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67話 王都・警備員

 クロスが目覚めると、外は薄らと明るくなっていた。


 何やら体が温かいと思い毛布を捲ってそちらを見てみると、そこにはアリスが丸まって寄り添っていた。


 起こさないように毛布をそのまま掛けてやり外へと出る。


 上を見上げると雲一つない空が広がっている。


 外套を仕舞うべく取り外すとほんのりと湿っていた。


(昨日雨でも降ったかな?)


 周囲の地面を見渡してみるが水たまりのようなものはない。


 気を取り直して中に入るとアリスが起きてこちらを見ていた。


「起きたか。飯でも食うか?」


「食べる。」


 薪、ランタン、食料を魔法にて出す。


 火を起こしてからナイフの先に肉を刺して炙っていく。


 次第に香ばしい匂いが漂ってきたところで、肉を巻いていた油紙に乗せて切り分けてアリスとわける。


 パンと飲み物を切り分けて朝食にする。


「今日の予定だが、まずはギルドに行く。それから宿探しだ。宿が見つかったら、目ぼしい依頼を受けて路銀稼ぎをしつつ、アリスに魔法を教えていく。ざっというとこんなかんじだな。」


 アリスは首を横に振る。


「何か不満なことがあるのか?」


「昨日聞きたかったことはそんなことじゃない。」


「じゃあなんだ?」


「なんで私を連れてどうするのかを聞きたかった。」


 どうやらアリスは、メイたちとなぜ自分が別々になったかわからないようだ。


「昨日カードを見て気づいたんだがな、あの二人…メイとナタリアとの従者契約が切れていた。普通は神父または両者の合意での解除だが、他にもあってな。…それは相手の死だ。恐らくこの肉体になった時に、一度死んだと世界に認識されてしまったんだろうな…。つまりあの二人はもう従者ではない。その二人に自分で首を突っ込んだ件を押し付ける気にもならなくてな。お前は俺が育てることにしたわけだ。放っておくとまた盗人に戻りそうだしな。わかったか?」


「たぶんわかった。」


「まぁ分からなくてもいいさ。ただ俺がお前を鍛えるってことだけ分かればいい。」


 アリスは頷く。


 食事を食べ終えたころには辺りはだいぶ明るくなってきていた。


 魔法で出したものを収納する。


「その魔法はいつになったらできる?」


「前にも言ったがアリスには無理だ。人にはそれぞれ属性というものがある。その属性以外の魔法を使うことはできない。」


「私が使える魔法は何?」


「昨日の話を聞いてたか?土属性と木属性だ。アリスのカードを見てみろ。」


 アリスはカードを確認する。


「カードの上から名前、ギルドランク、魔法力、筋力、魔力、速度、状態だ。一番下の金銭は気にしなくていい。魔法力は生まれた時から変わることはない。筋力と速度は体を鍛えれば上がるし、魔力は使っていれば下がっていく。魔力は一度に使う必要分の魔力の事だから下がった方がいいのは当然だな。あと大事なこととして他人にカード内容を安易に見せるな。そして渡すな。カードは任意で内容を消すことが出来るから、通常は名前と状態欄くらいを表示させておけばいい。カードを持って念じるだけでいけるはずだ。やってみろ。」


