39話 誰?・諦め
翌日の朝、魔法行使の感覚があり目が覚めた。
周りはまだ薄暗いが、十分に確認できる明るさだ。
メイは既に起きて朝食の準備をしているようで、廊下のほうから美味しそうな匂いがしてくる。
クロスは身体を起こして立ち上がり、着替えて部屋を出た。
廊下に出て、そこからテーブルを見るとメイが縛られて、更に猿ぐつわまでされて転がされている。
一体何事かと部屋を見回すと、知らない人が料理を作っていた。
「おはようございます。旦那様。」
「えーっと…。おはようございます。」
突っ込み所が多すぎてどこから突っ込めばいいのかわからない。
「朝食は出来ております。どうぞ椅子にお座りください。」
そういうと女性は椅子を引き待機する。
「とりあえず現状の確認をしたいんだけど?」
「わかりました。」
女性はかまどの火を弱火に抑えて、エプロンを外し、クロスに対して向き直る。
「私はこの度、旦那様付きになりました。ナタリアと申します。以後よろしくお願いします。」
ナタリアと名乗る女性は、クロスよりも低い背丈にも関わらず、明らかに年上のような風格がある。
目は赤色と茶色で火属性と土属性であることが分かる。
「まずそこから分からない。なぜ僕付きになったの?」
「私が雇われていた方からの指示でございます。」
またしても監視役かと、クロスとしては脱力感に襲われる。
「従者はもう間に合ってるよ…。」
軽く拒絶の意思を見せるがこの女性には通用しなかった。
「この数日確認させていただきましたが、主人よりも遅く起き、尚且つ主人と一緒の布団に寝るなど以ての外です。」
「メイが縛られてるのはそれが原因なのかな?」
「それもありますが、この者よりも役立つということをアピールするためでございます。」
メイはなにか、えらいとばっちりを受けているようだ。
確かに速度重視のメイを、大きな怪我もさせずに制圧するのは凄いことだと思うのだが…。
朝の起きたてでは、思考力が働かなかったので、とりあえず朝食をとることにする。
「目的はわかったからメイの拘束を解いてあげて。」
「かしこまりました。」
メイは縄と猿ぐつわを解かれると、ナタリアからすぐに間合いをとる。
「とりあえず朝食にしよう。」
クロスの言葉を受けて、ナタリアは再度椅子を引き直した。
今度はクロスも、大人しく引かれた椅子に座る。
ナタリアはクロスの前に朝食の準備を始めた。
二人は自分の分を準備せずに、クロスが食べ終わるのを待っている。
メイはナタリアを警戒しているが…。
朝食を一人食べ終わり、二人に朝食をとるように言ってから、これからのことを考える。
(とりあえず、仲が悪そうだから、揉め事が増えそうだなぁ…。それにしても…、ツヴァイ家は何人送り込めば気が済むんだ?…よし!お帰り願おう。二人もメイドはいらないし!)
今後の方針を固めたところで、二人が食べ終わるのを待つ。
二人とも音をたてずに食べているため、ほんとに食べているのか疑問になるほどだ。
食卓には緊迫した空気が流れている。
メイはナタリアが作ったものでも平気なのか、その辺は気にしないようだ。
食べ終わり、食器を片付ける。
クロスは、片付け終わった二人に対して、椅子に座るように指示した。
(またギルド遅刻かな…。)
クロスが今後のことについて話そうとしたとき…。
「おい!クロス!結婚したってほんとか!?」
話をややこしくする人間が扉を乱暴に開けて現れた。
「その話はまた後にしてください。(鍵開けっ放しにしてたか…。閉めたと思ったんだけどな~。)」
父親の疑問に答えるのは後回しである。
「二人も嫁にもらったのか!クロスはアイリちゃん一筋だと思っていたのに!」
父親はまたしても暴走気味のようで少し目が血走っている。
父親のこの発言にナタリアの眉が微かに動き、メイはいぶかしんだが、クロスは気付かない。
「誤解してるって。どうせ母さんの話を中途半端に聞いて来たんでしょ?もう一度よく話を母さんから聞いてよ。」
「クロスが話せば問題ない!」
話の通じない相手にクロスは辟易すると共にイライラが募る。
「(時よ。止まれ。『ツァイト』)」
父親の傍まで移動し、身体強化をかけて、父親の腹に蹴りを食らわせる瞬間に時を戻す。
父親は一瞬のことだったにも関わらず反応し、衝撃を逃すべく後ろに飛んだようで、蹴りの感触が弱かった。
「いきなりなにをするんだ!」
父親は動揺していたが、すぐに持ち直し怒り出す。
「怒りたいのはこっちだよ!詳しくは母さんに聞けばいいって言ってるでしょ!こっちはそれどころじゃないんだよ!」
しっかりと扉を閉めて鍵をかける。
「さて、話の続きを始めよう。」
席に着き、唖然としている二人に話かける。
「お父様はよろしいのですか?」
「体術の練習で分かってるけど、父さんはあのくらい大丈夫だよ。」
「いえ。身体のことではなく「話を進めるよ!」…はい。」
なかなか話が進まないので、無理やりに進める。
「結論から言うとメイが居るので、ツヴァイ家から二人も従者はいりません!」
クロスはすっぱりと言い切る。
「私はツヴァイ家の者ではありません。」
ナタリアからは予想外の返答が帰ってくる。
「えーっと…ツヴァイ家のメイドとして、メイの替わりに監視目的で来たんじゃないの?」
「違います。旦那様の従者としていただくために来ただけで、そこの者は関係ございません。」
クロスはどうやら勘違いしていたことに気付く。
「じゃあ、ナタリアはどこから来たの?」
「従者にしていただけるのであればお答えします。」
なぜそのような返答になるのかがわからない。
「なら、最初の予定通り無しの方向で…。」
この時メイが勝ち誇ったような顔をしているような気がした。
「その時は、メイドとして勝手にお世話するだけです。それと、後に後悔することになるのは旦那様の方かと。」
「む?」
勝手にすると言われても困惑する。
さらにその言葉に続けて、後に後悔すると言われると気になるのは当然だ。
とりあえずなぜ後悔するのか確認することにした。
「なぜ後悔することになるの?」
「そうですね…少しだけ言うならば、昨日教会で…「クロス様ナタリアを従者とするのがよろしいかと!」。」
ナタリアは、メイの方をチラチラと見ながら説明しようとしたが、途中でメイに遮られた。
「折角だし理由を「さあまずは教会に参りましょう。」…いや…だから…従者を増やす気は…「旦那様。善は急げと聞き及んでいます。」…もう好きにして…。」
クロスのその言葉を待っていたのか、二人はクロスの両脇に立つと自分の腕に絡めてきた。
クロスは二人に両腕をそれぞれ組まれ、家を出て教会へと向かうことになる。




