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72話 夜食・移動

 台車に被せられた白い布を退かしてみると、レストランでフルコースを頼んだかのような料理が並んでいた。


 部屋に備え付けてあるテーブルに並べようかと思案したが、腹の虫が鳴き始めたので、並べずに食べることにする。


 椅子を台車の横に置き、フォークを手に取って台車からそのまま皿を持ち食べてみる。


 皿の数は多いが、その上に乗っている料理の量は少ない。


 早速フォークを野菜に突き刺し食べる。


(おぉ~。洋風ドレッシングがかかってる感じだ。しかし野菜が柔らかいな…どっちかというとシャキシャキしてるほうが好きなんだが…。)


 好みはさておき、懐かしい味に少し感動してしまう。


 他の料理も食べてみるが、調理されたばかりのように暖かくどれもがおいしかった。


(同じような種類が無いが、これで二人分なのかな?)


 用意された料理には同じものが無く、それぞれ一品ずつが台車に乗せられていた。


 一通り食べて満足したのでアリスを起こして食べさせることにする。


「アリス。起きろ。」


「………。起きてる。」


 どうやらいつの間にか起きていたようだ。


「起きているなら声を掛ければいいだろう。」


「…声を掛けたら危険な感じがした。」


 確かに料理を食べるのに夢中でアリスの存在を頭から完全に忘れていたのは事実だが、そんなに危険な雰囲気だったか?と考える。


「まあいい。とりあえず食事にしとけ。昼に軽く食べただけだから腹が減ってるだろう?」


 アリスは頷くと台車の横へと移動する。


 そしてクロスからフォークを受け取ると、皿の上にある料理を食べ始めた。


「食ったら軽く魔法の練習をするぞ。幸いここは石造りのようだし、ちょっとの事じゃ壊れないだろうしな。」


 アリスはクロスの話を聞いているのかいないのか一心不乱に食べている。


(アリスも人の事言えないと思うんだが…。)


 アリスが食べ終わるまで待ってから再度同じセリフをアリスに言う。


「それではやってみるか。確か土属性の初歩は土を動かすんだったかな。王都の門の外で野宿した時のような感じでやってみれば成功するだろう。あまり大きなイメージは持たずに小さくやれよ。いや…ちょっと待ってろ。『ツァイト』」


 時を止めて部屋を出る。


 宿の外に出てから土の圧場所を探す。


 王都はほとんどが石畳になってはいたが、家と家の間には幾分土の箇所があったのでそこの土を取り部屋へと持ち帰る。


 アリスの前に土を置いて時を戻す。


「とりあえずこれだけの土でイメージしたものを作ってみろ。」


 土の量は両手に乗せた分だけであるので、そこまで量は多くはないがミニチュアを作る分には十分な量であった。


「何を作ればいいの?」


「何でもいい。思ったものを作ってみろ。」


「…わかった。」


 アリスはしばらく考え込んでいたが、何かを思いついたのか、部屋の中をキョロキョロと見回すと、目的のものを見つけたのかそちらへと寄って行きしゃがみ込んでしまった。


 その後戻ってきたかと思うと土をじっと見つめて詠唱を始めた。


「土よ。お金になれ。『ザント』」


 アリスの言葉に従い土は丸い硬貨になった。


「確かに1万リラ硬貨だな…。」


「成功。これでお金に困らない。」


 アリスが魔法にて作ったお金は1万リラ硬貨で細かい部分まで精巧に作りこまれていた。


 アリスには魔法制御に関する才能があるのかもしれない。


「いや…これは使えないだろう?」


「一緒。これをきちんと考えて作った。」


 アリスは手に1万リラ硬貨を持ってこちらに見せつける。


 確かにアリスの作った硬貨は全く瓜二つだったが、違う点が二つだけあった。


「あのな…色は土で作ったから仕方ないとして、さすがにこの大きさはダメだろう?」


 アリスの作った硬貨の違うところ…それは土で作ったが為に色が茶色であったことと、持ってきた土を全部使って一枚の硬貨にしているためサイズが大きすぎたのだ。


 銅貨として使えるかも?と思い実際に手に取ってみたが、簡単に崩れてしまう。


「あっ…。」


 崩れたのを見てアリスは声に出して、若干非難するような目でこちらを見る。


「さすがに硬さまではまだイメージできなかったか。アリス…。そんな目でこっちを見るな。今度はその硬貨の硬さも含めて想像するんだ。」


「やってみる。」


 その後もアリスに魔法で硬貨が完全に再現できるまで続けさせる。


 魔法を続けていると、アリスの瞼が下がってきたようだった。


「あー。アリスカードを見れるか?」


「…み…れ………る。」


 アリスはほとんど目をつぶっているんじゃないかと言うほど、瞼を下げたまま胸元からカードを取り出す。


「魔力はどれくらい残ってる?」


「40……あう。」


 滑舌も悪くなってきたようで、本格的に眠たいようだ。


「言い忘れたが、魔法力は使いすぎると眠くなってきて、無くなると眠るというよりも気絶してしまうから注意しろよ。今更かもしれんがな。まぁ死ぬことはないから安心しろ。とりあえず今日のところはここまでだな。寝るぞ。」


 アリスはこちらに返事するのも億劫なのかそのままベッドへと倒れこみ寝てしまった。


 クロスは、風呂に入る前に仮眠を取っていたのでそこまで眠くはなかったが、このままでは昼夜が逆転した生活になってしまうかもしれないと、アリスと一緒に寝ることにした。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


 朝になり、扉をノックする音で目が覚めた。


 体を起こして周囲を確認する。


 横ではアリスが寝息を立てていた。


 扉へと向かい、鍵を開けて扉を開く。


 そこには昨日料理を運んできた女性従業員が居た。


「お部屋の準備が整いましたので、準備出来次第奥の呼び出しにて連絡を頂きますようよろしくお願いしたします。」


「あぁ分かった。それと洗濯を頼みたいんだが?」


「はい。私がお預かりいたします。」


「少し待っててくれ。」


 部屋の中へと戻り、昨日着ていた服を持って、それを渡す。


「いつまでにできる?」


「通常であれば本日の夕刻には出来ますがお急ぎでしょうか?」


「いや。それで構わない。ではよろしく頼む。」


「承りました。では夕刻になりましたら部屋へとお持ちいたします。」


「あ~。夕刻に居ないかもしれないがその場合はどうしたらいい?」


「でしたら夕刻以降に、部屋の奥にある呼び出しにて来た者に言っていただければお運びいたします。」


「わかった。それでは準備が出来たらまた呼ぶよ。」


「お待ちしております。」


 部屋へと戻り窓から外を見る。


(雨か…。)


 外は雨が降っており、外に出るのが億劫な状態だった。


 とりあえず、アリスが起きるまで暇だったので筋トレでもすることにした。


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