰ですか?どうやってここに?…狙いは私ですか?人質されるくらいなら…。」
少女はこちらが何かを言う前に部屋にある窓へと走っていく。
(おいおい!まさか飛び降りるつもりか!?)
「『ツァイト』」
時を止めてから少女を抱き上げてベッドへと置く。
それから時を戻すと、少女はいきなり風景が変わったことにびっくりして動きを止めてしまう。
「とりあえず…いたずらしてすまなかったな。王様の顔を一目見ようとここに来てみたが居ないようだ。」
「………………お父様ならまだお仕事されているはずです。ここは私の部屋ですので来ることはあまりありません。それよりも一体どうやったのです?窓に向かったと思ったらベッドの上です。…まさか!お父様を見るなどという口実で、実は私を襲いに来たのですね!」
少女はまたしてもベッドから立ち上がると窓へと走り始める。
(はぁ…。この人の話を聞かないっぷりは誰かを思い出すな…。)
窓で止まり飛び降りるまいと思っていた少女は、何の躊躇もなくジャンプしたので、すぐさま時を止めて外から連れ出し再度ベッドへと今度は投げ捨てて時を戻す。
「お前は人の話を聞く気はないのか?」
呆れ交じりに少女に尋ねると、少女はまたしても不思議そうに周囲を見ている。
「わかりました!幻惑魔法ですね!すごいです!「黙れ。」…はい。」
とりあえず黙らせる。
「特にこれ以上何かするつもりはない。分かったか?」
「えーっと、それでは何をしにいらしたのでしょう?特に何かするわけでもなく…そこに居るということは…!私の寝顔や寝ている間の痴態を見に「黙れ」……はい。」
これ以上付き合っていると精神的に疲れそうなのでさっさと帰ることにする。
「それでは帰る。とりあえず勉強頑張れ。」
「はい!私きっと立派な女王となれるように頑張ります!」
大声で元気よく返事したせいだろう下の階の扉が開き、近づいてくる足音が聞こえる。
「誰か来たようだ。俺の事は内密にな。」
そういってからベッドの下へと潜り込み時を止める。
それからベッドの下から這い出て悠々と元来た道を戻っていった。
少し誤算だったのは、ランタンが無くなっていたことである。
仕方なく大体の部屋の位置を思い出し、扉を何回も開ける羽目になってしまった。
競技会場まで戻り鍵を再び兵士に返してから、適当な石柱に身を隠して時を戻す。
その後は何食わぬ顔をして宿へと向かった。
宿の部屋へと入ると、アリスが魔法の練習をしていた。
(よくやるよ。この調子で使い続ければ結構な速さで必要魔力が下がるかもな。)
一区切りついたのか、アリスが魔法を使うのをやめたので声を掛ける。
「どうだ順調か?」
「やっと飛び散らせずに変えることが出来るようになった。」
「おっ。すごいじゃないか。見せてくれないか?」
「わかった。」
アリスはテーブルの上にあった短剣の土を魔法にて1本の棒へと変える。
「棒か…。確かにこれなら…。これを丸くできるか?」
「やってみる。」
魔法にてサッカーボール大の丸い球体が出来上がった。
「うまくいったな。今度護衛にてこの王都を出る。旅に出るときにはその土を袋に入れてアリスが持ち運ぶんだ。それくらいの体力はつけないとな。」
「分かった。」
非常に物わかりの良い子である。
「よし。じゃあ風呂に行くぞ。」
着替えを持って浴場へと向かう。




