53話 トラウマ・催し物
訓練も終わったので、宿へと入る。
一階で桶を借りて、宿屋の裏にある井戸にて水を汲み部屋へと戻った。
部屋に入ってから服を脱ぎ、汲んで来た水で体を拭く。
その後、ベッドの上に広げていた服に着替えてからベッドへと潜り込む。
程よい疲労でぐっすりと眠れるので、寝る前の運動は好きである。
クロス
ランク 2
魔法力 3745/72000
筋力 29
魔力 無5/時4
速度 30
状態 普通
金銭 5.960.000リラ
クロスはゆっくりと眠りについた。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
クロスは夜に目が覚める。
周りを見渡すが特に不振な点はない。
なぜ起きたのか不明だったので、耳を澄ましてみる。
隣の部屋からうなされるような声が、ところどころで聞こえてくるようだ。
部屋を出ると、ナタリアがメイの扉の前で立っていた。
「(やぁナタリア。メイはどう?)」
「(たぶん寝てからだと思うけど、ずっとこんな感じね。)」
どうやら疲れていて寝る時には気づかなかったが、メイはずっとうなされていたようだ。
「(これは確かに問題ね。何が原因か知ってる?)」
「(以前盗賊に襲われたっていうのは言ったよね?)」
「(えぇ。ここに来る途中でそんな話をしてたわね。)」
ナタリアは、ここに来る途中で話していたことを思い出しているようだ。
「(その時に居た冒険者は殺されて、その後従者は慰み者…。多分それが原因かな。)」
実際には慰み者になる前だったのだが…。
「(ではなぜあなたが一緒に寝ると治まるの?普通、慰み者になったというなら、男に対する拒絶感が出てもおかしくないと思うんだけど?)」
「(それは…。僕がメイ達を助けたからかな…?)」
「(あなたが?相手は何人くらいの集団だったのかしら?)」
「(ざっと二十数人だね。)」
「(あなたたちは何人くらいで行ったの?)」
どうやらナタリアは、「僕が」の部分を、言い間違えか何かと勘違いしているようだ。
「(僕だけだよ。だからだろうね、僕に依存しているみたいだ。)」
「(………。)」
ナタリアは絶句してるようで、固まってしまった。
「(ではメイのところに行ってくるよ。)」
扉を開けようとして気付いた。
「(鍵が掛かってるね…。)」
「((ほんとにこの子が助けたのか疑問だわ…。)………仕方ないわね。)」
そういうと、メイはポケットから針金らしきものを取り出した。
(まさか!?ほんとにそんなんでいけるのか?)
ナタリアが扉の鍵穴をゴソゴソガチャガチャすること暫し、カチャッという音が聞こえてきた。
「(これでいけるはずよ。)」
「(ほんとに開けちゃったよ…。)」
「(今の状態を何とか改善できるようにしなさいよ。いつまでもそのままではいけないんだから。)」
「(分かってる。ではまた朝に…おやすみ。)」
「(えぇ。おやすみ。)」
メイの部屋へと入り鍵を掛ける。
メイの寝ているベッドへと入り、隣に寝ると、メイはクロスを抱き枕にしてしまった。
(まるで起きてるかのようなんだけど…。)
起きているか気にはなるが、まだまだ眠かったので気にせずに寝ることにした。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
クロスは夜明けと共に目が覚めた。
柔らかいものに包まれて寝たので、起きたときの気分もなかなかいい感じだ。
毎回思うが、メイはなかなか起きるのが遅い。
しかし、寝る時間はそれほど要らないようだ。
(このズレは一体どこからきているんだろうか?)
