6話 立入禁止・魔法
ギルドにてギルドランクの話が出たので、この機会にいろいろと聞いてみた。
ギルドのランクは1~10まで有り、始めは1で依頼を達成することで上がっていく。
また獣にしてもランクが1~10まであり、1~5は魔法が使えない獣。6~10は魔法が使える魔獣と分けられているようだ。
ベアクローは魔法が使えない獣としては、最大のランク5となっており、大きさ・人への危害度などが高いとのことだった。
「今日は私が魔法を使ったけど、クロスは神父さまから教えてもらってからしか使ってはダメよ。魔法力なんて考えなく使っていたら、すぐに無くなってしまうから。特にクロスは魔法を使わなくても魔法力がなくなる時があるんだから体が冷えて眠たくなってきたら注意するのよ?」
「は~い。」
次の日には、村の入り口に立て札があり、南の森へのベアクロー出現に対する危険の周知がなされた。
元々30軒程度しかないため一日で村中に知れ渡る。
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それから数日経った夜に、ベアクローの親子が倒伐されたとの話を父親より聞いた。
ベアクローは今度はシュトラウスの町に運ばれたようで、シュトラウスのギルドからの連絡によりゼーロー村へ知らせが届いたそうだ。
「やっと南の森へ立ち入れるな。ただ問題なのが子供が一頭しか居なかったというのが気になる。もしかしたら子供が生きている可能性が否定できない。」
「森狩りしてもダメかしら?」
「子供の頃はランク1程度しかないし、かなり臆病だから姿を見つけるのは難しいだろうな。子供のサイズから大体二歳くらいというのが分かってる。ベアクローの小さいうちは餌なんかは獲れないはずだが…まあ依頼を出して様子見だろうな。」
父親は食事を取ると、そうそうに寝てしまった。
クロスも食事をとり、日課になっている魔法訓練を始めた。
魔法の訓練は両親には内緒なため、時を停めた中で行われる。
(寝たら回復するみたいだし、寝る前に練習しなくちゃ損だよな。それにしても…たまには暖かい風呂に入りたい…。)
この世界には風呂が無く、桶に水を張り髪を洗って身体を布で拭いている。
時を止めた中で無属性魔法を試みる。
初期の無属性魔法で、
『ラディーレン』:一定範囲の魔法を打ち消す【無属性20】
があり、時を止めることすら無効になるか試してみたが、時に関しては干渉できなかった。
(時魔法は普通の魔法とは別なのかな?…そろそろ眠くなってきたし、身体拭いて寝るか。)
魔法を戻し、身体を拭いてから布団に入る。
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朝に教会へ定例の教義を聞きに行くと、大人達が神父と話をしていた。
大人たちの横を通るときに挨拶をして、いつもの部屋へ入ると、アイリが近付いてくる。
「クロスおはよう。ねね!知ってる?」
「なにを?」
「今日から魔法について教えてくれるんだって!」
「そうなんだ。(やっとか…長かったな…。)」
「嬉しくないの?私は楽しみだな~。」
「僕も楽しみだよ。」
「一緒に頑張ろうね!」
他にも一緒に教義を受けていたメンバーも嬉しそうにしている。
一緒に教義を受けているメンバーはクロスを合わせて五人いる。
一番上から、アイリ、エド、リリー、クロス、リューイだ。
(エドはやる気満々みたいだ。リリーは…相変わらず眠そう。リューイは嬉しそうにしているけど、魔法のこと分かってるのかな?)
四人の瞳の色と性格はクロスの主観で行くと、
アイリの瞳は赤緑で性格は結構自己中心的。
エドの瞳は黒赤で何事にもやる気満々だが猪突猛進。
リリーの瞳はクロスの母親と一緒の青緑で、いつも何を考えているのか不明、さらに言うならばいつも眠そうにしている。
リューイの瞳は赤茶で、前までいた部屋の幼児がリューイで最後だった為、こちらの集まりに加わった。性格は流されやすく臆病。
(教わる内容で今までの魔法の改善点が聞けるといいな~。)
アイリと魔法について話していると神父が入ってきた。
「もう知っとるかもしれんが、今日より魔法について、教えることとなったのでちゃんと聞くようにの。」
魔法については大人がいるときに使うこと、と前置きされ講義が始まる。
・魔法を使うには魔法力が必要
・魔法力は個人によって総量が決まっている
・魔法は魔法力が無くなると使えず、身体が魔法力を蓄えようと眠気が襲ってくるし、魔法力を失うと体の熱量も失っていくが、死にはしない
・魔法力は熟睡すれば大体回復する
・魔法には属性があり、瞳の色が対応した属性である
・持続的な魔法を使うと、一時的な魔法を使うよりも魔法力が早く消費する
・魔法を何度も練習することで、対応した属性の消費量が減る
・瞳の色が両方共に同じ人はその属性の効果が上がる上に、必要魔力の減る量が他の人よりも早い
・瞳の色が片方ずつ違う人は、瞳の組み合わせにより合成魔法が使える(例として水と風で回復など)
・魔法の詠唱は起こしたい現象を頭に浮かべると、自身が対応した属性であれば、詠唱文が頭に浮かぶ(合成の場合も同様)
