52話 ナタリア・訓練
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-ナタリアの場合-
さて、余った時間はどうしようかしら?
メイには探索してみると言っては見たものの、実はこの辺りについては以前来た事があるので改めて探索する必要はない。
ただ、特にすることも無いので探索すると言っただけだ。
恐らくクロスは、ギルドでこの辺りのことが載った本でも読んでいるのだろう。
今日の依頼を見る限り、あの体からは、あれだけの筋力があるとは思えない。
実際に腕を組んだ際にも確認してみたが、年相応…いや、若干多いくらいかもしれないが、私と比べても変わらない、むしろ低いのではないだろうか。
自分のカードを確認する。
ナタリア・ドライ
ランク 4
魔法力 3000/3000
筋力 32
魔力 火10/土10
速度 39
状態 普通
金銭 10,000,000リラ
メイには適当に低い数字を言ったが、実際にはそれよりも遥かに上の数字である。
今回義妹が気にしている人物を見に来てみれば、従者と一緒に寝ており、従者とよろしくやっていたなどあの子に教えたら絶望のあまり自殺するのではないだろうか。
一日で分かってしまったが、どうやら依存しているのは従者であるメイの方で、クロスはどうでもよさそうではある。
確かに見た目は良いとは思うが、まだ童顔で背も私と同じくらいではなかろうか。
詳細について調べるため、クロスの従者となって行動を共にすることにした。
従者とならずともよかったかもしれないが、従者となり生活した方が何かと楽なことが多い。
問題はクロスがまだ冒険者成り立てということと、そんなにお金を持っていないということだろうか。
お金については、最悪自分の分を出せばいいので問題ではないかもしれないが、一度出すことにより、その後、私に頼られても困る。
まぁ、親があの冒険者なので大丈夫だとは思うが…。
とりあえず、必要最低限の荷物しか持ってきていないので、服などを購入しよう。
クロスの合成魔法には驚いたが、あれほど便利な魔法は無いだろう。
荷物を持たなくても大丈夫など、ほとんどの冒険者はクロスが欲しいと思うに違いない。
クロスにも口止めされたが、確かに言いまわらない方が良いだろう。
義妹からは特にそういったことは聞かなかった。
優しいだの頼りになるだの惚気話ばかりで、話を聞いているときはなんという軟派野郎だと思っていたが、ベアクローに襲われた時の話を聞くと、かなり印象が変わるのは仕方ないと思う。
どこまで本当か不明だけど、いくつかの聞き込みからそれが本当であるというのも確認した。
王都に行くと言っていたし、この様子では何日か泊まるのは間違いないだろう。
そんなことを考えていたら服屋に到着した。
服屋は基本的に標準的なものが置いてあり、その大きさ以上の人はオーダーメイドで、それ以下の人は寸直しとなる。
私の場合は、背が低いおかげで寸直しで済んでいるので得だと思うが、たまに夜に行くと、暗いせいか子供と勘違いされることがあるので、そこだけは損をしていると思う。
店の中を一通り見ていくつか服を見繕い、試着する。
やはりどの服もわずかに大きい。
服を着なおして会計をするべくカウンターに向かう。
カウンターには女性がいたので、寸法を伝えて寸直しをしてもらう。
今日は空いているので夜には終わるとの事だった。
明日の朝取りに行くことを伝えてギルドへと向かった。
後の夕刻までは、時間が余っているが、ギルドで依頼書でも確認しておくのもいいだろう。
そう考えたらすぐ行動ということで、ギルドへと向かった。
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宿屋に到着したので、夕食をとることにする。
メイは、前回の料理の味で決めたようだが、あれはイレギュラーであって今回も同じように作れるとは限らない。
期待を高めすぎないようにしておかないと、ショックが大きすぎて、違う宿屋に行くと言いかねない。
折角ギルド前の宿屋をとれたのだから、出来ればここを拠点に少し依頼をこなしていきたかった。
「メイ。食事の味がどうあれ、ギルドに近いし宿屋はここにするね。」
「わかりました。」
「美味しいんじゃないの?」
「不味くはないと思うよ。」
そんなことを話ながら食堂へと入る。
食堂は、そこそこ人が入っていたので、空いていた端のテーブルに腰掛けた。
メイが椅子を引こうとしたので、目で抑える。
自分で椅子を引き座り、再度伝えておく。
「何度も言わないよ。言い方は仕方ないとしても、動作は直すこと。基本自分のことは自分でするから。特に人の目があるところではね。」
二人に座るようにジェスチャーで指示する。
席につくと、店員がやってきた。
「いらっしゃい。なんにする?」
「僕たち宿泊客なんだけど、料理選べるの?」
「あ~。鍵は持ってるかな?」
「鍵貰わないといけなかったんだね。」
「大丈夫よ。既に貰ってるから。はい、これ。」
ナタリアは、ポケットから鍵を三つ取り出して、店員へと見せる。
「確認しましたからしまっていいよ。料理持ってくるから待っててね。」
ナタリアは鍵をそれぞれに配り、自分の分を再びポケットへ収納した。
