66話 旅立ち・野宿?
ギルドへと戻ると中は静寂に包まれている。
夜になったためか、代わりのギルド職員ばかりになっており、知り合いは居ない。
幾人か冒険者も見かけるが、テーブルに座り話し合っているところを見ると依頼から帰ってきたところのようだ。
受付に行きカードから500万リラを引き出す。
クロス
ランク 2
魔法力 -/-
筋力 75
魔力 無2/時1
速度 80
状態 【時の管理者】【時属性の極み】普通
金銭 1,030,000リラ
1万リラ硬貨500枚かと危ぶんだが、百万リラ硬貨5枚だった。
(ちゃんと100万リラ硬貨置いてるんだな…。ゼーロー村には置いてなかったが…。)
変なことに感心しつつギルドマスターへの面会を求める。
「クロスが来たと伝えてくれれば分かるはずだ。」
「かしこまりました。しばらくお待ちください。」
そして職員は奥の部屋へと伺い、すぐに戻ってきた。
「来るようにとのことです。」
「アリスはここで待て。すぐに終わる。」
アリスをカウンター付近に待たせてギルドマスターの部屋へと入る。
「用件だけを言わせてもらう。一応掃除はしたがまだ居る。後はこの町で何とかしてくれ。」
「…お前は…本当にクロスか…?」
顔は童顔だったものが大人びて青年になっており、身長は明らかに大きくなっているので見間違いと思うのも仕方ないだろう。
「ああ。間違いない。メイとナタリアについては一応これからのことについて紙にも書いたが、二人はゼーロー村に送ってほしい。」
机に500万リラを出す。
「ここから手数料を差し引いて二人に渡してくれ。」
「…お前はこれからどうするんだ?」
「最初に受けた依頼もあるし、まずはそこからだな。」
話は終わったとばかりにクロスは扉へ向かい歩み始める。
「まて!まだこちらには用事がある!」
ギルドマスターが出て行こうとするクロスを引き止めるために声を掛けてくる。
「こちらにはこれ以上言いたいこともない。二人には紙に書いたことを守れとだけ言ってくれ。それじゃ。」
クロスは顔だけ振り返りギルドマスターにそう言伝を残すと部屋を出た。
アリスは言われた場所から全く動いておらず、こちらが戻ってくるのを待っていたようだ。
「アリス。いくぞ。」
「はい。」
アリスを引き連れて宿屋へと行く。
宿屋の自分の部屋へと行き、自分の荷物を持ってアリスに確認した。
「アリスは部屋に自分の荷物はあるか?」
「ない。店に行く途中で攫われた。」
「そうか。」
魔法で荷物を収納し宿屋の受付にいる男に話しかける。
「ここの二階に宿をとっていたクロスだ。もし部屋の荷物を誰も取りに来なければ、ギルドマスター宛に運んでくれ。」
「あぁ。任せとけ。」
受付にチップを渡して外へ出る。
「今から王都へ向かう。」
「わかった。」
アリスを連れて西へと向かう。
既に夜ということもあり、外に出ている人は見かけなかった。
そのまま西門へから外へと出る。
門衛は出る際に怪しんではいたが、カードの状態欄を見せて通過する。
「とりあえず王都に今日のうちに入る。アリスは王都に行ったことはあるか?」
「私はシュトラウスの町から出たことはない。」
「そうか。アリスこっちにこい。」
アリスを抱き上げて軽く走り始めた。
「すぐに着く。アリスはしばらく大人しくしていろ。『ツァイト』…無よ。我が肉体を鍛えたまえ。『マハト』」
『マハト』:自分の動きがかなり早くなる【無属性4】
無属性にて自分の速度を上げてベルナウ平原を駆け抜ける。
街道には人はいなかったが、かわりに低ランクの獣が少しうろついていた。
全力で二刻ほど走った頃に大きくかなり長い城壁が見えてくる。
そこで魔法を解いて歩くことにした。
