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68話 ギルド・講義

 ギルドに入り、中を一通り見まわす。


 王都だけあって、シュトラウスの町よりも一段と広い建物だった。


 朝ということもあり受付カウンターに人はいたが、報告カウンターの方には人はいない。


 報告カウンターへと歩み寄り取り出してあった手紙を手渡す。


「こちらのギルドへ、ゼーロー村のギルドから宅配だ。」


「お疲れ様でした。…しばらくお待ちください。」


 ギルド職員は奥の階段から二階へと上がっていく。


 その間にギルドの中を再度見渡した。


 この時間帯は受付ラッシュのようで、依頼板の前に人が群がっている。


 依頼板はシュトラウスの町と違い、ランクごとに依頼が分かれているようだ。


 入口から左側の壁が1~5、右側の壁が6~10のようだ。


 ただ、明らかに右側の壁の依頼板には依頼数が少なく全体で10枚程度だった。


 その内容もほとんどがランク6以上の魔獣の捕獲のように見える。


 カウンターの受付もそれに合わせたかのように受付と報告が二つに分かれて、真ん中に仕切りがあることを考えると依頼によって分かれているのはすぐにわかる。


 次に人を見ていると、中ランク(4~7)の依頼の張ってある方にも数人いるが、明らかに実力がなさそうな人もいるところを見ると、参考までに見ているようだ。


 もしかしたらパーティを組んでいくための事前調査をしているのかもしれない。


 戦闘能力がなくとも、情報の収集といったサポート的な人員と思えなくもない。


 入口から左側の依頼板には逆にチラホラと高ランク(8~10)と思わしき人も居る。


 もしかしたら武闘祭の運動がてら依頼を物色しているのかもしれない。


 但し、そういった人たちは少し離れたところから依頼板を見ているだけで、依頼書を取ろうとはしていなかった。


 もしかしたら低ランク(1~3)の冒険者が離れてから選ぶつもりかもしれない。


 そんなことを考えているとギルド職員は戻ってきた。


「確かに手紙は受け取りました。ではカードに記録しますので提示をお願いします。」


 カードを水晶板に置いて処理をしてもらう。


「はい。完了しました。またよろしくお願いします。」


「聞きたいことがある。空いてそうな宿屋を知りたいんだが。どこかないか?」


 ギルド職員は考え込み、困ったように返答した。


「すいませんが、この時期ですと宿の空きが少ないと思われます。ただ、一般的な人は普通の宿に泊まるので、王宮に近い宿屋であれば、値段はかなり高いですが空きはあると思います。」


「そうか。ありがとう。」


「どういたしまして。」


 クロスはギルドを後にする。


「アリス。まずは宿を確保するぞ。活動拠点が無いと動くのに不便だからな。」


「わかった。」


 アリスを引き連れて城へと向かいさらに歩み始める。


 城に近づくにつれて周りの建物が木で出来たものから石造りの立派な物に変わっていく。


 それに伴い人の数もだいぶ少なくなってきた。


(ここから富裕層の住宅のようだな。宿屋はこの辺にあるはずだが…、あれか?)


