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43話 終宴・母親

 披露宴も終わったので、とりあえずリューイを親の元に連れて行く。


 披露宴自体は終わったが、未だに残って呑む者もいるようで、リューイの親もそうだった。


 リューイを引き渡した後に、エドとリリーに別れを告げる。


 従者二人を連れて外に出たが、その後すぐに出てきた母親に呼び止められる。


「クロス。少し付き合ってちょうだい。」


 母親は、ギルドの方へと向かう。


 日は、だいぶ傾いてきており、そろそろ夕刻が近いことを示していた。


 従者二人には、忘れ物がないかを確認させるために、家へ向かわせる。


 指示を出して、すぐに母親の後を追い、ギルドに向かう。


 ギルドのテーブルを見ると、そこには、椅子に縛り付けられて気絶している父親がいた。


 またしても、イベントに参加できなかったようだ。


(出て行くときに気付かなかったな…。)


 父親が気絶して、椅子に縛り付けられていたので、椅子と一体化している風に見えて、気付かなかったのである。


 いや…みんなして忘れていたという方が合っているだろう。


 ランプの準備をしていた母親の服を引っ張り、父親を指差す。


 母親は頷き、そちらに歩み寄ると、父親を縛っていたロープを解き、身体を揺すり起こし始めた。


「カイン。起きて。」


 しかし、父親は、なにかおいしいものでも食べている夢を見ているのか、口をもごもごと動かすだけで起きる気配がない。


 これはいつものことで、最初は起きないと分かっていても、ゆっくりと起こすことにしているようだ。


 いつかこの起こし方で、起きる日はくるのだろうか…。


 まあ、優しいのは最初だけで、この後は酷いのだが、父親は、分かっていてもなかなか起きない。


 母親は溜め息をつくと、とりあえず父親をそのままにしておくことにしたようだ。


 母親は父親から離れると、受付の椅子に座り仕事を始めてしまった。


「クロス、こっちに来なさい。」


 母親に呼ばれて受付の方へいく。


「なに?」


「村を出るのでしょう?依頼料は、前払いで渡して上げるからこの手紙を配っていってちょうだい。」


 母親の言葉に少なからず驚く。


 母親には村を出て行くことを、特に伝えた覚えはないが、近くにいたメイやギルドマスターあたりから、聞いたのかもしれないと思い直す。


「わかった。」


 カードを取り出し、受付登録を行う。


 手紙は全部で三枚あり、シュトラウス、王都ベルン、バルトとなっていた。


「ある程度遅くても構わないけど、忘れないようにお願いね。」


「それはいいけど、バルトなんて聞いたことないよ?」


「あら?話してなかったかしら?」


 母親はクロスが、知っているものと思っていたようだ。


「バルトはエレンの故郷で、エルフの集落よ。たぶんほとんど知られてないはずだから言いふらさないようにね。」


 今までなかなか、聞く機会が無かったので、色々聞いてみる。


「やっぱりエレンさんてエルフなの?」


「そうよ。耳が少し尖っていたでしょ?見た目はそんなに変わらないから、分かりにくいかもしれないわね。」


「そうなんだ…。」


「エルフって見た目以外の違いって何かある?例えば魔法が凄いとか。」


 エルフで会ったことがあるのは、エレンとシュトラウスのパン屋にいた女性だけであり、冒険者を見たことがないので、強さが気になるところである。


「ん~。見た目が変わらないのが違いといえば違いかしら?魔法については見たことがないから分からないわ。」


「見た目が変わらない?」


「そうよ。エルフは人の三倍程度の寿命があるんだけど、見た目の変化がとても少ないわ。しかも大人に成長したら、老けることなくそのままの見た目で寿命になるらしいの。うらやましい限りよね。」


 どうやら魔法について知らないようだが、エルフのことについて興味深いことが聞けた。


 エルフの寿命が人の三倍となると、約三百歳のエルフがいることになる。


 しかも見た目が大人になった時点から死ぬまで変わらないという事は…。


 見た目は当てにならないので、気を付けなければいけないということだ。


「ところでバルトはどこにあるの?」


 肝心のエレンの故郷、バルトの場所を確認する。


 今まで聞いたことがなかったが、元々この地域以外には出たことがなかったし、置いてある本自体もこちらの地域のものばかりで、他の地域のことについて書かれたものが、ほとんどなかったので当然かもしれない。


「バルトは、王都ベルンからだいぶ北へ行ったところにあるわ。結構遠いし、少し寒い所だから暖かくしていきなさいね。」


「わかったよ。結構遠いって言うのはどれくらいかかるの?」


 父親の時のように、父親基準で話されるのはこっちの身としてはたまったものではないが、母親の基準ならば、父親と違って自分にも合った基準であるはずなので大丈夫だろう。


「そうね。ホース車で何事も無くて、大体10日くらいかしら?」


 母親の話が本当ならば、余裕を見るとなると、15日はかかってしまうことになる。


「結構遠いんだね。」


「ええ。だから行くときは十分に準備をしてから行くのよ。」


「うん。」


 魔法で持って行けばいいので楽だが、メイはまだ気にするのかが、気になるところではある。


 数日分の食糧を運ぶのは、体力的にきついので、メイには考えを諦めてもらうことにする。


「いつ行くの?」


「今日から出ようと思ってたんだけど、だいぶ遅くなったから明日朝早くに出るよ。」


「そう…。気をつけて行きなさいね。これは餞別よ。」


 母親は引き出しから1万リラ硬貨を10枚取り出し袋へと詰める。


「それとカードを貸しなさい。」


「何をするの?」


 母親にカードを渡しながら理由を聞いてみる。


「カードにお金を振り込んでおくわ。必要な時は使いなさい。」


「ありがとう。」


 クロスは、素直に礼をいいカードを受け取ると、内容を見てみる。



クロス

ランク 1

魔法力 41722/72000

筋力 27

魔力 無5/時4

速度 28

状態 普通

金銭 1.000.000リラ



 今まで見たことがない金額が目に入る。


「多すぎない?」


「クロス。今のクロスのランクだと、従者二人の税金5年分にしかならないわ。後は自分で何とかしなさい。」


「わかったよ。手紙にも書いたけど家の管理お願い。多分出るときには、もとの何も無い状態になってると思う。」


「わかったわ。」


 そういうと母親は、クロスを抱き寄せて頭を撫でる。


「無理をするなとは言わないわ。ランクを上げながら色々と見てきなさい。」


「うん。父さんによろしく。」


 それから母親に別れを告げて家に帰る。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


「私のかわいいクロス…。気を付けて…。」


 ノーラの目には涙が溢れている。


「んがっ!」


 カインが起きたようで、目を覚ますが横に座っていたノーラに、首を手刀で一閃されると再度気絶した。



ノーラ

ランク 5

魔法力 700/700

筋力 40

魔力 水3/風5

速度 68

状態 【カインと契りし者】【回復を極めし者】普通

金銭 436.810.000リラ



 ノーラは自分のカードを見ながら、クロスのカードを思い出す。


(あの子はどこまでいくかしら…。かわいい子には旅をさせなくっちゃね。)


 クロスは隠していたようだが、メイからの情報で、クロスのカード情報については聞いている。


 魔力が、既に両方共に5以下であることを…。


(クロスに神の加護があらんことを。ヴォール。)


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