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57話 着替え・カード

 教会の外へと出て、まずやるべきことは衣服を替える事だろう。


 現在のアリスは、外套を着ているからわかりにくいが、その下はとてもみすぼらしい。


「アリス。まずは着ているものを替えてから。その後に昼飯でも食べよう。」


「なぜこんなことをするの?」


 やっとアリスは口を利いてきた。


 それともずっと、質問した内容について考えていたのだろうか。


「数日前に僕から財布を盗ったのは覚えてるかい?」


 アリスは最初首を傾げていたが、クロスを観察して思い出したのか、頷いた。


「前回は君の単独での犯行…まあ、貧乏だと思って見逃したけど…今回で、あの男と君との関係が分かってしまったからね。あの男のとこで犯罪に手を染めさせるよりも、僕の元に居た方がまだ真っ当だと思っただけだよ。」


「………。」


 アリスはその後沈黙してしまった。


(言い方が悪かったかな?)


 そのまま手を引いて服屋に入る。


 服屋にてアリスに合う服を見繕ってもらい、それを数着試着するように言ったが、服を持ったまま動こうとしない。


 結局アリスは、服を選ぶことは全くせずに、店員に勧められたものを着もせずに選んでしまった。


 恐らく服…いや、着ることが出来れば何でもいいのだろう。


 カードで会計を済ませる。


 カードには万以下のリラは入れることが出来ないので、おつりは硬貨で受け取り、財布へと仕舞った。


 そして、買い物袋を提げたまま、裏通りへと進む。


 最初に行く予定であった店にたどり着いた。


 時間的に昼も十分過ぎていて、前回の二の舞になりそうな気がしてならない。


 クロスは、とりあえず店へと入った。


 店の中には、一人だけお客が食事中だった。


 今回は間に合ったようだ。


「昼の定食二つ頂戴。」


「もう注文は終わったんだが…。」


 どうやら、ラストオーダーは終わったようだ。


 皿洗いをしていた親父はこちらを振り向き、クロスの顔を見て、更にその後ろに居るアリスを見ると、溜め息をついた。


「材料はまだあるし、まあいいだろう。すわんな。」


 こちらを見てなぜ溜め息をついたのかは不明だが、今回は材料もあり、作ってくれるようだ。


「アリスはここに座って。」


 カウンター席にてクロスが自分の横の席を指すと、アリスは頷きそこへと座った。


「ここの料理は美味しいよ。料理する人は厳ついけどね。」


「美味しい?」


「そそ。楽しみに待ってて。」


「えらい言われようだな。それは誉めてるのか?」


 店の親父は複雑そうな顔をしながらも、料理をしている。


「そうに決まってるじゃない。料理人は料理が美味いと言われたら誉められてることにならないの?」


「いや。それはなるがな、その後に言った言葉がだな。」


 前回笑っているだけで、メイから助けてくれなかった腹いせを行う。


「料理人は顔じゃないよ。腕だよ。」


「それは、俺の顔が悪いって言ってないか?」


「顔よりも腕がいいといってるだけだよ?被害妄想はよくないと思うな。」


「それならいいが…。」


 もっと言ってくるかと思ったが、納得してしまったようだ。


 クロスは暫し呆然としてしまった。


 それからアリスに今後のことを簡単に伝える。


「この後はギルドに行ってカードを作成するよ。その後に宿屋だ。」


「私をどうする気?」


「それは君次第かなぁ。」


 アリスと話していると、料理が出来たようで、定食が二つ渡される。


「では頂きます。………。やっぱり美味しいねおじさんの料理は。」


「店を出してるからにはうまいもんださないとな。まずかったらすぐにつぶれちまう。」


「それもそうだね。アリス美味しい?」


「………。」


 アリスは食べることに夢中で、こちらの話が聞こえていないようだ。


「良い食いっぷりだな。」


 クロスが半分食べ終わった頃に、アリスはさらっと定食を食べ終わってしまっていた。


「食べるの早いね。」


「すぐ食べないと盗られる。」


「いや。ここには盗るような人居ないから。…それよりも美味しかった?」


「美味しいって何?」


 アリスのこの言葉で、店の親父とクロスは凍り付いてしまう。


「えーっと、この料理の味を美味しいっていうんだけど。」


「食べ物は食べれたらなんでも一緒でしょ?」


 どうやらアリスにとって食事というのは、最低限生きるために摂取しているだけで、味に関しては関係がないようだ。


 もしかしたら貧しい生活をしていた際に、味覚がおかしくなってしまったのかもしれない。


 店の親父は鍋に残ったタレを匙ですくい舐めている。


 アリスの言葉で不安になったのだろう。


(大丈夫だぞおっさん!あんたの味覚は間違っていない!)


 一応心の中でフォローしておく。


 定食を食べ終わり、お金を支払う。


「また来いよ、お嬢ちゃん。今度はも・っ・と美味いもん食わせてやるからな!」


 どうやらアリスの言葉で、さらなる味の向上を目指すつもりのようだ。


 変な方向に進まなければいいのだが…。


 言われたアリスはクロスを見るだけで、何も言わない。


 クロスはアリスに頷き、店の親父に返答する。


「またこいつを連れて来るよ。」


「今度はあっというようなもんを出すからな!」


 店の親父の声を聞きながらギルドへと向かった。


 ギルドに行く傍ら脇道から抜ける時に、人目が無いことを確認し、アリスに見えないよう前方に魔法で時空間を作り買い物袋を入れる。


 アリスの方を振り返らずに、進む。


 ギルドへ到着し、入ろうとしたときにアリスの歩調が少し止まったので振り返る。


「どうしたの?」


「ここには行くなと言われてた。」


「もうあの男の事は気にしなくていい。もし脅迫みたいなことを受けるようだったら僕がなんとかするよ。」


「………。」


 アリスはまたしても沈黙してしまったので、クロスは了解と受け取り、少し強引にギルドへと入ったが、抵抗は無かった。


 ギルドの受付でターニャにカード作成を頼み、アリスに手続きをさせる。


「ありがとう。ターニャさん。」


「これは業務の内だから、お礼を言われる必要はないよ。」


 その後、アリスにカードについての説明を行った後、宿屋へと向かった。


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