 そこには石造りの三階建ての建物があり、恐らくだが看板に宿屋の名前も書いてある。


 宿屋というよりもホテルのようだが…。


「恐らくここがギルド職員の言っていた宿だと思うが…、まぁいい、中に入って確認してみるか。」


 中に入るとラウンジがあり、正面にカウンターが見える。


 左右にはソファーと脚の低いテーブルがいくつも設置してあった。


「ここであってるようだな。」


 カウンターまで行き受付を行う。


「とりあえず5日ほど泊まりたいのだが空いてるか?」


「はい。空きはございますが、一部屋でよろしかったでしょうか?」


「あぁ。もう一人後ろにもいるが一部屋でいい。ただ飯だけは二人分にしてくれ。」


「かしこまりました。食事回数はどうされますか?」


「朝と昼だけでいい。」


「では二回でございますね。1日1万8千リラ。5日で9万リラになりますがよろしいでしょうか?」


「あぁ。カードで支払う。」


「ではこちらに提示をお願いします。」


 カードを水晶板に置く。


「…はい。確かに…部屋は二階の一番奥の250号室となっております。鍵はこちらです。当宿の説明は要りますでしょうか?」


 受付から部屋の鍵を受け取る。


「食事の時間と門限。後は注意事項を教えてくれ。」


 食事の時間を聞いておかないと、時間が過ぎているので食べれませんでは悲しすぎる。


 また門限を過ぎているので立ち入ることは出来ません、などと言われた日には宿を取った意味が全くなくなってしまう。


 昨日の夜のように、王都を出て外で野宿なんてことにはなりたくないものだが…。


「食事の時間は特にございませんし、同じように門限もございません。但し、時間によって食事の内容が異なってきますのでお気を付けください。宿泊するかたはいつ帰ってきても構いませんが、あまりに汚れがひどい方などは別室にて先に体を洗っていただくことになります。風呂については各フロアに男性用と女性用がありますのでそちらをご利用ください。部屋の掃除や衣服の洗濯など必要な場合は部屋に設置してある紐を引いていただければ伺うようになっております。後「まだ続くか?」…失礼しました。詳細については各部屋にある冊子にて説明されていますので、ご覧くださいますようよろしくお願いいたします。」


 さすがに長々と説明されそうだったので、途中で遮り部屋へと向かうことにする。


 話が終わると、カウンターから一人女性が出てきて部屋まで案内をしてくれた。


 階段を上がると中央が風呂場になっているようで、扉の上には「男」・「女」と書かれている。


 部屋は言われた通り階段を上がって左手の一番奥の部屋で、この部屋から中央まで50メル程あるのではなかろうか。


「お部屋はこちらになります。外出の際には施錠をよろしくお願いいたします。また、何かありましたら奥にあります紐をお引きください。それでは失礼いたします。」


 案内が終わるとさっさと女性は立ち去ってしまった。


 訝しみながらも部屋の中へと入り、鍵を掛ける。


 外套を脱ぎ机の上に放り投げて、靴を脱ぎベッドの上にダイブする。


「まだ朝だというのに疲れたな…。アリスもそんなとこに立ってないでくつろぐといい。」


 アリスは扉付近から動かずに突っ立っていた。


「後はどうするの?」


「そうだな。とりあえずあんまり動く気はしないから魔法についての講義でもするか。」


「わかった。」


 返事は無愛想だが、明らかにうれしそうな表情をしている。


 アリスに対してクロスが子供の頃に受けた内容を説明していく。


 言葉では分かりにくいものに関しては部屋に会った紙に絵を書いて説明した。


「大体こんなところだな。後は魔法を何回も使って属性ランクを上げることだ。まぁ一回で覚えろとは言わないが早めに覚えておけ。」


「この知識は、どれくらい戦う時に使ったの?」


「……ほとんどないな。相手が魔法を使う前に倒してしまったような気がする。」


「…そう。」


 アリスは何やら考え込んでしまったが、普通は時を止めるなどの行為もできないし、真っ向から勝負になってしまえばなかなか詠唱に集中出来ないので行動しつつも詠唱する練習が必要である。


 窓から外を窺うと多くの人が溢れ出していた。


 入った時も多いと思ったが、あれがピークではなくさらに増えている。


 この先には宿と城しかないと思っていたが、それ以外にも城のある山の登り口近くに協会があるのが見える。


 どうやらここに溢れている人は教会へと礼拝し戻ってきているようだ。


(ここの協会は結構立派だな。)


 協会は村や町に在ったものよりもはるかに大きく、建物の後ろの部分が山と一体化していた。


「アリス。悩むのはとりあえず終わりにして昼食を食べに行くぞ。」


 紙を見ながら難しい顔をして考え事をしていたアリスを引き連れて部屋を出て鍵をかける。


 一階のカウンターに鍵を預けて昼食を食べるべく、また通りを今度は門の方へと歩いて行った。


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