75話 ランク・依頼
ギルドの依頼板にて残っている依頼に目を通す。
ここでは意外と薬草の類の依頼が多かった。
恐らく周辺に採れる場所が無い…もしくは少ないのだろう。
金額もゼーロー村やシュトラウスの町に比べれば遥かに高額であったので受けておく。
「これの手続きを。」
「はい。では水晶をこちらへ。」
水晶板の上にカードを乗せる。
「あら?少々お待ちくださいね。」
ギルド職員はそういうと何やら水晶板を覗き込んでいる。
「ええっ!?」
覗き込んで固まったかと思うと突如叫びだす。
その声で周囲の注目がこちらへと向いてしまった。
「嫌がらせか?」
ギルド職員は「はっ」とし、周囲を確認してから顔を真っ赤にして謝ると、落ち着いたのか小声にて確認してきた。
「(えーっとですね。ランクを3つ上げることが出来ますがどうなさいますか?)」
「はっ?」
いきなりの内容に思わず聞き返してしまう。
最低でも次のランクに上げるには、全部で50件依頼をこなさないといけないはずである。
今までに達成した依頼の数はせいぜい10個程度のはずだ。
しかも、3つということはランク5なので全部で350件…しかもランクに対応した依頼を最低1件は依頼をこなさないといけないため、今のクロスでは全くと言っていいほど足りないはずである。
「(何かの間違いではないのか?依頼を達成したのはせいぜい10個程度だと思うんだが?)」
「(間違いありませんよ。ただ、依頼だけではなく盗賊の討伐もランクアップの対象となっています。)」
「(いったいいつの間に?)」
いつの間にか盗賊の討伐についてもランクアップに関わりがあるようになっているようだ。
「(最近盗賊の討伐件数が伸び悩んでいるため、4日前より施行されるようになったので知らない方がほとんどだと思います。盗賊の討伐件数については依頼とは別に見ることが出来ますので、今回それを考慮してのランクアップです。)」
「(なるほどね…。)」
「(どうなさいますか?いつでも上げれるので見送っても構いませんが。)」
「(いや。上げといて。)」
「(はい。………処理完了しました。こちらが依頼書になります。)」
依頼書とカードをを受け取る。
「(賞金についてはどうなっている?)」
もし貰えるのであれば貰っておきたい。
お金はあって困るものではないのだから。
「(討伐した際に相手のカードを持ってきていただければこちらにてお支払いたします。他に何かありますでしょうか?)」
その後にこの新しいランクアップ制度の概要を聞いた。
「ありがとう。大体わかった。ではまたくる。」
「はい。またのお越しをお待ちしております。」
クロスはギルドを後にして宿へと戻ることにした。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
宿へと戻り部屋へと入ると、アリスの姿が見えなかった。
まさか!と思い部屋の中を見回すと、ベッドの脇に転がっているアリスを発見する。
胸を撫で下ろしアリスを抱き上げてベッドへと寝かせた。
アリスの寝ていた場所の付近には土が散乱しているところをみると、ここで練習していたのだろう。
魔法にて部屋の中の土を収納する。
綺麗にしたところで先ほど貰ったカードを確認する。
クロス
ランク 5
魔法力 -/-
筋力 75
魔力 無2/時1
速度 80
状態 普通
金銭 910,000リラ
元々従者が居たのでランクを上げるために依頼を受けていこうとしていたが、クロスの変貌してしまったあの日から状態欄には、メイとナタリアの従者の肩書はなくなってしまった。
ランクについても5となってしまったので、もし従者を付けたとしても税金の減税を受けることが出来る。
それ以外でも、今持っている手紙をバルトに持っていけば頼まれた依頼は終わりである。
一応シュトラウスの町を出る前にメイとナタリアに書置きを渡してあるとはいえ、恐らくその通りになるかはわからない。
既に二人は従者ではないので、どのような行動を取るのも自由なのだから…。
先ほどの図書館のような場所で新しい目的も出来た。
世界を回ってこの地図を完成させるのもいいだろう。
(メイたちにはたまに手紙でも書けばいいだろうか?)
そんなことを考えているとアリスが起きた。
「動けそうか?」
「動ける。」
アリスは起き上がりベッドから立ち上がると周囲をキョロキョロとし始めた。
「どうした?」
「土…。」
どうやら魔法の練習をしたいようだ。
「これから街中の依頼を少し受けようと思うんだが、アリスはまだ魔法の練習をしているか?」
「しとく。」
「わかった。」
魔法にてテーブルの上に土を出して、ついでに滋養草や薬草を出して袋に詰める。
「ではもう一度ギルドに行ってくる。昼過ぎには戻る。それまで昼飯は我慢できるか?」
「わかった。」
アリスはこっちも見ずにまた魔法の練習を始めてしまった。
「では行ってくる。」
アリスに一声かけてから外に出る。
ギルドに向かい採集の依頼書を更に2枚程持ってから報告受付に行く。
報告受付にて依頼書を渡して受付と報告を一緒に処理してもらう。
その後にランク5になったので改めて依頼を確認してみた。
ランク5ともなると、護衛などの依頼が結構増えている。
地図を取り出して地名を確認しつつ、北部へと向かう依頼を探した。
そこに丁度良い依頼を見つける。
「アルテン」…それは王都の北にあるシュベーリンとバルトの間にある町である。
時期も宿の契約が切れる頃でありなおさら丁度良かった。
依頼者の名前を見ると、家名持ちではないのに募集人数は10人となっている。
一般的な商家では護衛の数など2~3人である。
その数倍を募集しているということは、余程大事な品かお金を持っているかだろう。
お金持ちほどケチな気がしないでもないが…。
この依頼について話を聞いてみるべく依頼受付へと向かった。
「この依頼人について聞きたいんだが?」
「はい。…。パルヒムさんですね。この方のどのようなことをお聞きしたいのでしょうか?内容によってはお答えできないものもありますが…。」
「どんな人物か教えてくれ。教えていい範囲でいい。」
「わかりました。パルヒムさんは豪商と言ってもいいでしょう。色々な町に店を出していたはずです。お金についてはかなりシビアですが、支払いについてはきちんと行ってくれるはずです。このようなことでしたら、酒場にでもいけばもっと詳しくわかるとは思いますが、ギルドではこれ以上についてはお答えできません。」
「いや。十分だ。(豪商か…。それであの人数かな。)」
「この依頼は受けた後でも期日の二日前…明日までですね。それまでであれば解約することができますがどうなさいますか?」
受けた後に一度会いに行くのもいいかもしれないと思い受けておくことにする。
「一応受付しておいてくれ。」
「わかりました。ではこちらへカードを。…はい。ではこちらが依頼書になります。」
依頼書をポケットに仕舞い、パルヒムの居る場所を尋ねると店の場所を教えてくれた。
クロスはその店へと足を運ぶ。




