70話 会場・仮眠
会場である建物に入ると、最初に広めのホールがあり、右手に受付のようなものがあった。
そちらでは冒険者が数人いることから、武闘祭の受付と考えられる。
まずは内部を確認するべく色々と見て回った。
中を見て回って分かったが、屋根の無い球場のような感じになっている。
一部立ち入ることが出来なかったが、そこ以外は一般開放されているようで、武闘祭の参加者用の控室なども見学することが出来た。
競技スペースは、すべて地均しが綺麗にされており、踏み込んでみるとかなりの踏み固めがされていた。
(これはコンクリートと一緒だな…、下手な受け身すると痛い目に合いそうだ。)
座り込んで手で触ってみるが、ざらざらと少し砂があるくらいで刃もあまり通りそうにない。
中央から周囲の風景をぐるっと一周見てみる。
城の方角には恐らくVIP席…立ち入ることが出来なかったエリアがあった。
そのVIP席付近には警備隊の人間だろう。
立ち入り禁止エリアを巡回しているようだった。
そのVIP席を挟むようにして選手用の入口が二つあり、反対の北側に大きな門がある。
北側の門に関しては控室…というよりも檻のような形になっていたことから、罪人もしくは野獣の類でも入れておくためのものだろう。
地面から客席までは軽く20メルはあるため、簡単には上ることが出来ないだろう。
一通り見終わったので競技会場を後にする。
「アリス。歩けるか?」
「…歩ける。」
表情は大丈夫そうだが、膝が微かに笑っているように見える。
(自分の限界があまり分かってないのか?)
とりあえず大丈夫というのでどこまでいけるか観察してみることにした。
「次は南門の方に行ってみるぞ。」
「わかった。」
そのまま北南へと通っている道まで出てから南へと向かう。
昼過ぎということもあるが、真っ白な建物が多いせいか異様に暑く感じる。
中央の三叉路からしばらく行くと、西側…南門に向って右側に大きな建物が複数あり、看板を見てみると警備隊舎と書かれている。
中に入ってみようとそちらへと進むと門があり、道の横に立っていた警備隊員らしき男に呼び止められる。
「ここは警備隊員と一部の者以外は立ち入り禁止だ。用がなければ元来た道を戻るがいい。」
無理して中を見る必要性も感じなければ、見ようと思えば見れるか…と思い直す。
「どんなところに居るのかと思って見に来ただけだ。お勤めご苦労さん。それじゃ。」
あまり長いすると怪しまれかねないので、適当に挨拶をして元来た道を戻る。
南門までの間には東側へ延びる道があり、北側と同じように住宅街となっていた。
南門に居る門衛に門の閉まる時刻を一応確認しておくと、日が沈むまでとの答えが返ってきた。
日が沈んでしまえば、並んでいようがそこで打ち切りらしく野宿するしかないとのこと。
「さて。後は王城と教会くらいだが、王城は無理だろうし教会に行ってみるか。」
「…わかった。」
アリスをよく見ると顔には汗が薄らと出てきており疲労しているのが分かる。
「アリス疲れたら言うんだぞ。自分の意思を伝えることは大事なことだからな。」
「疲れるの基準が分からない。」
「あ~。(そういえばどこまでをきついっていうんだ?)」
よく考えてみたら、人によって違いがあるとはいえ、どこまでと聞かれると答えに窮してしまう。
「まぁ…あれだ。後少しで動く体力が無くなると思ったら言えばいいさ。」
「たぶん教会に着くころに体力が無くなる。」
「体力無いな…魔法もそうだが体力も鍛えた方がよさそうだ。教会まで行けそうならそこまで歩きだ。」
「分かった。」
アリスを確認しつつ教会へと向かう。
教会に着くころにはアリスは荒い息を吐いていた。
「よく頑張ったな。」
そういってクロスはアリスを片腕に乗せて教会の中へと入っていく。
内部は、シュトラウスの町に在った教会を大きくしたような造りになっていた。
ただ、部屋の数が結構多いように見える。
それと、恐らく中のどこかから行けるとは思うが、教会の上部の方にこちらを見るためのテラスのような物が隠してはあるのだろう…あることがわかる。
(普通はあんな高いところに在ったら気付かないぞ…。それともそういう目的で造ってあるのか?)
