62話 洞窟・誘拐
洞窟内はほんのりと明るく、遠くまでは見えないが、近くは十分に視認できる明るさがあった。
壁を確認するとその光の正体である苔がびっしりと生えている。
通路を進み奥へと入っていくと、広い空間へと出た。
そこは石柱と言われてもいいようなものが所かしこにあった。
どこに敵が潜んでいるかわからないので周りに注意しつつ進んでいく。
ある程度進むと風切音が聞こえてきた。
「メイ。どうやら気付かれたみたいだよ。」
剣を抜き放ち音の来た方向に剣を立てるが、一瞬違うところに影が見えたのでそちらを向くと、衝撃はその向いた方向…音がきた方向とは違う場所から来た。
「ぐっ!」
衝撃の瞬間にそちらへ転がり逃がしたが、腕を薄く切られている。
もし防具がなければ結構な深手を負っていたかもしれない。
「!!」
今度はナタリアが攻撃を受けたようで壁にぶつかっているのが分かる。
(音による混乱か…。)
どうやら既に攻撃を受けていたようで、音に関する感覚が狂っているようだった。
「ナタリア大丈夫?」
ナタリアに声を掛けるが意識を失ってしまったようで返事がない。
(はぁ…。仕方ない。とりあえずナタリアを担いで行こう。)
「無よ。我が肉体を強化したまえ。『ケヴァルト』」
無属性魔法にて体を強化し、ナタリアを担いで奥へと進む。
進んでいると、広間の一角に霧のようなものが見える通路があった。
(あの霧はもしかして…。)
霧へと近づくと頭がくらくらとした。
どうやら霧に見えたのは錯乱キノコの胞子のようで、かなりの量が通路に溢れて広間にまで出てきていた。
(一応ナタリアも口を覆っているから吸い込むことはないな。)
ナタリアの状況を確認して通路へと入っていく。
通路に入ると、ウィングバットからの攻撃は止み、代わりにではあるが、胞子により視界が悪く1メル先も見通せないほどだった。
壁沿いに手を付きながら進むと、足元に錯乱キノコが生えているのが見える。
ナタリアをわきに置いて、無属性魔法を解除して、錯乱キノコをいくつか採取してから魔法にて収納する。
(これで目的は達成したけど…、帰りもまたナタリアを担いで行かないといけないのか…。)
ナタリアの頬を何度か叩いて確認してみるが、起きる気配はなかった。
仕方ないので再度肉体に魔法で強化を行う。
ナタリアを背中に背負い直し、片手に剣を持って元来た道を戻った。
途中で何度か攻撃を受けたが、剣で受け流しながら入口へ向けて走る。
入口まで出たところで、洞窟内から羽ばたくような音がかなりの数聞こえてきた。
入口にナタリアを置いて、時の魔法を掛ける。
「『アインスゼグンデ』」
『アインスゼグンデ』:世界の時の流れを四分の一にする【時属性10】
そこからは、入口に向かって飛んでくるウィングバットを切りまくる。
二十匹くらいだろうか?討伐できたくらいで飛んでくる気配はなくなった。
まだ翼を切られただけで生きているのにとどめを刺していく。
(急所に一撃できないなんてまだまだだな。)
魔法を解除して討伐したウィングバットを時空間へ収納する。
空を見ると既に昼を過ぎていた。
クロスはナタリアを確認すると、ナタリアが真白くなっているのが分かる。
慌ててナタリアに向き直り顔を確認したが、ただ胞子がたくさんついているだけで特に異常は見られなかった。
洞窟から離れて、周りを岩に囲まれた窪みに入りこみ、ナタリアのマスクを取らないように衣服を脱がせて胞子を取り除く。
取り除き終えてからクロスも自分についた胞子を取り除いた。
とりあえずマントを魔法にて取り出し、ナタリアに被せて起きるのを待つ傍ら、昼飯を食べる。
クロス
ランク 2
魔法力 30519/72000
筋力 30
魔力 無5/時4
速度 32
状態 普通
金銭 6,030,000リラ
そんなに長い時間使った覚えはなかったが、無属性と時属性を同時に使用していたので、意外と多くの魔法力を使ってしまっていたようだ。
