36話 出発・処理
日も真上を通り過ぎた頃、教会の方から人が続々と宿屋へ入っていくのが見えた。
一段落ついたので昼飯を今から食べるのだろう。
行列の中に見かけない人もいる。
(あんな人居たっけ?まあいいか。)
クロスは行列を背に南の森へと向かった。
南の森にある、香草の位置は分かっているので、鳥や獣(ランク1程度)を先に探す。
さえずりが聞こえた方へ行って確認してみるが、小さな鳥ばかりでなかなか手頃なサイズがいない。
鳥を探して森の奥まで入っていくと、30メル程先に、1メル程度の大きさの鳥を発見した。
(あれは、逃げ脚の早いランバードかな…。他探すのも面倒だしこいつでいいや。)
ランバードは、逃げ脚に余裕があるのか、それとも捕まえる気が無いとでも思っているのか、こちらに気付いても逃げる気配がない。
ランバードは通常飛ばずに地を走る鳥だ。
しかし、地を走るからと言っても、あまりの移動速度に人が仕留めることは難しい。
捕まえた報告はあるのだが、内容としては、違う獣を捕まえるための罠に、偶然引っ掛かったと聞くくらいで望んでとれるものではない。
せっかく逃げないので、どれくらいまで逃げないか確認してみる。
20メル………まだ逃げない。
15メル………こちらを見つめている。
10メル………脚を折り曲げてダッシュの準備をしているようだ。
9メル………8メル………7…逃げた!
ここで時を止める。
逃げてすぐに詠唱したにもかかわらず、既に最初の距離くらいは離されてしまっていた。
「これは一般人が捕まえるのは、罠以外無理だな。」
これが、逃げるのではなくこちらへの攻撃だったらと思うと冷や汗が出る。
クロスは、ランバードへと近付き剣を抜いた。
ランバードの首を剣で凪ぐように斬りつける。
首は細く、堅そうには見えなかったが、スパッと切れたのは表面1~2セムくらいだった。
いくら力をそこまで込めてないとはいえ、首を切れなかった自分の非力さに悲しくなる。
気を取り直し、剣を大上段に構えて、力を込めて振り下ろす。
今度は骨も含めて綺麗に分断出来た。
(強化使わなくてもまだいけるな。)
クロスは残りの魔法力を見るべくカードを確認した。
クロス
ランク 1
魔法力 70020/72000
筋力 26
魔力 無5/時4
速度 28
状態 普通
金銭 0リラ
朝からカードを見ていなかったので、今更ながら無属性の魔力が減っていることに気付く。
(お~。減ってる減ってる。これなら身体強化してもよかったかな…。)
更に身体強化をしてから、ランバードの首をそのままに、体だけを持ち空間に仕舞うべく魔法を唱える。
しかし、魔法は発動しなかった。
(そういえば魔法の重複は出来ないんだったな…。)
時間を止めている最中など、既に違う魔法を唱えてその魔法の効果中には、同じ属性の魔法を使用することが出来ない。
このままでも問題ないと思い直し、ランバードを担いで湖へ向かった。
ランバードは結構な重量があるのか、その場から動かすのもきつかったので強化魔法を使用する。
「無よ。力を強化したまえ。『ケヴァルト』」
『ケヴァルト』:自分の力が少し上がる【無属性10】
ランバードを担ぎなおして湖に向かう。
湖に着きランバードから手を放し、香草を探す。
しかし、香草を見つけることが出来ない。
ところどころで、香草だったと思わしきものは見つけたが、何かに食べられてしまったようで、茎だけになってしまっている。
周りをよく見てみると、同じようにして薬草も食べられていた。
(まさかベアクローか!?)
香草は他の物と混ぜることで、色々な効果が現れる。
薬草と混ぜると薬草の効能が上がり、毒草と混ぜると臭い消しになり、更には毒草の毒が中和される…など様々だ。
(小さなうちは獲物も狩れないだろうし、薬草や香草を食べてたのかな…。その時に効果を知ったとなると…。回復早そうだな…。)
残っていた香草の葉を採り服やズボンのポケットに詰めて、ランバードを抱えて森を出る。
街道にもう少しで出る辺りで時を戻した。
戻した瞬間にかなりの衝撃が抱えていたランバードの体からきた。
衝撃に備えていなかったので、木に叩きつけられたが、身体強化をしていたため、大怪我だけは免れる。
(いてて…。身体強化してなかったらやばかったな…。)
何故いきなり衝撃がきたのか思い至る。
(そういえば、時を止めたのはランバードが走っている最中だったか…。)
胸を痛めつつも、ランバードを抱え直しギルドへ向かう。
ギルドに入ると、冒険者がいた。
冒険者と見えたのはシュウで、依頼板の前に立っている。
シュウは誰かがギルドに入ってきたのに気付きこちらを見て固まった。
シュウに軽く会釈をし受付へ向かう。
「ただいま。誰か来た?」
「おかえりなさいませ。特に誰も来ておりません。それよりも血が出続けていますが大丈夫なのですか?」
確かにクロスを見ると、出所がハッキリしているとはいえ、胸から下半身にかけて血まみれである。
メイもクロスが平然としていなければもっと心配していただろう。
「こいつの血止めするの忘れててね…面倒だし、そのまま持ってきたんだ。」
ランバードと香草を報告受付内の机に置き、身体強化を解除する。
「疲れた~。」
クロス
ランク 1
魔法力 51785/72000
筋力 27
魔力 無5/時4
速度 28
状態 普通
金銭 0リラ
報告受付の椅子でカードを見ながら休憩していると、シュウが話しかけてきた。
「昨日はありがとう。助かった。」
「僕は何もしていませんよ。」
結局戦ったのはギルドマスターと父親の二人で、さらにいうならそれまでの時間を稼いだネストのギルド職員、ならびに回復魔法をかけた二人に感謝すべきだろう。
「いや、君がギルドマスターたちを連れ戻すのが早かったおかげだ。改めて礼を言おう。ありがとう。」
シュウは深々と頭をさげた。
「まあ、無事で何よりです。」
「それはそうと聞きたいんだが…、」
シュウは改まってテーブル上にのったランバードを見て聞いてきた。
「そいつは君がとってきたのか?」
「えぇ。他に手頃な獲物がいなかったですし、探すのも面倒だったので。」
「手頃なのがいないって…そいつを捕まえるのと、探す労力を考えたら明らかに違うやつを探すだろう。…面倒とか以前にだな…。」
シュウは他にも何か言いたそうだったが、クロスの顔を見て諦めたようだ。
クロスは、未だに胸が痛み、それを我慢する体力も疲れていたのでなく、そのまま顔をしかめているのを見たためだろう。
こちらとしても、わざわざ説明する気力がなかったので助かった。
「すみません。処理をするので失礼しますね。」
ひと息ついたので、ギルドの裏で血抜きなどの処理をする事にした。