クロスは自分の部屋へと戻り、身支度を整える。
着替えた服を桶と一緒に持ち、受付に座っている人に挨拶をして、裏の井戸に向かう。
井戸水で顔を洗い、続けて服も洗う。
洗い終わったら、絞って宿屋へと入る。
二階に戻る時に桶を返すのも忘れない。
自分の身支度は終えたので、メイを起こすべく部屋の扉をノックして入ると、メイは既に起きて着替えまで完了していた。
「おはよう。メイ。」
「クロス様、おはようございます。」
「ノックしても返事が無かったから、寝てると思ったよ。」
「申し訳ございません。準備に集中していましたので、気付きませんでした。」
メイは、クロスが自然に部屋へと入って来たので、この数日でそれが普通だと思い、クロスも自分で部屋を出て、空いているのが普通という認識だったので、二人とも鍵が掛かっていたことをすっかりと忘れていた。
「準備は終わったみたいだし、服はどうする?洗う?」
「肌着は洗いますので、他はクロス様が持っていただけますでしょうか?」
「おっけ-。んじゃ、洗うものを手に取って。」
「(おっけ-とは一体?流れ的に分かったという意味でしょうか?)…取りました。よろしくお願いいたします。」
メイの合図で、クロスは魔法を詠唱し、残った服を吸い込む。
「ナタリアのところに行くから、先に降りといて、朝食の席を取っておいてよ。」
「わかりました。」
メイに場所取りを任せてナタリアの部屋へと行く。
ナタリアの部屋の扉をノックし、入ろうとするが、鍵が掛かっていて入れなかった。
ノックしたのだし、気付くだろうと待っていたが、なかなか出て来ないので、何度か呼び掛けているとメイが一階から上がってきた。
「朝食の席空いてた?」
何故メイが来たのか不明だが、テーブルが取れたのか確認してみる。
「既にナタリアが席を確保していましたので、呼びに参りました。」
「ありがとう。(通りで…、ノックしても呼んでも出て来ないから、おかしいと思ったんだ。)」
メイに続き食堂へと向かう。
食堂に着くと、中はガランとしている。
以前と同じで人は少ない。
食事をしている時に話題に出してみた。
「こんなに人が少なくてこの宿屋大丈夫なのかな?」
「多分時期的なものじゃないかしら?」
「?」
時期的なものと言われても、何のことか分からない。
「そうですね。」
メイは何のことか分かっているようだ。
ゼーロー村から出ていないクロスには、他の場所で何があるのかについてはとても疎い。
そんなことを知ってか、ナタリアが教えてくれた。
「王都で行われる催し物よ。今年は確か武闘祭だから、冒険者がそちらに行っているせいで、人が少ないように感じるんじゃないかしら?」
「武闘祭かぁ。いつ頃あるの?」
「後一月くらいかしらね。もし見に行くのであれば、今から行っても宿が取れるかはわからないわよ。」
確かに、この宿屋に人が…特に冒険者が見当たらないことから、既に殆どの冒険者が王都に行っているのだろう。
この町に残っているのは、参加しない若手等ということになるのだろうか。
どんな人が出ているのか興味が出てくる。
「結構参加者が多そうだね。二人は見たことがあるの?」
「いえ。私はありません。そういったことがあると聞き及んでいるだけです。」
「私はあるわよ。予選から始まって、10日間くらいかしら?十位以内に入れば賞金がもらえるわ。」
賞金という言葉に期待が膨らむ。
「賞金っていくらくらい?」
「一位で千万リラから順位ごとに下がっていって十位が百万リラね。」
十位以内に入ればなかなか豪勢な賞金が貰えるようで、一番低い十位でも、普通の街中の依頼を二百回はこなさないといけない額である。
「大体の上位陣には王宮にいる騎士や各名持ち家ゆかりの者が多いわ。というのも上位に入れば王宮に居るヌル王家や各家名から声がかかるからなんだけどね。」
どうやら雇われている者以外の上位者は声がかかるようだ。
「それだとなんか家名持ちの権力争いの縮小図みたいだね。」
「実際その通りなんだけどね。十年くらい前の戦争から周囲の国との争いも無くなったし、前回の祭りから、素性が知れない者…まぁ王都に入れるからには盗賊などではないと思うんだけど、名前だけでも参加出来るようになってるからね。」
どうやら出場するのは各家ゆかりの者だけではなく素性不明の者も参加するようだ。
「………。(覆面して参加してもいけるってことかな?雇われるのは勘弁して欲しいし。素性を探られるのも面倒そうだ。)」
「クロス様は参加されるのですか?」
「そうね。参加してみたら?案外いいとこまでいけるんじゃない?」
二人は気楽に言うが、どんな人が来るかも分からないのでなんともいえない。
「まずはここで依頼をこなすよ。他の冒険者がいる前提で五日間って言ったけど、居ないのならもっとかかるだろうし。」
「わかりました。」
「私はどっちでもいいわ。」
「じゃぁギルドへ行こう。」
二人を伴いギルドへと向かった。