他にも細々としたものを含めて、これらのことを数日に一回の割合に分けて、何度も教えられる。
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「では今日も魔法について教えようかの。」
毎度のように神父が話し始めようとすると、エドが手を挙げて話を遮った。
「はい!はい!」
「なんじゃエド?」
「魔法の練習がしたい!」
いつもの直球発言をする。
「魔法を使うための基本を覚えないと危ないんじゃよ。」
「親にみてもらって少し使ったよ!」
(エドの親は観てくれたのか…こっちの親はなぜか魔法を使うことに対して消極的なんだよな~。)
「ふむ…。」
神父は何かを考えるように目を瞑る。
「仕方ないのぅ、教え始めて二年は経つしの…ここでは危ないから裏にいこうかの。」
「「「やったーーー。」」」
アイリ、エド、リューイは声を出し、万歳をしながら喜んでいる。
(かなり我慢してたんだな。それにしてもリリーは変わらないな。)
リリーは相変わらず眠そうにしている。
皆で教会の裏手に行った。
「今から使ってみるからその後一人ずつ試すんじゃぞ。」
「「「「「はーい。」」」」」
神父は子供たちから少し離れ詠唱を始める。
「木よ。近くに柵を作りたまえ『ゲヴェクス』」
『ゲヴェクス』:小範囲に木を出す【木属性15】
詠唱が完了すると、半径5メル程に木の柵が、一部教会の壁を含んで出来上がる。
「大事なのは結果をよく想像することじゃ。では生まれ順にやっていこうかの。まずはアイリからやってみなさい。」
「はい!」
アイリは、やる気満々なのがわかるくらいの元気のよい返事をする。
「今日は一人一回使ったら終わりじゃからな。では風でこの柵の中の葉っぱを集めて貰おうかの。」
「はい!いきます!」
アイリは深呼吸してから詠唱を始める。
「風よ!葉っぱを集めたまえ!『ルフト』!」
『ルフト』:風を吹かせる【風属性20】
風が吹いたが、アイリの周囲の2メル程の葉っぱを吹き散らしただけで終わった。
「なんで…?」
アイリは、泣きそうになりながら自分の周りを見ている。
「詳しく思い描けてなかったからじゃな。想像をしっかり行うことは重要じゃよ。練習することじゃ。」
「…はい。」
アイリは自分の結果に落ち込んでいるようだった。
(とりあえずフォローするか。)
「風が一気に吹いて凄かったよ!」
「…ほんと?」
「うん!」
とりあえず、アイリの魔法の結果を褒めて頭を撫でてやる。
そのやりとりだけでアイリの顔には笑顔が戻ってきた。
「次頑張ろう。」
「うん!」
クロスがアイリを慰めている間に、神父は周囲の葉っぱを集めていた。
「次はエドじゃな。」
「よし!どんとこい!」
「魔法を使う前に聞きたいんじゃが、エドはご両親とどの系統の魔法を使っておったんじゃ?」
「火だよ!」
エドは神父の言葉に自信満々に答える。
「では、火属性の階位を調べたことはあるかの?」
「かいい?ってなに?」
エドには神父の言葉が分からなかったようだ。
「そうじゃの~ギルドでいうランクのようなものじゃな。」
「親と練習してたら一個上がった!」
「ふむ。それならいけるかの。…この集めた葉っぱに火をつけるんじゃ。」
「任せて!」
「火よ!葉っぱを燃やせ!『フンケ』!」
『フンケ』:小さな火をつける【火属性15】
集まっていた葉っぱが30セム(センチ)程度の炎により、一瞬で燃え尽きる。
「やった!」
「少し強すぎるの~。焚き火が出来るくらいでよかったんじゃが。」
「想像通りだからいいの!」
「エドはもう少し周りへの影響を考えることじゃな。」
「は~い。」
エドは満足なのか笑顔で返事をする。
「ふぅ…。次はリリーじゃな。壁沿いの瓶に水張っておくれ。」
「はい。」
返事をするとリリーは瓶の方へ行き中身を確認してから詠唱を始める。
「…水よ。瓶の中に水を張りたまえ。『ブラーゼ』」
『ブラーゼ』:水を出す【水属性20】
クロスたちが瓶の中をのぞくと、水はリリーの詠唱の通りに瓶の中に張られていた。
「よくあふれ出させずにできたの。瓶の中身を確認して必要分を想像出来たところが特によい。使う前によく確認が必要じゃ、みんなも覚えておくんじゃぞ。」
「「「「は~い。」」」」
「次はクロスじゃ、そうじゃの~。…柵の一部を消して入り口を作っておくれ。」
「はい。」
「…無よ。一部の柵を消去したまえ。『ラディーレン』」
『ラディーレン』:一定範囲の魔法を打ち消す【無属性20】
クロスの見つめている先の柵に黒い球形の物が出来た。
その球形がなくなったあとには一部柵が球形に消えている。
クロスは不十分とばかりに眉間にシワを寄せる。
「無属性は想像がしにくいからの、まだ使えるだけよかろうて。無属性は階位が上がれば、身体強化なども使えるようになるから便利じゃぞ。」
「はい。」
(身体強化か…もう使えるんだけどな…。)
ベアクローと遭遇した際に、身体強化の魔法を唱えたが、全く発動してないことが後で分かった。
何度も使っていると途中から、体中に力が沸くような間隔に襲われ、力が少しだが確実に分かる範囲で上昇していたからだ。
とりあえず無属性魔法による、他の魔法への無効魔法は初めてだったため、出来たことに満足することにした。