40話 新従者・実力
二人に連れられて外に出ると、父親が窓から家の中を見ていたようで、窓の前に立っていた。
父親はこちらの様子を見ると、何やら憐憫の眼差しを向けてくる。
そんな父親に見送られながら、教会へと向かった。
教会では、シスターが入り口付近を掃除していて、こちらを確認すると挨拶をしてきた。
「皆さん、おはようございます。」
「「おはようございます。」」
「おはようございますシスター。」
シスターはいつも通り微笑みを絶やさず、クロスの両脇にいる人物とクロスを見比べている。
「両手に花ですね。」
「…そうですね。(毒花でなければいいけ…いてっ!)」
考えが顔に出ていたのか、先ほどとは打って変わって、素晴らしい連携の肘鉄が、両脇から入る。
(いつの間にここまでの連携を…。)
メイについては、元々美人であるし、ナタリアについても、背丈の割に童顔ではなく、整った顔立ちをしている。
シスターに見えない位置でこんな事をしなかったり、考え方が特殊でなければもっといいのだが…。
「どうかされましたか?」
「…何でも無いです。神父様は居られますか?」
シスターは不思議そうな顔をしたが、質問に答えてくれた。
「はい。中に居られますよ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
二人に連れられて教会内に入る。
中は昨日の喧騒が嘘のように、静かだった。
中を見回すと、神父は昨日みんなの座っていた長椅子を磨いている。
「神父様、おはようございます。」
「「おはようございます。」」
「おはようございます。…はて、今日はどのようなご用件ですかな?」
最近は、朝から教会へ来ることは、昨日のようなことが無ければなかったので、神父も不思議がる。
「そうだ「従者の登録を行っていただくために参りました。」………。」
ナタリアは、クロスが何かを言う前に、言い切ってしまう。
「ふむ。双方共に納得のことですかな?」
「いい…「「はい。勿論です!」」…。」
今度は二人に言い切られた。
この二人が、裏で繋がっているのではないかと、疑いたくなる。
「では、水晶の部屋へ行くかの。」
神父の後に続いてついて行く。
神父について行くクロスの足取りは重い。
部屋の中に入り、そこで神父に対して、簡単に説明した後、何時かと同じようにカードを持たされて、片手を水晶に触れさせる。
「名前は何というのかね?」
「ナタリアと申します。」
「わかった。…神よ。神父ウェライ立会の元に、ナタリアをクロスの従者としたまえ。」
カードの状態欄が変化していく。
クロス
ランク 1
魔法力 71722/72000
筋力 27
魔力 無5/時4
速度 28
状態 【クロス付従者ナタリア】普通
金銭 0リラ
クロスは、また余計なものが増えたとため息をつく。
「これで終わりじゃ。従者の説明をしようかの。」
「もう聞いたから大丈夫!わからなかったらまた聞きに来ます!」
あんな長話二回もごめんであるため、すぐに断る。
カードを見ながら落ち込んでいると、父親がいつの間にか部屋に来ており、扉のところで待っていた。
「クロス!話がある!今度は俺じゃないぞ!」
父親は誰かに言われて来たようだ。
「わかったよ…。どこに行くの?」
「今度は諦めたようだな!何事も諦めが肝心だ!」
父親は何か納得したようで、うんうん頷いている。
「で?どこに行くの?」
流石に話を聞かない父親にイラっとし始める。
「ギルドだ!」
目的地さえ分かれば、父親の対応の必要性を感じなかったので、朝の勘違いを正して、そちらに意識を向けることにする。
「父さん知ってた?」
「なにをだ?」
「昨日ギルドマスター結婚したんだよ。」
「なにぃいいい!」
父親は驚くと共に走り去ってしまった。
「これで少しは静かになる。それでは神父様失礼します。」
「またの。」
挨拶をして教会をでる。
とりあえず、従者を付けると言うことには、お金がかかる(通常は家名持ちか、ギルドランクの高い者、金持ちが従者を付けている)ため、ギルドランクを上げて税金だけでも減額することにする。
「税金の減額って、ギルドランクいくつからだっけ?結構高かったような気がするんだけど。」
「確かランク5からだったかと。」
ランク5というと、父親たち並である。
このゼーロー村の依頼だけではかなりの時間がかかってしまう。
「このままここにいても仕方ないし、依頼をこなしながらギルドを移動して、ギルドランクを上げよう。」
「そうですね。クロス様の実力があれば、ランク5までならば簡単かと。」
「確かに、今朝の実力を見ると疑いようがありません。全く視認出来ませんでした。」
時を止めたので、視認されても困るのだが、クロスとしては自分の実力が高いとは思っていない。
「父さんでランク5なのに、僕がランク5になるのは結構かかると思うよ…。」
「昔、六人組のパーティーが居たそうですが、一人一人のランクは5であったにも関わらず、ランク8の魔獣に勝ったと聞いたことがあります。確か、その時のメンバーにご両親と、ゼーロー村とシュトラウスのギルドマスターが居たはずです。」
「その話は聞いたことがありますね。一人は盗賊になり、最近討伐されたようです。」
父親たちが、そんな実力者とは知らずにいたが、思い返してみれば納得できる部分もある。
父親とギルドマスターはランク5にしては異常に体力がありすぎるし、ベアクローの時の連携があまりにも息が合いすぎていた。
長年一緒にやってないと無理な話だ。
初依頼の時に父親にカードを見せてもらったが、筋力・速度はそこそこ高いが、無属性の魔力が3というのにも驚いたものだ。
クロスは膨大な魔法力があるため、他の人よりも必要魔力の数値が、早く減るので、今の数値には理解出来るが、父親の魔法力であの数値にするには…ずっと使い続けていれば、あれくらいにはなるかもしれない。
母親の実力は未だによくわからないが、高位の回復魔法が使えることから、魔力数値はかなり低いと思われる。
ギルドマスターも父親と同じくらいの実力と考えると…。
実力のランクとギルドランクには差があるのだろう。
もしくは、ただランクを上げ忘れただけか、面倒だったからかもしれないが…。
「普通1ランク上を倒すのが精一杯だよね?」
「そうですね。倒す実力があるならばランクを上げるでしょうし。」
「後々ゆっくり聞いてみよう。…ギルドに呼ばれてるみたいだし…。」
「「わかりました。」」
クロスは、ギルドに向かいながら、ナタリアに伝えておく。
「必要時以外は、状態欄の従者は消しておいてね。」
「わかりました。」
クロスたち三人はギルドへと向かった。