アリスを休ませるべく長椅子に座り、さりげなく周囲を観察する。
ここもだが、ある一定の場所に警備隊の人間が常駐または巡回している。
王都の全体を巡るようにするならまだしも、一定の場所にいるということはそれなりに重要な物、または重要なことがあるのだろう。
競技会場と合わせて大体の構造を記憶に留める。
アリスの方を見ると息を整え終えたようで、元の表情に戻っている。
「アリスそろそろ宿に戻るぞ。」
アリスは頷くと…、
「疲れた。」
「…今休憩しなかったか?」
「たぶんすぐに動けなくなる。」
確かに動けなくなる前に言えとはいったが、このくらいの年ではあの休憩では不十分なんだろうと思い直す。
「はぁ…。こっちにこい。これは本格的に鍛える必要がありそうだ。」
アリスが最後の言葉を聞いてビクリと身をすくませる。
「安心しろ。基本的には運動して飯食って寝るのが役割だと思えばいい。では行くぞ。」
再度アリスを抱え上げて片腕に乗せて教会を出る。
しばらく歩くとアリスの頭が肩に当たったのでそちらを見てみると、安心したのか疲れたせいかアリスは抱かれたままクロスの肩に頭をのせて寝てしまっていた。
そのまま周囲に注意しつつ宿へと戻る。
辺りは夕刻ということもあり、冒険者の数が目立ってきた。
依頼から帰ってきたのだろう。
そのような中アリスを抱えていたクロスは目立ったので急ぎ足で宿へと帰る。
宿の受付で鍵を受け取り階段を昇る。
階段から部屋までの…この微妙な遠さは、従業員の嫌がらせではないかと少し疑ってしまう。
というのも未だに宿泊客を見かけたのは数人であり、通る部屋からは人の気配がしていないように感じるからだ。
今更恨み言を言っても仕方ないと思い、部屋の鍵を開けてアリスの外套を脱がしてからベッドへと寝かせた。
(とりあえず一通りは見て回った…。王城に用はないが、恐らく教会と競技会場には城から繋がっているように思える。まぁ勘でしかないが…。さて、明日からは依頼でも受けるかな。)
依頼について考えながらアリスの寝ている横に寝転がる。
そしていつの間にか寝てしまっていた。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
目が覚めると窓からは星明りが入ってきており、部屋のそこだけが明るかった。
しばらくじっとしていると、目が慣れてきたのか周囲が見え始める。
横を見るとアリスは未だに寝ている。
余程疲れたのだろう。
しかし、いつまでもそのままではいけないので一旦起こして風呂に入らせることにする。
「アリス。起きろアリス。」
「………。」
アリスは静かに目を開けるとこちらを見つめてくる。
「とりあえず風呂で汗を流すぞ。」
「…分かった。」
アリスはゆっくりと体を起こす。
起こしていると筋肉痛の為か小さく呻いている。
「風呂で体をマッサージすることだ。」
「…マッサージって何?」
「体を揉むというか擦るというか痛みを和らげるというか…まぁそんな感じだ。」
「よくわからない。」
「(はぁ…)仕方ない風呂から上がったらマッサージしてやる。とりあえずは着替えだな。」
魔法で服を取り出してアリスに渡す。
今更だが、今まで一気に出てしまっていた服が、1セット分だけとイメージ通りに出せるようになったことに少し感激する。
その後にも必要そうな物を出していきその都度説明しながらアリスに渡す。
「体を洗ったらそれに着替えるんだ。脱いだ服は持って来い。それではいくぞ。」
クロスとアリスは浴場へと向かった。