 カードを持ってアリスは目をつぶり念じているようだ。


 次にアリスが目を開けた時には表示が変わっていたことに少し驚いた表情をしている。


「出来たな。ただこれには抜け道があってな。カードを持ち主の胸に当てて他の者が念じた場合でも表示することが出来るから注意することだ。それとこれを渡しておこう。」


 アリスに1万リラの入った袋を手渡す。


「もし俺と離れてしまった場合はそれで凌いでおけ。まぁ大体念のためだから気にするな。」


 話し終わったころには、キャンプをしていた集団はテントを片付け終わり門横の通行門前に並んでいた。


「他は既に並び始めてるしこちらも片付けるぞ。これが無属性の魔法だ。属性魔法については、自分の属性だけではなく他の属性についても色々と覚えておけよ。」


 アリスに教えながら魔法を詠唱する。


「無よ。我が前の魔法を消し去りたまえ。『ラディーレン』」


 魔法詠唱により、そこには最初から何もなかったように、綺麗に跡形もなく消えてしまった。


「この魔法も、相手の実力が上の場合は、消せなかったり消える範囲が少なかったりするから消されないように魔力を鍛えることだ。」


 アリスは食い入るように魔法の後を見つめていた。


「さて…。あのデカい門は一体何のためにあるんだろうな…。しかもあの列に並ぶなんてさらに面倒だ…。」


 列にはすでにざっと見で百人近くが並んでおり、一人一人がすぐに終わるとはいえ、入れる頃には一刻ほど経ちそうである。


 方針を決めてから外套で顔を隠す。


「仕方ない。さっさと入るか。アリスこっちへ。」


 アリスもクロスのすることに慣れたようで、クロスに抱っこされる。


「では行くか。『ツァイト』」


 時を止めて通行門を潜り王都へと入る。


 建物の陰に入り時を戻した。


「王都に入れたのはいいがギルドはどこだろうな。」


 アリスを下してひとりごちる。


「人に確認もしくは自分で探索。」


「そうだな。その辺の人に聞いてみるか。」


 王都というだけあって、早朝だというのにかなりの賑わいを見せている。


 通ってきた門から城までに続く通りは石できちんと舗装されており、その両端には建物がずらっと並んでいる。


 城は山の上に在り、城に行くには螺旋状にある道を通らないと進め無いようになっているようだった。


(ロッククライミングが出来そうな山だな。)


 通りの真ん中で城を眺めていたせいだろう。


 アリスから小突かれるまで気付かなかった。


「ギルド。」


「そうだったな。とはいえ誰に聞くべきか…。そこの店でいいか。」


 クロスたちのすぐ横にある店では、開店の準備をしているようで慌ただしく店員が数人動いていた。


「少しいいか?」


「何?まだ開店してないよ。」


 外套で口元しか見えないようにしているせいだろう。


 明らかに店員はこちらを警戒したような話し方だった。


「客ではない。ギルドの場所が知りたいだけだ。」


「ギルドならこの通りの真ん中付近にあるよ。それじゃね。」


 店員はこちらが礼を言う前に店の奥へと入って行ってしまった。


「通りの中央付近か…。その道がてら店でも物色していくぞ。」


「わかった。」


 通りの中央から左右にある店を眺めつつ城の方へ向かって歩いていく。


 王都というだけあって、いろいろな店が乱立している。


 今までになかった宝石店や高級そうな服飾店など、明らかに裕福層の為の店もあるため、他の町や村との経済力の差を思い知る。


 通りの半ばごろまで進もうとした頃にアリスが誰かにぶつかり尻餅をついた。


「『ツァイト』」


 ぶつかった相手の手からアリスの袋を取り返して、アリスの代わりと言わんばかりに、地面へと転がして足で踏みつけ、相手の動きを止めてから時を戻す。


「アリス。まさかお前が盗られるとはな…。(くっくっく)なかなか面白い。」


 アリスは目を丸くして自分の腰に手を当てて下げていた袋を探すが、無いことが分かると顔を下に向けてしまった。


「気をつけろよ。」


 アリスがこちらを向くのと同時に、アリスへと袋を投げつけながら注意する。


 新しい町に来て油断があったとはいえ、元盗賊見習いがスリに会うなどなかなかあることではない。


 アリスは袋を受け取ると、今度は首にかけた紐に通して胸の中に仕舞ってしまった。


「さて。後はこいつをどうするかだが。」


 未だに逃れようとじたばたしているスリを踏みつけながら考える。


 その時、通りがかりだろう。


 警備隊らしき人が声を掛けてきた。


「おい!この通りでいったい何をしている!?」


「スリの犯人を捕まえてどうしようかと考えていたところだ。」


「…スリだと?まぁいい、まずは顔を見せろ!それからお前たち二人は来てもらうぞ。」


(面倒なことになったな。)


 とりあえずこの警備員の中では、アリスは勘定に入っていないようだ。


 しかし、連れて行かれたら予定が狂う上に、最悪宿がとれないかもしれないことを考えられる。


「こっちは先にギルドに行きたいんだがな。」


「そんなことは関係ない!とりあえずついてくるんだ!」


 そういうと男はこちらへと歩んでくる。


 クロスは未だにじたばたしているスリから足を退かすと、スリはこれは好機と一目散に駆け出した。


「あっ!こら待て!お前たちはここで待っていろ!」


 男はスリを追いかけて走って行ってしまった。


(あれが警備隊か?かなりの人員不足のように思えるが…。)


 裾を引っ張られたのでそちらを見ると、アリスがある方向を指差しているのが分かる。


「あぁ。あそこがギルドだな。とりあえず行くか。」


 アリスは頷くと今度はクロスの外套の裾を引っ張ってついてきた。


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