走って近づけば門衛に余計な警戒をされかねない。
「わかった。」
一瞬アリスが何が分かったのか確認しようとしたが、時を止める前を思い出して納得する。
アリスをその場に下す。
「もう着く。ここからは歩きだ。」
アリスは頷くとクロスの後へとついてくる。
城門付近に着くと、門の前ではキャンプのようにテントがいくつも張られていた。
(これはもしや…)
近くで焚火をしている男に尋ねてみた。
「少しいいか?」
「ん?なんだ?」
近づいてみると男は食事をしているようで、焚火の近くには肉が炙られていた。
「なぜ門の中に入らない?通常夜でも入れるはずだが?」
「はぁ?お前本気で聞いてるのか?」
「ああ。予想はつくが一応な。」
「まぁ誰でも知ってるからいいが…、武闘祭のひと月前は夜間の入門は禁止されてるのさ。王都に店を構えてるやつらでもダメなくらいだから、俺らみたいな他の町の商人なんかは全く相手にもされないわけよ。入れるとしたら家名持ちくらいじゃないか?」
「やはりそうか。」
返答が予想通りとはいえ、王都にて宿を取ろうと思っていたクロスにとっては喜ばしいことではない。
「明日の朝はいつごろあくか分かるか?」
「日の出とともに開くよ。まぁそれまでの辛抱だな。」
「わかった。時間を取らせてすまなかったな。」
「いいってことよ。まぁ寄る機会があったら、この王都から南にあるライヒの町のデッサウ商店をよろしくな。俺はそこで働いてるマルクというもんだ。」
「あぁ。機会があれば寄らせてもらおう。」
クロスはテントの密集している個所から少し離れた空き地に行く。
「さて。王都へは入れないので野宿をしなければならんが、そんな準備はしてない。しかしそれらしき物を作ることはできる。早速だが魔法を使ってもらうぞアリス。」
「わかった。」
「確か土と木の合成魔法に檻を作るものがあったはずだ。それをイメージしてみろ。」
アリスは言われた通りイメージしてみたのだろう。
少し驚いた顔をしてこちらを見ている。
「今、頭の中に言葉が浮かんだはずだ。それが詠唱文になる。ただし、その前に属性への呼びかけと、イメージを言葉に出して言わなければならない。一度俺が魔法で物を出し入れしたのを覚えているか?」
「覚えてる。」
「それと同じようにすればいい。イメージの言語化は自分の好きなように言って構わないが、属性への願いという形を取らないといけないことは覚えておけ。まぁ作るのは牢ではなく周りのテントのようなものでいい。…ではやってみろ。始めは土よ。木よ。からだ。」
アリスは頷き詠唱を始めた。
「土よ。木よ。周りにあるテントと同じものを作りたまえ。『ツヴィンガー』」
『ツヴィンガー』:対象者を閉じ込めるようにして檻を作る【土属性20、木属性20】
アリスとクロスを囲うように木が生えてきて骨組みが出来、土にて壁が出来てくる。
あっという間にアリスとクロスを囲うような小さな家が出来た。
「初めてにしては上出来だ。」
周りを全て覆い尽くされてしまったために、全く出入り口がない。
「無よ。我が目の前に穴を開けよ。『ラディーレン』」
無属性の魔法で一か所に穴を開ける。
そのあと合成魔法にて外套と毛布を何枚か出して、外套を屋根にあたる部分にかけて雨に備えておく。
毛布を持ってテントの中に戻り、毛布をアリスに渡して再度合成魔法により食料を出す。
「調理されてはいないがまだマシだろう。食べておけ。焼いただけだがな。」
肉と飲み物を渡して食事にする。
食事が終わったところで、クロスは眠ることにした。
「明日からはお前に魔法について教えていく。今日はもう寝るといい。」
「これからどうするの?」
「それについても明日話す。」
クロスは毛布で体を包み横になった。