そんなことを確認していると、ナタリアが目覚めた。
「うーん。」
ナタリアは頭を振り意識を覚醒させると周囲の確認をしだした。
「大丈夫だよ。入口から出てくる奴については既に討伐したから。」
「そう…。」
ナタリアは自分の体を確認する。
「なぜ下着なのかしら?」
「胞子が付いてたから除去するのに脱がしたんだ。そこに置いてあるからきちんとはたいてから着用してね。」
「まぁそんなことだろうとは思ったけどね。」
「はい。これ。お腹すいたでしょ。食べなよ。」
「えぇ、いただくわ。」
ナタリアの昼食が済んだのを見計らい、確認する。
「遅くなったけど体の方は大丈夫?」
「えぇ大丈夫よ。何かにぶつかってそのままの勢いで壁に頭をぶつけたせいで気を失ったみたいね。」
「では着替えて。町に戻ろう。」
ナタリアが着替えるのを待ち、町へと戻る。
「それはそうと、胞子が付いていたってことは錯乱キノコは採れたの?」
「採れたよ。ほらこれ。」
先ほど食料を出した後に出したものだ。
依頼内容の二本のみを袋に入れた状態である。
「よく私が居たのに採ってこれたわね。」
「まぁなんとかね。」
その後ナタリアと雑談を続けつつ歩き続ける。
町の入口に到着したので、門衛にカードを見せて通過する。
ギルドに到着するころにはすでに夕刻になっていた。
「やっぱり予定通りとは言え遅くなったね。」
「えぇ。まぁ原因である私が頷いていいものか微妙ではあるけど…。」
ギルド内に入り依頼板から錯乱キノコの依頼書を剥がして受付へと持っていく。
「これをお願いします。」
昨日と同じように受付を行っているサーシャに依頼書を手渡した。
「あのねぇ。昨日言ったことを聞いてなかったの?危険って納得したから依頼書を戻したんでしょ!」
「先ほど行って採ってきたので後は報告するだけなんですよ。」
サーシャに錯乱キノコを見せる。
「よく見たらあなたたち髪とかについてるその白いのってもしかして…。」
「あれ?まだついてました?」
「すぐに除去してきなさいよ!」
「受付お願いします。二度手間好きじゃないんで。」
「あぁ!もう!カード出しなさいよ!」
サーシャはさっさと出て行ってもらうべく依頼の処理を行う。
「報告が終わったらすぐに洗うのよ!わかったわね!?」
「もちろんですよ。僕も好き好んでこんなことしたくありませんし。」
カードと依頼書をサーシャから受け取りマードックの方へと並ぶ。
ターニャのとこにはまたしても数人並んでいる。
(とても暇人なんだろうな…。)
マードックに依頼書二枚と滋養草・錯乱キノコを取り出して渡す。
錯乱キノコについてはまだ胞子が付いていたので袋からは出さない。
「この依頼を受けたということはあの洞窟に入ったのか…。物も間違いないようだし処理を行おう。」
マードックに処理してもらい、報酬は現金で受け取る。
「ありがとうございます。では失礼しますね。」
「あぁ。こちらこそよろしく頼むよ。」
クロスとナタリアはギルドを出て宿屋へと戻る。
「着替えたら夕食を食べよう。」
「そうね。なんだかんだいって今日も疲れたわ。また後で。」
「また。」
そして部屋に入ると一枚の紙が床に置いていた。
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二人は預かった返してほしくば北のエンバルテ山まで来い
但し一人で来なかった場合は二人の命は無い
期限は深夜までだ
来なければ次はもう一人の女を襲う
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紙を見た瞬間に昨日の夜の不審な男のことが甦り、さらに裏ギルドの言葉を思い出す。
(あの時生かしておいたのは失敗だったな…同じ町に居たりと楽観しすぎた。こちらに敵対する者には慈悲や情けはもう必要ない。裏ギルドに準ずる者は全てを滅しよう。)
その時扉を叩く音がしたのでそちらを向くとナタリアが立っていた。