「ありがとう。二度手間にならず助かったよ。」
「いいえ。極当然のことよ。」
ナタリアは当然という風にしているが、メイはクロスの傍を歩いていたので、知らなかったはずである。
(ナタリアは旅慣れているのかな?そう言えば誰から言われたのかも分からないんだよね…。)
料理自体はすぐに店員が持ってきた。
既に作ってあったら当たり前かもしれないが、以外と早い。
「はい。召し上がれ。」
テーブルの上に盆を置いていくが、持ってくるのに、手が空いてないからと、ひとつを頭に乗せてくるのは如何なものかと…素晴らしいバランス感覚だとは思うが。
「夕食は毎回同じ物なの?」
前回来て食べたものと、ほとんど変わらないような気がする。
「夕食は、基本パンにこのシチューかスープで、あとはその時の食材と気分でおかずが決まる感じだからね。他を頼まない限りだいたい一緒だよ。」
(気分が絡むのか…。)
シチューを食べてみると、以前食べたものと違い、普通だった。
(やっぱりあれは特殊だよね。)
メイの方を見ると、少し怒っているようだ。
「これが、メイの言ってたとても美味しいっていう料理?確かに美味しいは美味しいけど…普通じゃない?」
「いえ…これは違います…。料理人が代わったのでしょうか?」
「前回が特別だったんだよ。不味くはないんだからいいじゃない。」
メイはかなり不満なようで、もう味わうこともせずにさっさと食べている。
ナタリアも味に興味を失くしたのか、ペースを速めているように感じる。
食事も終わり、ここに何泊するかを伝えておくことにする。
「今日、依頼板を見たけど、討伐系は少な目の変わりに採集系や街中での手伝いなどが多かったんだ。ギルドでこの町周辺の動植物について調べたけど、依頼板に載っているものは、ほとんどこの近辺で採れるものだから、午前中に採集を行って午後から街中の依頼をこなしていきたいと思う。二人はどうする?」
「私はクロス様についていこうと思っています。」
「結局何泊する予定?」
「ん~。目ぼしい依頼が無くなり次第かな。ランク的にも受けれる範囲が限られてるから特に行く依頼が無ければたぶん5日くらいで次に行くことになると思う。」
「5日ね…。私はその日受ける依頼を見てから決めようかしら。」
「わかった。じゃあ宿代は5日分先に払っておくから部屋は好きにすると良いよ。ではまた明日の朝ギルドに集合でいこう。」
「はい。」
「わかったわ。その前に着替えが欲しいから、鞄が欲しいんだけど?」
「部屋にいくよ。」
「ではいきましょ。」
二人を連れて受付に行き、5日分宿泊代をカードにて支払った後、二階へと上がる。
まずはナタリアの部屋に行き、魔法で鞄を出すことにした。
「時よ。無よ。時空間より鞄を出したまえ。『トロイメライ』」
鞄自体はイメージし易かったので、鞄だけを出すことが出来た。
「ありがと。それにしてもこの魔法便利よね。」
「魔法力がごっそりなくなるけどね。」
「ふーん。参考までにどれくらいなくなるの?」
「一回で千くらい減っちゃうよ。」
「「!!」」
減る数値を聞いて二人は驚いているようだ。
(今までのことから考えて、驚かないと思ったんだけどなぁ。)
「一般人では確実に無理ですね。」
「それ以前に時属性というのが意味不明よね。」
「では次メイの部屋に行くね。」
「はい。」
「また明日ね~。」
ナタリアの部屋を出てメイの部屋へと向かう。
「ではナタリアの分を出すね。」
「お願いします。」
「時よ、無よ。時空間よりメイの服を出したまえ。『トロイメライ』」
魔法により出てきたのは、メイの服だけではなくクロスの服も出てきてしまった。
「…。失敗か…。」
「練習あるのみです。」
しかも出てきたのは服だけで足りないものがある。
「クロス様…。肌着が出ておりません。」
「そうだね。」
シャツなどの肌着は良いが、女性が使うパンツを想像するというのは、なんとなく罪悪感ではないが犯罪のような気がしてならない。
実際には、男と女でそれほどデザインや素材に差があるわけではないのだが…。
再度魔法を詠唱して肌着を出す。
今度はメイの分だけ出すことが出来た。
「とりあえず時間が夕刻だから、店も閉まるだろうけど明日は鞄を買いに行こう。鞄があった方が個人を分けやすいよ。」
「そうですね。」
「ではまた明日。」
「…はい。お疲れ様でした。」
メイの名残惜しそうな言い方を後にして自分の部屋へと戻る。
必要な服以外は再度時空間に取り込んだので、明日は再度出して整理しなければならない。
明日のことを考えつつ、寝る前の運動をすることにした。
クロス
ランク 2
魔法力 52315/72000
筋力 29
魔力 無5/時4
速度 30
状態 普通
金銭 5.960.000リラ
まずは剣術の練習をして汗を流し、その後体術にてさらに体力を消費する。
これに無属性の魔法にて速さを上げた状態で、ゆっくりと動く練習をする。
一通り動き終わってから今度は、時の流れを変えていき最初のゆっくりした動きのままで練習を行う。
この動きに慣れることが出来れば、速度を自分で何段階にも変えることが出来るだろう。
手加減などにも応用できるはずなので、今後のことを考えて練習しておく。
この練習風景を従者二人は違う思いを持ちながら、クロスに気づかれないように見ていた。




