31話 帰村・逃避
クロスはマードックに、ターニャはサーシャに肩を貸しつつ、ゆっくりと村へ向かう。
歩きながらではあるが、マードックに状況の説明を求めた。
「まず、あの分かれた後、からだが、四人で、南下し、言われたとおり、山沿いを、町方向へ、進んだ。…しばらく進むと、山肌に、大きな穴が、空いていて、血臭も、漂って、いたから、ここが、そうなんだと、確信したんだ…。私と、サーシャは、周囲の、確認をし、シュウと、ターニャが、中の確認を、することにして、分かれた。…二人が、中に入って、しばらくしてから、ターニャの、悲鳴と共に、獣の声が、聞こえて、きたんだ。それから、サーシャと、中に、急いだ。…入ってすぐの、通路で、ターニャが、血まみれの、シュウを、抱いて、こちらへ、走って、きたんだ。」
マードックは一旦区切り呼吸を落ち着ける。
「それから、ターニャを、追うようにして、あいつが、来た。…このままでは、まずいと、思い、奴の意識を、ターニャたちから、外すために、サーシャと、切りかかったんだが、剣は、通らないし、いきなりの、戦闘だしで、足並みも、揃わず、徐々に、削られていたところに、君たちが、来たと、いうわけさ。恐らく、アジトが、あいつの、ねぐらか、食料置き場のように、なっていたんだと、思う。」
マードックは名前も出すのが嫌なのか憎々しげに話す。
「ターニャさんは、気絶されていたようですがなぜですか?」
今の流れだと、立ち向かったのは二人だけでターニャの気絶には直接関係なさそうに思える。
「それは、私のせいね…。」
「せい。という、言い方は、どうかと、思うが…。」
「そうだよ…。わたしが、ちゃんと対応できてれば…。」
「いいえ。原因は私ね…。私がベアクローの攻撃を、回避出来ずに真正面から受けて、弾き飛ばされたのを、ターニャが庇ってくれたけど、その時一緒に弾き飛ばされて、気絶したんだから…やっぱり、私のせい。」
サーシャは自分の言葉でネガティブになったようで落ち込んでいる。
「なるほど。そういうことだったんですね。」
二人の説明で大体の流れが分かった。
(あの穴を塞いどくんだったな。まさかベアクローの餌場になるとは…。)
「今度は、君の方を、聞かせて、もらえないか?…なんとなく、想像は、出来るんだが、それにしては、こちらに、追いついたのが、早いように、感じるんだが…。」
マードックは疲れているにもかかわらず聞いてくる。
「恐らく想像通りですよ。魔法を使って追いついて、南下してから山沿いをアジトの方へ移動しただけです。」
よく考えると、確かに時間が経ってから二人に追いつくのは、いくら無属性魔法で肉体を強化しても難しいように感じる。
特に普通の人は魔法力が数百しかないため、持続させようものなら、すぐに魔法力切れになってしまうだろう。
マードックが不思議に思うのも無理はない。
しかし、マードックは疲れて思考力が落ちているのか、さらに質問する体力すらないのか、そのことについてはそれ以上追求してはこなかった。
怪我と疲労で、歩みの遅い二人の歩調に合わせて休みながらゆっくりと歩く。
昼を少しまわった頃だろうか、四人は村へと辿り着いた。
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まずは運ばれた人がどうなったか確認するのと、後ろの三人を休ませるために、ギルドへ行く。
ギルドには、いつものメンバーであるエレンの他に夜を対応してる夜勤の方、二名の内一名が来ていて、母親の姿がなかった。
エレンと目が合うと、こちらに来い!と言わんばかりの眼力で見られる。
今日何度目になるのかわからない溜め息をつきつつ、エレンの方へ向かった。
受付に近付くと、奥にメイの姿が見える。
奥の机で、書類になにやら書き込みをしているようだ。
「クロスく~ん。お帰りなさ~い。」
「ただいま戻りました。…なんでそんなに嬉しそうなんです?」
