38話 結婚式・罠
家へ到着し、自分の部屋へと入り、今着ている服を脱ぐ。
そして…着替えようとして、気付いてはいたが、気付かない振りをしていたことに対して向き直った。
「メイ…なんで居るの?部屋が違うでしょ!」
メイは手に自分の着替えを持ち、クロスの後ろに立っていた。
「クロス様お忘れですか?お母様は「い・っ・し・ょ・に!」着替えてきなさいと申されました。大事なことなので二回言わせて頂きますが、「い・っ・し・ょ・に!」です。」
確かに母親はそういう風に言ったが、内容は違う。
しかも、クロスと共に部屋に入ってきたのに、メイは手に着替えの服と、水の入った桶を持っているのは時間的に明らかにおかしい。
クロスは何か言い返そうとするが、その間にメイはクロスの着替えを準備し、顔や髪など体を拭き始めた。
(もういいや…。)
メイになされるがままになって、ぼーっとしていると、いつの間にか着替えは終わっていた。
この地方限定かもしれないが、結婚する主役の二人以外は茶色の目立たない服を着ることになっている。
メイの方を見ると、ちゃんと服を持っていたようで、濃い茶色の服を着ていた。
メイも着替え終わったようなので、クロスはメイと一緒に教会へと向かう。
教会には人が集まっていて、教会の入り口から村の入り口へ続くように1メル間隔で10メルほど火のついた松明が設置されていた。
村人はその松明の外側に集まっている。
松明の通路の先には、小屋に言えるくらいの大きさの箱が置いてあった。
箱は教会の入口に向いている面が布で仕切られている。
あの箱の中には、恐らく新郎新婦の二人が待っているのだろう。
日が落ちたくらいに鐘が鳴り、二人が箱から出てくる。
日が落ちてはいたが、松明と教会の灯りで、まわりは十分に確認できる明るさだ。
みんなで拍手をしながら、着飾った二人に対して拍手で出迎える。
エレンは左側に立ち右腕をギルドマスターの左腕に組み、回りに手を振りながら歩いている。
対するギルドマスターはカチコチに固まったまま、エレンにひきづられるようにして進んでいた。
そのまま二人は進み教会内へ入っていく。
それに続いて、先に入った二人とは一定間隔をあけて村人も入っていった。
数人の村人は、小屋に近い松明を四つ持ち教会の四つの角へと持っていくと、中へ並べられていた長椅子へと他の村人と同じように座る。
新郎新婦の二人は通路の一番奥…教壇の手前まで行き立ち止まった。
教壇には神父が立っていて、村人が席に着いたのを確認すると誓いの言葉をつむぎ始めた。
「汝ギルよ。いついかなるときもエレンを裏切ることなく、過ごすことを誓うか?」
(神父は、ちゃんとこういうときは普通に喋れるんだな。)
ギルドマスターは、未だに事態についていけていないようで固まっていた。
すると、横にいるエレンさんの鋭い肘撃ちにより、痛みで意識が戻ったのか「いぃっ!?」と声を上げてしまう。
「よろしい。」
それを神父に「はい!」と言うのを上ずったのだと勘違いされてしまったようだ。
流されてしまったことに唖然としているギルドマスターを余所に次へと進む。
「汝エレンよ。いついかなるときもギルを支え、過ごすことを誓うか?」
「誓います!」
エレンは迷いも言い止まりもせずに言い切る。
「では二人はそれぞれカードを持ちもう片方の手を水晶に当てるようにの。」
エレンは、ギルドマスターの首から提げているカードを取り出し、手に持たせる。
そして、自分も同じように手に持って、空いた手でギルドマスターの手を掴むと、上から押さえつけるようにして水晶に当てる。
「ではいいかの。神よ。契りし二人に祝福を与えたまえ。『ゼーゲン』」
これで、恐らく二人のカードには、以前父親に見せてもらった【〇〇と契りし者】というのが状態欄に付加されたことだろう。
「皆よ。新たな二人の門出に拍手を!」
ここで村人たちから盛大な拍手が教会内へ鳴り響く。
新郎新婦の二人は…というか一人は満足したのか元来た道を戻りだした。
結婚式を執り行った日は、二人だけで過ごさせて、日を改めて次の日に披露宴を行う。
二人は、どちらかの家に今日は泊まることになるだろう。
(ギルドマスターご愁傷様。まあエレンさんが美人なのが救いだな。)
二人が出て行った後にぞろぞろと村人たちも出て行く。
数人は残って日の後始末や教会内の掃除をしていたようだ。
そこでクロスも帰ろうとしたのだが、横に腕の服を引っかけたような感じで帰ることが出来なかった。
そちらを見てみると、メイが神父の方を見ながら言ってきた。
「クロス様。少し教会内を見学して行きませんか?私は来て間もないので色々と見たいのです。」
「教会内なんて案内するところなんてないよ?」
教会内は普通の人が見学するところなど、この広いホール以外になさそうに思える。
「少しでいいのです。それと神父様とも面識を得ておきたいので、ご紹介くださいませんか?」
「日を改めた方がよくない?」
別段紹介ならば明るいうちにしておいた方が、顔もしっかりと確認できてよさそうな気がするので、言ってみるのだが…。
「今日がいいのです!挨拶は早い方がいいのは当然です。」
メイとしては譲れないものがあるようで、挨拶をしにいくことになる。
(昨日とか今日にでも行く機会はあっただろうに…。)
神父の方へ歩いて行く途中に、こちらを観察している人がいることに二人は気づかなかった。
神父は教壇上で、水晶磨いて片付けようとしていた。
「神父さますいません。今お時間よろしいですか?」
「なんじゃ?」
「新しく、この村に住むことになった者を紹介しようと思いまして。はい、メイ挨拶して。」
「クロス様と住むことになりましたメイと申します。以後よろしくお願いします。」
「ふむ。よろしくの。クロスはこの者と結婚しとるのか?」
「いえ。色々あって従者という扱いになってるんです。取り消「神父様!」…。」
クロスが取り消す方法を聞こうとしたが、メイの発言によりクロスの発言が取り消された。
「(神父様、クロス様は従者という肩書きが嫌なようなので、取り消して契りの肩書きに変更してはいただけませんか?)」
なにやらメイはぼそぼそと神父に話しかけている。
「それは出来ないことは無いんじゃが…。」
神父はこちらを見て悩んでいるようだ。
「先ほどもそれを言おうとしていたのでございます。」
「クロスも従者の取り消しをしたいのかね?」
なにやらよく分からないが取り消しをしてくれるようだ。
「できるならお願いします。」
この返事で取り返しの付かない事態になろうとしたのだが…メイに近づいていた何者かの耳打ちにより助かった。
助かったことすらクロスは分からなかったが…。
耳打ちされてメイは驚くように、耳打ちした人を見ていたが、その人は気にするでもなく教会内の椅子へと戻り座りなおした。
(あの人は誰だろう?この村の人ではないはずだけど…?)
「すいません。神父様…この話は無かったこととしてください。」
「ふむ。いいのかね。」
「はい。」
メイが取り消しに納得しなくては、こちらの都合だけで消すわけにも行かず、クロスは取り消しを諦めることになる。
その後神父と別れて家に帰るのだが、教会内を見たときにはさっきの人物は既に居なかった。




