46話 メイ・出発
寝る前に二人には、合成魔法で毛布を二枚ずつ出して渡しておく。
家の中の物はほとんど収納してしまったため、完全な空家になっており、ガランとしていた。
ランタンについては出してなかったはずだが、食事の場が明るかったことを考えると、ナタリアが持ってきた鞄の中にでもあったのだろう。
明日も早いので、まだ日が暮れたばかりだが、クロスは寝ることにした。
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目が覚めると、日が出る前で、外はまだ暗かった。
二度寝するには、意識がはっきりとしすぎていたので、水でも飲んで着替えることにする。
水を飲んで部屋に戻ろうとして、メイの居るはずの部屋の前を通ると、なにやらぶつぶつ聞こえてきたので耳を澄ませて聞いてみるが、聞こえない。
気になったので、時を止めてから部屋に入り、中の様子を見てみると、メイが毛布を抱き枕にしてベッドの上で横になっていた。
周囲を観察してみるが、特に変わった様子は見られない。
ただの寝言だろうと思い、何を言っているか確認するためベッドの横に座り、時を戻す。
「…クロス様…一緒に………クロ…ス…様…。」
なにやらうなされている様である。
落ち着かせるために、メイの手を握ってみると、起きていたのか、それとも無意識の行動だったのか、メイの元へと体ごと引き寄せられてしまう。
メイはクロスを抱き枕にすると、落ち着いたのか寝言はなくなり、そのまま静かに寝てしまった。
クロスとしては二度寝するつもりは無かったが、メイに包まれていると、なにやら気持ちよくなってしまい、そのまま寝てしまう。
結局、ナタリアが起こしに来るまで二人とも寝てしまっていた。
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「あんた。いつもメイと寝てるわけ?」
「いや。メイが寝言で苦しんでいたようだったから、手を添えてたんだけどね、そのまま寝てしまってたみたいだ。」
「手を添えてたのが、どうして一緒に毛布で寝ていたのか理解できないんだけど?」
ナタリアは、溜め息をつくように吐き出した。
クロスとしてもわざわざ引き寄せられたことをいう必要を感じなかったので肩を竦めるだけにする。
「まぁいいわ。あんたがメイを求めるのは勝手だけど、節度は守りなさいよ。」
「ほんとに昨日は、添い寝しただけで何も無いよ。」
「手を添えてただけじゃなかったの?」
ナタリアの猜疑心一杯の眼差しがクロスへと突き刺さる。
「ナタリア。待ってください。クロス様は私のために!いえ…私が必要だからこそ一緒に寝ていただけたのです!」
「まぁいいわ。メイからでなければ特に問題は無いし。」
ナタリアは、もういいとばかりに踵を返して扉へと向かう。
「食事は出来てるから早く準備してね。…メイは即来なさい。」
メイの従者っぷりに、ナタリアは少々お怒りのようだ。
明らかにメイの方が見た目は年上だが、内容的にもメイが怒られても仕方ないのかもしれない。
「もちろん分かっています。」
クロスが、ベッドに腰掛けてナタリアの方を向いていた短い間に、メイの方を振り向くと、メイは既に着替え終わっていた。
(早い…。)
「ではクロス様は、ゆっくりとおこしください。」
メイはクロスを置いて部屋を出て行ってしまった。
(考えてても仕方ないし着替えるか…。)
クロスは昨日出した服を見繕い着て、残りを持って部屋を出た。
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部屋の外に出てテーブルを見ると既に食事の準備が出来ていた。
今回は三人分がテーブルの上に準備されている。
持っていた服をとりあえず棚に置いて、メイが引いた椅子に座る。
「やっぱり食事もみんなと一緒が良いよね。別々って言うのは効率も悪いし、なんか落ち着かないよ。」
「えぇ。昨日言ってたから替えてみたわ。約一名はこういったことには不慣れみたいだし、早急に慣れないとすぐにボロを出しそうだけど…。なんで起床だけはあんなにも図々しく遅いのか不明だけど…。」
ナタリアはメイの方を見て言う。
メイも分かっているのか、バツが悪そうな顔をしている。
「その件については申し訳ありません。起きている間は大丈夫なのですが、なぜ起きれないのかが、私にも分からないのです。クロス様と一緒だと安心感があるといいますか…、なにかに心が満たされるような感覚に陥るため、気が緩んでしまうからだと思うのですが…。」
メイの後半部分は、小さい声でぼそぼそ言われたので聞き取れなかったが、どうやら意識がある間は大丈夫だが、無意識時にクロスが傍にいると安心してしまい、朝早めに起きるという体に染みついたはずの行動ですら働かないということのようだ。
「というか、数日前まで会った事もなかったのよね?なんで急にそうなってしまったのよ…。(はぁ…)」
(盗賊に襲われたときのトラウマか何かかなぁ…。あの日の夜一緒に寝てしまったから、逆に居ないと安心できないとか?)
メイでもトラウマになることがあるのかな?と考えつつ、話を進める。
「メイと僕との出会いがたぶん原因だと思うんだ。まぁその辺はおいおいということで、そろそろ食べよう。折角暖かいんだし、冷めてしまうよ。」
「そうね。食べましょう。」
「………。」
食事を済ませて片付けを行う。
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一通り片付けも終わり、家を出る準備を行う。
準備といっても忘れ物がないか確認することと、昨日出してしまった服などを収納することだけだが…。
「テーブルの上の物以外で忘れ物ってあるかな?」
「食料なども収納されるのですか?」
「そのつもりだけど駄目かな?」
「出来れば持って…「わざわざ重いものを持つ必要ないじゃない。」…。」
メイの言葉を途中で遮り、ナタリアが意見を言う。
「収納した後の食料については大丈夫なんでしょ?」
「そうだね。問題は無いけど、気をつけないといけないのが、他の食料と一緒に出してしまうことがあるかもしれないことだね。」
「あ~。ということは、なんらかしらの入れ物に入れて、分けておいたほうがよさそうね。」
ナタリアの言うことはもっともで、きちんと魔法の制御に慣れるまでは、食料など他と混ざらない方がいい物、飲み物については入れ物に入れておいたほうが良いだろう。
「一旦テーブルの上の物を収納するよ。その後、食料を出すから入れ物に入れなおそう。」
「わかったわ。」
「わかりました。」
「時よ。無よ。テーブル上の物を収納したまえ。『トロイメライ』」
テーブル上のものが食器を含めて全て陽炎の中に消えていく。
「じゃぁ次にっと。時よ。無よ。テーブル上に食料を出したまえ。『トロイメライ』」
テーブル上に、今まで手に入れた食料が全て出てきた。
「あんた…。これ…入れ過ぎじゃない…?」
「まぁ多くて困ること無いんだし、いいじゃない。」
その後、三人で食料を、油紙や筒などに入れてまとめていく。
「これで一通りまとめ終わったかな?」
外は、薄明るくなってきていた。
「では後はお願いしますね。」
「任せてよ。…時よ。無よ。テーブル上の物を収納したまえ。『トロイメライ』」
テーブル上にあった物は全てきれいになくなっていた。
「これでよしっと。出発前から無駄に疲れたけど、いい時間にはなったしそろそろ出発しよう。」
「そうですね。」
「そうしましょ。」
家を出て鍵をかける。
村を出る前にギルドに寄り、鍵を建物付きのポストに入れていった。