エレンはニコニコといつもの営業顔ではなく、興味津々な顔つきになっているが、クロスの後ろを見て顔を引き締める。
メイもこちらに気付いたようで、こちらは少し心配そうな顔をするが、すぐにいつもの無表情になった。
「とりあえず中に入って。後ろの人が待ってるみたいだし。」
エレンは、後ろの三人が依頼の報告に来たと勘違いしているようだった。
「後ろの三人は、ギルドマスター達の件に、関わりがあるんです。三人はベアクローとの戦闘で疲弊しているので、奥の仮眠室に入ってもらいますね。」
「あっ!よくみたらシュトラウスのギルド職員の人じゃない!…じゃあ~クロス君対応お願いね~。」
途中までは営業喋りだったのに、仕事と関係なさそうだと判断したのか、最後はのんびりとした喋りに変わってしまった。
「では行きましょう。」
三人を引き連れて奥の休憩室へ向かう。
メイがこちらに来ようとしたが、手で座っておくように合図する。
途中歩きながらマードックが、「まさかまた名前を覚えられてないんじゃ…。」などとぼそぼそ言っていたが気にしない。
三人を休憩室で休ませようとするが、マードックはシュウの状態が知りたいと言ってきたので、調べてきますと請け負う。
それから防具を取ってもらい、各自寝台にて寝てもらう。
ターニャには魔法力を確認してもらい、ターニャ自身の頭に一応回復魔法を使うように言っておいた。
回復魔法は、合成魔法になり、魔法力がかなり必要なので後二回が限界とのことだった。
(確か…合成魔法ってかなり魔法力使うけど、皆どれくらい消費するんだ?時と無の合成だと1500だけど皆そんなに無いはずだし…?)
聞いてみようと思ったが、マードックとサーシャは横になると、よほど疲労が激しかったのか、すぐに寝てしまったようだ。
ターニャは、自身の頭に手を当てて集中し、回復魔法を使っている。
(疲れているだろうし、今は休ませとこう。)
休憩室を後にしてエレンの方へ向かう。
(質問されるだろうけど、まずは状態確認を先にさせてもらおう。一応聞いとくって言っちゃったし。)
エレンの元へ行くと、予想通り冒険者はおらず、暇そうに座っていた。
エレンの方へ向かう途中に、メイに捕まってしまい、軽く身体検査を受ける。
「心配ないよ。」
身体検査が終わると、今度はおもむろに匂いを嗅ぎ始める。
「(女性ではありませんね…、男性の匂いがします…、まさか男色に!?)」
「そんなわけないよ!女が好きだよ!」
小さい声で呟かれた言葉に焦って大声で返答するが、周りにはこちらの言葉しか聞こえなかったようで、恐る恐るメイの奥にいるエレンの方を見ると、エレンがクロスに対して手招きをしていた。
「女好きの~クロスく~ん。こっちで~本格的な事情聴取をしましょうね~。」
クロスはがっくりと肩を落とし、エレンの方へ向かった。
「受付はいいんですか?」
「いいのよ~。今日の依頼は~香草集めと~砦への荷物運搬だけだし~。こっちの方が重要よ~。」
今日もこの村は平和なようだ。
「事情聴取の前にお聞きしたいんですが、ここにギルドマスターとうちの父親来ませんでした?」
「来たわよ~。ノーラを連れて~どこかに行っちゃったわ~。」
ここで回復魔法を使えばいいものを、わざわざ母親を連れて行く意味がわからない。
「その時に、男性が一人一緒に居たと思うんですが…?」
「?…入って来たのは二人だけだったわよ~。」
どうやら二人は、シュウを違う所に連れて行ってしまい、後で母親を迎えに来たようだ。
「聞きたいことは~それだけかしら~。」
エレンはキラリと、獲物を見る目でこちらを見ている。
「では負傷した人のことは知らないんですね。」
「ノーラが連れて行かれたから~多分そうだとは思ったけど~。まあノーラに任せておけば大丈夫よ~。」
母親はエレンからかなり信頼されているようで、怪我人の無事は確定していると言いたげな話し方だった。
「無事ならいいんですが…。事情聴取…逃げていいですか?」
「ダメ~。」




